リファクタリングは、ソフトウェア開発において欠かせないプロセスの一つです。コードを整理し、改善することで、より良い品質を実現します。しかし、リファクタリングの実施は時間やコストの無駄ではないのか、かえって開発効率が下がるのではないかと疑問に思う方もいるようです。そこで、本記事ではリファクタリングの概要や必要な理由、主な方法や注意点などを解説します。
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目次
リファクタリングとは
リファクタリングとは「再設計」を意味する言葉で、プログラミングやデータベースに関する用語の一つです。
ここでは、リファクタリングの概要を解説します。
プログラミング用語のひとつ
プログラミングにおけるリファクタリングとは、プログラムの挙動を変えずにコードを整理・改善することです。これにより、コードの品質や開発効率の向上が期待できます。
なお、外部からの見た目や使用した際の挙動は変えないため、機能の追加やバグの修正はリファクタリングに含まれません。
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アジャイル開発で重要
リファクタリングはアジャイル開発において重要な手法の一つです。アジャイル開発とは、短期間で設計・実装・テストの流れを繰り返す開発手法です。リファクタリングでコードの読みやすさや品質を向上させることで、アジャイル開発の強みである開発スピードの早さを安定させられます。
また、アジャイル開発は頻繁に機能の追加や仕様の変更を行うため、プログラムの機能や品質の維持が難しくなりがちです。そのため、リファクタリングしてプログラムを運用・保守しやすくする必要があります。
リファクタリングの関連用語
ここでは、リファクタリングの関連用語の「アーキテクチャ」「リアーキテクチャ」「デバッグ」「デプロイ」について解説します。
アーキテクチャ
アーキテクチャとは「建築学」「構造」「構成」などを意味する言葉です。
IT分野では、主にシステムやソフトウェアの設計・仕様・構成などを指します。ある特定の製品の設計・仕様ではなく、基本的な構造や設計などを指すことが多い傾向です。
また、アーキテクチャには「ソフトウェアアーキテクチャ」「システムアーキテクチャ」があります。
ソフトウェアアーキテクチャとは、ソフトウェア全体の設計図を抽象的に示したものです。これを設計することで、ソフトウェアの品質や拡張性やセキュリティを向上させられます。
システムアーキテクチャとは、システムの構成要素とその関係性、動作原理などを説明した枠組みや設計のことです。システムアーキテクチャを設計することで、システムの品質や信頼性を向上させられます。
リアーキテクチャ
リアーキテクチャとは、既存のシステムやプログラムを外部からの見た目や使用した際の挙動を変えずに根本的に再設計することを指します。システムの機能・性能の維持やパフォーマンスの向上が主な目的です。リファクタリングと似ていますが、修正する範囲の広さが異なります。リファクタリングでは、変数や関数などの単位で細かく修正しますが、リアーキテクチャではシステムやプログラム全体の構造を見直します。そのため、リアーキテクチャではコードの大幅な書き換えや再編成が必要です。リファクタリングは小規模な改善、リアーキテクチャは大規模な改修と考えるとわかりやすいでしょう。
デバッグ
デバッグとは、コードに潜むバグを見つけて修正するプロセスです。ソフトウェアの品質向上や正常な動作を実現するために不可欠な作業で、主に開発者やデバッガーが行います。リファクタリングとデバッグはコードを修正する点が共通していますが、両者は目的や役割が異なります。
また、リファクタリングは正常に動作しているコードを整理する作業ですが、デバッグは意図しない動作やエラーが発生するコードを正常に戻す作業です。
デプロイ
デプロイとは、開発したソフトウェアやアプリケーションをサーバー上に配置し、利用できるようにすることです。デプロイすることで、バグの修正や機能の追加などの各種変更をサービスに反映できます。これは、開発者とユーザーをつなぐうえで重要なプロセスです。
なお、開発ではコードの記述やプログラムの実行や生成を行う開発環境、動作を検証するためのテスト環境、実際にユーザーが利用する本番環境の3つを用意します。
そのうち、デプロイはテスト環境と本番環境で行われます。
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リファクタリングが必要な理由
ここでは、リファクタリングが必要な理由を解説します。コードの複雑化やバグの発生を防ぐために有効です。
コードを整理し複雑化を防ぐ
リファクタリングで重複しているコードを省略したり構造をシンプルにしたりすることで、コードの複雑化を防げます。これにより、コードを解読しやすくなり、コードの共有や引き継ぎが簡単になるでしょう。コードの構造やそれぞれの役割もわかりやすくなるため、機能を追加する際にコードのどこを変更すべきか特定が容易になります。
また、コードの一部を他のコードに流用しやすくなる点もメリットの一つです。コードの一部を関数やクラスにまとめることで、同じ処理を他の部分でも再現しやすくなります。他のコードに流用しやすい部分が多ければ多いほど、新たに開発する際のコストや時間を節約できるでしょう。
バグの発生を防ぐ
リファクタリングにより、バグやバグの温床となる部分を見つけやすくなります。他の開発者やテスト担当者にも理解しやすいコードになるため、デバッグの効率化にもつながるでしょう。
また、コードが複雑だとプログラムの仕組みがわかりづらくなるため、コードを修正する際に誤って別の処理にも影響を与えてしまうかもしれません。コードをわかりやすくすれば、こうした将来のトラブルの発生も予防できます。
リファクタリングのデメリット
リファクタリングは、プログラミングにおいて重要なプロセスですが、メリットばかりではありません。ここでは、リファクタリングのデメリットを解説します。
作業負荷が増える
リファクタリングでは、コードに不具合が生じないかテストしながらコードを整理・改善します。
しかし、何度もテストし、問題のないコードを作り上げるのは簡単ではありません。特に、大規模なリファクタリングでは作業負荷が増えるため、新機能の開発やバグの修正にリソースを割けなくなり、開発速度が低下してしまうでしょう。
また、実施後には新たなテストも必要です。元の機能の動作を確認するためには、機能単位で動作を確認する単体テストや複数のプログラムを組み合わせて動作を確認する結合テストを行う必要があります。単体テストや結合テストの準備・実施にも時間と労力がかかるため、作業負荷が増えるでしょう。
時間とコストの増大
効率的に作業をすすめるためには、コード全体を把握し、改善する部分と改善方法を計画しなければならないため、ある程度の時間を要します。
また、通常リファクタリングは、機能の追加やバグの発生など将来に備えて行うものです。
つまり、短期的に見ると無駄にコストが発生しているとも考えられます。リファクタリングにかかる時間・コストと開発プロジェクト全体として得られる効果とを天秤にかけることが重要です。
リファクタリングはいつ実施するのか
ここでは、リファクタリングをどのようなタイミングで行うかを解説します。
最適なタイミングとして、コードの改善点を発見した時や新たな機能の追加前、バグの修正前が挙げられます。
コードの重複など改善点を発見した時
コードの改善点を発見したら、リファクタリングすることをおすすめします。具体的には、名前の意味がわかりづらい変数・関数や重複しているコードなどです。基本的に、コードの改善点は実際にコードを書くプログラマーが見つけます。プログラマーがコードを読むのに時間がかかっていたり、コードのチェックで指摘が増えていたりしている場合はコードの改善点がある兆候です。
また、修正が難しいほど複雑なコードや古い技術を使用している場合は、最初から作り直す方が効率的なこともあります。さらに、プロジェクトの締切が迫っている時や、大幅なコード変更を行っている最中は、リファクタリングを避ける方が無難です。
新たな機能を追加する前
機能を追加するタイミングでのリファクタリングも有効です。開発がスムーズに進みやすくなり、機能の実装でバグが発生しにくくなります。
なお、リファクタリングと機能の追加は分けて行いましょう。リファクタリングと機能の追加を同時に行うと作業が複雑化し、バグが発生する恐れがあるためです。さらに、コードの変更部分が区別しづらくなるため、バグの修正にも影響が出る恐れがあるでしょう。
機能を追加する前か、追加した機能が完成してからのリファクタリングをおすすめします。
バグの修正前
バグ修正前にリファクタリングすることで、コードがわかりやすくなり、バグ修正も容易になります。
なお、機能の追加と同様にリファクタリングとバグ修正を同時に行うとバグの発生につながるため、分けて行うことをおすすめします。
リファクタリングの主な方法の例
具体的なリファクタリングには、どのようなものがあるのでしょうか。
ここでは、動作を変えることなくコードの品質を高められる主な方法をご紹介します。
条件分岐をシンプルにする
プログラミングにおける条件分岐とは、指定した条件によって処理の流れを変更することです。
具体例として、if〜else文やswitch文やfor文が挙げられます。条件分岐は、プログラミングにおいて欠かせない処理ですが、条件文が増えるとコードの流れがわかりにくくなってしまいます。特に、条件文の中に条件文を入れるネスト(入れ子構造)はバグの温床になるため、できるだけ避けることが望ましいです。条件が多すぎる場合やネストが深すぎる場合は、不要な処理を省略したり条件文の順序を入れ替えたりしてコードを読みやすくしましょう。
重複コードを削除する
コードの変更時や拡張時にコピーアンドペーストでコードを再利用したことが原因で、コードが重複してしまうことがあります。
また、コードで使用している変数や関数が異なっていてもコードの処理内容が似ている場合もあります。コードの処理内容が重複している場合は、関数やオブジェクトの操作を定義するメソッドにまとめましょう。重複コードを一つのコードにまとめることで、コードを修正しやすくなります。
なお、変数や関数やメソッドの名前はわかりやすくすることが大切です。
例えば「temp」「data」などの場合、どのような役割を持っているのか名前だけでは判別できません。変数であればどんなデータが代入されるのか、関数・メソッドであれば何をする関数・メソッドなのかを名前に書きましょう。
また、重複コードをまとめた関数・メソッドが100行以上に及ぶ場合は処理ごとに分割した方が無難です。関数・メソッドを分割することで、それぞれの処理を修正・検証しやすくなります。
リファクタリングの注意点
ここからは、リファクタリングを行う際に注意することを解説します。
優先度を決めたり作業を細分化したりして、効率的に進めましょう。
ポイントをおさえて優先度を決めて行う
リファクタリングは、優先度を決めることが重要です。
対象となるコード全体に問題があるわけではないため、問題がない部分や影響が少ない部分まで手を加えると、時間やコストが無駄になる恐れがあります。
コードの良い点と、悪い点を把握したうえで、リファクタリングすべきポイントを決めましょう。
以下の観点からリファクタリングの優先度を決めることで、限られたリソースを効果的に活用できます。
● コードの複雑性や保守性
● バグの発生頻度や影響度
● 機能の追加や変更の必要性
● リファクタリングにかかる時間やコスト
作業を細かく分けて行う
ソフトウェアの挙動を変えずに対応することがリファクタリングの原則です。しかし、コード全体をリファクタリングしてから動作を検証すると、バグが発生する部分や動作が変わってしまった部分を特定しづらくなるでしょう。そのため、作業を細かく分けて進めることをおすすめします。コードの機能を保ちながらコードの品質を向上させられます。
また、リファクタリングの失敗に備えてバージョン管理ツールを活用したり適度にバックアップを取ったりすることも大切です。
まとめ
プログラミング用語の一つのリファクタリングは、プログラムの挙動を変えずにコードを整理・改善することです。条件分岐をシンプルにしたり重複コードを削除したりすることで、バグの発生やコードの複雑化を防ぐことに役立ちます。そのため、機能の追加やバグの修正がしやすくなるのです。
また、効率的なリファクタリングを実現するには優先度の設定や作業の細分化が重要です。
リファクタリングで開発効率やコードの品質を向上させて、ビジネスの成長や競争力の向上につなげましょう。