・新型コロナの影響で採用市場のトレンドは売り手市場から買い手市場へ。
・感染者の多い東京都や大阪府などでは、有効求人倍率が1倍を下回る。
・買い手市場への転換は採用のチャンス?
・新型コロナの拡大で転職意欲は高まっている。
・買い手市場に有効な採用戦略としてのオンライン採用。
・オンライン採用を“工夫して”導入するためのポイントとは?
じわじわと下落する有効求人倍率。採用市場のトレンドはどう変わるのか?
これまで、売り手市場で学生有利と言われてきた就職活動だが、長期化する新型コロナウイルスの影響により、その状況に変化はあるのだろうか。
オンライン化が一気に進んだ採用形態や、コロナ不況による企業の業績の先行きの不透明さなど、採用活動にはどのような影響が見込まれるのだろうか。
6月の本格的な選考解禁直前に、就職情報会社ディスコが主要企業に行った、「2021年卒採用活動の感触等に関する緊急企業調査」(調査日:2020年5月20日~25日 対象:全国の11572社 回答数:1122社)から、2021年卒(現4年生中心)に対する企業の採用動向を探ってみよう。
まず、「新型コロナの感染拡大による採用活動への影響」という設問には、およそ69.5%が「当初の計画通り」と回答。「下方修正する」は17.6%、「採用中止」は1.2%だが、全体の1割に当たる9.9%が未定との回答であり、新型コロナウイルス感染拡大の影響がどこまで広がるのか注視している企業も一定数あることが分かる。
また、「採用予定数の前年との比較」という設問では、全体の13.9%が「前年より増やす」と回答しているのに対して、22.4%が「前年より減らす」と回答していて、採用予定数はやや圧縮傾向にあるようだ。
これを裏付けるように、厚生労働省が9月1日に発表した7月の有効求人倍率(季節調整値)は1.08倍で前月から0.03ポイント低下している。これは6年3カ月ぶりの低水準であり、総務省が同日発表した7月の完全失業率(同)も2.9%と前月比で0.1ポイント悪化している。
雇用者数は、全体で見ると前月から15万人増加となり、4か月ぶりに増加となっているものの、雇用形態別に見ると明暗が分かれる。雇用形態別の前年同月差では、正規の職員・従業員は52万人増加と、前月の30万人増加と比較し増加幅が拡大した一方、非正規の職員・従業員は131万人減少と、前月の104万人減少と比較し減少幅が拡大し、統計開始以来、過去最大の減少幅となっている。
このため厚生労働省では、現在の雇用情勢について、求人が減少から増加に転じる中、求人が求職を上回って推移してはいるものの、求職者の増加は続いているため、全体として厳しさがみられるとしている。 また地域別に見ると、14の都道府県で1.0倍を下回る結果となり、新型コロナウイルス感染症が雇用に与える影響に、より一層注意する必要があると分析している。
買い手市場だからこそ採用活動を活性化させるべき
では、採用市場はこのまま、売り手市場から買い手市場へとトレンドがシフトしていくのだろうか?
現状を見ると、新型コロナウイルス感染拡大に伴って企業の求人数が減少傾向にあることは間違いない。一方で求職者数の減少幅は求人数の減少幅に比べて小さい状況ため、明らかに買い手市場への転換が起こりはじめている。
採用市場が買い手市場に大きく転換していくとしたら、それはチャンスと捉えることもできる。人材獲得で競合する企業数が減ることで、1つの求人に応募者が集まりやすい傾向となり、採用効率が高まるからだ。
活動中の求職者1人当たりの応募数は昨年対比で114.7%増(2020年4月)。この数字からは求職者の活動意欲は衰えておらず、むしろ応募意欲が少しずつ高まっているといえる。つまり採用市場が買い手市場へ転じるということは、競合が減り採用効率が高まることを意味する。採用優位の今こそ求人活動をしっかりと行うべき時なのだ。
ただし、いきなり採用を活性化させても結果は伴ってこない。やはり状況を見て適切な採用戦略を構築することが必要だ。
<企業側の意見>
企業側のマインドとしては現在の状況をどう見ているのか。先にも引用したディスコの調査によれば、「就職環境の⾒方・変化」に関する設問に対して、2021年卒者の就職環境について「もともと売り手市場で、その傾向は変わらない」とする回答が47.7%。「売り手市場から買い手市場に変化してきている」との回答が50.5%であり、両者は拮抗している。 コロナ禍によって採用市場の先行きが不透明となり、企業としても判断がつきかねているという見方も可能だ。
<学生側の意見>
学生側の意識を聞いた「キャリタス就活2021 学生モニター調査」(2020年5月実施)では、「売り手市場から買い手市場に変化してきている」という回答が70.2%と突出している。学生側のこの感触の方が、現在の採用市場の変化を敏感に感じ取っているともいえよう。
<中途採用市場への影響>
パーソルキャリア株式会社が行った「コロナ禍における転職希望者の意識・動向調査」(調査方法:インターネットリサーチ 調査対象:転職を考えている人、2020年3月以降に転職した人 回答数:1,057 調査時期:2020年5月)から、転職希望者の現状と今後の意向、企業に対する要望を見てみよう。
まず、新型コロナウイルス感染拡大が転職意欲にどの程度影響しているのかについては、「新型コロナウイルス感染拡大を受けて、転職への意欲に変化はありましたか?」という設問がある。 この設問に対して「新型コロナ感染拡大を受けて転職への意欲が高まった」と回答した人は、全体の47.2%に上っている。相当数の人が新型コロナの拡大によって転職意欲を高めたことがわかる。
では、新型コロナウイルス感染拡大によって転職への意欲が「さらに高まった」「高まった」と回答した人の希望する「転職したい時期」はいつか。転職意欲が高まっている人では「今すぐにでも転職したい」と回答した割合が全体で35.0%に上り、新型コロナウイルス感染拡大によって転職意欲が高まった人は、早い時期での転職を望む傾向が見られた。
新型コロナウイルス感染拡大によって転職意欲が高まっていることはわかったが、実際の転職活動はどうしているのか。「現在は転職活動をしていますか?」という設問で「1年以内に転職したい人」もしくは「転職したいが時期は未定の人」に現在の転職活動状況を聞いたところ、「転職活動をしている」との回答は全体で20.3%にとどまっていることがわかった。一方で、「新型コロナ感染拡大の影響で「転職活動を中断している」もしくは「始めていない」という回答が全体の35.2%に上り、すぐにでも転職したくても転職活動は開始できない、というジレンマを抱える人が相当数いることがわかる。
では、「転職活動を中断している」理由はなんなのか、「転職活動の中断・休止の理由は何ですか?」という設問を見てみよう。回答で最も多かったのは「面接や手続きなどで外出することが不安だから」の39.1%だった。次いで「志望企業が採用職種やポジション、人数を絞っているから」が36.3%、「志望企業が採用活動を停止中だから」が全体28.9%となっている。感染リスクに加えて、感染拡大の影響で企業が採用活動を休止したり対象を絞ったりした結果、希望通りの転職活動ができないという理由で転職活動を中断・休止しているケースが多いことがわかる。
このことから、買い手市場にある中途採用に限っていえば「すぐにでも転職したい」という意欲は高いため、オンライン採用など感染リスク対策を万全にし、採用職種やポジションなどをなるべく広く構えて採用活動を再開すれば、競合が動き出さないうちに採用数をあげる戦略を立てることも十分可能だといえよう。
買い手市場に有効な採用戦略とは?
採用活動を活性化させるといっても、ポイントを押さえた戦略で成功に導く必要がある。
これまで企業は空前の売り手市場の中で、さまざまな模索を続けながらそのトレンドに適合した戦略を打ち出してきたが、コロナ禍下の買い手市場という新しい状況にも対応出来る戦略をいち早く打ち出せるかどうかに採用成功の成否がかかっている。
ウィズコロナの現在でも採用で成功を果たしている企業はある。こうした企業には共通して注力している3つのポイントがあるといわれている。
それは、オンライン採用の導入、採用計画の意思決定プロセスの構築、競合を意識した明確な差別化だ。
なかでもオンライン採用は省力化とコストダウンが望めて効率がいいため、上手に導入すれば、多くの応募者があった場合の切り札となる。
以下にオンライン採用を活かすポイントを紹介しよう。
・オンライン採用を“工夫して”導入するポイント
オンライン採用を導入してもこれまでの対面での面接の感覚から脱却できていないと、うまくコミュニケーションが取れず、みすみす優秀な人材を逃すことにもなりかねない。応募者側で自己アピールが上手くできないこともあるが、選考する側の面接官にも応募者の魅力を十分に引き出す力と、自社の魅力をしっかりとアピールする力が求められる。このためオンライン採用はポイントを押さえて“工夫して”導入することが重要だ。
まず、オンラインに限らず、面接を構成する要素をしっかりと押さえておきたい。面接を構成する要素は1.ヒアリング(理解)、2.セレクション(選抜)、3.アトラクト(動機づけ)、4.クロージング(合意形成)だといわれている。
対面での選考でもこの4要素は大切なのだが、表情やしぐさを見ながら雰囲気込みでコミュケーションができるため、あまり意識していなくても面接をすすめることはできる。しかし、オンライン採用では特にこれらのポイントが重要になってくるのだ。
1.ヒアリング(理解)
この段階では応募者に心を開いてもらうため、話しやすい雰囲気を作る、アイスブレイクを丁寧に行うなど、信頼関係を築くためのコミュニケーションがベースとなる。一方的に話すのではなく、応募者の話を注意深く聞く、という姿勢が大切だ。
その上で、手元の資料ではなくカメラを見ながら話す、相手の言葉に大きくうなずいたり身振り手振りを加えるなど、オンラインならではのテクニックも習得しておきたい。
また、この段階で話す内容は事前にしっかりと決めておくと良い。対面では相手の雰囲気を見ながら、いくつかある話題の引き出しの中から合いそうなものをチョイスするということも可能だったが、オンラインでは相手の雰囲気が掴みづらいため、話を外してしまい、最後まで悪影響が残る可能性が高い。むしろ、あらかじめ決められたことをしっかりと伝え、そのうえで応募者の話をじっくりと聞くことが、好感度と信頼感の醸成につながる。
2.セレクション(選抜)
オンライン面接では、双方向のコミュニケーションがしづらく反応がわかりにくいため、正確にセレクションを行うことは難しいとされる。その一方で対面に比べて圧迫感が少ないので、安心感を与えやすく話しやすくなるという傾向もある。 このため、オンラインの効果は、質問が定型化された面接や、一問一答方式など形の決まった面接の方が発揮されやすい。
オンライン面接では、できる限り構造化されたセレクションを行い、どの面接官もどの応募者にも同じ質問を用意し、その質問に対する回答に対してどう評価するのか、という判断を続けていくことで面接の精度は高まっていく。
3.アトラクト(動機づけ)
オンライン採用では、面接に限らず、人のもつ「熱量」や「人間性」といった要素は極端に伝わりにくくなる。 オンライン面接の際は、このような“人間力”で勝負するのではなく、相手のニーズに合わせた的確な情報を提供することでアトラクトすることが重要だ。
もちろん、応募者のニーズから外れた情報を伝え続けると相手の心は離れていくので、どのような要素で動機付けするのか十分に検討しておきたい。また、面接官の人選も重要となる。面接官が複数いるなら事前に応募者の情報を精査して、相手に関心の持てる人物をアサインすることも有効だ。
その上で、応募者が知りたい情報をいつでも提供できるように、自社のバリューやミッションを整理して面接官が頭に入れておくことも必要だ。
また、自社で求めていない人材像を明確にして、早い段階ではっきりと伝えておくこともミスマッチを防ぐために有効だ。
4.クロージング(合意形成)
クロージングでも、企業側、応募者が双方にとってコミュニケーションをとることが難しいため、応募者のニーズにあった情報を提供しながら段階的に意思疎通を行うことが重要となる。このため、できるだけ応募者本人の自由と責任を尊重しながら、応募者に働き方や仕事に対する考えを提示してもらうとよい。これに自社の制度や風土を柔軟にすり合わせることで合意形成が行いやすくなる。
以上、オンライン採用を運用する際のポイントを見てきたが、それ以上に重要なのは周到な事前準備だ。応募者の情報をできるだけ幅広く収集し、ニーズや性格を認識しておくことで、ヒアリングに長い時間を割かず、セレクション以降の時間を有効に使えるようになる。
事前準備に使えるツールも開発されているので、それらを活用して買い手市場時代のオンライン採用を上手に運用していきたい。
まとめ
・厚生労働省では、現在の雇用情勢について、求人が減少から増加に転じる中、求人が求職を上回って推移してはいるものの、求職者の増加は続いているため、全体として厳しさがみられるとしている。
・学生側の意識を聞いた調査では、「売り手市場から買い手市場に変化してきている」という回答が70.2%と突出している。学生は買い手市場への転換を敏感に感じ取っている。
・採用市場が買い手市場に大きく転換していくとしたら、人材獲得で競合する企業数が減ることで、1つの求人に応募者が集まりやすい傾向となり、採用効率が高まるため、人材獲得のチャンスと捉えることもできる。
・中途採用に限れば、転職への意欲は高いため、オンライン採用など感染リスクへの対策を万全にし、採用職種やポジションなどをなるべく広く構えて採用活動を再開すれば、競合が動き出さないうちに採用効率をあげる戦略を立てることも十分可能である。
・ウィズコロナの現在でも採用で成功を果たしている企業が共通して注力している3つのポイントは、オンライン採用の導入、採用計画の意思決定プロセスの構築、競合を意識した明確な差別化。
・オンライン採用で重要なのは周到な事前準備である。応募者の情報をできるだけ幅広く収集し、ニーズや性格を認識しておくことで、ヒアリングに長い時間を割かず、セレクション以降の時間を有効に使えるようになるからだ。