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セレンディピティがマーケティングに欠かせない理由:偶然が呼び寄せるイノベーションの原理を解説

2024.12.26
読了まで約 7

「セレンディピティ」とは、簡単に言うと「偶然の産物」のことで、「セレンディピティな出会い」といった使い方をする言葉です。もともと科学の分野で使われている言葉として知られ、映画のタイトルにも使用されています。近年では経営学や心理学の領域でも研究が進み、ビジネスの世界でも「セレンディピティ」が注目されるようになりました。

本記事では言葉の意味だけでなく、事例などをもちいてセレンディピティの概念をわかりやすく解説します。また、ビジネスにおけるイノベーションとセレンディピティの関係性についてもまとめます。

セレンディピティとは?語源と意味

セレンディピティ(Serendipity)とは「偶然の産物」「幸運な偶然を引き寄せる力」または「思いもしなかった偶然による幸運」を意味する言葉です。「思いもよらない幸運が訪れる」と捉えても良いでしょう。

それでは、セレンディピティの意味や語源について詳しく見ていきましょう。セレンディピティの語源とされている物語と、具体的な事例をそれぞれ紹介します。

「セレンディップの三人の王子」の物語

1754年に、イギリスの政治家で小説家のウォルポールが友人に宛てた手紙の中で使われていた造語がセレンディピティです。

さらにセレンディピティの語源は、ペルシア(現在のイラン)のおとぎ話「セレンディップの三人の王子」に登場する「セレンディップ」だといわれています。セレンディップ(現在のスリランカ)王国の3人の王子が旅をする中で、優れた能力や知恵を活かして有益で幸運な偶然を手に入れる物語です。

セレンディピティとは「幸運な偶然を引き寄せる力」であるため、物語の流れからこの意味が定義されていったと考えられます。

科学や発明における偶然の発見の例

科学分野や発明におけるセレンディピティの代表的な事例として挙げられるのは、万有引力の法則の発見です。

イギリスの科学者であるアイザック・ニュートンが、1665年に万有引力の法則を発見したのは有名です。ニュートンは、リンゴが木から落ちる様子を観察したことで、物体と地球の間に万有引力があるという着想を得たといわれています。

セレンディピティとシンクロニシティの違い

セレンディピティと似た言葉に「シンクロニシティ(synchronicity)」があります。

シンクロニシティとは、スイスの心理学者カール・グスタフ・ユングが提唱した概念で「意味のある偶然の一致」という意味を持つ言葉です。具体例としては「連絡を取ろうと思っていた相手から連絡が来た」「気になる人のことを思い浮かべていたところ、街で偶然会った」などが挙げられます。

セレンディピティとシンクロニシティは、どちらも「偶然」が起きる概念です。セレンディピティが「偶然による幸運を引き寄せるもの」であることに対し、シンクロニシティは「偶然起こった現象そのもの」です。

セレンディピティは偶然の発見から研究や発明につながり、創造に発展するケースがあります。一方のシンクロニシティの場合は、起こった偶然から何かが生まれるわけではありません。

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セレンディピティとイノベーションの関係

セレンディピティによって得られる新しい発見には、私たちの常識や経験を覆すような情報が含まれていることがあります。そうした予想外の発見は、企業や業界においてイノベーションを引き起こす可能性を秘めています。

また、思いがけない解決策との出会いは、将来的な事業のチャンスにつながることもあるでしょう。実際、多くの革新的な製品やサービスは、当初の研究目的とは異なる偶然の発見から生まれているからです。

イノベーションの研究や研究開発マネジメントの分野では、セレンディピティを以下の2つのタイプに分類する考え方があります。

1. 仮説創出型:予期せぬ現象や結果から、新しい仮説や理論が生まれるケース
2. 実験代行型:ある目的で行っていた実験が、別の課題の解決策になるケース

このように、偶然の発見が革新的なブレークスルーにつながる過程には、異なるパターンが存在します。

出典資料:(29) イノベーションにおけるセレンディピティ 研究の全体フレームの提言(J-STAGE)

イノベーションに関する詳しい内容については、以下の記事を参考にしてください。

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イノベーションとは?意味や種類、事例を簡単に
イノベーター理論とは?市場に普及させるマーケティング活用術

偶然の産物:セレンディピティのヒット商品事例

セレンディピティによって生み出された商品は、世界中で数多く存在します。そこで具体的にどういった商品がセレンディピティによって生まれたのか、9つのヒット商品の事例を見ていきましょう。

チーズ

アラビアの民話には、チーズの起源にまつわる話があります。

約8000年前の中東では、動物の胃袋で作られた水筒を日常的に使っていました。ある日、1人の遊牧民がその水筒に新鮮な牛乳を入れ、ラクダの背中に括りつけて旅立ちます。

暑さの厳しい砂漠を歩き続けた遊牧民が水筒の牛乳を飲もうとすると、中からは牛乳ではなく黄色ぽい水と白い塊が出てきたそうです。遊牧民が驚きつつもそれを食べてみたところ、意外にも美味しく、栄養価も高いことがわかりました。

この発見が広まり、チーズ作りが始まるきっかけとなったようです。

納豆

納豆の起源には諸説ありますが、水戸市では「源義家説」が有力視されています。

平安時代後期の武将である源義家が、1083年の後三年の役で奥州へ向かう途中、水戸市渡里町にある屋敷に泊まりました。その際、馬の飼料として残っていた煮豆に稲わらの菌が付着し、馬の体温で発酵したことで、偶然納豆ができたのだそうです。

出典資料:水戸の納豆とは? – 納豆のまち・水戸 – 水戸市ホームページ

コーヒー

世界中の人に飲まれているコーヒーの起源にはさまざまな説があります。その一つが、エチオピアのカルディというヤギ飼いが発見した説です。

放牧生活をしていたカルディは、放し飼いにしている山羊が元気に飛び回り、夜になってもおさまらないということがありました。ある日、周辺に実っていた赤い実を口にしてみたところ、爽快な気分になり、山羊が元気な理由もその赤い実であることがわかりました。その話を聞いた僧侶が赤い実を僧院に持ち帰り、他の僧侶と一緒に食べると、同じように元気になったそうです。

以来、赤い実は魔法の豆として僧侶達に愛用されるようになりました。この赤い実がコーヒーの果実です。

出典資料:カルディコーヒーファーム公式サイト

コーンフレーク

朝食として人気のコーンフレークは、シリアル食品会社ケロッグの創設者であるケロッグ兄弟によって発明されました。

1898年、ケロッグ兄弟は栄養価の高いグラノーラを考案中に、茹でた小麦をたまたま長時間放置して腐らせてしまいました。その中に乾燥したものもあったため、引き延ばして焼いてみると、歯応えのあるフレークが出来上がりました。その後、原料をとうもろこしに変えて試行錯誤を続けたところ、今のコーンフレークが誕生したそうです。

ペニシリン

ペニシリンの発見も偶然の産物といえます。

抗生物質のペニシリンは、1928年にイギリスの細菌学者であるアレクサンダー・フレミングによって発見されました。ブドウ球菌の研究を行っていたフレミングは、誤って細菌を培養するシャーレの中に青カビを発生させてしまいます。しかし、偶然にも青カビの周辺には細菌が繁殖しないことに気づきました。この偶然の出来事により、ペニシリンが生まれたのです。

ダイナマイト

ダイナマイトは、ノーベル賞を作ったアルフレッド・ノーベルが発明した爆薬です。

1866年、ノーベルはニトログリセリンの搬送中に、破損した缶から漏れた液体が土に染み込み固まっているのを目にしました。そこで珪藻土にニトログリセリンを染み込ませると、安定性が増すことに気づきました。その後、安全に持ち運べるようになった爆薬を「ダイナマイト」と名づけて市場に売り出し、莫大な財産を築きました。

プラスチック

天然素材を使用していないプラスチックは、1907年にベルギーの化学者であるレオ・ベークランドによって発明されたものです。

ベークランドは天然由来のセラックニスの代用品を開発しており、さまざまな研究ののち、石炭から炭化水素物質を抽出した「フェノール樹脂」を作り出しました。「ベークライト」と名づけられたフェノール樹脂がきっかけとなり、プラスチックの開発に発展し、のちに可塑化ポリ塩化ビニルやポリスチレンなどが誕生しています。

マジックテープ

1948年、ジョルジュ・デ・メストラル氏は、愛犬を連れて狩猟に出かけたところ、服や愛犬に野生ゴボウの実がたくさん付いていることに気づきました。付着した実を持ち帰り、顕微鏡で確認してみると、野生ゴボウの実が無数の鉤でできていることを発見しました。

メストラルはその構造を応用して、着脱が自由なファスナーを発明しようと試行錯誤し、特殊ナイロン糸を使ったマジックテープ(面ファスナー)を作り出しました。

ポストイット(付箋)

ちょっとしたメモやしおりなどとしても使われるポストイットは、強力な接着剤を開発しようとしている時に偶然生まれました。

1970年、アメリカの大手化学メーカー3M社で研究していたスペンサー・シルバー氏は、接着しやすくて剝がしやすい接着剤を発明しました。当時は注目されていませんでしたが、同僚の研究員であるアーサー・フライ氏が「本に紙を貼れるのでないか」と提案し、ポストイットが誕生。1977年に試験的に販売され、現在では世界中に普及しています。

セレンディピティを起こりやすくする行動・思考方法

セレンディピティを促すためには、日常生活において異なるアプローチや思考法を試みることが必要です。以下のような行動を試してみてはいかがでしょうか。

新しい場所に出かける

新しい場所で人と出会うことが多くなれば、多様な価値観に触れられ、新たなチャンスが生まれる可能性も高まります。とくに人が集まる場所に足を運ぶことは効果的です。多くの人とコミュニケーションを取ることで、新しい発見があるかもしれません。

新しいことに興味を持つ

セレンディピティを高めるためには、意識的な行動が欠かせません。さまざまな物事に興味を持ち、自分の周りの視野を広げることが大切です。普段とは違う行動を試みることで、今まで考えもしなかったアイデアが浮かぶかもしれません。

イベントへ積極的に参加する

気になるイベントには積極的に参加しましょう。イベントに顔を出すだけでも、セレンディピティを高められます。他者との出会いは、自分とは異なる考え方や意見に触れる良い機会です。

適切な場所に移動する・引っ越す・転職する

住む場所や、働く環境を変えることでも、セレンディピティは促進されます。自分が求めているものや、それに関連する人々が集まる場所に移動したり引っ越したりすることも効果的です。

ゼンブラニティを予知し避ける

ゼンブラニティ(Zemblanity)とは、セレンディピティの反対の概念で、予想外の幸運や出会いがない状態を指します。ゼンブラニティの由来は、イギリスの作家であるウィリアム・ボイドの「アルマジロ」という作品に登場する不毛な土地の「ゼンブラ」です。

ゼンブラニティを避けるには、決まりきったことばかりせず、ときには気分転換をしたり、ちょっと冒険的な判断をしたり、といった行動がおすすめです。

ポジティブ思考を持つ

ポジティブ思考は視野を広げます。予想外の出来事やトラブルが起きた際、「嫌だ」「やりたくない」と感じることもありますが、その原因や背景、改善方法について深く考えることで、新たなアイデアが生まれることもあります。前向きな思考は、その後のチャンスにつながるでしょう。

リモート環境におけるセレンディピティの作り方

リモートワークの普及により、社員同士の交流を深めることがますます重要になっています。オフィスで自然に生まれていた会話や雑談が減少するリモート環境では、社員自身による積極的なコミュニケーションや行動が欠かせません。

そこで、リモート環境下でのコミュニケーションを促進するための具体的な方法を探ってみましょう。

メッセージツール・チャットツールの活用

リモート環境における社員同士のコミュニケーションを活性化するには、メールや電話だけでなく、メッセージツール(チャットツール)の利用が効果的です。たとえば「Slack」や「Chatwork」などのチャットツールには以下のような機能があります。

●文書やメッセージの共有
●リアクションスタンプ・リアクションボタン
●チャンネル作成
●音声通話・ビデオ通話
●会話履歴の確認

このような機能を活用することでメールや電話よりも気軽にコミュニケーションを取ることができ、偶然の出会いやアイデアの交換が生まれやすくなります。

関連記事:ハドルミーティングとは?メリットやSlackの機能としての使い方

Web会議ツールの活用

リアルタイムでのやり取りが必要になる会議では、ビデオ通話ができるツールが最適です。会議に向いているツールは「Google Meet」や「Zoom」などが挙げられます。Web会議ツールを利用する際は、発言したい時は挙手する、自分が発言しない時はマイクをミュートにする、といったルールを設けておくとコミュニケーションもスムーズになります。

関連記事
Google meetの使い方を解説!便利さ視点からzoomとも比較します
Zoomウェビナーとは?基本の使い方を解説

メタバースの活用

メタバースは、アバターを通じて他のユーザーと交流できる革新的な環境です。メタバースオフィスを利用すると、実際にオフィスで働いているような感覚を味わえ、コミュニケーションの円滑化が期待できます。

メタバースについては下記の記事を参考にしてください。

関連記事:メタバースとは?関連用語集、ビジネス利用の成功事例、やり方も解説!

メンター制度の活用

新入社員のサポートと成長を促進するメンター制度もおすすめです。メンターとの関係構築は、新たな知見や経験を得る良い機会となります。組織や職場へのエンゲージメントやスキルの向上などの効果も望めるでしょう。

関連記事:メンター制度とは?目的やメリット・デメリット、成功事例などについて解説

レクリエーションなどの実施

リモート環境でセレンディピティを促進するためには、レクリエーションも有効です。オンライン雑談や懇親会、オンラインランチなど、状況に適したものを選びましょう。これらは社員同士だけでなく、取引先との交流も深める機会として有効です。

リモート環境でレクリエーションを実施する際は、チャットツールやWeb会議ツールを併用することもおすすめです。

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まとめ

セレンディピティとは、偶然が生む幸運を引き寄せる力のことです。従来の行動と思考を工夫することで、セレンディピティの可能性は高まります。新しい物事への興味、新しい場所への訪問、ポジティブ思考などがセレンディピティには欠かせません。予期せぬ発見や機会を生み出すためにも、これらの方法を実践し、リモート環境でも豊かな交流と新たなチャンスを生み出していきましょう。

監修者

古宮 大志(こみや だいし)

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長

大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、クライアントのオウンドメディアの構築・運用支援やマーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。Webマーケティングはもちろん、SEOやデジタル技術の知見など、あらゆる分野に精通し、日々情報のアップデートに邁進している。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

執筆者

『MarkeTRUNK』編集部(マーケトランクへんしゅうぶ)

マーケターが知りたい情報や、今、読むべき記事を発信。Webマーケティングの基礎知識から、知っておきたいトレンドニュース、実践に役立つSEO最新事例など詳しく紹介します。 さらに人事・採用分野で注目を集める「採用マーケティング」に関する情報もお届けします。 独自の視点で、読んだ後から使えるマーケティング全般の情報を発信します。

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