・企業にとってのレジリエンスとは?
・組織のレジリエンスを高まるには?
・レジリエンスを高めるための自律型組織
・自律型組織とは何か?
・自律型組織のメリット、デメリット
企業にとってのレジリエンスとは?
新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の停滞により、将来に対する先行き不透明感から不安を持つ人や鬱の症状を発する人が増加している。以前のコラムでも述べたが、近年注目されている心理的スキルがこのような生死に関わる危機的状況に対応するためのレジリエンスだ。
レジリエンスは、もともと心理学・精神医学の領域の概念で、「精神的回復力」や「復元力」という意味である。「打たれ強さ」という解釈する人もいるが、「打たれてもびくともしない」といった類の頑強さではなく、いったんは落ち込んでも、またそこから立ち上がることができるしなやかさという意味合いで用いられる。物理学上でも、同じレジリエンスという言葉は「外力による歪みを跳ね返す力」という意味で使われており、竹やボールのようなしなやかさや弾力性があるものをイメージするとわかりやすいだろう。
近年では、企業や組織におけるこのレジリエンスの高さが注目されている。背景には、大災害やリーマンショック、テロなど、予測ができない事態が企業に降りかかり続け、強い負の外力が頻発するようになったことがある。もちろんこれに拍車をかけたのはコロナ禍である。経営においてのレジリエンスとは、「危機に対応しつつ、一度はその危機に飲み込まれたとしても、それをきっかけとして、組織がより創造的に、あるいは強固になり、最終的には成長につなげる力」という考え方である。
逆にいえば、コロナ禍のような予測しえない、誰も経験したことのない世界的な危機に対して、経営陣が従業員とともに高いレジリエンスを発揮し経営を行っていかなければ企業として生き残っていけない。特にコロナ禍の中で「ニューノーマル」といわれるリモートワークを主体とした働き方の中では、価値観が大きく変化しており、上司部下とのコミュニケーション、評価など組織のあり方やマネジメントが喫緊の課題となっている。リモートワーク中心の業務を従来と同じコミュニケーション手法や人事評価で、パフォーマンス向上や正しい評価をすることは難しく、生産性を向上させ、優秀な人材の離職を招かないためにもレジリエンスを高める組織づくり、施策の導入が企業生き残りのカギである。
組織のレジリエンスを高めるには?
では、どのようにして企業においてのレジリエンスを高めればよいだろうか。企業や組織においては、時としてレジリエンスを、BCP(事業継続計画)、リスクマネジメント、危機管理などを総称した言葉として使うこともある。しかし、これらの手法は、地震等の災害など特定の状況を想定して、その対処法をあらかじめ考えておくというものだ。それに対して、レジリエンスの本質は、想定外のことが起きてダメージを免れなかったときに、そこからいかに回復し、再起し、より強くなることができるかを問うものである。
事例としてよく引き合いに出されるのが、2009年から2010年にかけて起きたトヨタ自動車の大規模リコールだ。リコールに要した費用も莫大だったが、米国議会やマスコミ、消費者などから大変なバッシングを受け、トヨタのブランドイメージが大きく失墜したと誰もが思った。もちろん業績も急落した。しかし、その後トヨタは見事に業績を回復し、2009年に4600億円のマイナスだった営業利益が2014年には2兆円を突破する。これはトヨタの持つレジリエンスの高さを物語るが、現在、多くの企業に求められるのはコロナ禍のような、突然で回避不能なダメージからどう回復するのかという課題だ。今回のコロナ禍においてもトヨタは直近11月の発表で2021年3月期通期の連結業績予想(国際会計基準)を上方修正している。コロナ禍で落ち込むとした営業利益の従来予想(5000億円)の2.6倍である1兆3000億円となる見通しで、再度トヨタという組織のレジリエンスの高さを見せつけた。
どうすれば企業は、トヨタのようにレジリエンスの高さを身につけることができるのだろうか。その1つのヒントとなるのが、従業員が主体的に動く自律型組織であろう。組織のレジリエンスを高めるためには、結局はひとりひとりの従業員のレジリエンスを高めることに帰着する。その積み重ねが結果として変化に強く問題が起きても柔軟に対応できる組織を作るからだ。そのためには採用や教育を通じて従業員のレジリエンスを高め、かつ従業員が自律的に意思決定し、動ける企業文化の醸成、制度の見直しが必要となる。
自律型組織とは何か? そのメリット・デメリット
従来の中央集権型・階層型のヒエラルキー構造の組織形態に対し、昨今の新しい形態の組織を自律型組織(Self-Organization)という。例えば、マイクロマネジメントせずに目的に向かい進化を続ける「ティール組織」や自律的なグループに決定権を分散、それぞれのグループが能動的に動く組織管理「ホラクラシー」などを指す。これら自律型組織は、コロナ禍のような予期せぬ環境変化のスピードと顧客の価値観の多様化に対応し、新しい価値を生み出すことを目的としたもので、以下の3つの要素から成り立つ。
1.主体的に考えるメンバー群
自律型組織では、階層や管理業務もない。メンバーやチームに業務が権限委譲され、ひとりひとりが意思決定権を持つため、従業員が組織の目的達成のため自然と主体性を発揮するようになる。目的を果たすための役割や業務、目標など重要な事項についてはメンバー同士のコミュニケーションで決定される。全ての情報が開示されているため、メンバーの当事者意識も強く、全員が主体的に考える行動するため、セルフマネジメントが可能となる。
2.迅速に動ける仕組み
自律型組織は、ハードの面でメンバーへの「業務の権限委譲」を増やすための制度・仕組みの構築が大切である。従来のやり方に捕らわれない現状への適応性や時には異分野・異業種を巻き込み、メンバーが課題を迅速に解決できる仕組みを整えることが必要とされる。迅速な変化への対応やイノベーションのためにM&Aをはじめとした積極的なアライアンスも柔軟に検討すべきである。そのための資金調達ニーズも大きいため、Amazonなど自律型組織を採用する企業の多くが、すべてのステークホルダーに理解、共感してもらう大きな視野での企業理念や「ミッション」「ビジョン」「バリュー」などの行動規範を整備し、それらを滑らかに動く仕組みとして構築していることも大きな特徴であろう。
3.対話・協働を促す文化
自律型組織においてのソフト面では「対話」と「協働」がキーとなる。メンバー同士で対話を重ねることによって現状の課題に気付き、お互いにより協働できるプロセスを正のサイクルとして回すことができる。「対話」は時には軋轢を生むことがあるが、当事者との対等な対話を介さない限り、思い込みや捉え方への変化は生じない。異なる意見、異質であることを許容し、対話を重視するといった文化醸成が組織を維持するためには非常に肝要である。自律型組織では業務が権限委譲され、仕事の細分化・個別化が進んでいくため、「対話」を通じた「協働」が企業成長のドライバーとなる。ヤフーが爆速経営を支援する組織開発の中で、ワールドカフェや1on1ミーティングなどを導入し、対話の機会と質の向上、それらによる協働に重きをおいてきたことはその最たる例ともいえよう。
ここで自律型組織のメリット、デメリットや注意点などを整理しておきたい。
メリットとしては大きく分けて以下の3つがある。
1.迅速な意思決定による生産性・業務効率の向上
自律型組織では、業務が権限委譲されメンバーやチームによる意思決定が可能なため、スピード感を持って業務改善や物事を進めることができる。また、管理するマネジメント業務が存在しないため、メンバー全員が業務のみに集中することができ生産性向上につながる。
2.個の能力の発揮
階層型のヒエラルキー組織では、上下関係などによる気遣いや発言のしづらさなどがあるが、自律型組織では対話が重視され、対等で個人の裁量が大きく、上司部下といった上下関係による心理的な圧力がないため自分の個性を存分に業務に発揮することができる。
3.メンバーのモチベーション向上
メンバー各々が自身の個性を生かし、主体的に業務を進めることができることで、自ずと責任感が高まり、モチベーション向上にもつながる。
メリットの多い自律型組織であるが、デメリットと注意点の主なものにもふれておこう。
1.精神構造の変革(マインドセット)
自律型組織に対して従来のヒエラルキー型組織では、意思決定や最終判断をする人間は明確に決まっており、権限を持って部下に指示を出すのが一般的である。我々日本人は会社のみならず、家庭や学校などあらゆる環境でヒエラルキー構造の中に置かれ、常に階層構造の上からの指示や指導を受けることに慣れてきた。組織も人間も、このヒエラルキー型組織に慣れ親しんだ精神構造を自律型に変えなければレジリエンスを高めることはできない。しかしながら、これは一朝一夕には難しく、マインドセットには相当の時間がかかることを認識し、導入する場合にも浸透までに忍耐を持って取り掛かることが必要とされる。
2.リーダーシップや意思決定の欠如
自律型組織では上下関係が存在しないため、リーダーシップを取りたがらない、意思決定が宙に浮くという問題が時に発生する。リーダーシップをすなわちヒエラルキーと捉えてそれらを拒否する行動である。しかし、自律型組織のリーダーシップとは、権限を持って最終判断や指示を出すのではなく、メンバーが意思決定を行えるよう導くエバンジェリストのような役目である。自律型組織を築く際には、従来の上司のようなリーダーシップにとらわれずに、まずは、自律型組織におけるリーダーシップがどうあるべきなのか、自分たちが取るべきリーダーシップはどういうものなのか、最終的な意思決定はどのようなプロセスを踏むべきなのか、メンバーと十分に対話し、理解してもらうことが重要となる。対話の手法としてはコーチングなどが有効となろう。
3.人事制度の設計が難しい
自律型組織は従来のヒエラルキー組織のような「年功序列」「終身雇用」とは真逆の組織である。個人やチーム単位で人事評価や賃金決定についても、全社、組織の中でかなりばらつきが生じる。当然、自律型組織にあった人事制度システムを見直す必要があるが、各社により状況は異なるため、その設計は難易度が高い。海外含めた先進事例を複数参照し、自分たちの組織や文化にあった組織設計を模索し、構築していく必要がある。自律型組織は、まだ新しい概念であるため、導入企業はまだ多くはないが、部分的にセルフマネジメントやフラットな制度を採用している企業も増えている。
コロナ禍という未曽有の出来事に直面している中で、企業の存在目的や価値を見出しながら、レジリエンスを高めていくことは必要不可欠である。企業の大小にかかわらず、先進的な取組を行い、変化にしなやかに、柔軟性を持って対応できている企業は、従業員満足度、個人のモチベーションがチームワークや高い協働性につながり、結果として組織の生産性向上にも寄与し、企業成長に結びつくであろう。
まとめ
・新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、不安や鬱の症状を訴える人の数が増えている。このような生死に関わる危機的状況に対応するために、近年注目されている心理的スキルが「精神的回復力」や「復元力」を指すレジリエンスである。
・頻発される大災害やリーマンショック、テロなど予測ができない事態の強い負の外力を背景に、企業や組織におけるレジリエンスの高さが注目され、コロナ禍がこれに拍車をかけている。
・レジリエンスの本質は、想定外のことが起きてダメージを免れなかったときに、そこからいかに回復し、再起し、より強くなることができるかを問うものであり、企業がレジリエンスの高さを身につけるヒントとなるのが、従業員が主体的に動く自律型組織である。
・自律型組織は、コロナ禍のような予期せぬ環境変化のスピードと顧客の価値観の多様化に対応し、新しい価値を生み出すことを可能とする。
・自律型組織は、主体的に考えるメンバー群、迅速に動ける仕組み、対話・協働を促す文化 から成り立つ。
・自律型組織のメリット、デメリットを考慮しながら取組を行い、変化にしなやかに対応できている企業は、従業員満足度、個人のモチベーションがチームワークや高い協働性につながり、高いレジリエンスが構築でき、組織の生産性向上にも寄与し、ひいては企業成長に結びつく。