・レジリエンスに注目が集まる理由とは?
・レジリエンスが強い人とは?
・仕事や職業生活に関する強いストレスに負けないためのレジリエンス。
・現代のビジネスパーソンのほとんどが強いストレスにさらされている?
・レジリエンスの高い組織にする施策導入のポイント。
・ビジネスの現場においてレジリエンスの高い人材とは?
目次
レジリエンス(resilience)とは何か
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、経済活動は停滞し、さまざまなイベントが延期・中止になっている。仕事中でも普段の生活でも不安や鬱の症状を訴える人の数が増えている。 このような生死に関わる危機的状況に対応するために、近年注目されている心理的スキルがレジリエンス(resilience)だ。
レジリエンスは、一般的に「回復力」「復元力」「弾力性」などと訳される言葉である。もともとは物理学や生態学の分野で用いられていたが、その後、幼児や青少年を対象とする臨床精神医学の領域で心の状態を表す言葉として使われるようになった。
さらに最近では、「あらゆる逆境や困難な状況に直面しても、適応し、跳ね返し、乗り越える力」として、ビジネスや組織論、危機管理能力などの領域においても広く注目を集めている。
特に最近は新型コロナ禍によって、誰もがなんらかのストレスを抱えて不安を訴えている社会にあって、人の心の病的な側面ではなく、優れた側面を研究する「ポジティブ心理学」の主要なテーマとしてレジリエンスに対する研究が進んでいる。
ポジティブ心理学は人の心が持つ、優れた可能性や強靭さ、能力などに焦点を当て、「人はどうすればより良く生きることができるか」を研究する心理学だ。
なかでも人材育成や組織開発の分野で応用が進んでいて、現在、欧米の企業で導入されているレジリエンス強化のプログラムなど、メンタルヘルス教育のカリキュラムは、ポジティブ心理学の理論によって開発されたものが主流だといわれている。
欧米では40年近く研究されてきたというレジリエンスだが、日本でもこのところマスコミが取り上げるなど注目を集めるようになってきた。それは東日本大震災や度重なる豪雨などの激甚災害、コロナ禍など激動する自然環境に翻弄され続けている企業や組織、社会にとって、ストレスに強い精神性と、どんな状況にも適応できる能力が必要であることが急速に理解されはじめているからだ。
では、「レジリエンスが強い人」とはどんな人だろう。 レジリエンスの研究は数多くあり、その定義はさまざまだが、代表的なものとしては以下の三つの心理的特性を共通して持っているといわれている。
1.肯定的な未来志向:未来に対して常に肯定的な期待を持っている。
2.感情の調整:感情を適切にコントロールできる。
3.興味や関心が多彩:興味や関心を持つ対象がさまざまな分野に向いている。
ほかにも、1.回復力、2.弾力性、3.適応力、とする説などもあり、これらの他に、自尊心や共感性が育っていること、ユーモアのセンスやコミュニケーション能力が高いことなども、レジリエンスが強い人の条件に加えることがある。
ここで忘れてはならないのが、このようなレジリエンスが高い人の特徴は、私たち人間の内面にもともと存在していて、誰でも多かれ少なかれ持っているということだ。 これが組織においてレジリエンスを高める施策が重要視される理由でもある。
レジリエンスが必要な人材とは?
厚生労働省が発表している「平成30年度 労働安全衛生調査(実態調査)の概況」の中にある、「仕事や職業生活に関する強いストレス」という項目では、仕事や職業生活において、「強いストレスを感じる」と回答した労働者の割合が58.0%まで及んでいる。前年度の58.3%からやや減少したものの、ここ数年は60%近い高水準で推移していて、労働者の半数以上が強いストレスを感じていることがわかる。
また、ストレスの原因として挙げている割合は、仕事の質・量(59.4%)、仕事の失敗・責任の発生(34.0%)、セクハラやパワハラを含む対人関係(31.3%)の順に多く、特に対人関係は前年度の30.6%から増加している。
こうした調査結果からも、現代のビジネスパーソンのほとんどが強いストレスにさらされている状況と、これらのストレスに適応し、回復できる能力としてのレジリエンスが必要とされていることがわかる。
では、どのようなタイプや立場の人材が、組織や職場においてレジリエンスを高めることが必要となるのだろうか。以下に整理してみよう。
過度のストレスを受ける立場で、ストレスを溜めやすい性格である場合
一般的に、責任の重い立場や業務を任されることの多い40代以降のミドル層や、真面目で努力家な性格の人は、ストレスを溜めやすいと言われている。
そのため、これらに当てはまる人材は、ストレスに柔軟に対応できるようレジリエンスを高める必要がある。
経営幹部やプロジェクトリーダーなどの役職に就いている、もしくはその候補者
困難を乗り越えていく力であるレジリエンスは、リーダにとって必要不可欠な特性であると言われている。
組織を強いリーダーシップで導き、高い水準で目標を達成していくためには、失敗を恐れず、プレッシャーに負けずに挑戦していく心の強さが必要となるからだ。
そのため、経営幹部やプロジェクトリーダーなどの役職に就いている人材、あるいやその候補者は、レジリエンスを身につけておく必要がある。
グローバル企業やIT、金融など変化が激しい業界や、顧客ニーズが移ろいやすい業界などに身を置いている
グローバルな組織改革や戦略変更、突発的な配置転換、M&Aによる組織の離合集散など、今後一層、変革と変化の波にさらされることが予想される組織や業界では、変化に適応する能力としてのレジリエンスは重要視されており、レジリエンスの高い人材を求める傾向にある。
自己肯定感が低い若年層
特にレジリエンスを高める必要があるのは若年層のビジネスパーソンだ
経済のグローバル化が進む中、日本人は外国人に勝ちにくいとしばしば指摘されているが、それは「自己肯定感の低さ」に起因すると考えられる調査結果がある。
内閣府が発表した「平成26年版 子ども・若者白書(概要版) 特集 今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるもの~」(日本、韓国、アメリカ、イギリス、フランス、スウェーデンの7カ国、30歳未満が対象)によると、「自分自身に満足している」と考える若者は、アメリカ86.0%、イギリス83.1%、フランス82.7%であるのと比べて、日本は45.8%と5割にも満たない低水準となっている。また、「自分には長所がある」と思っている若者の割合は日本では68.9%で,アメリカの93.1%を大きく下回り、諸外国と比べても最も低い水準にあり、年齢階級別にみると,特に10代後半から20代前半にかけて,諸外国との差が大きい。
平成26年の資料であるから、このまま現在に引き当てることはできないが、もしこの若者たちの自己肯定感が当時のままで社会に出ているとすれば、「自分に満足している」「ありのままの自分でいい」とする自尊感情が少なく、自分の意思を尊重した意思決定や行動に自信が持てない若年層のビジネスパーソンが過半数は存在することになる。
自尊感情や自己肯定感が低いと、自分の強みよりも弱みに目がいってしまい、強みを生かした斬新なアイデアや、弱みを直視した逆転の発想も生まれにくい。
こうした日本人の自己肯定感の低さこそが、自己肯定感の高さに裏打ちされ、自信のある決定を即断できる欧米人に後れを取ってしまう原因だといわれている。
これを克服するために、自己肯定感を高める効果があるレジリエンスの強化は若年層ビジネスパーソンにとって必要不可欠だといえる。
レジリエンスの高い組織にするには?
コロナ禍により、企業を取り巻く環境は激変し、今後も企業の将来に不確実性が増すことが予想されるなか、日本の企業には予想不能の困難な状況に直面しても、柔軟に対応を実施し、回復するために、組織のレジリエンスを高めることが必要不可欠となる。
研修などを通して従業員のレジリエンスの向上を図ることで、組織力アップや従業員のストレス耐性の強化など、多くのメリットが期待できる。
レジリエンスについて的確に理解し、企業に合うかたちで活用していくことが、レジリエンスの高い組織を作るための重要なポイントである。
今後、企業としては、従業員がレジリエンスを高められるよう支援する一方で、レジリエンス強化を妨げ、強いストレスを与えるような企業文化や制度を改める必要があるだろう。
このため、企業がレジリエンスを高める施策を行う際も、レジリエンスの強さは個人差が大きいため、ストレスに弱い受講者に対して無理に高めようとすると、さらにダメージを与えるストレスフルなものになってしまう点に十分注意したい。レジリエンス強化の施策には、個人の特性に合わせながら育成する、という感覚が需要だ。
実際に、レジリエンスを高める施策として、講師を招いたレジリエンス研修などが考えられるが、カリキュラムを選ぶにあたっては以下のような観点で判断するとよいだろう。
1.内容がカスタマイズ可能かどうか
レジリエンスの強さや重要性は個人においても、業界や自社の事情によっても異なってくる。このため、研修内容がカスタマイズ可能なものの方が自社の実態にあわせることができ、より効果的なものになる。ただし、テスト的に試してみるならカスタマイズできない入門的な研修も検討の余地はある。
2.講師のレベルや個性を確認する
研修の効果は講師のレベルにより大きく左右される。経歴や評判だけで判断するのではなく、公開講座に実際に参加するなど、講師のレベルや性格などを確認しておきたい。
3.研修の効果が測定できるか
研修実施後にアンケートなどを実施して、効果を数値的に評価できるかどうかも重要なポイントだ。正確な効果測定なくして、研修内容の改善はできないからだ。
こうした研修などによる施策を行う一方で、もともとレジリエンスの高い優秀な人材を採用し、ビジネスの現場でモデル社員とすることも、組織のレジリエンスを高める近道だ。そのためにはレジリエンスが高い人材の特徴をよく理解しておく必要がある。
ビジネスの現場においてレジリエンスの高い人材には以下のような特徴がある。
1. 思考に柔軟性がある
大きなストレスがかかる状況下でも、思考が柔軟であれば、どこかにポジティブな要素を見いだすことができる。レジリエンスが高い人材は、厳しい状況であっても発想の転換でわずかな可能性を見出すことができれば、そこから状況を打開できるような柔軟で強靭な思考力がある。
2. 感情がコントロールできる
眼前の状況に一喜一憂せず、本質だけを見て物事に取り組めることはレジリエンスが高い証といえる。心の回復力が高く、動揺や不安を抑えられる人材は、感情のコントロールができているのだ。
3. 自己肯定感が強い
自分の力を自分自身が過小評価することなく、むしろ「自分にはできる」と大きく構えて物事にあたる人は自己肯定感が強いといえる。自己肯定感が強い人は何か困難に直面した場合でも、最初から「無理だ」と決めつけることはありません。これは、レジリエンスの高い人材が持つ重要な特徴のひとつだ。
4. 挑戦を諦めない
何度も困難にぶつかったり、失敗を繰り返していても、「一歩一歩前進している」「このことで自分は成長していると感じられる」と感じられる人はレジリエンスが高い傾向にある。また挑戦を諦めないということは自己肯定感も強いといえる。
5. 楽観的である
レジリエンスの高い人は、さまざまな困難をポジティブに捉えて行動ができる傾向にある。 「きっとなんとかなる!」と困難を脅威だと考えず行動に結びつけることができるため、煮詰まった場においても状況を打破し、結果をもたらしてくれるはずだ。楽観的な視点は、さらなるレジリエンスの育成において、大きな影響を与えるだろう。
まとめ
・新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、不安や鬱の症状を訴える人の数が増えている。このような生死に関わる危機的状況に対応するために、近年注目されている心理的スキルがレジリエンスである。
・レジリエンスとは、個人・組織ともに通用する「あらゆる逆境や困難な状況に直面しても、適応し、跳ね返し、乗り越える力」のこと。
・厚生労働省の調査結果から、現代のビジネスパーソンのほとんどが強いストレスにさらされている状況と、これらのストレスに適応し、回復できる能力としてのレジリエンスが必要とされていることがわかる。
・レジリエンスが必要とされる人材とは、仕事上でストレスを溜めやすい立場、性格である、経営幹部やプロジェクトリーダーなどの役職に就いている、常に変革が求められる業界や、顧客ニーズの変化が激しい業界に身を置いている、自己肯定感が低い若年層、など。
・自己肯定感を高める効果があるレジリエンスの強化は若年層ビジネスパーソンにとって必要不可欠だといえる。
・レジリエンスの高い組織にするには、講師を招いたレジリエンス研修などの施策のほか、レジリエンスの高い優秀な人材を採用し、ビジネスの現場でモデル社員とすることも近道であり、そのためにはレジリエンスが高い人材の特徴をよく理解しておく必要がある。