「ドミナント戦略」とは、小売業などがチェーン展開をする際に、特定のエリアに絞って集中して出店する戦略のことをいいます。例えば、コンビニエンスストアが、特定の地域に集中して出店されているのを見たことはないでしょうか。これには、戦略が使われており、あえて集中して出店することでエリアでのシェアを拡大する目的があります。
日本の多くの企業にも利用されている戦略であり、代表例としてはセブン-イレブンやアパホテルなどがあります。チェーン店を広げて大きく事業の展開・発展をしていきたい企業のおすすめの施策です。本記事では、ドミナント戦略の概要やメリット、実施する際のポイント、成功例について解説します。
目次
ドミナント戦略とは?
日本の多くの企業にも利用されている戦略であるドミナント戦略とはどのようなものなのでしょうか?
特定のエリアに集中して出店する戦略
ドミナント戦略とは、特定のエリアに集中して出店する戦略の事です。「ドミナント(dominant)」は、「支配的な」「優勢な」「優位に立つ」という意味を持つ言葉で、特定のエリアへの集中的な出店で、競合より強い存在感の確立を狙うための戦略となっています。集中的な出店を行うことで、そのエリアの消費者の囲い込みを行うことができ、消費者との信頼関係を結ぶことができれば、競合が参入しづらいという点も大きなポイントです。
チェーン店を広げて大きく事業展開したい企業におすすめ
この戦略は、主にチェーン店を展開するような小売業や飲食業などによく利用され、日本国内でも多くの企業が採用しており、非常に効果の高い戦略だと言えます。
「同じエリアに複数の店舗を展開するより、多方面で広く展開したほうが良いのではないか」と思われがちですが、あえて狭い範囲の中で同じ店舗を展開することで、そのエリアを独占することができ、利益面やコスト面で非常に大きな恩恵を得ることができるのです。
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ドミナント戦略の7つのメリット
集中して出店を行うドミナント戦略ですが、利益面やコスト面、経営面など様々な面で大きなメリットを得ることができます。主に以下の点が大きなメリットと言えます。
● 特定のエリアでの認知度を高められる
● 特定のエリアに合わせたマーケティング施策が実施できる
● 1店舗あたりにかかるコストを削減できる
● 物流の効率化ができる
● 在庫を柔軟に活用できる
● 効率的な人材配置が行える
● 競合他社が参入しづらくなる
特定のエリアでの認知度を高められる
ドミナント戦略を行うことで、特定のエリアの人が店舗の商品やサービスを利用する機会が増えたり、目にすることが増えたりするので、そのエリアでの認知度が格段に高まります。開業したばかりの店舗を多方面で広く展開する場合、一定の認知度を獲得するためには多くの時間的・費用的なコストが必要になります。しかし、エリアを限定して展開することで、比較的早く認知度が獲得でき、収益の面でもスムーズに事業が進められるようになるでしょう。
また、特定のエリアで展開することで、近所付き合い同士の口コミや評判が広がる可能性も高いです。地域内で話題に上がる頻度が増えてくると、さらに認知度の向上やブランドの浸透に良い効果を生み出してくれます。
エリアに合わせたマーケティング施策が実施できる
エリアを絞って出店することで、その地域の環境やニーズに合わせたマーケティング施策を展開できます。エリアによって人口の多さや年齢層、需要、収入帯、ライフスタイルは大きく異なります。それらのデータを分析したうえで、商品・サービスの開発や価格の設定、宣伝の方法などの戦略を立てることができるのです。また、そのエリアのニーズに合わせた店舗運営が行えるので、エリアでの存在感の強化や信頼関係の構築にも繋がります。
多方面で広く展開する場合は、エリアごとに調査や分析を行い、そのエリアのニーズに合わせた店舗運営を1つずつ行わなければなりません。ただし、1つのエリアに複数の店舗を展開している場合であれば、そのエリアのみに特化したマーケティングを行うことで集客力が高まり、時間的コストや費用的なコストをおさえることができます。
1店舗あたりにかかるコストを削減できる
戦略を活用すると、1店舗あたりにかかるさまざまなコストを削減することに繋がります。主に以下のような点が削減できるでしょう。
● 店舗開発のためのコスト
● 物流コスト
● 広告・宣伝コスト
前項でも解説していますが、特定のエリアに集中して出店するため、そのエリアに集中して調査や分析を行うことが可能です。そのデータを元に、特定のエリアに合わせた商品・サービスの開発や価格の設定、そのエリアの人向けの広告媒体・宣伝方法の選定などを行えばいいので、そこにかかる労力やコストが大幅に削減できます。
物流の効率化ができる
特定のエリアに絞って出店していることで、物流の面でも効率化が見込めます。
コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどでは、店舗で販売を行う商品は拠点となる場所からトラックで商品を配送しなければいけません。1つのトラックで複数の店舗への配送を行うことが多いですが、店舗の距離が遠いと配送の負担が大きくなってしまったり、商品の品質に問題が起こる可能性があったりなど、様々な面で課題が発生します。
戦略を実施すると、特定のエリアに絞って出店しているということは、距離が近いということです。そのため、短時間で配送ができたり、商品を新鮮なうちに配送できたりするなど、物流の面でも大きなメリットがあります。
また、出店を行ったエリア内への配送センターを設置、配送ルート上に出店をしていくなどの戦略を行うことで、さらに配送の手間とコストの削減効果が得られるでしょう。
在庫を柔軟に活用できる
同じエリア内に店舗が密集していることで、店舗同士の在庫を柔軟に活用することにも繋がります。
例えば、ある商品が売り切れになった場合に、在庫がある店舗から商品を移動させやすくなります。また、逆に在庫が残ってしまいそうな場合には、その商品の売れ行きが良い店舗や、来店者数の多いところへ商品を移すなどの対応もスムーズに行うことが可能です。
柔軟な在庫管理を行うことができるおかげで、在庫管理のコストの削減や販売機会の損失を防止に役立ちます。
効率的な人材配置が行える
店舗同士の距離が近いことで、効率的な人材配置を行うことも可能です。
例えば、ある店舗で急に従業員人数が足らなくなってしまった際、近くの店舗からサポートできる人材を配置するなどの対応ができます。また、店舗が密集していることで、チェーン店舗の経営管理やマネジメントを行うスーパーバイザーも、移動にかかるコストを抑えて数多くの店舗を巡ることができるでしょう。店舗巡回の負担を軽減することで、よりサービス向上のための施策立案のために時間を使えるようになります。
競合他社が参入しづらくなる
ドミナント戦略によって知名度や占有率が高まると、競合他社の参入を防ぐことに繋がります。すでにそのエリアでは一定のブランディングが確立されている企業があるため、競合他社は新規参入をしたとしても新たな顧客の獲得などのハードルが高く、大きな成功が見込めないと判断するのです。
優位性を保ったまま事業を行えるので、競合への対策のための資金など多くのコストを割かずに済み、常に顧客ニーズに応えることに専念できます。
ドミナント戦略の3つのデメリット
利益面やコスト面、経営面などさまざまな面で大きなメリットを得ることができる反面、いくつかデメリットも存在します。主に以下の点がデメリットと言えます。
● チェーン店同士での競争が起こる恐れがある
● 地域の環境変化の影響を受ける
● 新しいエリアへの拡大が難しくなる
チェーン店同士での競争が起こる恐れがある
同じエリアに複数の同じチェーン店があることで、顧客の取り合いなど店舗同士での競争が起こる恐れがあります。
チェーン店同士で適度に競い合わせてサービスの向上を図ることは良い影響を与えることもありますが、競争意識が強くなりすぎてしまうと会社としての雰囲気が悪くなってしまったり、無駄なコストがかかることで利益が下がってしまったりなど、悪い影響を与えてしまう恐れがあります。
あくまで強い競争意識を持ってビジネスを進めていくのではなく、高めあっていく意識を持つことが重要です。
地域の環境変化の影響を受ける
特定のエリアのみに絞って出店することで、その地域で起きた環境変化により大きな損失が発生する可能性があります。
例えば、突発的な災害の発生や住民の他地域への流出などが起きてしまうと、もちろん対象エリアの顧客は減り、売り上げも大きく減ってしまうでしょう。顧客の数や売り上げが減ってしまうと、店舗の運営コストだけでも大きな負担となり、経営面での大きなリスクを抱えてしまうことも考えられます。
他にも、急な都市計画の変更や、高速道路・停車駅の変化による交通網の変化、近隣にショッピングモールのような大型店舗ができたことによる商業圏の変化なども経営を直撃する恐れがあるでしょう。
新しいエリアへの拡大が難しくなる
特定のエリアに絞った出店を行っているため、新しいエリアへの拡大はハードルが高くなるといえます。事業を拡大するために違うエリアへの展開を考えるかもしれませんが、既存店舗の運営はそのエリアに特化した部分が多いため、新規エリアではそのデータやノウハウを生かしにくいです。
他のエリアへ出店を行う際は、再び1から調査・分析を行う必要があるでしょう。
ドミナント戦略とランチェスター戦略
ドミナント戦略と似た用語で、「ランチェスター戦略」といったものがあります。どのような関連性があるのか解説します。
ランチェスター戦略とは?
ランチェスター戦略とは、戦力に勝る「強者」と戦力の劣る「弱者」に分類し、それぞれがどのように戦えば戦局を有利に運べるのかを考えるための戦略論のことです。元々は第一次大戦の際に提唱された戦争理論ですが、これが経営にも応用できると考えられ、経営理論としても提唱されています。
例えば、経営においては、いわゆる強者が「資金や社員数が豊富にある企業」で、弱者が「資金や社員数には限りが存在する企業」とします。この場合に、経営戦略をきちんと実施すれば、弱者である「資金や社員数には限りが存在する企業」でも強者に勝つことができるのです。戦略の例をあげると、ある特定の分野のみに絞ってシェアを独占したり、差別化を行ったりして大企業では手の回らない顧客層を獲得したりすること、などがあります。
ランチェスター戦略も駆使することの重要性
ランチェスター戦略は、「強者」と「弱者」に分類し、それぞれがどのように戦えば戦局を有利に運べるのかを考える戦略ですが、特定のエリアへの集中的な出店で他社より強い存在感の確立を狙うための戦略であるドミナント戦略は、ランチェスター戦略の一部だといえます。
弱者と分類される中小企業などが、「地域」にビジネスを集中させ、大企業より先にそのエリアへブランドを確立させるのです。ドミナント戦略を考える際には、まずランチェスター戦略の理解を深めるようにしましょう。
ドミナント戦略を行う際のポイント
メリットもデメリットも両方存在するドミナント戦略ですが、上手く活用することで事業の展開・発展に繋がる効果的な戦略です。この戦略を活用する際は、以下のポイントをおさえて実施しましょう。
● 出店エリアの事前調査を徹底する
● 競合他社の調査・分析を行う
● リスク管理の対策
出店エリアの事前調査を徹底する
集中して出店するエリアは、事前の調査をしっかり行った上で選定しましょう。以下の項目を元に調査を行ってみてください。
● 地域の人口や人口の増減
● 夜間と昼間の人口差
● 住民の世帯構成や年齢層
● 競合他社
● 需要の特性
人口が減少傾向にあったり、すでに競合が多店舗展開を行っていたりするなどの場合は、その地域に出店しても利益は見込みづらい可能性が高いです。また、出店を検討している地域にサービスの需要が見込まれている場合、すでに競合のサービスが利用されている可能性もあります。その際は、自社にしかない特徴や差別化ポイントを作るなどの工夫が必要です。
競合他社の調査・分析を行う
特定のエリアでドミナント戦略を元に店舗展開する際は、競合の調査・分析を密に行うようにしましょう。提供している商品・サービス、店舗サイズ、広告や集客施策、客層などを把握するように努めることが重要です。競合と同じようなジャンルで出店し、価格競争で勝負をしていくよりも、競合との差別化ポイントを明確にして、自社にしかないものを展開していくほうが有効的です。
また、エリアによっては、競合がすでに集中的に店舗展開を行っており、ドミナント戦略を取り入れているケースもあります。そのエリアのシェアを取っていくには、多くの時間的・費用的なコストが必要になる可能性があるでしょう。しかし、競合他社の調査・分析を行うことによって、そのエリアへの出店を辞めておく判断をすることができます。戦略的撤退を行い、競合他社がまだ手をつけていないエリアやまだ優位を占めることができていないエリアを選択することができます。
リスク管理の対策
特定のエリアに集中的に多くの店舗を展開しているということは、何か不具合が起こった際には複数の店舗が一気に影響を受けることになります。そのため、リスク管理の対策をより一層強めることが重要です。
例えば、小売業や飲食店では人材というリソースに悩まされるケースが多いです。多くの店舗を出店したものの、人材の採用や育成が上手くいかず、ビジネスの継続が難しくなってしまうといったケースは少なくありません。
また、エリアに住んでいる顧客の口コミや評判にも配慮しておきましょう。エリア内に多くの店舗があることで、近所付き合い同士で店舗に関しての話題が上がることも多くなるでしょう。そこで良くない口コミが広がってしまうと、そのエリア全体の店舗に影響を与えてしまいます。良い口コミや評判をしてもらうためにも、商品・サービスの質や接客の質には注意が必要です。
ドミナント戦略を元にフランチャイズ展開する企業へ加盟する際のポイント
事業を行っている人の中には、ドミナント戦略を元にフランチャイズ展開するチェーン店に加盟する人もいらっしゃると思います。事業を大きく展開するチャンスではありますが、何点かポイントや注意点を理解しておくことが重要です。
出店するエリアの需要や売り上げ・利益の見込みを確認
フランチャイズ本部である企業がすでに出店するエリアを決定している場合、そのエリアでどのような需要があることから出店をするのか、どのくらいの売り上げ・利益が見込めているのかなどを根拠も含めて確認を行いましょう。きちんとリサーチを行ってフランチャイズ展開を行いたいと考えている企業であれば、しっかりとした根拠の元エリアの選定を行っているはずです。競合他社の進出状況や他店の出店状況、集客や利益の予測も含めて確認を行うようにしましょう。
開業に関してのサポートの充実度
一般的にフランチャイズ加盟は、開業前や開業後、継続的な経営にあたってのサポートをフランチャイズ本部から受けることが可能となっています。しかし、サポートの内容な充実度は各企業によって違いがあります。フランチャイズの加盟を行う際は、どのようなサポートを受けられるか、将来を見越して安定的な経営を行うための体制が整っているのか、を見極めたうえで加盟を行いましょう。
店舗運営にあたっての裁量権
フランチャイズ加盟する際は、オーナーに店舗運営にあたっての裁量権がどのくらいあるのかを確認しましょう。この裁量権はフランチャイズ本部によって度合いが異なります。もちろん店舗運営を円滑に進めるために、一定のフランチャイズ本部の裁量権は必要ですが、フランチャイズ本部の裁量権が強すぎるとさまざまな点で店舗に不具合が起きてしまうことがあります。必ずフランチャイズの契約前に、裁量権の詳細を確認するようにしてください。
ドミナント戦略の成功事例
ドミナント戦略を上手く活用し、ビジネスの発展を成功させた企業は多くあります。これらの企業の成功事例を参考に、事業展開を行うのは非常におすすめです。ここでは、セブン-イレブン・アパホテル・スターバックスコーヒーの成功例を解説します。
セブン-イレブン
コンビニエンスストアのセブンイレブンは、1号店があった東京都江東区を中心にドミナント戦略をスタートし、安定的に事業を展開してきました。
セブンイレブンは創業当初、「江東区内から出ない」というルールの下で新規店舗の出店を行なっていたのです。そのルールの元、特定の地域に絞って新規出店を行ない、事業が軌道に乗るにつれて徐々に全国的に店舗を展開させてきました。そうすることで今では、2023年6月現在で全国に21,407店舗あり、日本で最も店舗数の多いコンビニエンスストアまで成長したのです。
( https://www.sej.co.jp/company/tenpo.html )…セブンイレブン 国内店舗数
日本で最も店舗数の多いコンビニエンスストアであるセブンイレブンですが、全都道府県への出店を果たしたのはファミリーマート、ローソンを含めた3大チェーンの中で実は最も遅いのです。これはセブンイレブンがいかに戦略を重視して事業を発展させてきたかが分かるエピソードとなっています。
アパホテル
アパホテルは、リーズナブルな宿泊料金と安定した品質で知られる、全国最大のホテルチェーンです。2021年には日本全国に700棟近くのホテルを展開しています。アパホテルは、ドミナント戦略のターゲットを都市部に絞っている特徴があります。都市部の同じエリア内で「主要駅の出口ごと」や「地下鉄の駅ごと」など、立地条件やニーズに合わせた戦略で事業の展開を行っているのです。
また、アパホテルは、2010年に『SUMMIT5』という中期5カ年戦略を発表し、渋谷区や新宿区など東京都の5区を中心とした集中的なホテル建設を実施しました。地域内でのシェアを高めることでブランド力を高め、そのエリアで強い地位を確立したのです。
2020年には、新たな中期5カ年計画として『SUMMIT5-Ⅲ』という計画を発表しました。総客室数15万室を目標にし、将来的に「国内シェア20%」という圧倒的なNo.1を目指して、さらに発展を行っています。
スターバックスコーヒー
スターバックスコーヒーは今や全世界に店舗展開をしていますが、創業はシアトルの小さな店舗から始まり、シアトル市内でドミナント戦略を活用してきました。
戦略は、日本でも展開されており、繁華街などでは近いエリアに出店されているスターバックスコーヒーを目にすることが多くあります。最も顕著に表れている地域は新宿区で、そのエリアだけで合計30ほどの店舗が集中的に出店されています。そのため、ある店舗が混雑している場合でも、顧客は「あちらのスタバに行こう」と考えることができ、その地域全体の売上を確保することができるのです。
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まとめ
本記事では、ドミナント戦略の概要やメリット・デメリット、実施する際のポイントについて解説しました。エリアを限定した集中的な出店を行うため、大手企業だけでなく中小企業のビジネスでも実現可能な戦略となっています。成功させることができれば、大きな利益に繋がり、そのエリアにとって必要なお店として長く愛される存在になっていくでしょう。
しかし、多くの面でメリットがある一方でデメリットも存在します。しっかりとエリアの調査や分析・事業展開のための計画立案を行い、慎重に取り組むようにしていくことが重要です。
自社の規模や商品やサービスの特徴をきちんと整理したうえで、適切な戦略展開を行っていきましょう。