2020.7.30

通年採用のメリットとは?関心が高まる通年採用の最新トレンド

読了まで約 6

・政府も経済団体も柔軟で多彩な採用活動を行うよう、企業に要請している。

・新卒者は一括採用で採用に落ちると二度とチャンスが来ないのが現状。

・授業の再開が遅れている高校や大学に配慮し、選考時期の分散を進める通年採用。

・企業にも求職者にも大きい通年採用のメリットとは?

・多彩な人材の採用が可能になる通年採用。

・他の施策と組み合わせて行っている通年採用の導入事例。


新型コロナの影響で通年採用が拡大?


今年春の採用活動において、3密の回避や不要不急の外出自粛などの社会要請のなか、セミナーやグループワーク、面接など、今まで当たり前だった「顔を合わせての採用」がしにくくなり、中止や延期が相次ぐなど、学生の就職活動に影響が出ていることを受け、感染拡大が顕著になった3月末には、政府から経済界に柔軟な採用活動への対応要請が出されている。
学生が企業を理解する十分な機会を得て、安心して就職活動に取り組める環境を整える必要があるとして、インターネットを活用した説明会やエントリーシートの提出期限の延長、通年採用の拡大などの対策を求める内容だった。


当時、衛藤一億総活躍担当大臣は記者会見で、「学生がこれまでと異なる就職活動を強いられていることは事実であり、不安を覚えるのは無理からぬことだ。企業には前途ある若者の将来に思いをいたし、特段の配慮をお願いしたい」と述べている。
こうした政府の要請を受けて、経団連は「新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえた採用選考活動に関するお願い」として、企業側に「就職・採用活動において、企業と学生との間で雇用のミスマッチを起こさないとともに、第二の就職氷河期を作らないとの強い決意をもって臨むこと」を求める声明を発表した。


内容は、
1.学生の不安を和らげ、幅広い情報と十分な採用機会を提供する観点から、現行の採用選考日程を基本としつつ弾力的な採用選考活動を実施する。


2.具体的には、Web説明会など多様な通信手段を活用した企業説明の機会の創出、エントリーシートの提出期限の延長、オンライン面接の推進、年間を通じた複数回の選考機会の確保(通年採用)などに向けて最大限努力する。


3.感染収束以降の採用関連イベントの追加開催等、学業を尊重しつつ各社の状況に応じて最大限柔軟な対応を行う。
の3点で、いずれも企業側に採用活動の枠を柔軟に拡大する施策を求めたもので、今まで通りの採用活動から脱却することを強く促している。


さらに、経団連の中西宏明会長は5月の記者会見で、2021年卒者に対する企業の就職・採用活動について、「大きくシュリンク(収縮)するまでにはなっていない」との認識を示す一方、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う混乱も踏まえ、「経済界は(新卒者らが)一括採用で落ちると二度とチャンスが来ないという現状を考え直し、柔軟に採用すべきだ」と、一括採用の弊害を是正し、通年採用への移行の必要性を強調している。


このように、採用活動を取り巻く新型コロナ禍の影響による大きな動きの中で、企業側でも求職者側でも通年採用へのニーズが急速に高まってきているのだ。
実際、新型コロナウィルスの影響で通年採用に踏み切る企業も出ていて、5月にはみずほ証券が2021年度の新卒者採用活動について、秋口以降も採用活動を継続する方針を明らかにし、大和証券グループ本社も採用活動を継続して行う方針を発表するなど、通年採用への動きは活発化している。


ただし、新型コロナウィルスの影響が深刻な航空業界では、ANAホールディングスとJALグループが相次いで21年採用の中断を発表するなど、企業の業績判断によっては採用そのものを取りやめる動きもある。

企業にも求職者にもメリットのある通年採用


時期を問わず年間を通して採用活動を続ける通年採用は、これまで、新卒一括採用の採用枠に入り切れなかった学生に面接を実施し、優秀な人材の取りこぼしがないようにするために導入してきた企業が多かった。
つまり、既卒者や帰国子女、海外留学をしていて就活すべき時期に就活できなかった学生を採用するため、秋採用などの特別枠で通年採用をする、というものだ。


さらに近年は、若年労働者不足による求人難で多くの企業が人手不足に陥り、特に高付加価値人材の多くを、すでに通年採用を行っている外資系や新経団連系の企業に確保されてしまうという事態に対応するため、通年採用に踏み切る企業も増えていた。
これに加えて今春、新型コロナウイルスの感染拡大への対応という新たなニーズが生じた。
授業の再開が遅れている高校や大学に配慮し、選考時期の分散を進め、採用の通年化を加速する必要が出てきたのだ。


新型コロナウイルスが通年採用の拡大に拍車をかけた形だが、もともと通年採用には企業側にも求職者側(通年採用では対象が学生に限らないため)にもメリットが多く、早期の導入拡大が期待されていた。
ここで双方のメリットを見てみよう。

まず、企業における通年採用のメリットには以下のようなものがある。
・高付加価値人材、グローバル人材の採用が可能になる
先にも述べたが、通年採用を行うことで、既卒者や帰国子女、海外留学からの帰国組や海外在住のグローバル人材など、多様性のある高付加価値人材を採用することができるようになる。
新卒一括採用では、自社が指定した時期に応募しない学生にはリーチできなかったものが、通年採用を行うことで、さまざまなバックボーンを持った学生から応募してもらえる可能性が高まるからだ。


・内定辞退が出ても補充などフォローが容易
内定辞退は採用担当者にとって常に頭の痛い問題だ。一括採用では内定段階で辞退されてしまうと、なかなか有効な対応策は見出せなかった。
しかし通年採用であれば、万一内定辞退をされてもすぐに再募集し採用活動を再開するなど、補充への対応がしやすい。


・応募者とより深く向き合いマッチングの精度が向上
通年採用なら、日程を優先して数をこなしがちだった一括採用よりも応募者と向き合う時間を作ることができるため、お互いを見極めることができるようになり、マッチングの精度がアップすると言われている。


・自社のタイミングで必要な人材を採用することができる
通年採用では、自社が必要な人材に対して最適なタイミングで採用活動を行うことが可能だ。
一括採用では採用期間を過ぎて優秀な人材が現れても、定員まで採用枠を埋めてしまっていると採用する枠が残っていないという問題があった。
通年採用であれば、1年間かけて必要な人材を確保すればよい、という感覚で採用ができるので、必要な人材を好きなタイミングで採用することが可能となる。

一方、求職者側のメリットとしては、以下のようなものがある。
・余裕のある日程が組める
通年採用の導入によって、求職者は余裕を持ったスケジュールで求職活動を行うことができる。
一括採用はいわば短期決戦で、ある時期に集中して毎日のように説明会や面接が行われるため、スケジュール管理が煩雑になりがちで、余裕を持って企業を知る時間をとることが困難だった。


・時間をかけて準備することができる
一括採用では短い期間内に複数企業の選考を並行して進めなければならないため、1つの企業に対しての準備時間は相対的に少なくならざるを得なかった。
通年採用では、採用時期が分散され、1社に集中してじっくりと情報収集して準備することができるようになる。


いち早く通年採用へと動き始めた企業


afterコロナの時代を見据えて通年採用に踏み切った企業も多い。
しかし、ひとくちに通年採用といっても、企業によってその運用方法や実態は異なる。
自社に合った通年採用の目的と労働市場や競合との関係性などを見極めずに通年採用に踏み切れば、逆に採用実務が混乱し、崩壊する恐れすらある。
また、通年採用だけが人材確保の決め手ではない。
他の施策と合わせて戦略的に導入することでさらに大きな効果が期待できるのだ。
では実際にはどういった通年採用の事例があるのか、最近の導入例を見てみよう。


・KDDI の通年採用例
IT業界ではKDDIが、2021年度に入社する社員向けの採用活動から、新卒採用を通年で実施すると発表している。
毎年3月~10月だった選考時期を変更し、新卒・既卒を問わず、年間を通じて応募を受け付ける。
狙いは海外の大学の卒業生や外国人留学生などを広く受け入れ、データサイエンスなどの専門的なスキルを持つ人材を確保することにある。
これまで4月のみだった入社時期も、21年度からは2回に拡大。飛び級で大学を早期に卒業する場合など、応募者が状況に合わせて入社時期を選べるようにする。
同社では、21年度に採用予定の社員は約270人で、このうち4割超である120人を専門性のある人材で占めようという採用計画を立てている。


「データサイエンス」「UI/UXデザイン」など11の領域では、スキルを持つ人材だけを対象とした募集を行い、入社後は各人のスキルを生かせる部門に配属するという「ジョブ型採用」を実施するとしている。
同社では、20年度に入社予定の内定者のうち、ジョブ型採用に該当するのは44人。
21年度は専門性を持つ新入社員を約3倍に拡充し、新規事業や5Gを活用した通信事業に注力する。


IT業界では現在、高いスキルを持つIT人材に高額な初任給を設定する企業が増加してきているが、同社の広報担当者は「その予定はない」と否定している。
報酬制度などは変更せずに、通年採用とジョブ型採用を組み合わせることで、幅広い対象から専門性のある人材を獲得しようという採用戦略だ。


・大和証券の通年採用例
大和証券グループ本社では6月以降も採用活動を続ける方針を発表。通年採用の本格導入にも前向きな姿勢を示している。
同社では、採用活動自体は例年通り行い、来春に向けてグループ全体で360人を採用予定で、460人を採用した今春よりも抑制するとしている。
ただし、通年でエントリーを受け付け、後からでも優秀な学生の応募があれば、採用枠に関係なく選考を進める方針だ。
同社の中田社長は、産経新聞のインタビューに対し、「今年度は通年採用に近い形で進めたい。これが本格的な通年採用へのステップになるのではないか」と述べ、将来的な本格運用に向け、課題を洗い出していく考えを示した。


また、新型コロナの業務への影響について、中田社長は「『ウィズコロナ』の世界では業務効率が飛躍的に向上する」と語り、時間や場所を自由に選べる働き方を推進する考えを強調。
すでに基幹システムを刷新し、全社員に専用端末を配布している。
同社が発行する個人向け社債もテレワーク体制で販売しているという。
afterコロナに向けて、テレワークの導入や働き方の多様化と合わせて通年採用へと移行することで、職場環境の整備と人材確保を同時進行で推進する戦略のようだ。

まとめ


・政府は経済界に対して、柔軟な採用活動への対応要請として、インターネットを活用した説明会やエントリーシートの提出期限の延長、通年採用の拡大などの対策を求めている。

・経団連は、企業側に「就職・採用活動において、企業と学生との間で雇用のミスマッチを起こさないとともに、第二の就職氷河期を作らないとの強い決意をもって臨むこと」を求める声明を発表した。

・企業における通年採用のメリットは、高付加価値人材、グローバル人材の採用が可能になること。
内定辞退が出ても補充などフォローが容易なこと。応募者とより深く向き合いマッチングの精度が向上すること。自社のタイミングで必要な人材を採用することができること。

・求職者側のメリットは、余裕のある日程が組めること。時間をかけて準備することができること。


・報酬制度などは変更せずに、通年採用とジョブ型採用を組み合わせることで、幅広い対象から専門性のある人材を獲得しようというのがKDDIの採用戦略。

・afterコロナに向けて、テレワークの導入や働き方の多様化と合わせて通年採用へと移行することで、職場環境の整備と人材確保を同時進行で推進することが大和証券グループ本社の採用戦略。

 

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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