2020年の世界的な新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)拡大の影響により、日本国内の経済状態には依然として随所で厳しい局面を迎えている。
日銀短観2021年3月調査では、輸出の増加を背景に製造業は大きく改善し、対面型サービス以外の非製造業も多くの業種で改善しているが、対面型サービス業である運輸・郵便、宿泊・飲食サービス、対個人サービスなどの景況感は厳しい状況が続いている。
雇用や経常利益といった指標も対面型サービス業では落ち込んでいて、日本経済は全体として新型コロナウイルスの打撃から立ち直りつつあるが、営業時間短縮要請や外出自粛などの影響を強く受けざるを得ない対面型サービス業が完全に取り残されている状況だ。
今後も、「まん延防止等重点措置」が適用される自治体が増加し、再々度の緊急事態宣言発令も検討されるするなど、環境は依然として厳しい。
一方で、マーケティング関連の数字には右肩上がりになっているものもある。
電通グループの4社(CCI/ D2C/電通/電通デジタル)が発表した、※「2020年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」によると、日本の総広告費は6兆1,594億円(前年比88.8%)となり、秋以降に回復の兆しが見られたものの前年を大きく下回る結果となった。
ところが、このような状況であっても、「インターネット広告費」は右型上がりで成長を続け、「マスコミ四媒体広告費」に匹敵する2.2兆円規模、総広告費全体の36.2%の市場にまで成長しているのだ。
中でも「インターネット広告媒体費」は、運用型広告のさらなる拡大や巣ごもり需要によるソーシャル広告や動画広告の増加により広告費1 兆 7,567 億円(前年比105.6%)となった。
この分析から見えてくるのは、Withコロナ時代であっても、主にインターネットを活用した広告などのプロモーションに対する重要性が非常に高まっているということだ。
しかし、マーケティング活動においては当たり前になりつつあるプロモーション・広告・PRという言葉だが、その定義やそれぞれの違いについて正しく理解して使っているビジネスパーソンは果たしてどれだけいるだろうか?
それぞれになんとなく使い分けてはいるものの、例えばミーティング中にプロモーションやPRといった言葉が頻発した時に、メンバー同士の認識がずれていて、いつまでも話が噛み合わない、といったケースも珍しくない。
社内の打ち合わせであれば、ある程度統一した概念を形成しやすいが、特に社外の人や初めて仕事をする人とのコミュニケーションでは「その言葉をどういう意味で使っているか?」について、あらかじめ確認しておく必要も生じるだろう。
そこで本稿では、プロモーションという言葉を中心に、PR、広報、広告といったマーケティングの現場で使われる混同しやすい言葉の定義と、その違い、またさらに進んでプロモーションの手法についても解説していきたい。
※「2020年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」:電通が2021年2月に発表した「2020年 日本の広告費」の調査結果のうち、インターネット広告媒体費の内訳を、広告種別、取引手法別などの切り口で分析し、さらに2021年の予測を加えたもの。
目次
プロモーションとは何か?その定義マーケティングの4P
よく知られているプロモーションの定義は、いわゆる「マーケティングの4P」の一つで、消費者の購買意欲を喚起するための活動のこととされている。
マーケティングの4Pとは、マーケティングを製品開発から販売までの流れの具体的戦略に整理したものである「マーケティングミックス」の4分類のことで、それぞれの頭文字「P」をとったものだ。
・Product(何を売るか=製品)
・Price(いくらで売るか=価格)
・Place(どこで売るか=流通)
・Promotion(どのように売るか=コミュニケーション)
関連記事
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・マーケティングミックス(4P)とは?マーケティング実行戦略の基礎を学ぶ
プロモーション(Promotion)を一言で「コミュニケーション」といってもわかりにくいが、これはプロモーションの定義するところが広いことによる。広義のものと狭義のものとで分けて整理した方が理解しやすいだろう。
広義のプロモーションは、消費者との直接・間接のコミュニケーション全般であり、必ずしも販売に直接つながる行動のみを指すのではなく、ブランドイメージの向上や認知拡大までを含んだものである。
広義のプロモーションには、次のような要素がある。
・販売促進(Sales Promotion)
・パブリックリレーションズ(PR)
・広告
・パブリシティ
・人的販売
・セールスフォース
・ダイレクトマーケティング
・インターネットマーケティング など
広義のプロモーションとは、後述する狭義のプロモーションも含んだ消費者との幅広いコミュニケーションであると言える。
狭義のプロモーションとは
一方、狭義でのプロモーションは、企業マーケティングで馴染みのあるSP(Sales Promotion)=販売促進活動のことを指すことが多い。
広義のプロモーションの要素の中でも、その他の要素は持たず、顧客に対して直接アプローチして購買を促す方法「Sales Promotion(販促)」だけを指すのが狭義のプロモーションだといえる。
プロモーションの要素の中でも、より顧客に直接的にアプローチする販売促進方法であり、どのような顧客層にアプローチするべきか、綿密な計画を立て、販売促進を実行し、効果測定をして検証を繰り返すことが、狭義のプロモーションとしての販売促進活動となる。
関連記事:プロモーションの定義とは?戦略を練る時に重要な7つの手段を解説
<マーケティングの4Pとプロモーションの要素の関係>
このように、プロモーションと言っても広義の意味と、狭義の意味の2通りが存在する。マーケティングについての厳密な議論をするときはこの2つを混同しないよう、あらかじめ確かめておくことも大切だろう。
以降では狭義の「Sales Promotion(販促)」に意味を絞り、他の要素との違いを見ていこう。
プロモーションと他の要素との違い
PRとの違い
PRとの違いという側面から見るとプロモーションの意味はより明確になる。
広義のプロモーションの要素の中には、「Public Relations(パブリックリレーションズ)」が存在する。
PRと販売促進活動である狭義のプロモーションの2つは勘違いされがちなので、しっかりと定義をおさらいしておこう。
そもそもPRの定義は難しく、正確に理解している人は少ないだろう。
そこで、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会による定義を以下に引用する。
“「パブリックリレーションズ(Public Relations)とは、組織とその組織を取り巻く人間(個人・集団)との望ましい関係を創り出すための考え方および行動のあり方である。19世紀末から20世紀にかけてアメリカで発展し、日本には第二次世界大戦後の1946年以降にアメリカから導入された。」”
現在では、PRの訳語として定着した「広報」は一方的な発情報信、略語のままの「PR」は宣伝というニュアンスが強く、「広報・PR部門」などと並列して表現されているのを見かけることも多い。
しかし、前述のとおりパブリックリレーションズとは、元々は「望ましい関係づくり」という意味なのである。企業にはパブリック、すなわちステークホルダーである消費者、従業員、株主、取引先、地域社会などとの良好な関係を構築する考え方や行動をとることが本来求められている。その意味では、パブリックリレーションズとは日々の企業活動そのものであるとも言える。
PRとは、Public=公的な、Relations=関係性を構築することとなるので、間接的なアプローチであると言える。直接的なアプローチであるプロモーションとは大きな違いがあるということがよく分かるだろう。
PRと広報との違い
また、PRと広報についても混同されることが多いのでここで整理しておこう。
PRがアメリカ発の概念で、Public Relationsの和訳の通り公衆と良好な関係を築く幅広い活動を指すのに対して、広報は数あるPR手段のうち、日本で発生したもののひとつであり、社外メディアへの掲載や取材誘致活動、プレスリリースの発行など「情報発信」「プッシュ型の情報提供」に絞った活動を指すことが多い。
つまり、広報はPRに包摂される概念であり、活動であるといえる。両者は似ているようで異なる特性を持っているのだ。
ただし、広報とPRが同義であると捉えられることもある。
別のものと捉えられる場合の線引きとしては、「広報は企業や組織からの発信」「PRは双方向あるいは多次元的つながり」と区別されることが多い。
関連記事:マーケティングにおけるプロダクト広報とは
広告とプロモーションとの違い
また、広告との違いについても見ておこう。
広告とは、公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会作成の「OR事典Wiki」によれば「明示された個人や組織により告知、説得を目的として有料で非人的に提示されるメッセージ」であるという。つまり、広告主である企業等の名前を明らかにして、対人以外の手法すなわち媒体を通して有料で掲載されるメッセージということになる。
広告の目的は、世間に広く知らせることである。企業活動においては、自社の製品やサービスを広く知らせるということになり、有料の広告媒体に掲載することによって製品・サービスの存在や特徴を広めることにある。
広告の特徴は不特定多数に向けた発信であり、自社でその内容を決めることができることにある。そのため、予算次第ではあるがターゲットの範囲や掲載期間も自由に決定でき、自社主導でメッセージを発信することができる。
これに対してプロモーションは広告を含む販売促進活動全般を指すものであり、その違いを見ることができる。
広告媒体には、ターゲット、形式、予算規模の異なる以下のようなものがあり、これらを組み合わせた施策を行うことが多い。
・マスコミュニケーション:新聞、雑誌、テレビ、ラジオ。いわゆるマスコミ4媒体を指す。
・ダイレクト媒体:チラシ、DM、新聞折込など。直接消費者に届けることができる。
・ネット媒体:リスティング広告、アフィリエイト広告、ソーシャルメディア等。インターネットやSNSなど電子媒体を利用する。
・スペース媒体:看板広告、交通広告など。不特定多数の消費者に対する潜在的な訴求をすることができる。
関連記事:媒体って何?今さら聞けない媒体の意味や種類を解説します!
PRと広告との違い
ここでさらに、PRと広告の違いについて述べておくと、
1.PRは公共性と信頼性が高い反面、自社の思い通りにはならない
2.広告は自由度が高くメッセージ性が強いが、コストがかかり信頼感が低い
という違いがある。
広報活動を含むPRはメディアという第三者の視点から報じられるものであるため、信頼性は広告よりも遥かに高く、大衆への浸透性も高いことが知られている。
一方で取材やニュースリリースからの掲載が主体であるため、自社のタイミングでコントロースすることが難しい点や、内容が発信者に委ねられてしまうということがデメリットとして挙げられる。
反対に広告は、自社主体の発信になるため、自由にメッセージ届けることができる反面、信頼性や浸透力に関しては第三者が発信するより劣る。
さらに媒体費用や制作費などでコストがかさみやすいこともデメリットといえるだろう。
また、自社の情報を記事などにして発信してくれるメディアに対して広告費などの対価を支払った場合、それはPRではなく広告となる。
一見、記事風であっても必ず「広告記事」などと記載しなくてはならない。
あくまで、メディアが自発的に取り上げ、広く発信してもらうための活動や情報発信を行うことがPRの本来の意味合いであることを忘れてはならないだろう。
PR活動とは
プロモーションとPR、PRと広報、広告との違いが明らかになったところで、企業活動におけるPR活動とはどのようなものかについても触れておく。
『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』に記載のある「PR部門の機能」5つを紹介しよう。
<PR部門の5つの機能>
1.報道対策 企業を良く見せる形で情報を公表する機能。ニュース取材対応やプレスリリースなどが代表例。
2.製品パブリシティ 製品のパブリシティを支援する機能。マスコミ媒体に自社の製品やサービスを記事やニュースとして報道してもらったり、自社媒体で製品の情報を発信すること。
3.コーポレート・コミュニケーション 企業内外のコミュニケーション機能。企業内あるいは対外的なコミュニケーションを通じて、企業への理解を促進する。
4.ロビー活動 議員や官僚との関係を確立する機能。法規制の推進や廃止を狙って積極的に交渉することもある。
5.コンサルティング 経営陣にアドバイスする機能。平常時および逆境時の社会問題や、企業のポジションとイメージに関して、経営陣に助言を行う。
販促としてのプロモーション
セールスプロモーションの定義
セールスプロモーションとは?
次にプロモーションの販促としての面について解説しよう。
「販促」という言葉は、営業に直接関わる部門はもちろん、マーケティングや企画営業などの周辺業務に関わっていれば毎日のように耳にするに違いない。
しかし、どのような意味や定義を持つ言葉なのかについては明確な答えを持っていないことも多い。
販促とは販売促進の略で、前述のとおりSales Promotionの和訳である。Sales Promotionを略して「SP」とも呼ばれる。
販促の目的は、さまざまな施策によって購買の動機づけを行い、購買意欲を高め、最終的に購買の意思決定に結びつけることだ。
購買につなげるためのさまざまな施策である「販促」と、販促の一環である「広告」や、広く情報発信することである「広報」との違いを押さえておきたい。
なお、販促は場面に応じて以下のような活動が行われる。
・メディア:テレビ・ラジオCM、新聞・雑誌広告、チラシ、DM等
・ウェブ:インターネット広告、メルマガ、SNS、オウンドメディア等
・売場:看板、POP、実演販売、サンプル配布、クーポン配布、イベント等
4種類プラス1のセールスプロモーション手法
セールスプロモーションの手法には代表的な4種類がある。
・イベントプロモーション:イベントを活用した手法。展示会、セミナー、ライブなど、イベントテーマを絞ることで対象者に直接かつ効果的にアプローチすることができる。
・キャンペーンプロモーション:期間や対象者を限定したキャンペーンを行う手法。「今だけ」「私だけ」といった特別感を演出して購買意欲を高める。
・ダイレクトマーケティング:顧客に直接働きかける手法。見込み客のリストを元に、DM、メルマガ、電話などを活用して直接アプローチする。
・インストアプロモーション:店頭で行う手法。実演販売、POP、値引き、タイムセールなど、主に店内にいる消費者が対象となる。
以上の4種類のほか、コロナ禍で利用が加速しているのがデジタルによるプロモーションだ。
SNSやリスティング広告はコロナ禍以前から台頭してきていたが、緊急事態宣言や外出自粛など、対面でのセールスプロモーションがほとんどできなくなった2020年以降、非対面・非接触のメリットを活かしたオンラインイベント、ウェブキャンペーン、デジタルチラシといったデジタルによるプロモーションの活用が急速に伸びている。
もちろん、従来のプロモーションにはリアルな体験という、デジタルにはない感動が伴うため、なくなることはないだろう。
しかし、SNSをはじめとしたデジタルによるプロモーションは、一般的に費用を抑えられること、スマホなどパーソナルなメディアと口コミを利用することによる親近感、「バスる」ことにより爆発的な拡散があり得ることなど、従来の手法にはない大きなメリットがある。そのため、デジタルによるプロモーションはコロナ後にも定着する手法と考えて取り組むことが重要だ。
これら4種類プラス1の手法のなかなら、自社の目的や課題に対して、どの手法が適しているのかを十分検討してセールスプロモーションを展開していくことが望ましい。
セールスプロモーションにおける戦略的アプローチ
この項ではプロモーションのなかでも狭義のプロモーションである、セールスプロモーション(販売促進、以下プロモーション)について、どのように計画して実行し、効果を検証するのかなど、その戦略的アプローチを見ていこう。
SP戦略とは?
プロモーションの最終目的は、さまざまな施策をもって購買の意思決定に結びつけることである。しかし、数多あるプロモーション施策をやみくもに打っても購買には至らないだろう。そこには戦略が必要となるのだ。
まずは市場情報を収集し、分析する。投入する商品・サービスの市場規模や顧客ニーズを調査し、市場の成長性を分析するのである。自社商品の脅威となる競合他社についての特徴や動向把握も重要だ。また、自社の既存商品やリソースについても整理・分析しておきたい。市場、競合、自社の現状を正しく把握することがSP戦略の第一歩となる。
次に行うのが市場(顧客)の特性を細かく分析する「細分化」だ。市場を地域別、性別、年代別、あるいは業種別、規模別などに区分し、どのような特徴やニーズがあるのか、区分ごとに明確にしていくのだ。
細分化の結果、ターゲットやペルソナ、投入する商品アイテム、販売エリアやタイミングなどを絞る(あるいは広げる)といった「ターゲティング」の作業を行う。
また、絞り込んだターゲット等の区分について、自社の立ち位置を確認する「ポジショニング」を行う。競合する商品と比較し、差別化できるポイントや独自性を洗い出す作業だ。
以上を経てはじめて、プロモーションの詳細な実施計画を立てることができる。
プロモーションの仕組みやテーマを策定し、採用する手法やメディア・ツールの詳細、表現方法などをさまざまな角度から検討し、詰めていくことになる。
これを整理すると以下の図のようなステップとなる。
<戦略的プロモーションの10ステップ>
①市場情報を収集(マーケティングリサーチ)
②分析
③市場細分化(セグメント)
④ターゲティング
⑤ポジショニング
⑥マーケティングミックス4P(対象商品や販売エリアなどの選定)
⑦プロモーションの詳細な実行計画
⑧プロモーション手法の選定
⑨プロモーションツールの選定
⑩実行・検証
このように、戦略的な手法を駆使したプロモーションを実施することで、対象とする顧客にダイレクトにアプローチすることができる。
プロモーションの実際
プロモーションの手法とツール
プロモーションの手法
例えば、あなたがパン屋で自分の店を持っていたとして、どのようなプロモーション手法を実践するだろうか。
・店舗の前にのぼりを出す
・おすすめ商品を書いた立て看板を入口に置く
・チラシを作り近隣にポスティングする
・地元のコミュニティ誌に広告を出す
・季節商品の棚にPOPを付ける
・くじ引きにより店舗内で使用できる金券を渡す
・アンケートに回答してくれた客にオリジナルグッズを渡す
・パンに合う献立やレシピを書いたカードを提供する
・店舗内で試食品を提供する
・当店のパンを使った無料のアレンジメニュー教室を開く
・クーポン券を発行する
・夕方以降の時間帯にタイムセールを行う
・毎月10日を感謝デーとして限定商品を出す
・ポイントカードを発行する
・ツイッター、インスタグラムで毎日情報を発信する
・リピーターの顧客にハガキでセール期間や新商品を案内する
工夫次第でまだまだ挙げることができるだろう。このようにプロモーションの手法にはさまざまなものがあるが、ここではプロモーションの内容に着目した以下の4つの分類を用いて整理していく。プロモーションに用いるツールについては後述する。
1. プレミアム手法
特典や景品の提供により購買意欲を促進する手法。来店者や購入者に対するおまけ、ノベルティグッズ、金券、プレゼントなどを提供し、来店や購買を促す。上記のパン屋の例では「くじ引きにより店舗内で使用できる金券を渡す」「アンケートに回答してくれた客にオリジナルグッズを渡す」「パンに合う献立やレシピを書いたカードを提供する」が該当する。
2. 試用手法
実際に商品を試してもらう機会を提供する手法。サンプル、試供品、体験会など、消費者に実際に体験してもらうことで購買につなげる。デモンストレーションによって使用方法を紹介する手法も含まれる。上記の例では「店舗内で試食品を提供する」「当店のパンを使った無料のアレンジメニュー教室を開く」が試用手法に当たる。
モニターに実際に商品を使用してもらい、満足度や改善点についてのアンケートとセットで行う手法も広く行われている。
3. プライス手法
限定的な値引きによる誘導。タイムセール、クーポン、キャッシュバック、増量キャンペーンなど、期間や対象者を限定した値引きを行うことにより購買意欲を高める。上記の例では「クーポン券を発行する」「夕方以降の時間帯にタイムセールを行う」が該当する。
4. 制度手法
販売制度の仕組みによりリピーターにつなげる手法。会員制度、ポイントカード、固定的な特売デーなどの仕組みを使ってリピーターを獲得する。上記の例では「毎月10日を感謝デーとして限定商品を出す」「ポイントカードを発行する」がこれに当たる。
プロモーション手法を選定する前段階でのターゲットや地域などについての市場分析を踏まえて、それぞれの手法のメリット、デメリットを考慮し、複数の手法を組み合わせることでプロモーション効果を高めることができる。
プロモーションに使えるツール
プロモーションに用いるツールについても以下の7つに分類しながら整理していこう。先ほどのプロモーション手法と同様、それぞれのツールにはメリット、デメリットがあるため、複数のツールを採用することを前提に検討すると良いだろう。
1. マスコミ系ツール
マスコミュニケーションを利用した広告。新聞、雑誌、テレビ、ラジオの4大媒体は影響力が大きいが費用もかかる。中小企業では、予算に応じて地域のミニコミ誌、フリーペーパー、コミュニティFMなども活発に利用している。前述のパン屋の例では「地元のコミュニティ誌に広告を出す」が該当する。
2. 自社印刷ツール
チラシ、ポスター、パンフレット、カタログ、ハガキなど、自社で製作する印刷物。DM、新聞折込、ポスティングなどにより拡散するほか、訪問販売や展示販売のツールとしても使用頻度が高い。前述の例では「チラシを作り近隣にポスティングする」「リピーターの顧客にハガキでセール期間や新商品を案内する」がこれに当たる。
3. グッズ系ツール
ノベルティ、サンプル品など、来店者やイベントの際に配布するグッズ。自社商品のサンプル品の場合は費用を抑えられる反面、企業名や連絡先を入れたボールペン、カレンダーなどのノベルティグッズは制作費用がかかる。前述の例では「アンケートに回答してくれた客にオリジナルグッズを渡す」「店舗内で試食品を提供する」が該当する。
4. ウェブ系ツール
インターネットやSNSなど電子媒体の利用。リスティング広告、アフィリエイト広告といったウェブ広告と、オウンドメディア、動画投稿、SNS発信に代表される自社プロモーションとに分けられる。ウェブ系ツールは全般的に費用を抑えて始めることができるが、継続的に取り組む必要がある。前述の例では「ツイッター、インスタグラムで毎日情報を発信する」がその例となる。
5. POP
主に小売店内外に設置するディスプレー、店内チラシ、スタンド、ポスター、パネル、マネキンなど。「Point of purchase advertising」の略で、購買時点広告、店頭広告と訳される。
店舗外のPOPは呼び込みの役割があり、店舗内で商品の近くに設置するものは来店者に購買意思を決定させる役割があり、どちらも非常に多く使用される。
前述の例では「店舗の前にのぼりを出す」「おすすめ商品を書いた立て看板を入口に置く」「季節商品の棚にPOPを付ける」と複数のツールを使用している。
6. イベント
イベント、展示会、物産展などへの出展。来訪者と直接コミュニケーションを取ることができるツールであり、パブリックリレーションズ(PR)とSPを同時に実施することができる。前述の例では「当店のパンを使った無料のアレンジメニュー教室を開く」がその好例となる。
7. その他SP広告
上記のマスコミ系、ウェブ広告、POP以外の広告ツール。看板、デジタルサイネージなどの屋外広告、電車、バス、ラッピングカーなどの交通広告などがある。
まとめ
・プロモーションという言葉は聞き慣れた言葉だが、PR、広報、広告といったマーケティングの現場で使われる周辺の言葉とも混同しやすい。そのためそれぞれの定義と、その違い、目的などを理解した上で使うことができるように解説した。
・プロモーションには広義のプロモーションと狭義のプロモーションがあるが、なかでも狭義のプロモーションであるセールス・プロモーションの最大の目的は、購買の直接的な動機づけである。プロモーションをどのように計画して実行し、効果を検証するのかなどを見極めて、戦略的に実行していくことで大きな効果を期待することができる。
・プロモーションは企業の業績に直結するマーケティング活動であるため、どの企業も日々新しいプロモーション手法やツールの開発、ユニークな運用方法を探っている。選択肢は拡大する一方なので、本稿を参考にプロモーションの意義や定義をしっかりと理解した上で、自社に最適なプロモーションを策定して、事業拡大の一助としていただければ幸いだ。