2020.11.24

厚生労働省が卒業後3年間は新卒扱いの意向を示す。 日本の新卒採用における今後のニューノーマルとは?

読了まで約 5

・コロナ禍のなかで政府が再び「卒後3年以内は新卒扱い」の指針を呼びかけ

・新卒採用のニューノーマルによって新卒と既卒の壁がなくなりつつある

・新しい働き方(=ニューノーマル)で変化する企業の求人像とは?

・新しい働き方の急速な普及をうけて新卒学生に求められるスキルとは?

・春の一括採用が終わるなかで企業に求められる変革とは?

・オンライン活用と通年採用に見いだす新卒採用のニューノーマル

ニューノーマルで変わる「新卒」「既卒」のとらえかた

新型コロナウイルスの影響を大きく受け、企業と学生の双方に大きな打撃を与えた今年の新卒採用戦線。国は、一部企業が採用を取りやめる動きがあるとしつつも、「第2の就職氷河期」を作らないよう関係省庁と連携し、新卒者などの採用維持・促進に向けた取り組みをとりまとめる意向を示した。実際、コロナ禍の影響を大きく受けた学生の就職活動を支援するため、「卒業後3年以内は新卒扱い」とする国の指針を今一度徹底することを経済4団体へと要請した。

そもそも、3年以内の既卒者を新卒扱いとする国の指針は、厳しい経済情勢のなか、就職できないまま卒業した無業者やフリーターなどの救済を目的とし、2010年秋から雇用対策法指針の一部改正により行われた。また、卒業後3年以内の既卒者についてハローワークを通じて正規雇用した企業に対しては「3年以内既卒者(新卒扱い)採用拡大奨励金」が支給される制度も整備された。

しかし、指針が変更されて間もなく、「就活の新ルール」を自己流に解釈することで就職活動の力を抜く学生などが現れた。また、表向きには政府の要請に応じて、既卒者の採用を「受け付けている」または「新卒採用と同様に扱う」とした企業が、実際に既卒者を採用したかどうかは確認できないなど、想定されなかった波乱を生んだとして、新卒採用において、「3年以内既卒者=新卒扱い」という概念は定着しているとは言いがたい状況だった。

国の指針がなかなか浸透しないなかで状況を変えるきっかけとなっているのが、未曽有の混乱を日本と世界にもたらした新型コロナウイルスの影響だ。経済活動を含めて社会全体が大きな変化に見舞われたなかで、企業による採用活動に対し、田村厚生労働大臣は「すべての企業が対応しているかは難しい部分がある」としつつも、継続して企業への4月の採用をお願いする姿勢を見せた。また、萩生田文部科学大臣は「意欲ある若者が就職の機会を奪われないよう、柔軟な対応」を経済界に要請しつつ、これに答えるかたちで、経団連の冨田副会長は「企業にとって安定した採用を続けることは、非常に大きな戦略」と述べた。

年々形骸化し続けたことで2021卒より終わりを告げることとなった産学間の就職協定と、突然訪れたコロナ禍による影響。テレワークやソーシャル・ディスタンス、新しい生活様式(ニューノーマル)の普及が叫ばれ、社会が大きく変化を迫られるなかで、企業による「新卒」や「既卒」採用のこれから(ニューノーマル)は、どう定義づけされていくのか。

ニューノーマル時代に求められる新卒者のスキルとは

人手不足を背景に、これまで売り手市場と言われ続け、学生有利で進んできた就職活動だが、ここにきて新型コロナウイルスとの闘いが長引くなか、企業側が学生に求めるスキルにも変化が生じ始めている。アドビ社が2020年7月末に発表した「新卒採用で企業が重視するスキル」の調査結果によると、8割以上の人事担当者がコロナ禍が新卒採用活動への影響を与えていることを認めている。さらに、約半数の人事担当者が今後の新卒採用予定者数を減らすと回答している。長期化するコロナ禍もあり、学生にとっては厳しさが増していくと予想される「ニューノーマル時代」の就職活動において、企業から求められているスキルとは何なのか。

アドビ社では、調査を行うにあたり「課題発見能力」、「課題解決方法の発想力や着想力」、「情報分析能力」、「デジタルリテラシー(ITツールを使いこなせる能力)」、「クリエイティビティや創造性」、「プレゼンテーションスキル」の6つを、「創造的問題解決能力」の具体的要素としている。同社の調査を紐解いていくと、コロナ禍以前の2018年に行った同じ調査と比べ、新卒を採用するにあたり、企業が学生に求めるニーズに明らかな変化がみえる。

従来の採用活動において重視されてきた、自ら情報を分析する力や課題を発見する力、その解決方法を考える発想力や着想力などは、いわゆる就職人気企業では引き続き増加の傾向がみえる。しかし、調査に応じた企業全体をみた場合、「以前よりも重要度が上がった」と回答した企業の割合は減少した一方で、回答した企業全体を通して、デジタルリテラシーやクリエイティビティ、プレゼンテーションスキルなどが2018年次調査と比べて「以前より重要度が増したと感じるスキル」であると回答している。デジタルリテラシーにおいては、回答した全企業の7割が「会社で必要である」としており、「今の学生に不足している」スキルとして、基本的なオフィススイートを使う能力と回答する企業が42.8%と最も多かった。これは2018年調査時と比べて5.9ポイント増であることからも、会社での新人教育に頼るのではなく、入社時には表計算や文書作成などの基本的なITリテラシーが備わっていることを期待する企業が増えていることが伺える。

このような変化の背景として考えられるのは、コロナ禍以前より国が推し進めていた働き方改革と、コロナ禍によって急速に導入が進む、テレワークやリモート営業といった「新しい働き方」の増加だ。たとえば、ITスキルや創造性などについて、企業担当者は、「リモート営業では動画やプレゼン資料を作成」して、「分かりやすく相手に伝える力」が必要であり、「社内外にたいして説得力のある企画提案やプレゼン」を行う際に必要なスキルであると回答している。 新型コロナウイルス感染症の影響が続くなかで、企業活動のオンライン化はより増加するだろう。企業の新卒採用活動においても、変化しつつある企業のニーズを学生と事前に共有する必要がある。

通年採用とオンライン面接がこれからのニューノーマルに

日本独特の採用慣行が、大きな転機を迎えようとしている。いわゆる「就活ルール」「就職協定」を廃止することを発表した経団連の動きを受けて、各社「よーいドン」ではじめていた横並びの新卒一括採用がいま大きく見直されようとしている。具体的には、従来の春季一括採用をやめて、「通年採用」へ移行するということだが、通年採用とはどのような仕組みであるのか。また、新型コロナウイルス感染症の影響が続くなかで、この一連の移行への動きが、採用のニューノーマルをどのように変化させ、定義づけていくのか。

春季一括採用は、年功序列や終身雇用などとともに、長く日本型雇用システムを支える柱のひとつであった。しかし、企業間で優秀な人財獲得のための競争が激化し、売り手市場ともいわれ続けたここ数年は、経団連の定めたいわゆる「就活ルール」「就職協定」などは形骸化していくばかりであった。ついに2018年秋、経団連は同指針の撤廃を決定し、春の一括採用偏重を改め、通年採用を拡げていく姿勢を表明したわけだが、この動きの背景にある現象をみていきたい。

いわゆる「就活ルール」によって、各社が足並みをそろえてきた日本独特の一括採用だが、画一的な採用スケジュールを組んでいるため、海外留学やインターンシップを行っている学生など意欲がありポテンシャルが高い学生の取りこぼしなどが以前より課題としてあった。人財獲得競争が激化する状況において、一括採用では期間が限定的であったため、企業の求める人材像やスキルを有する学生の採用を行うためには限界があった。そのため、通年採用では、企業の採用における取りこぼしを最小限とするために、採用スキームを複線化させることが大切だ。たとえば、従来の一括採用をある程度維持しつつも、海外に留学している学生や、専門的な学修やインターンシップを行っている学生に対して、別の時期での採用枠や採用チャネル、そして採用スケジュールを提案することで、より多くの優秀な人材との接点を作ることができるわけだ。

通年採用を行うにあたり、より多くの人材との接点を作りだすことは重要だが、長期化するコロナ禍により採用チャネルにも変化が訪れている。ディスコ社による「新卒採用に関する企業調査(2020年10月調査)」によると、2020年はウェブセミナーやウェブ面接など、何らかのかたちでオンラインを活用する企業が飛躍的に増加した。特に、7割を超す企業がウェブ面接を導入しており、これは2019年次調査時の1割程度よりも遥かに上昇していることからも、新型コロナウイルス感染症拡大を受けて急速に普及したことがわかる。通年採用を行うにあたり、マンパワーや採用コストの増加などがデメリットとして挙がるなか、積極的なオンラインの活用は企業にとってもメリットが大きい。しかし、今後の課題として「人の雰囲気や社風を伝えること」、「志望度の見極め」、「多種多様な学生が集まることでの手間の増加」などが難しいといった声も企業担当者から挙がっており、採用活動におけるニューノーマルのひとつであるオンライン化も、まだ始まったばかりである。

まとめ

・新型コロナウイルス感染症の影響を大きくうけた新卒採用市場。一部企業が採用規模の縮小や、採用数の減少を表明するなかで、政府は再び「卒業後3年以内は新卒扱い」の指針を強調し、意欲のある若者が就職する機会を奪われないよう経済団体へ要請した。

・経団連の発表の通り、長引くコロナ禍と春の一括採用が終わりつつあるなかで、安定した採用を続けることは企業にとって大きな戦略である。通年採用という採用のニューノーマルも見越して、春の一括採用と複線的に、国の報奨金制度などを利用しつつ既卒の積極的な採用を行うことは企業にとってもメリットがある。

・一部の就職人気企業では、今まで重視されてきた分析力や課題発見力、解決法を見いだす発想力などが引き続き重視されている。ただし、全体的にみた場合、創造力やITを駆使する力、分かりやすく他者へ伝える力などが、より重視されているといえる。

・コロナ禍の影響で一層加速の動きをみせる働き方改革。テレワークやリモート営業など、企業活動のオンライン化は増えていくだろう。新卒学生には、今まで以上にITスキルやクリエイティビティをもって、相手に伝わる説明をする力や、分かりやすい資料を作る力などが求められる。

・定められた採用活動の行える期間が限定的であった、一括採用が終わりを迎えようとしている。年々激化していた人材獲得競争と、極めて限定された採用可能期間という課題に加え、コロナ禍が一括採用廃止の動きを加速させたことで、企業の採用活動は従来の春季一括偏重を脱し「通年採用」へ移行していくだろう。

・優秀な人材の取りこぼしという課題を解決する手段として期待される「通年採用」だが、コロナ禍によりオンライン化の活用も急速に進む。ウェブセミナーやウェブ面接を通して新しい採用が普及しつつあるなかで、企業による「志望度の見極め」や、オンラインであるがゆえの「社風の伝えづらさ」など、新たに取り組むべき課題なども見えてきている。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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