■「VUCA」とは何か?
■VUCA時代における日本企業の成長課題とは?
■不確実で曖昧な時代に求められる「共に創りあげる力」
■企業がVUCA時代を生き抜くための「変化に適応する力」
■共創を実現するために必要な考え方「OODAループ」
■共創を意識しながら、OODAループを回していくこと
VUCA時代における日本企業の課題とは?
VUCAとは「Volatility=変動性」「Uncertainty=不確実性」「Complexity=複雑性」「Ambiguity=曖昧性」から、それぞれの頭文字をとった造語だ。
1990年代後半にソ連邦が崩壊し、それまでの東西陣営対立が終焉を迎え、国際情勢が複雑化していった背景から、もともとは米軍で軍事用語として使用されるようになった言葉であった。その後、取り巻く社会環境の複雑性が増し、次々と想定外の出来事が起こり、2010年代ごろから将来予測が困難な状況を意味する言葉として、ビジネスの現場でも急速に使われるようになっている。
ビジネスシーンのみならず、現代社会はまさしく「VUCA時代」「VUCAワールド」といってよいだろう。
他方、日本のビジネス界では、これまで長らく独自の雇用体系や商習慣を維持し続けてきたが、押し寄せる国際化の波や技術革新の加速、そして多様化していく人と社会の価値観を背景に、多くの企業は、今まさしく時代の曲がり角で岐路に立っている。
日本では、明治維新後の殖産興業期の流れを汲み、戦後復興と高度経済成長期に至るまで、一括採用、年功序列、終身雇用を前提とした日本型雇用システムの下で、長らく「上意下達」のヒエラルキー構造組織を保つことで団結力や集団行動力を発揮して、競争力を維持してきた。
しかし前述のとおり、ビジネス界での競争環境は、より不確実で予想しがたく、曖昧で複雑な変化をみせており、もはや従来型の「一枚岩」体制のような人事マネジメント方式では、現代の競争環境変化への対応と適応が追い付かなくなり、結果として市場において企業の競争力低下を招く事態になりかねない。
日進月歩で革新が進むテクノロジーと、押し寄せる国際化の波とによって、企業を取り巻く環境の変化が加速していく中で、これからの日本企業には、間違いなく多様な価値観と、さまざまなバックグラウンドを許容し、これらの人材を活用していく「多様性」の考え方が求められていく。
多種多様な人材を自社に擁することにより、社外環境の変化に対して、敏感に反応し、これに適応することができる体制を整えることを目指すことこそ、日本企業がこれからのVUCA時代を生き残るカギのひとつとなる。
同時に、日本では大手企業を中心に「大企業病」と呼称される状態に入って久しい。
具体的には、ベンチャー企業やスタートアップ企業との「コラボレーション」をせず、事実上の事業委託状態として大企業の「ブランド」のみライセンスしている状態であることや、取引先とはキャンペーンなどのイベントは開催しているが十分な協働を通した相乗効果を発揮できていない、または自社内でのセクショナリズムにより部門間や事業部間での横断的な施策がとれない、などの状態があげられるだろう。
大企業に限らず、「大企業病」は日本企業のイノベーションと競争力強化を妨げている大きな要因であり、VUCA時代といわれる現代において、日本企業が絶え間ない革新と競争力を生み出す上での無視できない障壁だ。
このVUCA時代における技術革新と市場競争力の維持・強化のために、日本企業にできることは何なのか。絶えず変化する競争環境における企業の「共創」する力をテーマに、VUCA時代における日本企業に求められる共創する力について見ていこう。
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VUCA時代に希求される共創という概念
VUCA時代に突きつけられている、日本企業が成長し続けるための課題解決に資する概念として、「共創」というものがある。
共創とは、文字通り「共に創る」ことを指す。
ビジネス環境において意味するところは、多様な立場の者同士が対話を通じて、新たな価値を共に創りあげていくことだといえよう。
企業では、消費者や取引先、仕入元や社外人材などの、あらゆるステークホルダーを巻き込みながら、建設的な対話を通して、複雑で曖昧さが増していく時代における競争力の源として、人と人が共創し、自社の製品やサービスを通じて、社会へ新たな価値を提供し続けることができる環境が求められている。
では、そもそもなぜVUCA時代に共創する力が求められているのだろうか。
それは、加速度を増して変化していく社会において、急激にマーケットが成熟し、次々と新たなサービスと製品が生まれては急速に陳腐化していくという動きが繰り返し起きているからだ。
市場での競争は激しさを増し、プロダクトやサービスの消費サイクルも加速化、そして市場がある一定の規模まで拡大したところで、企業同士での製品やサービスの差別化に苦戦し始める。他方、コンシューマーやクライアントの趣向や消費行動は絶えず細分化されていくため、一企業の自社努力のみで大規模に変化していく消費する側の「気持ちを掴むこと」はこれまでになく困難を極めている。
日本社会においても、前提としてあった冷戦構造や、戦後復興に支えられた力強い内需、加えて長年の加工貿易国として海外への輸出も盛んであったことなどから、高度経済成長期などに代表されるプラザ合意前までの戦後長きにわたって、モノやサービスを作り出せば、いくらかの努力さえすれば勝手に売れていくという時代があった。ただしそれは、あくまで大量生産と大量消費に基づいた生産者から消費者への一方通行の「売れていく」流れに乗っていただけだった。
しかし、コンピューターやスマートフォンなどのテクノロジー製品が普及したことと同時に、ソーシャルメディアなどの新たなインターネット・サービスの普及も伴い、いまでは企業と消費者が互いにコミュニケーションをとり合うことが可能となり、これまで製品やサービスを一方的に売っていた企業と消費者の関係は一変した。
これによって、消費者の声がダイレクトに製品の開発や改善へフィードバックされることや、消費者の声をもとに製品開発をアジャイルに調節していく環境の構築などが可能となりつつあるわけだ。
かつて、共創という語は、英語の「co-creation」の訳語として、市場へのマーケティング・アプローチのひとつとして捉えることが一般的であった。しかし、前出のソフトとハードの両面でのテクノロジーの目覚ましい進歩により、近年では、よりオープンな技術革新(オープン・イノベーション)などを指す語としても用いられ始めている。
そのために、VUCA時代の日本企業が抱える問題に対して、特段に「変化することへの対応力」として、共創する力が求められているわけである。
オープン・イノベーションを視野に入れた「変化することへの対応力」としての共創とは、すなわち長年の技術力でモノやサービスを売ってきた日本にとって、引き続き各社の強みを活かしつつも、時として市場においての競合他社であろうとも、自社が培った知見や研究成果を共有し、場合によっては海外での競争力強化のために業務提携などを行うなど、複雑で曖昧さが増していくVUCA時代においての、自他共栄するための手段だといえよう。
では、共創をしていく上で、日本企業に求められる行動とはどういったものだろうか。次項では、共創を実現するために日本企業が取り組むべきアクションについてみていく。
OODAループで共創を実現
ますます曖昧にして複雑、流動的で不確実性が増していくVUCA時代において、変化に適応するカギとなる共創力を実現するための有効な手段として、近年ビジネス界で注目を集めているのが「OODA(ウーダ)ループ」である。
OODAループとは、刻一刻と競争環境が変化していく中で、最善な戦略の策定、あるいは意思決定を下すための一連のプロセスを示した理論で、「Observe(=観察)」「Orient(=情勢への適応)」「Decide(=意思決定)」「Act(=行動)」の略だ。
OODAループは、VUCAという語と同じく、もともとはアメリカ軍の軍事用語として、米空軍の軍事行動での指揮官による意思決定のために用いられていたが、戦術性や戦略性に富んだ理論であったことから、その後米軍参謀レベルで用いられるようになり、最終的には軍事分野を超え、あらゆるフィールドで使うことができる一般的な理論(グランド・セオリー)として評価されるようになった。
そもそも空軍において空中戦を勝ち抜くことを目的とする意思決定プロセスが敷かれていることから、生存すること、勝利することに拘る理論であるともいえる。
しかしOODAという言葉の成り立ちが「Observe(=観察)」「Orient(=情勢への適応)」「Decide(=意思決定)」「Act(=行動)」の略からきているとおり、VUCA時代で生存し、競争力を強化させていく「共創」の概念を実現する「変化への適応力」を培う実践理論として、有用であることがわかる。
日本のビジネス界に「PDCAサイクル」が広く知られるようになってから久しいが、PDCAは「Plan(=計画)」「Do(=実行)」「Check(=振り返り)」「Action(=改善行動)」という語からくる理論だが、計画したことを実行し、ここから反省点を学んで再実行していくという考え方である。
これに対してOODAループでは、まず観察することに比重を置いている点が、PDCAサイクルと大きくことなるところだ。つまり、PDCAサイクルではトライ&エラーという順番で物事が進んでいくが、OODAループでは、まず徹底的に観察し、変化に適応したうえで最善の行動を執行するということにフォーカスしているわけだ。
目まぐるしく変化していくビジネス環境において、OODAループがVUCA時代を生き抜く理論として有用なことは、前述のとおりだ。また、VUCA時代において、いかにOODAループを活かして企業が繁栄していくためのカギとなる「共創」を実現していくかについて、3つのフェーズをとおしてみていこう。
1. 最新の技術革新や、自社サービスの先行事例などについて情報を広く深く集める
OODAループでは、はじめの「Observe(=観察)」が欠くことができない重要な要素だ。
自らの計画よりも先に外部の情報、競争相手の情報、市場全体の情報など、競争を有利に運ぶための情報をとにかく集めることに徹するのだ。
例えば、競合する他社の過去数年分の戦略を分析し、その再現性や自社に適用させた場合の有益な点とデメリットを分析する、または市場の動向調査を通じて、どのような消費者が一定層いるのかを深く掘り下げて調べる、などといった「観察」することを徹底的に行うことで、まずは事業構想や共創する上での方向性を決定する要因を収集するのだ。
2. 収集した情報をもとに、イノベーションや新たな事業の共創を構想する
共創する力に強いOODAループでは、収集する情報の質が高いとともに、集めた情報から新たな自社製品やサービスを開発するために、必要に応じて社内外のあらゆるステークホルダーを巻きこみながら、新たな事業創出や、技術革新のための構想を行うことができる。
また、この段階で足りない情報があれば、適宜リサーチして補いつつ、部分的には次の段階である実行や検証を行うなど、OODAループでは必ずしも前出のループの流れを遵守せずとも、大づかみに行動しても問題はない。 しかし、前提としてあるのは変化に素早く対応できることと、ループを無視しても計画を前進させることができるビジョンが存在することだ。
3. 思い浮かんだアイディアは、迅速に実行し検証する
いかなる独創的な立案にも、賞味期限がつきものだ。
素早い判断でアイディアをかたちに変える行動を起こし、実際にこれを執行していくことで、試行錯誤的に自社のプロダクトやサービスの開発と改善が可能となる。
肝心なことは、いかなるアイディアも陳腐となる可能性があり、イノベーションを起こすには、構想から行動へのブランクが短いことが重要だ。
また、実行したアイディアに改善点がないか、常にフィードバックがもらえる体制を組み込んでおくことも、アイディアの磨き上げに有効だといえよう。
まとめ
・VUCAとは、冷戦崩壊間もない頃の複雑化していった国際情勢を背景に、軍事用語としてアメリカで使われた、「Volatility=変動性」「Uncertainty=不確実性」「Complexity=複雑性」「Ambiguity=曖昧性」から、それぞれの頭文字をとった造語だ。その後、取り巻く社会環境の複雑性が増したことによって民間でも使われるようになり、日本でもビジネス界で広まりつつある、曖昧な現代を形容する時に用いられる語のひとつだ。
・大手を中心とした日本の企業は、いわゆる「大企業病」という状態にあるといわれて久しく、変化に適応する力が乏しいとされる。技術革新と既成概念の淘汰が加速度的に進む現代において、社外の変化に適応しつつ素早くこれを社内の製品・サービスの開発と改善につなげていくことは、継続的な市場における競争力維持のため欠くことができない。また、世の中がより細分化し、多様化していることから、日本企業に今求められる力こそ、「共創」力だ。
・複雑で曖昧さが増していくVUCA時代において、「共創」することとは、企業にとって、多様な立場の者同士が対話を通じて、新たな価値を共に創りあげていくことだといえる。なぜなら、戦後の高度経済成長期に確立された大量生産と大量消費に基づくモデルはもはや現代社会で通用せず、細かく多様なニーズに対して適切なアプローチをとっていくことは、時として社内外の多数のステークホルダーをも巻き込みながら行われなければならないからだ。
・スマートフォン端末などのハード面と、ソーシャルメディアのようなソフト面の双方で高度な情報化社会が実現しつつある現代では、企業にとって共創する前提にあることとは、激しい時代の変化に適応しつつ、いかに市場で競争力を維持していくかということだ。そのため、かつてマーケティング手法のひとつでしかなかった「共創」という語には、近年「オープンな環境での革新」という意味合いが含まれ始めており、日本企業の現状に対する危機感を物語るものでもある。
・曖昧にして複雑、流動的で不確実性が増していくVUCA時代では、変化に適応するカギとなる共創力を実現するための考え方として「OODAループ」という理論がある。VUCAと同じく米軍の軍事用語からはじまったOODAループは、PDCAサイクルとの類似点を認めつつも、競争に勝ち抜くことを目的とする意思決定プロセスに特化して発達させたことから、PDCAサイクルに比べて変化への適応に長けており、より変化を捉えるための「観察」する行為に比重を置いている点が特徴だ。
・共創を念頭にOODAループを回していく上で重要なことは、常に変化を捉え、これに適応することでVUCA時代の市場での競争力向上を実現することだ。そのため、広く深く行われる情報収集を通した観察(=Observe)が起点となり、十分な情報収集を通してまずは市場への適応(=Orient)を図る。その後、情報をもとにイノベーションを起こすアイディアや社外との協働を検討することを決定した(=Decide)後に、素早くアイディアを執行していく(=Act)と同時に、必要に応じて軌道修正を随時行うという行動が有効だ。