2021.1.13

オヤカク(内定時の親の承諾確認)でのトラブル防止のために必要なことは?

読了まで約 7

■新卒採用で無視できない存在となった「親の強い思い入れ」

■採用活動の現場で注目されるトレンド「オヤカク」

■高まるオヤカク認知度と、企業選定への親の意向

■オヤカクせず採用に至った後に起きかねないトラブルとは

■親が求める「オヤカク」対策と企業の狙い目とは

■「オヤカク」実施にあたっての注意点やポイントとは

オヤカクとはなにか? 重要視される背景とは

進み続ける少子高齢化によって、若年者の労働人口が大きく減り続けている。各企業にとって人手不足が深刻な経営課題となる中、企業の採用意欲の高まりを受け、ここ数年の新卒・第二新卒市場はいわゆる「売り手市場」が続いていた。2020年は「買い手市場」に大きく転換した年で、2021年もその流れが続くだろうとみられている。この状況では、1つの求人に応募者が集まりやすい傾向となり、採用効率が高まるため、人材獲得のチャンスと捉えることもできる。人材獲得競争の中で、採用活動を行う企業にとって深刻な問題となっているのが内定辞退だ。

内定辞退は、特に中小企業において発生しやすく、年々採用担当者が頭を悩ませる課題だといえる。内定辞退はさまざまな原因で発生するものだが、これを減少させるための取り組みとして、最近採用活動でよく耳にするようになったことばに「オヤカク」というものがある。

オヤカクとは、「親に確認」の略語であり、新卒採用などで企業が学生に内定を出した後、学生の親へ自社の紹介を行ったり、学生とは別に内定同意の再確認を親にとったりする行為のことである。最近では候補者だけではなく、候補者の親の印象まで考慮した上での採用活動をおこなっている企業もあるほど、採用市場において注目を集めるアプローチのひとつだ。

HR総研と就活会議が実施した、「2021年採用川柳・短歌」の入賞作品の中にも、新卒採用で親の存在が垣間見えるものがある。

・「オンライン 親が近くで カンペ出し」
・「WEB面接 なぜかとなりに お母さま」

これらは極端なものではあるが、「親の強い思い入れ」が表れていることが分かる。

オヤカクが注目を集める理由は、親の意見が学生の内定辞退率に強く関わってくるからだが、なぜ親の意見がここまで就職活動を行う学生本人を左右するのか。考えられる主な要因は2つある。

1つめの要因は、子の就職活動に対する親の関わり方が時代の流れで変化したからであると考えられる。もちろん、これまでも就職先が決定したら親に報告するのは一般的だったことだ。また、就職活動や志望業界、就職したい企業を親に教える学生も少なくなかったであろう。しかしこれらはあくまでも「報告」であり、一方的なもの。親の意見を反映させる「相談」や「確認」ではなかったが、核家族と少子化が進んでいる現代では、一人っ子の増加によって、親の子に対する教育や就職への干渉が格段に強くなっている。

ネオキャリア社が2019年に実施した就職活動における「企業」と「親」に関するアンケート調査(調査期間:2018年12月5日~12月10日/有効回答数:親618名・企業309社)では、「新卒生の親の関与が高まっている」と回答した企業は、企業全体の過半数となり、58.3%にのぼった。

また、「親の意向によって内定辞退を申し出てきたことがある」内定者がいるかどうかについて、47.9%の企業が経験したことがあると回答していることから、学生の重要なライフイベントである就職活動への親の関与が強まっている傾向が見て取れる。そのため、内定承諾の意思決定を行う対象が候補者である学生本人だけではない以上、企業としても対策が必要なことから、採用活動におけるオヤカクの動きが広がっているわけだ。

2つめの要因は、そもそも学生にとって最も身近にいる「社会人」が親だからである。第一志望の企業以外考えられないなど、断固たる決意と強い信念をもって就職活動を行い、内定を得ている学生ならまだしも、そうではない学生がほとんどである。そのため、内定を得た企業について、人生そして仕事をしてきた社会人の先輩としての意見を求めるというのは、ごく自然な行いであるといえよう。ただし、先ほどの時代の流れという部分もあり、子の将来に対する強い思いから「子に就職してほしい企業とそうでない企業がある」という考えをもつ親がいることも事実である。

いずれにせよ、学生と企業の双方による親に確認する行為「オヤカク」が一般的となりつつある近年の採用活動において、実際のオヤカク対策や実施にあたってのポイントなどを理解しておく必要はあるだろう。

参照元:就職活動における「企業」と「親」に関する調査 ~2019年「オヤカク」最新動向を公開~

どれだけの企業がオヤカクを行っているのか? 対策しないとどんなトラブルがあるのか?

採用活動の現場で注目を集めるオヤカクだが、実際どれだけの企業がオヤカクを行っているのだろうか。前出のネオキャリア社アンケート調査によれば、そもそも「内定承諾にあたり、企業からの対応は特に必要ない」と考える親は73.6%、企業でも42.7%と相当数存在する。しかし子の就職活動に思うところがある親がいたり、トラブル回避のためにオヤカクを行う企業が多いのも事実だ。

また、「周りに流されず、自分だけで決めてほしい」と学生の自律性を促す親が53.6%と半数近くにのぼったが、それ以上に「子供に就職してほしい企業とそうでない企業がある」と回答した親が55.3%と多かった。他方、「企業におけるオヤカクの認知度」を人事担当者にヒアリングした結果として、「内容まで知っていた」と回答した企業が36.6%、「言葉の名前はきいたことがある」と回答した企業が59.5%であったことから、「オヤカク」という用語が初耳だと回答した企業はほぼ皆無であり、広く採用活動現場に知られている言葉だといえる。

「子の就職活動に対する支援(アドバイス)」という設問では、親が子に対してアドバイスを行う頻度について19.4%が「週に1回程度」と回答しており最多であったことに加え、「週に2~3回程度」(13.3%)や「週に4~5回以上」(7.3%)と合算すると、実に4割の学生が週に1回以上自身の就職活動について親と相談していることがわかる。そのため、親からの意見やアドバイスが多くなっていく分、親の意向が色濃く反映されていく側面が垣間見える調査結果といえよう。

実際にネオキャリア社の前年度実施調査では、「子供が内定をもらった企業でも、企業によっては内定辞退を促す」と回答した親が22.0%にものぼり、親の意向によって内定辞退の申し出があった経験のある企業も51.7%存在することから、新卒採用市場における親の存在感は決して過小評価できない要素だといえる。

無論、家族の意向に左右されて入社後に面倒を起こされるより先に辞退してくれたほうが助かるという企業側の考えもあるかもしれないが、事実として内定までに至った採用コストは少なくないことから、採用戦略全体でみた場合の損失は大きい。実際に企業で起こったトラブルとして、次のようなケースがあった。

・新卒入社後の残業が発生した際に「こんな遅い時間まで働かせるのはおかしい」というクレームをつけてきた ・内定を出した後に親に一人暮らしを認めてもらえない学生が出た ・内定を出した後に親から「貴社は倒産の心配はないのか」という問い合わせの電話が入った ・親が自社製品を嫌っているため内定を出した学生に内定辞退された ・返送するはずの内定承諾書を、親が成績証明書とともに持参して来社したため、応対に追われた ・親から「就職人気企業ランキングに入らない企業は認めない」と言われた学生がいた ・入社後しばらくして上長への相談なく社長室宛に退職届が郵送されてきたため確認の電話を入れたら、親がそのまま退職手続きまで行った

入社後のトラブルは採用上の問題やアンマッチなども可能性としてあるため、防ぐことのできないことも多いが、入社前までの採用活動では、オヤカクによって回避できるトラブルや採用コスト上の損失が必ずある。

オヤカク対策の具体例と実施のポイント

では、どのようなオヤカク対策をすれば、自社がどのような企業かを正しく学生の親に理解してもらえるのか。

前出のネオキャリア社調査によれば、親と企業の双方が必要と考えるオヤカク施策は「企業情報資料の送付」「親向けの内定理由通知書」「親向けの内定同意書」の3つが最も多かった。

確かに、パンフレットや動画などを制作して、より自社について家族で理解を深めてもらうといった施策や、内定者の家族に対して採用担当が学生の魅力的だった部分を伝えるという行為は、オヤカクとしてではなくとも取り入れることでメリットの大きい採用マーケティング施策だといえる。

また、オヤカク対策をすることで、親に納得してもらった上で内定者に入社してもらうだけでなく、良い企業であることを親にも理解してもらうことが可能だ。学生が後々転職を考え始めた時に企業の味方として自社に引き留めてもらう慰留効果を期待している企業もあることから、オヤカクは今後も採用活動として普及していくと考えられる。

ただし、これらはあくまでもオヤカクを必要とする場合の施策であり、本来はオヤカクの必要性がない採用を実現することが理想である。そのため、あくまで採用計画全体の補助的なアプローチとしてのオヤカクを実施するにあたってのポイントや注意点などを3つ確認していこう。

1. オヤカクばかりに注力しないこと
オヤカクは、採用活動における内定承諾率の精度向上に一定の役割を果たすことは間違いない。また、新卒入社した従業員の3年後に離職する割合は平均で30%前後だといわれていることから、定着率がこれ以上に悪い企業にとっても1つの対策とはなるだろう。しかし企業による過度なオヤカクへの取り組みは、逆に候補者やその親から「何か問題を抱えている企業なのではないか」という不信感を抱かせる原因にもなりかねない。そのため、オヤカク自体に取り組むよりも、親と学生の双方にしっかりと自社を理解してもらえる取り組みを行うことが大切となってくる。

たとえば、学生は企業エントリーのために就活ナビサイトの企業掲載ページや自社採用ホームページなどを確認しているだろうが、親などは企業のコーポレートサイトの方をより重視して確認するかもしれない。これらのページを見やすく、時代遅れでないデザインにリニューアルすることや、タイムリーに企業情報などを広報部や人事部からリリースするなどの取り組みが求められるだろう。さらに、これらウェブサイトがタブレットやスマートフォンでの表示に最適化されていることなども今の時代では大切になってくるかもしれない。

また、学生が入社後に働くイメージが湧きやすいように、シンプルにまとめた自社ビジネスモデル解説や、製品・サービスなどを紹介する動画、新卒で入社若手社員のインタビュー記事などを自社ウェブサイトに載せることで、より自社への理解を深めてもらい、企業規模や知名度などの外側部分ではない、本質的な自社の魅力を訴求する努力をしていくことが重要となってくる。

2. 会社説明会や選考プロセスでのアプローチを見直すこと
求める人材要件を再検討したり、選考プロセスでのアプローチを違った切り口にしてみることも、オヤカクを行わずに済むことに資する。自分の考えに軸があり、相手に伝える力がある、ある意味「頑固な人材」の登用も検討に入ってくるかもしれない。

たとえば、自社のウェブ会社説明会では学生に対して「あなたの人生です。あなたが働きたい場所で働いてください。」と言い切ってみたり、採用面接では学生が逆境に追い込まれたときにどうするのかという質問を投げかけることで、オヤカクが必要となった際のシミュレーションを走らせることもできるだろう。

あるいは、選考活動より早期に学生との接点を持つことができるインターンシップでは、「自分自身で考える力」や「相手が納得するように伝える力」などをテーマにワークショップを行い、最後はグループで発表をしてもらうなどといった内容を行うことで、オヤカク対策が必要となったときでも、学生にインターンシップで学んだことを思い出してもらいながら親と相談してもらうことが可能だ。

3. オヤカクでは親や家族よりも内定者本人に働きかけること
就職活動の意思決定プロセスを親にゆだねる学生が増えたとしても、企業が最終的に労働契約を交わすのは、あくまで学生本人とである。だからこそ、学生本人が納得して入社できるように、学生が親を説得できる環境や手段を整えてあげることこそ、学生の親に直接企業から働きかけるよりも、理想的なオヤカクのアプローチだといえる。

たとえば、内定を出した後に親の反対に遭ったことを学生が報告してきた場合、学生本人の意思や当初の応募理由、入社後に目指したい未来の自分の姿や自社に対する学生の不安・不明点などを丁寧にヒアリングしてフィードバックしてあげることで、自身の思考も整理された状態で学生が親に入社したい理由などを伝えることができるようになる。

まとめ

・企業の人事担当者を悩ます問題として、親の反対による内定辞退がある。親が学生本人の就職活動を左右するようになった理由は主に2つあり、1つ目は、核家族化と一人っ子の増加によって、親の子に対する思い入れが強くなっていること、そして2つ目は、学生本人のもっとも身近にいる社会人が親であることである。

・内定を出した学生の親が反対しているときの対策を指す用語として「オヤカク」というものがある。「親に確認」の略語だが、学生が親に就職活動のアドバイスを求め、たとえば自社への内定承諾を反対されたときに、親の理解を求める施策として、いま採用活動の現場で注目を集める施策だ。ネオキャリア社の調査では、学生による就職活動への「親の関与が高まっている」と回答した企業は過半数と、企業としても黙殺できない採用課題となりつつあることから、対策に出始めたというのが実情だ。

・ネオキャリア社の調査では、オヤカクという言葉を聞いたことがあると回答した企業が59.5%、オヤカクの内容も知っていたと回答した企業が36.6%にものぼり、ほとんどの企業がオヤカクの存在を認識している結果となった。また、親の意向で内定辞退の申し出を受けた経験がある企業は51.7%と、実に2社に1社が親の意向に採用計画を左右された経験をもつこととなる。また、子供に入ってほしい企業とそうでない企業があると回答する親が55.3%、子がもらった内定を場合によって辞退させると回答する親が22.0%いたことからも、学生のライフイベントである就職活動に、親の意向が色濃く反映される事実がわかる。

・親の反対によって学生に内定辞退された場合、それまでにかかった工数や採用コストにおいて、企業は相応の損失を被る。しかしそれ以上にオヤカクせずに内定を出したり、入社させた人材とのトラブルが起きる可能性も無視できないのが実情だ。実際にあったトラブルとして、「残業させたら親からクレーム電話が入った」「親が自社製品・サービスを嫌っているため内定辞退された」「入社後上司との相談もなく退職届を社長室に郵送したため確認の電話を入れたら親が出てそのまま退職手続きを親が行った」などといったことがあげられる。そのため、オヤカクはコスト・ロスの回避にも有用なのだ。

・オヤカクは、学生の親に正しく自社を理解してもらうために行うものであるため、ある程度親が求める施策を実現することで、理解を得られる可能性が高くなる。ネオキャリア社の調査によれば、「企業情報資料の送付」「親向けの内定理由通知書」「親向けの内定同意書」などは親が求める企業の対応として最も多かった3つであり、パンフレットや動画制作を通じて、よりわかりやすく自社の魅力を訴求することは重要である。同時に、一部企業では親の理解を将来的な離職率の低下にも繋げる狙いがあることから、オヤカクは入社後を見据えた施策となりつつある。

・オヤカクを実施する際のポイントは3点ある。まず、採用施策ではオヤカクばかりに注力しないことだ。過度なオヤカク行為は学生と親の双方に企業に対する不信感を芽生えさせるため推奨できない。それよりも採用HPなどの刷新を通じてわかりやすい魅力訴求の方法を模索したほうがよい。次に、採用活動全体を見直すことである。学生との接点を持つ段階から見直すことで、オヤカクの可能性を下げ、より自社とマッチする人材を登用できる可能性を高める採用アプローチをとることを目指すべきだ。最後に、オヤカクは、親ではなく学生本人にアプローチすることだ。自社と労働契約を交わすのは学生本人だからこそ、本人から親を納得させることや自分の意思を伝えることが大切となる。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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