・多くの企業が導入しているリテンションマネジメント。
・優秀な人材を自社に確保しておくためにリテンションは必須。
・金銭的報酬だけでは人材の流出は阻止できない。
・リテンションのメリットとは?
・人材流出には自社や顧客の重要な機密情報などが流出するリスクもある。
・リテンションにおける非金銭的報酬の施策例。
なぜマーケティングにおいてリテンションが求められるのか
少子高齢化による人材不足および活発な転職活動による人材の流動化により、多くの企業でリテンションマネジメントに対する施策が導入されている。
「維持」や「保持」を意味するリテンション(retention)は、マーケティングの分野では「既存顧客との関係を維持していくための活動」を指す「リテンションマーケティング」であり、採用の分野では「人材の流出を防ぐ方法、社員の定着率を上げるための施策」を意味する「リテンションマネジメント」という言葉として使われる。
せっかく時間とコストをかけて採用し、丁寧に育成した人材が退職してしまうと、企業のダメージは大きい。
そうならないために、どうすれば退職せず働いてくれるのかを調査・分析し、効果的な人事施策・戦略を行うのが「リテンションマネジメント」だ。
リテンションには企業にとって優秀な人材を自社に確保しておくためのあらゆる施策が含まれるが、近年までは給与や賞与、成功報酬などの金銭的な報酬が中心に行われていた。
しかし、リテンションを金銭的報酬のみで行ってしまうと、大きな成果を上げる優秀な社員はすぐに高い報酬が得られるようになる一方、成績が悪ければ急激な所得低下も招いてしまうという誤った形の成果報酬や、能力に見合わない(公正な評価の伴わない)高報酬では、社員はモチベーションを維持することができず、結局人材の流出を阻めない企業も多かった。
優秀な人材の獲得のためには柔軟に報酬制度の見直しが可能な欧米とは異なり、日本では、企業の制度として給与や賞与をそう大きく変更できにくいことや、報酬制度の急激な変更について社員もなじんでいないことも、一因としてある。
この結果、企業風土や、個人のライフスタイルに合致した勤務環境の整備や、自身が成長するキャリア形成の支援、専門性のあるスキルの取得や向上、ワークライフバランスの実現、金銭面だけでなく精神的にもやりがいを感じることができ、モチベーションを高め続けることが可能など、非金銭的報酬をリテンションとして重要視する企業が増加してきている。
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人事にリテンション施策を導入するメリット
リテンション施策を導入するメリットはいくつかあるが、代表的なものは以下の通り。
・採用コストの低減
優秀な従業員の離職が続けば、採用や育成にかかったコストが無駄になってしまうのはもちろん、間接的に費やした事務コストや上長などが指導に関わった時間も含めてすべて無駄になるため、本来人事が行うべきコア事業に投下できるリソースに制約が出てしまうことにもなりかねない。
リテンション施策で、自社の働きやすい労働環境やワークライフバランス、企業の社会的価値などを整備、発信することで、優秀な人材を社内に留めることができるだけでなく、これまで無駄に費やしていた採用コストを引き下げるメリットがある。
・社内スキル、ノウハウの蓄積
離職によって頻繁に従業員の入れ替わりがあれば、これまで培ってきた重要なスキルや独自のノウハウが社外に流失するリスクが高まる。
最近では同僚や部下を引き連れて独立するケースなども珍しくない。
リテンション施策によって従業員のエンゲージメントを高め、優秀な人材の流出を阻むことで、社内のノウハウやスキルなど無形資産を継続的に蓄積し続けることができ、さらには自社や顧客の重要な機密情報などが流出するリスクを防ぐ効果も期待できる。
・従業員のモチベーション向上
近年は、仕事に対するモチベーションを何に求めるか、という問いに対して、金銭的報酬と同等かそれ以上に「自分自身の能力・スキルを発揮したい」という回答が増加してきている。
キャリア形成や社会貢献など仕事に「やりがい」を求める層は今後ますます増加すると考えられる。
こうした層に対して、リテンションによって組織の中で仕事に対するやりがいや成長できる実感、ワークライフバランス、福利厚生といった非金銭的報酬を中心としたリテンション施策を実施することで、モチベーションの向上や維持につなげることができる。
多様化するリテンション施策における非金銭的報酬
前述の通り、人事におけるリテンション施策の多くは、「金銭的報酬」と「非金銭的報酬」に分類され、近年は非金銭的報酬が重要視されているため、企業は様々な施策を実施している。
非金銭的報酬の多くは社員のスキルアップ支援制度の導入、社内部活動の開始、こまめな定期面談の実施など「やる気を高める施策」が中心となる。
また、近年ではオフィスの環境整備やリモートワーク、在宅勤務など、多様な形態の働き方の導入もエンゲージメントを高める施策として有効と考えられている。
具体的には、
・ルーティンワーク的な業務が多い社員には、その業務に関連する「学びの場」を提供し、知的刺激と業務に関するスキルアップへの意識を高める。
・希望の職種やチームへ異動できる公募制度の導入
・キャリアプラン形成に関する相談制度
・社員同士の投票による表彰制度を導入し、裏方の仕事を着実にこなしている社員に光をあて、モチベーションアップを図る
・リモートワーク、在宅勤務、フレックスタイム、育児・介護休暇制度の充実によるワークライフバランスの推進
・企業理念やパーパスの理解と意識付けを明確にするために、社員が自主的にプロジェクトや議論を立ち上げ、誰でも参加して取り組めるような環境づくり
・一定のタイミングで、料理教室や山登りなどの非日常的な活動にチームごとに取り組み、その様子を社内SNSなどで共有するなど組織の風通しをよくし、良好なコミュニケーションがとれるような施策
など、企業はそれぞれに工夫した施策を展開している。
これらの多様な施策を自社の目的に合わせて、段階的、複合的に取り入れ、具体的かつ継続的に行うことで、モチベーションとエンゲージメントを高め、優秀な人材の確保につなげることができる。
ただし、自社の人事的課題のすべてをリテンション施策だけで解決できるわけではないため、採用戦略(採用要件定義)や評価制度など、他の戦略とバランス良く実施することが必要だ。
まとめ
・「リテンションマネジメント」は、どうすれば退職せず働いてくれるのかを調査・分析し、効果的な人事施策・戦略を行うことで、人材流出を防ぎ企業を守る。
・金銭的報酬だけでは社員のモチベーションを維持することができず、人材の流出を阻めない企業が多ため、金銭面だけでなく精神的にもやりがいを感じることができ、モチベーションを高め続けることが可能な、非金銭的報酬をリテンション施策として重要視する企業が増加。
・リテンション施策に取り組むことで、優秀な人材を社内に留めることができるだけでなく、これまで無駄に費やしていた採用コストを引き下げるメリットがある。
・リテンションを意識することによって従業員のエンゲージメントを高め、優秀な人材の流出を阻めば、社内のノウハウやスキルなど無形資産を継続的に蓄積し続けることができ、自社や顧客の重要な機密情報などが流出するリスクも防ぐ。
・リテンション施策は、自社の課題と目的に応じて、採用戦略(採用要件定義)や評価制度など、他の戦略とバランス良く実施することが重要。