先日、ロシアでNo.1のシェアを誇る検索エンジン「Yandex(ヤンデックス)」の独自ソースコードが流出したニュースが報道されました。その際に初めてYandexのことを知った人も多いのではないでしょうか。
ロシアではGoogleよりも人気があると言われるYandexですが、日本ではロシアの訪日旅行者向けのインバウンドマーケティングでも利用されています。そこで本記事では、Yandexの特長やメリット、ロシアのインバウンドマーケティングに有効な理由について解説します。
目次
Yandex(ヤンデックス)とは
Yandexとは、ロシア最大の検索エンジンであり、ロシアに本社を置くテクノロジー企業です。日本ではあまり知られていませんが世界的には知名度が高く、ロシアのGoogleと言われるほど大きな規模を誇ります。
Yandexの検索エンジンは、ロシア国内のユーザーにターゲットを絞っており、ロシア語検索に特化しています。シェアも高く、ユーザーからも高い満足度を得ているようです。
また、GoogleやYahoo!のように、検索エンジン以外にも幅広く事業を行っており、検索エンジンを起点としたオンライン広告サービスやオンライン決済サービス、音楽ストリーミングサービス、クラウドストレージサービスのほか、タクシー配車サービスなども手掛けています。
Yandexの歴史
Yandexが検索エンジンをはじめたのは、1997年に設立された会社によるものでした。当初は、手作業によってリスト化されたディレクトリ型の検索サイトとして運用されていましたが、後に世界的な流れに応じて自動化された検索エンジンに変わりました。
2019年には、ロシア政府による国家管理がされるほど、ロシアでは大きな存在となっています。運営会社は2000年にヤンデックス(Yandex)として登記され、2008年には米国に子会社を作って進出し、グローバル検索などにも取り組みを進めているようです。
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Yandexのシェア
Yandexは、数ある検索エンジンの中でも、どのくらいのシェアがあるのでしょうか。2022年2月~2023年2月における検索エンジンのシェアを確認してみましょう。
世界の検索エンジンのシェアからご紹介します。
出典:StatCounter
世界ではGoogleが92.25%です。次いでbingが3.18%、Yahoo!が1.32%と続き、Yandexは1.02%です。
日本の結果は次の通りです。
出典:StatCounter
日本ではGoogleが76.44%です。次いでYahoo!が15.63%、次いでbingが7.21%と続き、Yandexは圏外です。
一方で、ロシアでは次の通りとなっています。
出典:StatCounter
Yandexは50.31%となり、Googleの46.49%を超える結果となっています。
Yandexの日本語検索
Yandexは、日本語でも検索することができます。実際に「旅行 日本」というキーワードで検索してみると、以下の検索結果となりました。Yahoo!ニュースのページも一覧に並んでいます。
日本はロシア語で「Япония」と表記するため、この文字を入力して検索してみると次の結果となりました。右側に地域情報として「Japan」と表示されています。訪日旅行者は、これらの検索結果を見て日本の情報を把握しているのでしょう。
Yandexの特長
ロシアでは驚異的な人気を誇るYandexですが、主な特長をご紹介します。
ロシアの地域に強い検索エンジン
Yandexは先述の通り、ロシアで強い検索エンジンです。その理由を探ってみると、ロシアで早期から検索エンジンを提供していたことが挙げられます。
まだディレクトリ型の検索エンジンが使われていた時期から提供し、Googleのようなアルゴリズムを基に機械学習型の検索エンジンに高めていったという点から、ロシアのインターネットユーザーにとっては慣れ親しまれていることが容易に想像できます。
また、Yandexはロシアの地域に特化し、親和性の高い地域を狙っているというところもポイントです。Googleは世界各国で幅広くサービスを展開しているのに対して、Yandexは基本的にロシアとその周辺国のみに基本的に絞っているため、対照的と言えるでしょう。
機械学習のアルゴリズムを利用
Yandexの検索エンジンは、独自に開発した機械学習のアルゴリズムを利用しているとお伝えしました。検索エンジンのアルゴリズムとは、ユーザーが検索したキーワードに対して、一定のルールに基づいた評価を行うための仕組みです。そのルールに基づいて評価されたページを上位に表示させています。
Yandexの検索エンジンのアルゴリズムは、検索キーワードからユーザーのニーズに応じた答えを出すときに、ただキーワードに対する機械的な回答を返すのではなく、ユーザーの問題解決に焦点を合わせているようです。このアルゴリズムは、Googleと近しいところがあると言われています。
また、Yandexのルールはロシアに密着して作られていると言われており、ロシアのユーザーにとって問題解決につながりやすいように作られているようです。
関連記事:アルゴリズムの意味とは?検索アルゴリズムの基礎から順位決定の要素まで詳しく解説
総合的なサービス提供
Yandexは、検索エンジン以外に様々なサービスを提供しています。例えば、次のようなサービスです。
・Yandex.Mail
無料のメールサービスです。日本でもフリーメールの候補として取り上げられ、Yahoo!メールのように誰でも無料で利用できます。
・Yandex.Disk
無料のクラウドストレージサービスです。ファイルをアップロードして共有できます。
・Yandex.Translate
機械翻訳サービスです。
・Yandex.Music
音楽配信サービスです。このサービスも人気で、ロシアユーザーの多くが利用していると言われています。新しい好みの音楽を発見しやすいのが特長です。
・Yandex Browser
インターネットブラウザです。Google Chromeをベースとしたタブ型ブラウザで、Google Chromeと似ていると言われますが、少し異なる機能があります。
新しいタブを開くと、よく訪れるサイトやおすすめサイトがドロップダウンメニューで表示されたり、検索バーに文字を入力するときに検索エンジンのリストが表示され、その中から利用したい検索エンジンを選べたりします。また、Yandexのメールを利用しているのなら、より便利に利用できるようです。
セキュリティやパフォーマンス改善の機能も注目されています。その他、迷惑な広告のブロック機能や、パスワードの保護やオートフィルなどの機能があります。
・Yandex.Taxi
タクシー配車サービスです。ロシア版のUberと言われており、人気のサービスです。
このサービスの具体的な活用方法や使い方を、ご紹介します。アプリをインストールして、基本情報を入力します。電話番号を入力するのが必須のようです。クレジットカードで決済することもできます。
その後、現在地とタクシーで向かいたい目的地を選択します。アプリには地図が表示されるので、選択するだけです。続いて、タクシーのランクと支払方法を選択します。タクシーのランクが上がるにつれて価格も上がります。
配車予約をしたら、地図上で手配したタクシーが向かってくる様子が表示されます。タクシーの車種やナンバーがアプリに表示されているのと、実際に来たタクシーの車種とナンバーとを照らし合わせて乗車します。
このように、手軽に誰でもタクシーを呼べる便利なアプリです。
・Yandex.Maps
ルート&地図サービスです。Google Mapsと同様のサービスです。
・Yandex.Money
オンライン決済サービスです。ロシアでは店舗での買い物のほか、インターネットでの買い物時の決済として利用するユーザーが増えているそうです。
・Yandex Lavka
生鮮食品のデリバリーを行うサービスです。
このように、GoogleやYahoo!などと同じくまた、独自にも幅広くサービス展開しており、今後もさらなる展開が期待されています。
Yandexがロシアのインバウンドマーケティングに有効な理由
Yandexは、ロシアからの訪日観光客向けのマーケティングの視点で注目されています。ロシアからの訪日観光客にアプローチするには、最もよく使われる検索エンジンに対して施策を行うことにより、効果が期待できると思われます。
訪日ロシア人はどのくらいいる?
近年は、コロナ禍で訪日外国人は大きく減少しました。2022年7~9月期のデータによれば、国籍・地域別にみる訪日外国人旅行消費額について、ロシアは22億円で全体の0.4%を占めています。ちなみにコロナ前の2019年10-12月期は81億円でした。
出典:観光庁「訪日外国人消費動向調査」の「2022年10-12月期の全国調査結果(1次速報)の概要」
また、コロナ前まではロシアから日本を訪れる観光客数が増えている傾向が見られていました。欧米諸国の中では伸び率が高いと言われており、コロナ禍が明けた後はその流れが戻ってくるかもしれません。
ロシアのインバウンドマーケティングに有効な理由
なぜ、ロシア向けのインバウンドマーケティングにYandexを活用することが有効と言われているのでしょうか。その理由として最も大きいのは、ロシアでトップシェアを誇る検索エンジンであることが挙げられます。広告などを打つことで、より多くの人にリーチできます。
もう一つ大きな理由があります。それはロシアに特化していることです。先述の通り、ロシア向けに開発された検索エンジンであるため、ロシア語の検索に対して精度が高いという点が挙げられます。
また、ロシアといっても非常に広大であるため、地域によってユーザーの嗜好性や検索ニーズが変わってきます。そういった検索ニーズにどのように答えるべきかを長年研究されていることもマーケティングに有効な理由と言えます。
ロシアから日本へ訪れようとしているユーザーの多くはYandexで検索されることが想定されるため、Yandexを通じて広告やSEOなどで周知や誘致を行うことは有効と言えます。
Yandexで行える広告とSEO
Yandexでマーケティング施策を行う際には、具体的に何が行えるのでしょうか。ここでは広告とSEO対策についてご紹介します。
リスティング広告
Yandexでは、リスティング広告を掲載することができます。リスティング広告とは、検索結果画面に、検索結果と共にリストアップされる広告のことです。ユーザーの検索ワードや閲覧履歴などから、どのようなニーズがあるのかを汲み取って表示する広告を決定します。
例えば、日本に旅行に行きたいと考えているユーザーが、Yandexで「旅行 日本」「観光 日本」と検索ワードを打ち込んだ場合のことを想定して、キーワードを指定してリスティング広告に掲載することが可能です。ユーザーのニーズに即した有益な情報となるよう広告を出稿することで、成果につながるのではないでしょうか。
関連記事:ディスプレイ広告の種類は?リスティング広告との違いや基礎知識をご紹介
SEO
Yandexでは、SEO対策を行うことも可能です。SEOとは、“Search Engine Optimization” の略称で、日本語では「検索エンジン最適化」と呼ばれているものです。検索エンジンでユーザーがキーワード検索をした際、自社のWebページが上位に表示されるように、検索エンジンによる評価を上げる取り組み全般ことを言います。評価を上げるためには、検索エンジンのアルゴリズムやロジックに基づき、Webページを改善する必要があります。
YandexもGoogleなどの検索エンジンと同様に、独自のアルゴリズムやロジックに基づき、検索ユーザーにとって良質なコンテンツやニーズに即した検索結果を表示したいとの考えで運営されています。そのため、検索結果の上位に表示されるためには、検索ユーザーにとって良質なコンテンツやニーズに即した内容のWebページを作ることが重要になります。
リスティング広告も同様に、対象キーワードで入札されていれば上位に表示されますが、広告費がかかってしまいます。SEOを行うにはYandexに対して費用を払う必要はないため、継続して実施しやすい取り組みです。
また、YandexはSEOを行うのに最適な媒体と言えます。その理由として、高い検索精度が挙げられます。先述の通り、Yandexではユーザーの地域な行動履歴をすべて含めたニーズをとらえて検索順位を決定しています。
そのため、SEOを実施する際には検索ニーズに応じたコンテンツ作りによって、狙ったターゲットに届きやすいと考えられます。さらに、専門性と信頼性の高いページ制作によりYandexという検索エンジンの評価が上がりやすくなるため、上位に表示されやすくなります。
関連記事:SEOとは?SEO対策の基礎知識と具体的な方法を詳しく解説
Yandexリスティング広告成功事例
日本企業がYandexのリスティング広告で成功した事例がありますので、一つご紹介します。
ある日本の製造メーカーは、自社製品の国内マーケットが縮小していたことから、海外展開していたその比率を上げていく必要がありました。独自にロシアや韓国向けのGoogle AdWordsを出稿していましたが、それだけでは成果を上げることはできませんでした。
そこで、中国や韓国、ロシア向けに、より地域に根付いた広告を運用する必要があると考え、各地域に特化した媒体の広告を出稿しました。そのうち、ロシア向けにはYandexのリスティング広告を出稿しました。
実施内容としては、Google AdWordsで出稿していたものをYandexのリスティング広告に移行させただけだったため、それほど手間はかかりませんでした。成果は予想以上に大きく、韓国向けの広告は販売に直結する効果が出ました。
また、Yandexのリスティング広告については、韓国向けほどの効果は出ませんでしたが、リスティング広告経由での問い合わせは1日に1~2件程度となったため、一定の成果を生んだと考えられます。
この事例はコロナ前の事例であるため、現在も同等の効果が出るとは言い切れませんが、日本企業のYandexリスティング広告事例としては参考になります。
関連記事:リスティング広告の基礎知識を解説。メリットや特徴とは?
Yandexによるロシアマーケティング成功のポイント
ロシア向けのインバウンドマーケティングを実施する際には、ポイントを押さえて実施することが大切です。主なポイントをご紹介します。
インターネット広告を活用する
ロシアの広告代理店などが加盟する業界団体「ロシア・コミュニケーション・エージェンシー協会(AKAR)」が発表した、2018年のロシアの広告市場に関するレポートの結果によると、ロシアの広告市場は4,687億ルーブル(約7,900億円)にも上ることが分かっており、12%伸びていたそうです。また、インターネット広告の市場規模は22%増となり、ロシアで初めてテレビ広告の市場規模よりも拡大し、最大の広告媒体市場となったことがわかりました。
デジタル化の進展は世界的に目覚ましく、今後もさらなる伸びが期待できます。そのため、ロシアのインターネット広告を活用することは、大きなチャンスと言えるでしょう。なお、先述の通りYandexの特長は地域性にあるため、よりターゲットの地域性を考慮したキーワード選定とコンテンツ制作などをおすすめします。
Googleと並行して活用する
Yandexだけでなく、ロシアでの検索エンジンのシェアの高いGoogleについても検討するのをおすすめします。例えば、リスティング広告を行うにしてもYandexとGoogleの両方で行うことで、より良い結果につながっていくはずです。一つではなく、両方を検討することがポイントと言えます。
関連記事:Google広告の基本を解説!特徴・設定・管理画面のログイン方法まで!
ロシア訪日観光客の消費の傾向
参考までに、ロシア向けのインバウンドマーケティングを実施するために、必要な情報をご紹介します。近年、ロシアの訪日観光客の消費の傾向はどのようになっているのでしょうか。観光庁のデータを基に見ていきましょう。
2019年度のロシア訪日観光客の消費の傾向は以下の通りです。
・一般客1人当たり旅行支出 183,015円/人 (前年比-2.8%)
・一般客の平均泊数 18,8泊
男女比では、男性60.9%、女性39.1%と男性のほうが多い割合となっています。年代は、男女共に20歳から39歳までの層が多いです。主な来訪目的は、「観光・レジャー」がトップで62.3%でした。圧倒的に観光で訪れる旅行者が多い結果です。
旅行支出の内訳を見てみると、次の順に多い結果となりました。
・宿泊費 35,8%
・飲食費 24.9%
・買い物代 23.9%
・交通費 10.7%
・娯楽等サービス費4.6%
宿泊費と飲食費が多い結果です。交通費や娯楽などが少ないので、宿泊を軸として旅行をしているようです。また、興味深いのは買い物で何を買ったのか、どこで買ったのかです。上位3位をピックアップして紹介します。
購入した費目TOP3
第1位 菓子類 54.0%
第2位 衣類 44.9%
第3位 酒類 36.7%
買い物場所TOP3
第1位 スーパーマーケット 65.0%
第2位 コンビニエンスストア 51.3%
第3位 空港の免税店 50.7%
やはり菓子類は手土産に最適なのか、トップとなっています。そして、意外にも衣類が2位となり、酒類も人気のようです。そして、出発前に役に立った旅行情報源は、マーケティング担当者にとって注目の情報です。
旅行出発前に役に立った旅行情報源
第1位 口コミサイト(トリップアドバイザー等) 28.2%
第2位 動画サイト(YouTube/土豆網等) 25.5%
第3位 個人のブログ 24.2%
第4位 日本在住の親族・知人 23.9%
第5位 SNS(Facebook/Twitter/微信等) 22.8%
上位には一般のWebサイトとSNSがランクインしており、4位の日本在住の親族・知人以外は全てインターネット上での情報となっています。このことは、インターネットマーケティングがインバウンド集客に有効であることを示していると言えます。
出典:国土交通省 観光庁「訪日外国人の消費動向 訪日外国人消費動向調査結果及び分析 2019年 年次報告書」
ロシアのFacebook「VK」とは?
ロシア向けにマーケティングを実施する際には、Yandexと並んでロシアのインターネットユーザーに愛用されているメディアを押さえておくのもおすすめです。特に、SNSは日本来訪前にもよくチェックされるメディアの一つであるため、注目です。ロシアのFacebookといわれる「VK」を押さえておくとよさそうです。
VKは、旧「VKontakte(フ・コンタクテ)」のことで、Mali.ru(メイルルー)という企業によって提供されているSNSです。多くの言語に対応しており、日本語にも対応しています。
VKでできることは、まさにFacebookと同じようなことです。自分の投稿と共に、共通の趣味を持つユーザーとメッセンジャーでチャットしたり、いいねやシェアをし合ったり、コミュニティを作成したりすることで、交流することができます。
また、友達を見つける機能も充実しています。年齢、居住地、職業を絞り込んで検索することができるほか、レコメンド機能や検索機能から興味のある投稿を見つけてアプローチすることもできます。
Facebookと異なる点は、動画の投稿が多いと言われているところです。また、ロシアではFacebookも使われていますが、VKのほうがシンプルなので使いやすいという声もあるようです。
また、広告媒体としても魅力的です。VKにも、Facebook広告のような広告サービスが用意されています。インフィード広告を中心に、様々な広告フォーマットに対応しており、広告配信のセグメントも限定して行うことが可能です。
VKはユーザー数が増えているため、インバウンドマーケティングには有効だと言えそうです。
まとめ
・Yandexとは、ロシア最大の検索エンジンであり、ロシアに本社を置くテクノロジー企業によって運営されている。世界的には有名で、ロシアのGoogleと言われるほど大きな規模を誇る。
・ロシアの検索エンジンシェアは、Yandexは50.31%とGoogleの46.49%が二強となっており、Googleを凌ぐ人気を持つ。
・Yandexの特長は、「ロシアの地域に強い」「機械学習のアルゴリズムを利用」「総合的なサービス提供」の3つがある。
・Yandexがロシアのインバウンドマーケティングに有効な理由として、ロシアでトップシェアを誇る検索エンジンであることと、ロシアに特化していることが挙げられる。Yandexのインターネット広告やSEOを駆使することで、マーケティング効果を得られる可能性がある。