2023.5.22

生活残業とは?意味や発生する原因、企業側の対策を解説

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生活残業とは、業務上での必要性にかかわらず残業することだ。生活残業は、企業と従業員の双方に悪影響を及ぼす問題であり、その原因は組織マネジメントが悪循環に陥った結果だ。

生活残業を防止するには、評価制度や企業風土、残業をする仕組みから変えていかなければならない。そのためには、適切な業務管理が必要だ。この記事では、生活残業の意味や発生する原因、企業や従業員に与える影響と共に、企業側にできる対策について解説する。

生活残業とは

生活残業とは、生活費を稼ぐために意図的にする残業だ。生活残業が常態化した企業は、基本給だけで生活ができないケースが多い。生活残業をする従業員は、生活費を稼ぐことが残業の目的となっているため、業務上で必要かどうかにかかわらず残業する。

残業するために働くことになるため、残業時間ありきで業務のペースを調整したり、無駄な業務を続けたりといった効率化とは反対の行動をとってしまう。

これでは、業務の生産性が向上せず、将来の賃上げも難しいだろう。企業として生産性が向上せず良い状態とは言えない。つまり、生活残業は組織マネジメントが悪循環に陥った結果と言えるのだ。

生活残業が発生する原因

生活残業が多く発生している企業では、その原因として以下の特徴が挙げられる。

● 賃金が少ない
● 長時間労働が評価されている
● 簡単に残業できる

ここでは、3つの特徴についてそれぞれ解説する。

賃金が少ない

生活残業が発生する原因として挙げられるのは、賃金が少ないケースだ。基本給自体が低く、残業代がなければ豊かな生活を送れない給与設定になっているケースがある。その場合、従業員は生活費を稼ぐために残業するのだ。

特に家庭を持っている従業員であれば、その傾向は高くなる。この場合の責任は企業側だ。企業によっては、自社の給与設定が低いことを認識し、労働基準法で認められている範囲内であれば、生活残業を黙認しているケースも存在する。

長時間労働が評価されている

2つ目の原因として挙げられるのは、長時間労働が評価される制度になっているケースだ。これまでの日本企業の特徴として、労働時間が長い従業員を評価する風潮があった。労働時間が長い分、やる気があり自社への貢献度も高いという考え方だ。

その場合、成果にかかわらず残業した人の評価は高くなり、効率的に業務をこなした人の評価は高くならない。そうなると、自身の評価を上げるためにも残業することに意識が傾き、効率化するのではなく、どのように労働時間を引き延ばせるのかを考えるようになるのだ。

このケースの場合、人事制度、評価方法を見直す必要がある。

簡単に残業できる

残業が簡単にできる仕組みになっているケースも生活残業が発生する原因だ。残業をするのに申請手続きや上長の承認が不要な場合、従業員自身の裁量で残業ができてしまう。例え進捗遅れや業務量過多でなくても、自身の都合だけで残業できる。そうなると、生活残業という選択をとる従業員が出てくることは容易に想像できるだろう。

また、企業側や管理者側が従業員の工数や進捗を把握できていないケースも存在する。残業に申請手続きや承認が必要であっても、従業員しか工数や進捗を把握していなければ、申請を受け入れるしかない。このケースの場合は、企業として工数や進捗を管理する仕組み作りが必要だ。

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生活残業が与える企業への影響

生活残業が企業に与える影響として、以下の3つが挙げられる。
● 人件費比率の増加
● 生産性低下
● 企業イメージの低下

生活残業は、企業の経営にも影響を及ぼす問題なのだ。ここでは、生活残業が企業に与える影響についてそれぞれ解説する。

人件費の割合増加

生活残業が与える企業への影響として、経費における人件費の割合増加が挙げられる。一般的な残業は、繁忙期や納期切迫といった売上が見込まれる場合に発生するものだ。残業により人件費が増加したとしても、売上も上がるため利益が下がることはない。

しかし、生活残業の場合は売上に関係なく人件費だけが増加するため、利益が下がる。残業により人件費が増加した結果、経営を圧迫する可能性も考えられるだろう。経費面で考えた場合、生活残業にメリットはないのだ。

生産性低下

生産性の低下も、生活残業が与える企業への影響に挙げられる。生活残業は、繁忙期や納期切迫といった業務上の理由がなくても残業する。つまり、本来であれば少ない時間や人数でこなせる業務だ。

必要以上に人数や時間をかけた場合、生産性が下がることは明らかだろう。しかし、生活残業により発生する生産性低下には、もう一つ原因がある。

一部の従業員が生活残業をしていた場合、他の真面目に業務に取り組んでいる従業員からすると「手を抜いているのに残業代をもらっている」という不満が発生する。頑張ること自体が無駄に感じる人もいるだろう。

それにより、まじめに業務に取り組んでいる従業員のモチベーションが低下し、企業全体の生産性が低下するのだ。

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企業イメージの低下

企業イメージの低下も、生活残業が与える企業への影響の一つだ。生活残業が常態化した企業は、長時間労働が当たり前になっているため、帰宅時間も遅くなる。

近年では働き方改革により労働時間を削減する動きがある中、「残業が多い企業」というイメージを持たれた企業は社会から良い印象を持たれることはない。企業イメージが低下した場合、売上への悪影響だけでなく、優秀な人材が入ってこないといった採用面での悪影響も考えられる。

企業イメージの低下を防ぐためにも、生活残業は回避しなければならない課題と言えるのだ。

生活残業が与える従業員への影響

生活残業をした場合、従業員にはスキルや評価の低下といった影響がある。生活残業により目先の収入は増えるものの、長期的な視点でみれば収入が下がってしまうのだ。ここでは、生活残業が与える従業員への影響について解説する。

スキルの低下

生活残業が与える従業員への影響として、スキルの低下が挙げられる。生活残業をする従業員は、どうやって時間をかけて業務をこなすのかを考えている。そのため、業務に対して「どのように効率化するか」「不足しているスキルをどうやって身につけようか」を考えることはない。

通常よりも工数をかけて業務をこなすことに慣れた場合、スキルが向上するどころか低下する可能性も考えられる。自分で成長する機会すら失ってしまうのだ。

評価の低下

低評価になることも、生活残業が与える従業員への影響だ。前述したように、生活残業をする従業員は、時間をかけて業務をこなしている。近年では成果や労働時間当たりの生産性で評価をする企業が増えている。

生活残業をする従業員は、必要以上に時間をかけて業務をこなしているため、労働時間当たりの生産性は低いだろう。評価が低くなるどころか、昇進の妨げにもなり、収入面でもマイナスになるのだ。

生活残業を防ぐための対策

生活残業を防ぐ対策として、以下の2つが挙げられる。

● 評価制度や企業風土を変える
● 残業を許可制に変更する

どちらの対策も、適切な業務管理をすることが大切だ。ここでは2つの対策についてそれぞれ解説する。

評価制度や企業風土を変える

生活残業を防ぐための対策として、評価制度や企業風土を変えることが挙げられる。長時間労働が評価される制度になっている場合、評価を上げるために残業する人が出てくる。

売上見込みのない残業は、人件費の増加や生産性低下といった悪影響があることは前述した通りだ。企業の利益につながる評価をするためにも、評価は成果や生産性を基準にする必要がある。評価基準が変わるだけでも、生活残業をする従業員は減るだろう。

また、企業風土も変える必要がある。労働を美徳とする日本では、プライベートよりも仕事が優先される傾向にある。このような考え方では、生活残業は減らない。

プライベートや家族との時間を大切にし、定時帰宅が当たり前になる企業風土を作ることが大切だ。

残業を許可制に変更する

残業を許可制にすることも、生活残業の防止に有効だ。前述したように、残業をするのに申請手続きや上長の承認が不要な場合、従業員自身の裁量で残業ができてしまうため、生活残業が発生する。

しかし、残業を許可制にすれば残業する根拠が必要になる。残業代目当ての残業ができなくなり、生活残業を防止できるのだ。ただし、許可制にしても、残業理由に対して妥当性を判断できなければ意味がない。残業申請にかかる時間の分だけ残業が延びる可能性も考えられる。

また、本来残業が必要な負荷にもかかわらず、残業を承認されなかった場合、従業員が不満を持ってしまうケースも考えられる。必要な残業を判断するためにも、適切な業務配分と進捗管理が必要だ。

生活残業と働き方改革

生活残業削減を推進する動きが始まっている。働き方改革により、一人当たりの時間外労働は、原則月45時間、年間360時間に規制された。例外が認められる場合でも、以下の時間が上限だ。

● 時間外労働と休日労働の合計が、月100時間未満
● 時間外労働と休日労働の合計が、「2ヵ月平均」「3ヵ月平均」「4ヵ月平均」「5ヵ月平均」「6ヵ月平均」のそれぞれが全て、1月あたり80時間以内
● 月45時間を超える残業ができるのは6ヵ月間まで

生活残業が常態化している企業や従業員の中には「上限の範囲までであれば残業できる」という考え方を持つ人がいるだろう。確かに、月20日の勤務日数で1日の残業を2時間した場合でも、月の時間外労働時間は40時間となるため、毎日1・2時間の残業であれば規制の範囲内だ。

しかし、働き方改革は「時間外労働が当たり前となっている風土を見直すこと」が目的の一つであり、上限まで残業していては何の改革も起こらない。働き方改革を推進するためにも、生活残業という考え方自体を見直すことが必要だ。

関連記事:
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まとめ

生活残業とは、生活費を稼ぐために意図的にする残業を指す。生活残業をする従業員は、生活費を稼ぐことが残業の目的となっているため、業務での必要性にかかわらず残業する。

生活残業が多く発生している企業では、低賃金や長時間労働が評価される制度、残業に許可が不要といった特徴がある。生活残業は、組織マネジメントが悪循環に陥った結果なのだ。

生活残業は、企業と従業員の双方に悪影響を及ぼす。企業には人件費の増加や生産性低下、企業イメージの低下といった企業の経営にも影響を及ぼす問題が挙げられる一方、従業員にはスキルや評価の低下といった影響がある。

生活残業を防ぐには、成果や生産性を基にした評価基準や残業しない企業風土、許可制での残業に変更するといった対策が挙げられる。どの対策も、適切な業務管理をすることが大切だ。

働き方改革では、労働時間を削減する動きが始まっている。生活残業が常態化すれば、働き方改革への対応だけではなく、優秀な人材の確保も困難になる。生活残業が発生する原因を認識し、企業として生活残業の削減に取り組むことが必要だ。

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監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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