2020.7.27

エンゲージメントとは?従業員の定着率をあげるためにできるエンゲージメント向上の施策

読了まで約 6

・在宅勤務でリアルなコミュニケーションが減ったことで課題も生まれた。

・感染防止策としてのテレワーク増加により、エンゲージメントが注目されている。

・日本でも離職防止に効果のあるエンゲージメント施策へのニーズが高まっていた。

・エンゲージメントの高さが企業の業績に影響を与えることが各種の調査で判明。

・従業員エンゲージメントの高い企業の要素とは?

・従業員エンゲージメント施策の一例、5ステップとは?

エンゲージメントとは

新型コロナウイルスの感染防止策として、テレワークを導入する企業が増加している。
HR総研が、緊急事態宣言解除後の5月27日~6月3日に実施した「テレワークの実態」調査の結果によると、現在、何らかの形でテレワークを実施していると回答した企業は全体の9割近くにものぼり、緊急事態宣言により日本のテレワーク普及が飛躍的に拡大したことを物語っている。
(ProFuture株式会社/HR総研)

しかし、在宅勤務になることにより、リアルなコミュニケーションを行えない環境では、社員のモチベーションや生産性の維持が課題となっている。
その解決策のひとつとして、企業と従業員の相互信頼を向上させる「エンゲージメント」にいま、注目が集まっている。
コロナ禍以前にも、経団連の中西宏明会長が2019年後半の会見やテレビ番組で、「働き手がやりがいをもって仕事に打ち込めるエンゲージメントを高めることが重要」と発言するなど、経済界でも、個人・組織のパフォーマンスを向上させる取り組みとしてエンゲージメントが認知されはじめていた。
現在はこの状況に、コロナ禍によるテレワークの急速な普及という事態も重なり、エンゲージメントがさらに脚光をあびることになったという側面もある。

従来、欧米の企業では従業員エンゲージメントに対する意識が高く、企業は従業員の能力を最大限引き出すことを約束し、従業員は企業としての業績へ貢献するという関係性を築いてきた歴史があった。
日本ではこうした考え方は企業文化に馴染まないものとして長らく顧みられることはなかったが、生産人口の減少により、人材確保が重要な経営課題となり、離職防止に効果のあるエンゲージメント施策に期待が徐々に高まっていった。
これが先ほどの経団連会長の発言として表れたものだ。
一方、働き手の側も、年功序列、終身雇用が崩れる中で、ワークライフバランスを重視する、働き方にサスティナビリティを求めるなど、価値観が大きく変容しており、企業との間に信頼関係を築くことのできるエンゲージメントを就職活動の指標のひとつとして重視しはじめている。

エンゲージメントが経営にもたらす効果についての分析も進んでおり、株式会社リンクアンドモチベーションの研究機関であるモチベーションエンジニアリング研究所と慶應義塾大学大学院の経営管理研究科、ビジネス・スクール岩本研究室が2018年に共同で行った研究では、エンゲージメントは「営業利益率」と「労働生産性」の向上に寄与するというデータが明らかになっている。具体的には、「エンゲージメントスコア(ES)1ポイントの上昇につき、当期の営業利益率が0.35%上昇する」「ES1ポイントの上昇につき、労働生産性(指数)が0.035上昇する」というものだ。

参照:「エンゲージメントと企業実績」に関する研究結果を公開

また、同社の2019年の研究では、エンゲージメント向上は「退職率低下」に寄与するという分析結果となった。エンゲージメント向上は、業務遂行を担うメンバー層だけでなく、管理監督を担うミドル層の退職率に大きな影響を与える、としている。

参照:「エンゲージメントと退職率の関係」に関する研修結果を公開

一方、日本企業の従業員エンゲージメントを見ると、米ギャラップ社の2017年の調査によると、日本は熱意あふれる社員の割合が6%で、調査対象139カ国中132位という結果であった。首位の米国・カナダ(31%)と大差がついただけでなく、世界平均(15%)と比べても大きく見劣りする水準だ。

参照:GALLUP「State of Global Workplace2017」

従業員エンゲージメントの高い企業の3つの特徴

エンゲージメントを人事観点から見ると、従業員一人ひとりが組織に愛着を持ち、従業員と企業が一体となってお互いに成長し合い絆を強めるWin-Winな関係を構築できる考え方である。企業側から見れば、従業員の会社に対する「信頼感」「愛着」「思い入れ」「帰属意識」の強さを指す。
これは特に「従業員エンゲージメント」と呼ばれている。

では、従業員エンゲージメントの高い企業には、どのような特徴があるのだろうか。次の3つの特徴を挙げたい。

経営理念への共感

従業員エンゲージメントの高い企業にまず共通しているのは、経営理念への共感だ。経営・事業のビジョンやミッションが明確で一貫したものであるほど、高い目標、達成困難な業務上の指示であっても従業員はやりがいをもって取り組むことができる。

経営理念をホームページに掲載するなどして対外的に発信している企業は多いが、社内に向けても共有の仕組みができていることがポイントとなる。エンゲージメントの高い企業では、経営理念を行動指針や業務マニュアルにまとめたり、朝礼などの機会に繰り返し確認するなどして企業の価値観を明確化した上で、従業員が取るべき具体的な行動に落とし込み、日常的に共有を図っている。

経営理念を明確化すること、さらにこれを共有し浸透させてしていくことが、会社への信頼へとつながるのだ。

公正な評価

次に挙げられるのは、公正かつ適正な評価の仕組みがあることだ。従業員への評価が一人ひとりの納得を得るには、適切なフィードバックがカギとなる。従業員が納得感をもって働く企業では、1on1ミーティングや360度評価などのフィードバックが可能な仕組みが見られる。

適正配置のできる柔軟な人事制度を採用しているという特徴も挙げられる。終身雇用を前提とした硬直化した人事制度を持つ企業が未だ多い中、従業員エンゲージメントの高い企業では、従業員に積極的に成長の機会を与え、従業員がその能力を発揮できる適正な部署に配置されている。

従業員育成や積極的なキャリアアップ支援があることも共通した特徴だ。特に若い世代においては、成長している実感が得られることは離職防止につながる大切な施策となる。

働きやすい環境

3点目はの特徴は、働きやすい環境があることだ。リモートワークの導入、働く場所を自由に選択できる、副業を認めるなどの施策は、コロナ禍を機に実施する増えているが、従業員の働き方の自由度を高める施策は、従業員エンゲージメントを高める上でコロナ後にも欠かせないものとなっていく。

従業員エンゲージメントの高い企業では、安全で快適な職場環境を維持していることや、有給休暇が取得しやすい、育児・介護休業が取りやすく復帰の支援があるといったワークライフバランスの取り組みにも力を入れている。

さらに、社内コミュニケーションが活発で職場の風通しが良い、現場への権限移譲が進んでいるという特徴も挙げられる。社内の風通しがよく、意思決定の権限と責任を現場に付与している企業では、従業員のモチベーションが高く主体的に働くことが可能となり、従業員が働きやすさを実感することにつながっている。

従業員エンゲージメントを高める5つのステップ

従業員エンゲージメントを高めるには、さまざまな施策がある。
ただし、企業によってそれぞれに文化や仕組みが異なるため、他社の施策をそのまま導入しても効果があるとは限らない。
あくまでも自社に最適な施策を採用することが重要だ。
そのためのアプローチ方法も数々あるが、ここでは一例として、次の5つのステップで自社に適合した施策を策定するアプローチを紹介する。

1.従来の施策の洗い出し

先ほど挙げた従業員エンゲージメントの高い企業の特徴に沿って自社の施策を洗い出す。「経営理念への共感」については、経営ビジョン、バリュー、事業計画、事業目標、行動指針など、「公正な評価」については、人事評価制度、賃金制度、キャリアアップ支援、表彰制度、定期的な面談の仕組みなどが該当する。

「働きやすい環境」については、オフィス環境、休暇制度、育児介護を行う社員への支援制度、フレックスタイム制度、副業、テレワークへの対応、社内イベントなどが当てはまるだろう。年次有給休暇・育休の取得率や育休復帰率など、指標になるデータも現状分析に役立つ。

こうして既存の各種制度やイベントなどさまざまな要素をチェックし、検討しやすいよう整理しておく。

2.活動のためのチームの設置

従業員エンゲージメントを高める活動は、従業員の意識に働きかけるものであるだけに、人事部だけで効果を上げることは難しい。経営層、人事部、従業員を巻き込んで実施していくことが重要となるため、チームや委員会を設置して活動を進めることが有効だ。

メンバーとなる従業員はエンゲージメントの高い者が望ましいため、社内報などで活動の開始を宣言し、趣旨に共感してくれる者を公募するといった手法が考えられる。
また、そもそも従業員エンゲージメントにどの程度の人員、時間、予算等を割り当てるのかが十分に検討されていることが大前提となることはいうまでもない。

3.従業員の中からモデルを選定

エンゲージメントレベルが高く、他の従業員の手本となる従業員を、職種・職位ごとにモデル従業員として選定する。
この際、エンゲージメントだけでなく、パフォーマンス面、ビジョンとバリューへの理解度、体現度合いなども併せて考慮する必要がある。

モデル従業員を選定する前提として、従業員エンゲージメントレベルを知るための施策を組み込んでおきたい。
エンゲージメントに関する社員アンケートを実施して分析する、調査ツールやタレントマネジメントシステムを導入するなど、さまざまな角度から調査しておくと良いだろう。

4.職種・職位ごとの理想モデル像の策定

モデルとなる従業員を分析し、さらに期待する要素を加えて理想モデル像を策定する。
まずはモデル従業員の職務内容やパフォーマンス、組織や仕事に対する考え方などの要素をポイントに情報収集・分析する。人事部にある情報を活かすことはもちろん、モデル従業員の選定の際に使用した従業員エンゲージメントに関する調査に設問として組み込んだり、別途インタビューやアンケートを実施することで情報を得てもいいだろう。

委員会でモデル従業員の情報収集・分析の結果を整理したら、これに従業員に期待する要素を加え、理想モデルとなる従業員像を職種・職位ごとに策定する。
策定時には要素にある程度の多様性を持たせ、理想モデル像が偏らないようにするのも注意すべきポイントだ。

5.施策の見直しと定期的な効果測定

以上のステップを経て、会社の施策を必要に応じて見直したり、再構築したりしていくことになる。ただし、すべての要素に即応しようとはせず、優先順位をつけるなどして、中には複数年にわたる長期的な取り組み要素もあると考えて対応する方が無理なく継続できる。

そして、定期的に従業員エンゲージメントを測定することによりエンゲージメントを可視化して現状把握し、PDCAを回していく。
従業員エンゲージメントの測定には、社員アンケートのほか、各種の組織診断ツールも活用すると良い。

まとめ

・リアルなコミュニケーションを行えない環境では、社員のモチベーションや生産性の維持が課題となるため、企業と従業員の相互信頼を向上させるエンゲージメントに注目が集まっている。

・経済界でも近年、個人・組織のパフォーマンスを向上させる取り組みとしてエンゲージメントが認知されはじめていた。

・エンゲージメントが経営にもたらす効果について、エンゲージメントは「営業利益率」と「労働生産性」の向上に寄与するというデータが明らかになっている

・2017年に発表された世界139か国の企業を対象にしたアンケート結果では、日本企業の従業員エンゲージメントは132位と、世界最低水準にある。

・従業員エンゲージメントの高い企業には「経営理念への共感」「公正な評価」「働きやすい環境」という特徴がある。

・従業員エンゲージメントを高めるには、1.従来の施策の洗い出し、2.活動のためのチームの設置、3.従業員の中からモデルを選定、4.職種・職位ごとの理想モデル像の策定、5.施策の見直しと定期的な効果測定、の5ステップで行う。

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、マーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。
また、事業領域の主軸となっている人事関連の情報やトレンドの知見を有し、ご支援している顧客のマーケティング活動を推進する上で人事分野の情報のアップデートに邁進している。

執筆者

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『MarkeTRUNK』編集部

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