2020.12.1

キャリア自律とは?ジョブ型雇用の高まりで注目される理由

読了まで約 6

・終身雇用や年功序列が瓦解しつつある今、働く個人に求められるキャリア自律とは

・評価の分かれるキャリア自律を、企業はどのようにみているのか

・優秀な人材の働く意欲を上げるために役立つ社内公募とキャリア自律

・従業員の自律的なキャリア形成が、管理者層に与える健全な危機感とは

・これからはじめるキャリア自律支援、企業にできるはじめの一歩とは

・社内研修や副業の解禁、そして働く個人の声を聴くことの重要性

高まるキャリア自律の重要性

キャリア自律とは、働く個人が自身のキャリアに関心をもち、主体的にキャリア形成を行っている状態を指す。これまでの日本社会では、終身雇用や年功序列などの日本独特の企業統治・労務管理システムの下、会社の求める人材像に沿って従業員を採用し、そのキャリア形成も企業が担っていく、つまり働く個人のキャリア形成は企業に任せることが一般的だった。

しかし、進むグローバル化と激しさを増すコスト競争によって、かつて最も優れているとの評価もあった日本型資本主義を支える終身雇用や年功序列、新卒一括採用などは、大幅な見直しを迫られている。就活戦線を勝ち抜いて入社したとしても、定年まで同じ会社で働けるか不透明となったこの時代で、もはや企業の社員教育と辞令に頼り、配属された部署での仕事をこなすことで企業に身を委ねるキャリア形成は限界を迎えている。これからの時代、働く個人が、5年後、10年後を見据えた自身のキャリアプランを自律的に形成していく時代となるだろう。

キャリア自律が徐々に普及しつつある今、働く個人の考え方にも変化が訪れている。例えば、転職のハードルが低くなることで、より好待遇、より自身の価値観に沿う企業での活躍を望む人材も増えており、長年諸外国と比べて低調だった労働市場の流動化の流れが、今後一層進んでいくことになるだろう。

では、企業は従業員のキャリア自律をどのように考えているのか。日経リサーチとHR総研が共同で行った「キャリア自律に関するアンケート 2020年」(調査期間:2020年9月23日~10月6日 有効回答:267件)の調査結果によると、「キャリア自律」の認知度は従業員数1001名以上の大企業で85%、300名以下の中小企業で56%だった。(ProFuture株式会社/HR総研

また、同調査では、企業がキャリア自律を最も重視している理由として、従業員の「モチベーションアップに繋がる」ことを挙げている。

ある程度の企業が重視していると回答したキャリア自律だが、実際にこれを促進している企業はどのくらいあるのか。HR総研が行った「人材育成(テーマ別研修)に関するアンケート 2020年」(調査期間:2020年8月31日~9月6日 有効回答:231件)という調査結果からは、「社員への『キャリア自律』の促進」という設問に対して、「強く促進している」という回答は10%、「まあまあ促進している」という回答23%を合わせて、約3社に1社がキャリア意識を醸成し自律的なキャリア形成を促している状況がわかる。(ProFuture株式会社/HR総研

企業規模別でみた場合、「促進している」全体の約4割が大企業であり、企業規模が大きいほど社員のキャリア自律に危機感を抱いていることがうかがえる。一方で、キャリア自律を「促進していない」と答えた企業も全体の約3割を占めており、同時に「どちらとも言えない」と回答した企業が同じく約3割であることからも、今は企業にとって従業員のキャリア自律という考えの賛否が拮抗している状態といえる。

また、前述した日経リサーチとHR総研の共同調査「キャリア自律に関するアンケート」の調査結果では、回答した企業の経営戦略形式を「保守型」「革新型」「バランス型」「自然型」の4つに分類した際、リスクを積極的に取り新規開拓を推し進める「革新型」の人事部では75%がキャリア自律という言葉を以前から何らかのかたちで知っていたと回答しており、これに対して特定の戦略に拘らず、市場や競合の動きに翻弄されながら事業展開する「自然型」の46%が今回の調査で初めてキャリア自律という言葉を聞いたと回答していることからも、企業のキャリア自律に対する温度感は、各社の経営戦略も色濃く反映されているといえる。

この共同調査では、コロナ禍の影響で大企業の4割が従業員のキャリア自律促進を強める動きを見せており、多数の従業員を雇用しつつも、コロナ禍で甚大な被害を被り、事業方針の転換を余儀なくされる企業も多いことから、従業員の自律的なキャリア形成を推し進める本音なども見え隠れする。いずれにせよ、日本独特の雇用形態が終わりを迎えつつある今、キャリア自律は働く個人と企業の双方にとって、近年の企業側のジョブ型採用の増加と相まって、重要性が高くなっている。本稿では、そんな自律的なキャリア形成の企業にとってのメリットや、具体的な施策について紹介していきたい。

企業にとってもメリットが大きいキャリア自律

従業員のキャリア自律は、企業にとってもメリットが大きい。個々の従業員が、自身の強みや弱みを把握し、自己理解を深めた上で、自律的に業務内外で研鑽に励むと、社員の能力をより効果的に引き出し、結果として企業としてのパフォーマンスを高めるからだ。キャリア自律そのものは、昇格や栄転、高度な知識の修得や専門的な資格の取得など、アウトカムの形態は多岐にわたる。しかし、これらを目指すべき指標や目標として捉えることで、自律的な努力があると結果として個々の従業員のスキルアップにつながり、最終的には企業にとってもメリットとなる。ここでは、従業員のキャリア自律を企業が人事制度面から支援することの、企業にとってのメリットを「社内公募制度」を通じて考察したい。

1.  働く個人のやる気を伸ばす
外資系企業を中心として、日本企業においても部分的に制度採用が始まっている「社内公募制度」だが、辞令に従業員が従うだけの受け身の人事異動とは異なり、個々の従業員が「自ら勝ち抜いてポストを得る」能動的な人事異動となる。当然、企業側としては人材管理の面において部分最適化に陥らず会社全体の利益を考慮した検討が必要になるが、従業員が自律的なキャリア形成を念頭に、「自らの意思で選んだ」ことは、仕事へのやりがいにつながる。そのため、労働意欲の向上に資するものだ。

2. 優れた人材を社内に留める
また、これは前述の仕事へのモチベーションとも相関性をもつが、転職以外にも自分の「したい仕事」ができ、目指すべき自分のキャリア形成へのパスを提供できる環境は、優秀な人材の社外への流出を抑制することにつながる。これは、社内公募とはある意味において、社内の「転職」だからだ。特に、新卒から自社で育てた人材が社外へ流出することは、企業にとってもコストの面で損失が大きい。社内公募は、優れた従業員がモチベーションを維持しつつ、「やりたい仕事」を通じて、「目指したい自分」を実現する機会を、自社の中で創出することにつながる。

3. マネージャー層への危機感を創る
従業員が自身のキャリア自律について考えることができる環境を企業が提供している状況では、部下への適切なケアと公正な業務評価が行えていない上司は、危機感を抱くことになる。なぜならば、部下には違う部署への異動という選択肢が与えられているからだ。当然、こういった社内公募制度を利用した異動では、人間関係の悪化などを未然に防ぐために、従業員が異動を希望する事実を上司から秘匿とするための仕組みなどが必要とされるなど、制度への工夫が求められる。しかし、少しでも自身の管轄する部署に優秀な人材を多く留めるために、管理職層にはより多くの部下へのケアと業務目標達成の双方向性を伴った努力が求められることになるだろう。

キャリア自律支援の具体策とは

社員のキャリア自律を促進することが企業にとってもメリットが大きいことが理解できていても、実際に十分な支援を企業側で提供しているケースは多くない。前述のHR総研が行ったアンケート調査においても、キャリア研修を、若手層、中堅層、シニア層のいずれを対象にも実施していないと回答した企業は全体の54%にも昇る。

また、企業規模別にみても、前述のいずれも実施していないと回答した企業は、大企業で4割程度、中堅企業で5割弱であったが、300名以下の中小企業では6割以上となっていることからも、従業員にキャリア自律意識を醸成させる試みは、大企業が先行している様相を呈している。

「社内公募制度」のような、会社の統治・管理システムの根幹をなす人事制度の大変革などといったら、なおのこと導入に莫大なコストと時間、そして全社を挙げた意識改革が伴い、実現が容易ではない。では、中堅企業や中小企業なども含めて、これから従業員の自律的なキャリア形成を支援する取り組みをはじめる企業は、具体的にはどのような「はじめの一歩」が考えられるか。次の3つのポイントを抑えながら解説していく。

1. キャリア研修
1つ目に、「キャリア研修」の実施が挙げられる。従業員に常日頃から自らのキャリア形成を考えながら仕事に従事してもらう「きっかけ」を創り出し、具体的な将来像を描いてもらうために、研修という方法は非常に効果的であるといえる。たとえば新人から若手であれば、「自分の強みや弱みなどを把握し、自己理解を深める」ことを中心に、仕事人としての自分を知ってもらう研修などを組むのがよいかもしれない。中堅社員では、ある程度社会人経験を積んでいることから、「スキルや能力の棚卸」などをメインとして、キャリア折り返し地点に差し掛かったあたりでのキャリア後半戦を考える機会とできよう。そしてシニア層へは、これまでの業務への「深い知見や経験の次世代への継承」などを念頭に、今までの経験がどのように会社と社会へ公園できているかを再確認することで、モチベーションの維持に注力できよう。

2. 副業によるスキルアップ
2つ目のポイントとして、従業員の「副業」を解禁することも、個々のキャリア自律を促す手段のひとつとなり得る。従来の考えだと、本業である自社での従事に支障が出ることを中心に、さまざまな理由で禁止されていたものだが、副業による新たなスキル習得を奨励する企業なども珍しくなくなってきている。これは、副業を許可することによって、企業にとっても、働く個人にとっても意図していなかった新たなスキルが磨かれる可能性もあるからであり、その思いがけない経験で得た知識が、新たな事業開発などに役立つことも十分あり得るからだ。また、企業によっては副業を許可するとなると抵抗を感じるという声もあるが、この場合、営利目的でない活動など、例えばNPO法人などでのボランティアや、外国人観光客向けの案内員などの社会貢献を通して、働く個人が第2のキャリア「パラレルキャリア」を持つことを促すことでも、自律的なキャリア意識の醸成に資するだろう。

3. キャリアの相談窓口を設ける
最後のポイントとして、自社内に「キャリアの相談窓口」を設けることが挙げられる。社内公募のような制度とまではいかなくても、自律的にキャリア形成をしたい従業員や、現状の職場環境に何らかのネックを抱えている従業員などの「声」を拾い上げる重要な役割を果たす。また、企業側が働く個人のキャリア自律を積極的に支援しているというアピールにもなり、適切な環境整備が行われる場合、他の従業員の意識改革にもつながる効果を期待できる。例えば、クラシックな電話での相談窓口を設けるとともに、デジタル化の時代に沿ったLINEなどでAIによるFAQボットを作成することで、ある程度の簡単な質疑応答を自動化、より専門的な相談は実際の相談員が対応するなどといった施策を導入している企業もある。

まとめ

・日本型雇用制度が大きく見直されている中で、企業に任せず、働く個人が自律的なキャリア形成に取り組む「キャリア自律」が注目されている。会社という軸に身を置くのではなく、自分のなりたい姿に基づいて仕事をすることで、将来的にはより好待遇、より自分の価値観に沿った働き方を実現する一歩となるかもしれない。

・企業間でも、従業員のキャリア自律に関する姿勢は賛否拮抗している状態だが、総じて企業規模が大きいほどキャリア自律の支援に積極的であり、経営戦略的にはリスクを取り事業拡大を計る企業ほど、従業員のキャリア自律支援に熱心である傾向がみえる。また、時事傾向としてコロナ禍の影響を受けて大企業が従業員に自律的なキャリア形成を促す動きも見て取れる。

・社内公募制度を持つ企業では、その人事制度自体が従業員のキャリア自律を強力に支援しているに等しい。優秀な人材の社外流出を防ぐ効果と、働く個人が自ら仕事を勝ち取るという能動的な人事異動の両立が可能になるため、企業にとってもメリットが大きい。

・社内公募制度を持つ企業の場合、管理職による部下の適切なケアや公正な業務評価が欠く場合、部下の社内異動を招くこととなる場合がある。そのため、部下のモチベーションを維持しつつ、他部署や社外への優れた従業員の流出を防ぐことに危機感をもってあたる必要が出てくる。

・様々な前提や思惑があるなかで大企業が先行している従業員へのキャリア自律支援だが、これから取り組みを検討している企業でも行えることは多い。もちろん社内公募制度のような抜本的な人事改変を伴う急激な変化は難しいが、中堅・中小企業でも実現できる取り組みがある。

・社内でのキャリアステップ(若手・中堅・シニアなど)ごとの研修を実施することでキャリアについて考える「きっかけの発信」、無条件または限定的な副業の解禁による「新たなスキルの向上」、そしてキャリア相談窓口を社内に設けるなどすることでの「従業員の声を拾う」ことが、すぐにでも検討できる従業員のキャリア自律支援となるだろう。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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