・コロナ禍の前後で、働き方改革はどのように変化したのか
・急激な普及が進むテレワークから見えてきた、従業員の不安
・企業の8割がテレワークでの必要性を認めるエンゲージメント向上
・エンゲージメント向上の最大の目的は、優秀な人材の流出を防ぐこと
・労使双方が共有するテレワークへの不安や課題は、どのように改善する のか
・エンゲージメント向上に向けた、3つの具体的な取り組みとは
リモートワークでエンゲージメントが重視される背景
新型コロナウイルス感染症拡大とともに、急激に導入が進んだリモートワークやテレワークだが、ウィズ・コロナと言われつつある現状に限らず、アフター・コロナの時代においても、この動きが定着していくとの見方が、調査によりわかってきた。
HR総研が2020年8月に行った「今後の働き方に関するアンケート」(調査期間:2020年8月6日~12日 有効回答:292件)の調査結果によると、コロナ禍以前から「より良い働き方への対策」を「積極的」におこなっていた企業は全体の2割足らず(18%)、「まあまあ積極的」に行ってきた企業が全体の半数近く(47%)であり、残りの3割ほどの企業は検討または検討に至らずという状況だったことがわかる。(ProFuture株式会社/HR総研)
コロナ禍以前からの取り組みとして目立っていたのは、67%の回答を集めた「多様な勤務時間の導入」であった。「テレワークやワーケーション」などを実施していたと回答した企業は全体の55%を占めたが、企業規模別の内訳をみると、大企業が74%実施、中堅・中小規模の企業では半数足らずであったことから、企業規模に左右される傾向にあったといえよう。そこで突如として襲い掛かってきた新型コロナウイルスの脅威だが、この影響を受けて新たな取り組みの実施と検討のトップに浮上したのは、「テレワーク導入」だ。回答した企業の6割以上が「テレワークやワーケーション等の実施」を選択している。
特筆すべきはコロナ禍以前では中堅・中小企業では半数に満たなかった実施・検討率が7割近く(66%)まで上がったことだ。
企業規模別 新たに実施した(検討した)取組み
また二つ目のトピックとして、これまで積極的により良い働き方への対策を検討・実施してきた企業では、コロナ禍中においても既存の取り組みを有効に活用しており、コロナ禍が原因で新たに実施した取り組みはないと回答する企業が4割近くであったのに対し、これまで検討に止まっていた、または検討に上がらなかった企業では、7割以上の企業が新たな取り組みとしてテレワーク導入を回答しており、企業規模に関係なく社会での3密を避ける動きに同調するように「働く場所と時間」に対する制限が、経済活動全体で急激に緩和したといえる。
コロナ禍以前の取組み状況別 新たに実施した(検討した)取組み
また、調査は新型コロナウイルス感染症拡大の第2波前後でとられたものだが、1度はテレワークを実施した企業での現在の実施状況について、部分的な実施と回答した企業が全体の半数以上(55%)で、全従業員を対象としていると回答した(32%)3割と含めて実に9割近くの企業が依然テレワークを継続している。また、今後のテレワーク実施の継続有無についての設問では、継続していくと回答した企業が全体の96%にのぼった。全従業員対象と回答した企業が35%、限られた従業員対象と回答した企業が32%で、対象者を拡大しつつ継続すると回答した企業が29%であったことからも、アフター・コロナでも、コロナ改善からの取り組みであるフレックスな勤務時間制度と両輪をなしつつ、場所と時間にとらわれない働き方のニューノーマルが、今後より浸透していくことがわかる。
テレワークの継続実施予定
しかし、急激なテレワーク導入と同時に、エンゲージメント不足などが原因で、従業員の不安や課題も顕在化している。パーソル総合研究所が全国の就業者を対象に行った「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」(調査期間:2020年4月10日~12日 有効回答:25,769名)によると、従業員の不安として、「非対面では、相手の気持ちがわかりにくい」(37.4%)、「上司や同僚から仕事サボりと思われること」(28.4%)、「出社する同僚の業務量増加への懸念」(26.4%)などが目立った。また、「上司とのやりとりが減った」との回答が45.2%、「同僚とのやりとりが減った」回答が50.0%であることからもコミュニケーション不足が窺える。同時に企業の「組織としての一体感」(36.4%)や「帰属意識」(24.8%)の減少を感じる従業員や、「仕事への意欲・やる気」(32.8%)や「組織に貢献したい気持ち」(25.6%)が低くなったと感じる回答もあった。こうした状況を背景として、従業員のエンゲージメントを高めることが、リモートワークを継続する際にもっとも重要な施策であるといえる。
企業の8割がエンゲージメント向上は必要と認識
では、企業はどの程度「従業員のエンゲージメント向上」に必要性を感じているのか。前出のHR総研「今後の働き方に関するアンケート」(調査期間:2020年8月6日~12日 有効回答:292件)の調査結果では、「社員のエンゲージメント向上の必要性」という設問に対して、最も多かった回答が「非常に必要だと思う」で39%、次いで多かったのが「まあまあ必要だと思う」で38%だ。同時に約5社に1社で「どちらとも言えない」という回答(21%)があったが、必要だと思わないと回答(あまり/まったく必要だと思わないの合計)した企業は全体の僅か2%だった。(ProFuture株式会社/HR総研)
社員のエンゲージメント向上の必要性
77%の企業が必要だと感じているエンゲージメント向上だが、その理由として挙げられたのが、「優秀な人材の離職防止を図るため」が最多で64%、次いで「社員の生産性向上を図るため」が55%、「テレワークにより会社と社員の関係の希薄化に危機感を持つため」が47%などであった。
社員のエンゲージメント向上が必要な理由
従業員側からも、前出のパーソル総合研究所が行った「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」からわかる通り、非対面での相手の気持ちがわかりにくいことや、リモートワークが長期化する中で組織としての一体感や会社への帰属意識の低下などで、テレワークやリモートワークに対する不安の声をあげており、これはHR総研の調査結果での企業と従業員の関係の希薄化によるエンゲージメントの低下という課題を、従業員側も共有していることがわかる。さらに、同パーソル総合研究所の調査では、テレワークにより「労働時間が減った」との回答者が36.2%、「業務量が減った」と答えた人が37.6%にものぼることからも、HR総研の行った企業調査での、生産性の向上を改善点としてあげている企業側の課題とも一致する。
総じて、リモートでの経済活動が急激に普及した結果、従来のような円滑なコミュニケーションを維持していくことの難しさを痛感する企業も多いことから、同時に推進されはじめている従業員のキャリア自律意識の醸成と相まって、優秀な人材が自社から流出していくことへの危機感が高まっているといえる。
一方で、これまで行われた各種調査によると、日本は欧米に比べて従業員エンゲージメントの値が低いという結果が多かったのも事実だ。日本企業は元々モノカルチャーがベースにあり、高度成長期からバブル崩壊という時代にかけては社員が一丸となって、がむしゃらに頑張れば会社は伸び、報酬もそれなりに伸ばすことができた。しかし、終身雇用という“縛り”の中で企業は一心同体の組織となり、そこで働いていることがすべてとなってしまっていた。このような状況の中ではそもそも社員エンゲージメントという概念自体が念頭になく、企業は従業員の意欲を喚起してエンゲージメントを高めるような取り組みをしてこなかったのだ。
こうした背景を引きずっているため、現在の日本では人材の流出抑制や仕事の生産性向上を目的として従業員エンゲージメントを意識する企業は増えてきたものの、「まだ幅広く定着しているとは言えない」(複数の業界関係者)という声も多い。その中で、働き方や事業環境の激変期であるコロナ禍の今は、ITツールなども武器にエンゲージメントと向き合うべき良いチャンスであると言えそうだ。
リモートワークでエンゲージメントを高めるには
コロナ禍とニューノーマルによって、これからも浸透していくであろうリモートワークやワーケーションだが、職場において対面で業務を行う時以上に、エンゲージメントを高めていくことを、意識的に行わなければならない。なぜなら、従業員はテレワークを行う上での不安をすでに自覚しており、企業はこれらを改善すべき課題として認識しているからだ。では、エンゲージメント向上にむけて、企業はどのような取り組みを従業員とともに行っていく必要があるのか考えていきたい。
1. 従業員の自律性を重んじ、成果を評価すること
従業員のエンゲージメントを高めるため、リモートワークのような環境においては、上司が部下を管理するより、従業員が自らの業務に対して、「何を」「いつ」「どれだけの時間をかけて」行うのか自律的に決定することが効果的だ。そもそもテレワーク環境では、職場での対面時に比べて部下を管理することが難しくなる。だからこそ発想を逆転させることで、従業員にある程度の裁量権を与え、自律性を育みながらエンゲージメント向上を目指すという考え方だ。また、部下のマネジメントについては事細かに管理するのではなく、積極的にオンライン・ツールを活用し、従業員の生み出した「成果」に焦点を当ててこれを可視化することで公正な評価を期したい。面と向かってのコミュニケーションがとれず業務の過程を評価しにくい働き方のニューノーマルにおいては、しっかりと納得できる評価を行うことが、働くモチベーションを維持させ、エンゲージメントを向上させるための重要な要素となる。
2. 情熱のある仕事を与え、密にコミュニケーションをとること
裁量と自律性を重んじると同時に、テレワークでは、上司と部下の今まで以上にこまめな会話も重要となってくる。なぜならば、従業員が気の向かない業務を任されているといった所感を持ちながら仕事を行っていれば、それは従業員のモチベーションや生産性の低下に直結してしまうからだ。職場での「阿吽の呼吸」が難しいリモート環境であるからこそ、従業員各々がもつ才能や強みと、企業が期待する「成果」のバランスが均衡であるかを常に考慮しつつ、従業員のやる気と情熱を引き出すことが求められる。例えば、従業員のパフォーマンスが優れない時に、「なぜその仕事が、その働く個人、あるいは会社全体、そして社会にとって欠かせないのか」という観点から話をするなど、こまめなコミュニケーションを繰り返すことで、上司と部下の業務に対する認識のすり合わせと、業務改善を丁寧に行っていく必要がある。
3. 努力を認め、称賛すること
組織として一体感を保ちつつ、しかし働く個人がリモート環境で成果のみ評価される環境は、時として従業員のモチベーション維持を難しくする。そのため、働く個人各々の「努力」をしっかりと称賛する場を作ることは、エンゲージメント向上のカギとなる。例えば、業務グループ内でのオンライン会議にて、「~のように努力をして、結果として~を達成した」などと発表する場を設けるのもよいかもしれない。テレワークであるからこそ、互いにコミュニケーションをとっていきながら、その日々の努力をお互いに認め合うことが、従業員のエンゲージメント向上につながるからだ。
まとめ
・コロナ禍以前より企業による働き方改革として、フレックス勤務制・コアタイム導入などに代表される「多様な勤務時間の導入」の取り組みは存在していた。しかし新型コロナウイルス感染拡大とともに、出社が難しくなる中で普及した働き方のニューノーマルは、在宅勤務などのテレワーク・リモートワークだった。
・急激に導入が進められたリモート環境でのテレワークは、非対面でのコミュニケーションの難しさや、上司・同僚からサボりだと思われること、または出社する同僚の業務量増加への懸念、さらに長引くテレワークでの仕事への意欲低下の恐れなどから、働く個人に不安も与えている。
・企業調査によると、約8割が従業員の何らかのエンゲージメント向上の必要性について認識しており、企業としては職場環境での勤務と同等またはそれ以上の生産性を求めているが、長期化するテレワークでの従業員の「会社への帰属意識の希薄化」や「組織としての一体感の低下」が課題としてあがっている。
・テレワークでの従業員のモチベーション低下などで、企業が最も恐れる事態は優秀な人材の社外への流出だ。リモート環境での業務遂行と同時に、近年推進されているキャリア自律の意識向上も相まって、企業にとっては優れた従業員を自社で継続的に働いてもらうための取り組みが重要となる。
・企業と従業員のどちらもが不安と課題を抱えているテレワーク環境だが、いくつかのエンゲージメント向上への取り組みを通して、職場での面と向かって働く環境と同じパフォーマンス向上やモチベーション維持につなげていくことで、初めて健全な働き方のニューノーマルを実現していくことができる。
・エンゲージメント向上の具体的な取り組みとして挙げられるのは、以下の3点だ。①従業員に裁量を与え、自律的に仕事をしてもらい、その成果を評価すること、②適正を考慮しつつ、オンラインでも密に連携し、従業員の仕事への情熱を引き出すこと、③リモート環境だからこそ、個々の努力を称え、同僚と成果を認め合うこと