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カスハラ(カスタマーハラスメント)の意味は。条例はある?事例や対応、クレームとの違い

2024.8.14
読了まで約 14

近年、コンビニや電話窓口など日常生活のさまざまな場面で客が従業員に過剰な要求を突き付けたり暴言を浴びせたりするカスタマーハラスメントが増えています。こうした理不尽な客から現場で働く従業員を守るにはどうすればよいのでしょうか。
この記事では、カスタマーハラスメントの概要やクレームとの違い、実際の事例や対策などを紹介します。

目次

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先が企業に対して理不尽なクレームや言動をすることです。具体例として、不手際のお詫びとして代金を無料にするよう要求する、自ら商品を壊したうえで「商品が壊れていた」とクレームを入れるなどが挙げられます。
日本では、2010年代頃から悪質なクレーマーに対して、カスタマーハラスメントという名称が使われるようになりました。

社会問題となっているカスハラ

精神的な負担を引き起こし、職場環境を悪化させる原因にもなるカスハラは社会問題となっています。
カスハラが原因で従業員が気分障害や休職に陥ったり店舗が廃業に追い込まれたりするケースもあり、対策が急がれます。

企業の約16%がカスハラ被害に(2024年6月調査)

2024年6月に行った帝国データバンクの調査によると、直近1年でカスハラ被害を受けた企業は15.7%でした。規模別でみると大企業が21.0%、中小企業が14.8%、小規模企業が14.4%と規模が大きい企業ほどカスハラ被害を受けている傾向にあります。また、業界別でみると小売が34.1%と最も多く、3社に1社はカスハラ被害を経験していることがわかります。金融や不動産やサービス業界でも被害を受けた企業は20%を超えており、個人と取り引きする業界ほどカスハラ被害を受けやすい傾向です。
カスハラ被害を受けた企業の中には事実無根の悪評をネットに書き込まれたケースもあり、対応に苦慮しているとの声も上がっています。

出典:株式会社帝国データバンク「カスタマーハラスメントに関する企業の意識調査

なぜカスハラが増えたのか

カスハラが増えた原因として、ネットやSNSの普及が挙げられます。
口コミサイトやSNSを通じて企業を匿名で批判できるようになったため、企業側が理不尽な批判に屈してしまうという構図が生まれやすくなりました。たとえ事実無根の内容であっても、その投稿を見たユーザーは企業が悪いと判断してしまうのです。顧客側の発言力が大きくなったことにより、「ネットに悪評を書き込んでやる」というような脅し文句も横行するようになりました。
また、日本の過剰すぎるサービスも影響しています。
他社を超えるサービスを追求した結果、過剰すぎるサービスが増えてしまい、過剰なサービスを当たり前と受け取る顧客も増えてしまいました。これにより、「あの店ではここまでしてくれたのに、なぜこの店ではしないんだ」といった過剰な要求をしてしまうカスハラ行為が横行してしまったのです。
さらに、ハラスメントを問題視する近年の動きも関係しているでしょう。
カスハラ自体、以前から被害はありましたが、昔はカスハラという概念が無かったため、社会問題としてあまり取り上げられませんでした。しかし、時代とともにパワハラやセクハラなどさまざまなハラスメントが問題視されるようになり、新たなハラスメントとしてカスハラが取り上げられるようになりました。これによりカスハラ被害が表面化し、カスハラが増えたように感じるのです。

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カスハラ防止条例とは

カスハラは社会問題化しているにもかかわらず、パワハラやセクハラとは異なり法律や条例などの規制はまだありません。
そこで、カスハラ対策として「カスハラ防止条例」を制定する動きが出てきています。

東京都が全国初の条例制定を目指す

カスハラ防止条例とは、その名の通りカスハラを防ぐ条例であり、顧客や事業者などのカスハラ被害の責任を明確化する条例です。基本的な定義を条例で定め、具体的な行為をガイドラインで示すことで、社会全体の共通理解が期待できます。
東京都は、全国初のカスハラ防止条例の制定を目指しており、2024年4月には専門家を集めてカスハラ対策の議論を行う部会を開催しました。同年5月には都庁で労働団体や経済団体などと会議を行い、カスハラ防止条例の制定に向けた方針を示しています。
条例化に向けて東京都は、客だけでなく行政窓口や学校の利用者もカスハラを行う側の対象者として対策を求めていく方針です。会議ではこれらの内容が了承され、都はこの方針を基に条例案をまとめて2024年秋頃の提出を目指しています。

カスハラとクレームの違い

企業はクレームには誠実に向き合わなければならない一方、カスハラには毅然とした態度で対応する必要があります。
カスハラとクレームを見分ける際は、不当・悪質かどうかがポイントです。

不当・悪質なクレームはカスハラに該当する

そもそもクレームとは、商品やサービスに対して不満や不具合を指摘し、改善や対応を求める意見や要求のことです。クレームは「正当なクレーム」と「不当なクレーム」に分けられ、このうち不当なクレームがカスハラに該当します。
例えば、3,000円で購入したケーキの種類が間違っていた場合、丁寧な口調で返金や交換の希望を申し出る行為は不当なクレームに該当しません。一方、暴言や暴力的な行為を働きながら返金や交換を迫ったり、法外な金銭を要求したりする行為は不当なクレームであり、カスハラに該当します。
常識の範囲内で対応を求めるケースはクレーム、社会通念上の妥当性を大きく欠き、悪質な迷惑行為を働きながら対応を求めるケースはカスハラと判断できるでしょう。

カスハラの見分け方

カスハラを見分ける際は、厚生労働省が企業向けに公開しているマニュアルを参考にしましょう。
ここでは、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策マニュアル」を基に判断基準を解説します。

厚生労働省によるカスハラの定義

カスタマーハラスメント対策マニュアルでは、カスハラを以下のように定義しています。

「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」

つまり、カスハラを見分ける際は顧客の要求内容が妥当かどうか、要求を実現するための手段・態様が相当かどうかがポイントとなります。

出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策マニュアル」

顧客等の要求内容が妥当性を欠く

顧客からの要求内容が妥当性を欠く場合はカスハラだといえるでしょう。
具体例として以下が挙げられます。

● 商品の不具合に対して購入価格を上回る商品への交換を要求する
● 高額な慰謝料を要求する
● 一方的な理由で返品を要求する
● 営業時間外に自宅への訪問を要求する

また、カスハラを見分ける際は事実関係を確認して自社に過失があるかどうか判断することも重要です。
例えば、自社に一切過失が無いのにもかかわらず、顧客が何らかの要求を迫る場合は妥当性を欠いているため、カスハラであると判断できます。

要求を実現するための手段や態様が社会通念上不相当である

たとえ要求の内容が妥当であったとしても、主張を訴えるための手段・態様が社会通念上不相当な場合はカスハラです。
具体例として以下が挙げられます。

● 暴行や傷害など身体的な攻撃
● 暴言や脅迫など精神的な攻撃
● 相手をにらむ、話しながら物を叩くなど威圧的な言動
● 土下座の強要
● 同じ質問を繰り返す、無駄に詳細な説明を求めるなど継続的・執拗な言動
● 不退去や居座りや監禁など拘束的な行動
● 差別的・性的な言動
● 従業員個人への攻撃や要求

カスハラは犯罪になり得る

エスカレートすると犯罪になることもあるカスハラに的確に対応するには、関連する法律の知識を把握しなければなりません。
ここでは、カスハラに関連する刑法について解説します。

脅迫罪

顧客が従業員に対して恐怖を与えた場合は、脅迫罪が成立します。
脅迫罪は「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した」際に成立する犯罪です。
刑法第222条で禁じられており、脅迫した者には2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
以下は脅迫罪に当てはまる表現の具体例です。

● 「お前を殺すぞ」
● 「殴ってやる」
● 「帰れると思うなよ」
● 「ネットにお前の写真をばら撒くぞ」
● 「お前の家を壊してやる」

なお、本人だけでなくその家族に対して脅迫した場合も脅迫罪が成立します。
また、口頭だけでなくメールやネットなどの文章で告知する行為も脅迫罪として認められます。

威力業務妨害罪

顧客の言動が業務に影響を与える場合は、威力業務妨害罪が成立します。
威力業務妨害罪は「威力を用いて人の業務を妨害した」ときに成立する犯罪です。
刑法第234条で禁じられており、業務を妨害した者には3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
威力業務妨害罪に当てはまる行為として、以下が挙げられます。

● 従業員を怒鳴りつける
● 机を蹴ったり叩いたりする
● 迷惑電話を繰り返す
● 大人数で押しかける
● 爆破予告をする

威力業務妨害罪には、犯罪を完遂できなかった場合に問われる未遂罪がありません。つまり、実際に業務が妨害されたかどうかにかかわらず、顧客が業務に支障を来たすような行為を行った時点で威力業務妨害罪が成立します。

強要罪

顧客の脅迫により従業員が不本意な行為をしてしまった場合は、強要罪が成立します。
強要罪は「脅迫、または暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した」際に成立する犯罪です。
刑法第223条で禁じられており、強要した者は3年以下の懲役に処せられます。脅迫罪と似ていますが、要求を受けた従業員の行動が伴っている点で異なります。
以下は強要罪に当てはまる行為の一例です。

● 土下座させる
● 謝罪文を書かせる
● 関係者を辞めさせる

不退去罪

不退去罪とは、住居や敷地から出ていくように要求を受けたにもかかわらず、退去せずそのまま居座り続けたときに成立する犯罪です。
刑法第130条で禁じられており、退去しなかった者は3年以下の懲役または10万円以下の罰金が科せられます。
退去させようとしても反抗する、閉店時間を超えても店に居座り続けるなどが具体例です。ただし、不当な居座り行為かどうかは線引きが難しく、場合によっては不退去罪が成立しないケースもあります。不退去罪が成立するかどうかは、「退去を命じられていること」と「退去に必要な時間が経過していること」がポイントです。退去を命じてすぐに不退去罪が成立するわけではなく、荷物をまとめる時間や衣服を着用する時間など、退去に必要な時間が経過して初めて不退去罪が成立します。

恐喝罪

脅迫したうえで相手の財産を奪った場合は、恐喝罪が成立します。
恐喝罪は「暴行または脅迫を用いて、相手方を畏怖させ、財物または財産上不法の利益を交付させた」際に成立する犯罪です。
刑法第249条第1項で禁じられており、該当する者は10年以下の懲役に処せられます。脅迫罪と似ていますが、金品の要求がある点で異なります。
以下は恐喝罪に当てはまる言動の具体例です。

● 「慰謝料50万円払え、払わないと殴るぞ」
● 「殺されたくないならあの5万円の商品をよこせ」

恐喝罪が成立するかどうかは、要求が常識の範囲を超えているかどうかが重要になります。たとえ顧客の態度や口調が荒々しかったとしても、返金保証の範囲内で金銭を要求した場合は恐喝罪の対象になりません。
なお、暴行や脅迫を受けて金銭を要求されても実際に支払わなかったケースは恐喝罪ではなく恐喝未遂罪という別の罪に該当します。

暴行罪

従業員に対して暴行した場合は、暴行罪が成立します。
刑法第208条で禁じられており、暴行を加えた者には2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
以下は暴行罪に当てはまる行為の一例です。

● 身体を殴る・蹴る
● 胸や肩を強く押す
● 髪の毛を引っ張る・蹴る
● 羽交い絞めにする
● 服の襟首やネクタイを掴んで引っ張る
● 唾や水や酒などをかける
● 石を投げつける
● 耳元で大声を出す

暴行罪は相手の体に接触したかどうかにかかわらず、相手がケガをする恐れのある攻撃をした時点で成立します。そのため、水や石が従業員に当たらなかったとしても当てようとした時点で罪に問われます。

傷害罪

顧客の行動により従業員にケガをさせた場合は、傷害罪が成立します。
傷害罪は、その名の通り「人の身体に傷害を負わせた」ときに成立する犯罪です。
刑法第204条で禁じられており、傷害を負わせた者には15年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。暴行罪と似ていますが、暴行によって実際にケガをしている点で異なります。
以下は傷害罪に当てはまる行為の一例です。

● 足を蹴って打撲を負わせる
● 棒で殴り骨折させる
● 刃物を振り回して切り傷を負わせる
● 執拗に怒鳴りつけてうつ病を患わせる

侮辱罪

侮辱罪は「事実の摘示をせず、公然と人を侮辱した」場合に成立する犯罪です。
刑法第231条で禁じられており、侮辱した者は「一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」と定められています。事実の摘示とは、真実かどうかにかかわらず具体的な事実内容を示すことです。
侮辱罪に当てはまる言葉として、「バカ」「アホ」「ゴミ」「ブス」などが挙げられます。こうした言葉を使ってインターネット上や他の客がいる前で従業員が侮辱されると、侮辱罪に問えるでしょう。また、企業に対して「ブラック企業」という表現が使われた場合も侮辱罪に問えます。

名誉毀損罪

特定の人物や会社の社会的評価を下げる内容を不特定多数に公表した場合は、名誉棄損罪が成立します。
名誉棄損罪は「事実を摘示して、公然と他人の社会的評価を低下させた」ときに成立する犯罪です。
刑法第230条第1項で禁じられており、名誉を毀損した者には3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金が科せられます。侮辱罪と似ていますが、具体的な事実内容を示している点で異なります。
以下は名誉棄損に当てはまる内容の具体例です。

● 「あの従業員は客に暴行を働いている」
● 「あの従業員は会社のお金を横領している」
● 「あの会社は食品偽装を行っている」

ただし、企業の不正を告発する場合は名誉毀損罪の対象になりません。

カスハラの事例

ここでは、実際のカスハラの事例を紹介します。
以下のような悪質極まりない迷惑行為が近年相次いで発生しているため、企業はカスハラに対して厳正に対処しなければなりません。

飲食店での迷惑行為とその動画の拡散

回転寿司チェーン店では、2023年1月に湯呑や醤油差しの注ぎ口を舐めるなどの迷惑動画が拡散される事件が発生しました。この事件の影響で回転寿司店のイメージが低下し、運営会社の時価総額は一時約170億円近く減少しました。さらに他の回転寿司チェーン店でも同様の迷惑動画が撮影されたこともあり、現在では回転レーンでの提供を行わない企業が増え、サービスに大きな影響を与えています。
また、うどんチェーン店では、同年1月に共用のレンゲで無料サービスの天かすを口に直接入れる迷惑動画が拡散される事件が発生しました。この事件の影響により、衛生面に不安を感じる客向けに、天かすやとろろ昆布を個別包装で提供すると発表しており、迷惑行為の対策に追われています。
さらに、牛丼チェーン店では、2022年9月に共用の容器に入った紅しょうがを自身の箸でかき込むように食べる迷惑動画が拡散される事件が発生します。この事件により運営側は、該当店舗の閉鎖や紅しょうがの交換や容器の洗浄、他の調味料入れの交換・洗浄などの対応に追われました。

乗客が暴言など悪質行為、鉄道や航空におけるカスハラ

鉄道・航空業界でも乗客の暴言や悪質行為の事例が後を絶ちません。
国土交通省の調査によると、2022年の鉄道の駅員へのカスハラは1124件に上りました。また、全日空と日本航空では、2023年度にそれぞれ300件以上のカスハラが確認されています。ある駅員は客に特急券の確認を求めたところ、「お前俺が特急券を持っていないと思っているだろ、死ね、二度と利用しない」と暴言を吐かれたといいます。別の駅員は線路側に身を乗り出して撮影している男子高校生に注意したところ、「ふざけんじゃねえ」と逆上され罵声を浴びせられながら威嚇されました。
他にも、乗客に注文された冷たいお茶を提供したところ、「俺はジュースが欲しかったんだ」と怒られた客室乗務員がいます。客室乗務員は謝罪して別の飲み物を勧めましたが、乗客は「ふざけるな」と客室乗務員に向かってコップを投げつけたのです。
悪質なカスハラによって従業員に大きな負担がかかることで、休職や退職を余儀なくされているケースが発生しており、鉄道・航空業界はカスハラ対策に追われています。

カスタマーサポートへ長時間電話による嫌がらせ

電話越しに顧客と対応するカスタマーサポートは、顧客が顔や名前を明かしたり窓口に赴いたりする必要が無いため、カスハラが多く発生する傾向にあります。
あるカスタマーサポートでは定期的に連絡する男性がおり、電話で毎回「あの商品は○○を直した方がいい」「○○は発売しない方がいい」と意見を言っていました。こうした内容の電話があまりにも多いうえに対応も長時間になるため、何度も繰り返し対応していた担当者は気分が落ち込んでしまったそうです。
また、別のカスタマーサポートでは「商品が壊れたので金を返せ」という脅迫まがいの言葉で客から電話がかかってきました。話を聞いてみると他社の商品だったため、スタッフはそのことを伝えましたが、客は納得せず逆に長時間にわたって暴言を聞かされたといいます。
さらに、あるクリニックのカスタマーサポートでは客から「治療した箇所に違和感があるが来院する時間が無いので薬を無料で郵送してほしい」という要求を受けました。診察せずに薬を処方することは禁止されているためスタッフは断りましたが、客は納得せず押し問答が2時間も続いたといいます。
カスタマーサポートでは、スタッフが長時間電話による嫌がらせや過剰な要求や脅迫まがいの暴言を受けるケースが後を絶たず、スタッフの心身への影響は計り知れません。
トビラシステムズ株式会社の調査によると、カスハラを受けたスタッフの66.1%が「怒りや不満、不安を感じた」と回答しています。また、「仕事に対する意欲が減退した」と回答したスタッフは49.8%、「仕事に恐怖を感じるようになった」と回答したスタッフは33.9%もいました。
実際に、約2割のスタッフは心身の影響として「眠れなくなった」「通院や服薬をした」と回答しており、カスタマーサポートではカスハラ対策が急務となっています。

参考:トビラシステムズ株式会社「電話によるカスタマーハラスメントの経験」に関する実態調査

カスハラで企業が受けるダメージ

ここでは、カスハラによって企業が受けるダメージを解説します。
カスハラを受けると、従業員や業績に悪影響を及ぼすだけでなく、企業側が加害者となる場合もあるため注意です。

安全配慮義務に違反する恐れがある

労働契約法により、企業は従業員に対して生命・身体などの安全を確保しながら労働できるように配慮をしなければなりません。これを「安全配慮義務」といいます。
もし、カスハラ対策を怠ったことで従業員が心身にダメージを負ってしまった場合、安全配慮義務違反により従業員から損害賠償請求を受ける恐れがあります。実際にある病院では、勤めていた看護師が業務中に患者から暴力を振るわれて休職し、最終的に病院から休職期間の満了を理由に看護師は解雇されました。看護師はこの事故に対して、病院に安全配慮義務違反があるとして損害賠償を請求します。実はこの病院では、意識が混乱している患者からの暴力が日常的に起きていたにもかかわらず、看護師を守る具体的な措置を一切講じていなかったのです。このことから裁判所は、病院の安全配慮義務違反を認め、看護師に対して約1,900万円の賠償を命じました。
企業はカスハラの被害者だけでなく、従業員に対する加害者の一人にもなり得ることを理解して、カスハラ対策を進めていかなければなりません。

従業員が心身に不調をきたす

カスハラを受ける従業員には強いストレスがかかります。
過剰な要求や強要や暴言などのカスハラを日常的に受けると、自己肯定感や仕事へのモチベーションが大きく下がります。最終的に従業員の体調不良や精神疾患を招き、休職や離職につながってしまうでしょう。
また、カスハラを受けた従業員本人だけでなく、カスハラを目にした他の従業員にも影響を与える恐れがあります。たとえ本人がカスハラを受けていなかったとしても、カスハラを受けるかもしれない職場は従業員にとって大きなストレスです。
カスハラによって休職・離職した従業員が発生した場合、他の従業員は仕事に対して恐怖を抱き、心身に不調を来たしてしまうことも考えられます。

悪評が広がることで業績低下につながる

近年、ネットやSNSに虚偽の情報や悪評を書き込んで企業へダメージを与えるカスハラが増えています。たとえ事実無根であっても、ネットやSNS上で悪評が広まると顧客からのイメージが下がるため、業績が低下してしまうでしょう。迷惑動画が拡散された場合も、サービスの信頼を大きく損なってしまうため、業績低下につながります。
また、飲食店やコンビニなどの店員が過剰な要求や暴言などのカスハラを受けている場合、現場に居合わせた他の顧客は適切なサービスが受けられません。カスハラの現場に遭遇したことで気分を害する恐れもあるため、顧客が減少して売り上げが下がってしまうでしょう。

関連記事:レピュテーションリスクとは?意味や原因、事例を分かりやすく解説

企業がとるべきカスハラへの対応

カスハラから従業員を守るためには、カスハラへの対策や対応が必要です。
ここでは、企業が取るべきカスハラへの対応を解説します。

カスハラに屈しない企業姿勢を示す

カスハラを行う顧客に対して企業が屈してしまうと、要求がエスカレートする恐れがあります。
そのため、カスハラと思われる顧客に対しては毅然と対応することが重要です。
公式に「迷惑行為は顧客であっても許さない」「不当な要求には屈しない」などのメッセージを発信すると、カスハラの抑止が期待できます。
また、企業としての考え方が顧客至上主義に偏り過ぎていないかも確認しましょう。
顧客第一の行動を取り過ぎると、悪質な顧客から「無茶な要求でも従うだろう」と思われる恐れがあります。
そのため、日頃から顧客に対して対等な関係であると意識させるような接し方をしていくことが大切です。

カスハラを受けた従業員をケアする

カスハラを未然に防ぐことはもちろん、カスハラ被害を受けた従業員のケアも欠かせません。
カスハラによって心身が傷ついた従業員を放置してしまうと、企業の責任問題になります。そのため、従業員がカスハラ被害を受けたら、責任者から連絡を入れて体調不良や出社への不安が無いか確認することが大切です。もし不調があると訴える場合は、医療機関への受診を勧めたり休職させたりしましょう。特に、精神的にダメージを負っているのであれば、産業医や産業カウンセラーなどの専門家にメンタルケアを依頼し、従業員にカウンセリングを受けられる機会を作る必要があります。

相談窓口を設ける

従業員の相談に応じ、適切に対応するための相談窓口を設けることも重要です。社内に相談窓口があれば、従業員一人でカスハラ被害を抱え込まずに済みます。窓口は、一本化するとカスハラ事例が蓄積するため、ノウハウを形成できるでしょう。
また、相談窓口を設ける際は、専門医や人事労務部門や法務部門などと連携できる体制を整えることも必要です。まずは産業医や弁護士などのプロと相談し、どのように対応していくのか決めましょう。

相談窓口を設けた後は以下の内容を社内に周知して相談しやすい環境を作ります。

● 対応する相談内容
● 相談対応者の紹介
● 対応や解決の流れ
● 個人情報の扱い方
● 相談による不利益は無いこと

従業員の中には、「相談したことで社内に噂が広まるのでは」「窓口に相談したらキャリアに影響するかも」と考える方も少なくありません。そのため、個人情報保護の徹底や相談による不利益が生じないことを明言する必要があります。

関連記事:セカンドハラスメントとは?原因や二次被害を防ぐ対策について解説

対応マニュアルを用意する

カスハラへの対応マニュアルを用意すると、従業員への被害を防止できます。また、カスハラへの適切な対応を共有すれば、従業員の心身への影響も軽減できるでしょう。
対応マニュアルを作成する際は、以下の内容を記載することがポイントです。

● 対応マニュアルの作成目的
対応マニュアルの作成目的を導入部分に記載すると、従業員が目指すべき姿が伝わりやすくなります。作成目的には、カスハラの発生を抑える、従業員全員がカスハラに対応できるようにする、カスハラの原因を無くすなどが挙げられます。

● カスハラの定義
カスハラの判断基準は企業や業界によって異なるため、自社においてどのような事案をカスハラと判断するのか定義する必要があります。会社として本格的に対応すべき事案なのか、現場で片づけてもよいトラブルなのかを明確にして、従業員だけで解決を急ぐことがないよう定義しなければなりません。
現場で対応する従業員の判断を尊重できるように、できる限り明確に定義しましょう。

● 対応の手順やトークスクリプト
謝罪や事実確認はどのタイミングか、カスハラと判断した場合はどのように対応するかなど、対応の手順を記載します。従業員が取るべき対応の手順を示すことで、カスハラが発生した際にスムーズに対応できるようになります。
また、カスタマーサポートのように電話で顧客と応対する場合は、トークスクリプトと呼ばれる対応方法を示した台本の用意も必要です。

● 過去のカスハラ事例
過去のカスハラ事例を記載して、過去の対応ミスを繰り返さないようにすることも重要です。
カスハラの対応実績が無ければ、同業他社の事例を参考にして記載しましょう。

● 警察への連絡について
緊急性が高いカスハラであれば、警察への通報も視野に入れなければなりません。
近くの交番・警察署の連絡先や、状況説明の例文や通報の判断基準などを記載しておくと、万が一の際にも冷静に対応できます。

記録をとっておく

カスハラ対策には、記録を取ることが有効です。
動画や音声やメモなどで対応を記録すると、トラブルになった際に悪質な要求や暴言の証拠として提出できます。また、記録を取る姿勢を見せれば、相手がひるんで事態が収まる可能性もあります。さらに、対応が適切だったかを検証し、対応マニュアルの更新につなげて対策をより強化することも可能です。
記録を取る際は、「お客様のご意見をしっかり理解するため」「ご意見を誤って認識しないため」などと一言説明すると、相手を納得させやすくなります。従業員に常にメモを持ち歩かせたり録音する機材を用意したりして、いつでも記録できる準備を整えましょう。
また、いつどこで誰がどんな経緯で何をしたのか正確に報告できるように、日常業務でもクレーム報告を書くことが大切です。
なお、無断で録音・録画した記録は裁判になった際に証拠能力が無いと判断される恐れがあるため注意です。

社内周知や研修を行う

顧客と対応する従業員は、いつカスハラに遭遇するかわからないため、全ての従業員が適切に対応できるようにカスハラ対応の研修を行い、社内に周知させる必要があります。
以下はカスハラ対応の研修内容の一例です。

● カスハラの定義や該当する行為の例や正当なクレームとの違い
● カスハラの判断基準や事例
● パターン別の対処法
● 接し方のポイント
● 対応マニュアルや相談窓口の周知
● 記録の作成方法
● カスハラに関連する刑法や法的手段
● その他注意点

弁護士や警察へ連絡する

度を超えた悪質なカスハラの場合は、社内だけでは対応しきれない恐れがあるため、危険を感じた際はすぐに警察へ通報して弁護士へ相談しましょう。特に、従業員への脅迫や暴行は法的措置が有効です。警察や弁護士に音声や書面などの証拠を提出すれば、裁判において有利になります。
また、弁護士に依頼して代理で交渉してもらうことも効果的です。弁護士から客の言動に法的な問題があると告げられれば、客の態度が軟化する可能性が高く、不利な言動につけ込まれるリスクも減らせます。

企業のカスハラに対する方針発表例

ここでは、実際に企業が発表しているカスハラへの方針を紹介します。
企業が発表しているカスハラへの方針を参考にして、自社のカスハラへの対応方針を策定しましょう。

鉄道(JR西日本、東日本)

2024年4月にJR東日本は「カスタマーハラスメントに対する方針」を、同年5月にはJR西日本が「カスタマーハラスメントに対する基本方針」を発表しました。
JR東日本が打ち出した方針では、カスハラを行う客に対しては一切対応しないと明言しています。また、悪質な行為が認められる場合は警察や弁護士などしかるべき機関に相談し、厳正に対処するとのことです。
この方針により、乗客の対応にあたる従業員が上司とともに組織的に対応しやすくなり、安心して働けるようになるなど一定の効果が見られました。

JR西日本が打ち出した方針では、カスハラを行う客に対しての対応の中止や法的措置を含める厳正な対応などJR東日本と同様に毅然とした対応を見せています。また、従業員が専門の弁護士に相談できる仕組みを整備し、カスハラへの対応方法や手順などを定めて教育する方針を定めました。

航空(全日空、日本航空、ソラシドエア、スターフライヤー)

2024年6月、全日空と日本航空はカスハラに対する方針を共同で定めました。
方針では、カスハラに該当する行為を暴行や誹謗中傷など9項目に分類し、こうした行為に毅然とした対応を取ると発表しています。状況によっては、警察への通報や搭乗・利用の拒否や誓約書の提出など、しかるべき対応を取るとのことです。
また、ソラシドエアでは同年7月にカスハラに対する方針を策定したと発表しました。
方針では、カスハラの定義を「顧客や第三者からの優越的な立場を利用した、航空法や関連する法規に反する行為により、従業員の就業環境が害されること」と定めています。
カスハラに該当する行為が生じた場合は利用や顧客対応を断り、悪質な言動や犯罪行為には警察への通報や弁護士の助言により厳正に対処するとのことです。
さらに、スターフライヤーでは同年7月にカスハラへの対応方針を定めました。
対応方針では、全日空・日本航空と同様にカスハラに該当する行為を9項目に分類し、これらは「従業員の就業環境を害するものだ」としています。
カスハラに該当する行為が生じた際は注意・警告を行い、弁護士への相談や警察への通報を行って今後のサービス提供を拒否するなど毅然とした対応を取るとのことです。

百貨店(高島屋)

2024年7月、高島屋はカスハラに対する基本方針を取りまとめました。
基本方針では、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を基に、カスハラを定義しています。合理的な解決に向け、理性的な話し合いを行ってより良い関係の構築に努める一方、カスハラと判断した際は対応を打ち切り、来店を断る場合もあるとしています。悪質と判断したら、警察や外部の専門家に連絡のうえ、適切に対処するとのことです。
また、社内対応ではカスハラに対する知識や対処方法の研修を実施し、カスハラ発生時の対応体制を構築していると発表しています。警察や外部の専門家との連携やカスハラに対する相談窓口の設置なども行っており、万全の体制でカスハラに対処する姿勢です。

まとめ

カスハラは脅迫罪や暴行罪などの犯罪になり得る悪質な迷惑行為です。
企業の約16%がカスハラ被害にあっており、近年ではカスハラ防止条例を策定する動きもあります。カスハラを受けると、従業員が心身に不調を来たす、悪評による業績低下の恐れもあります。
従業員や企業価値を守るためには、対応マニュアルの用意や相談窓口の設置など事前にカスハラへの対応策を準備しておくことが必要不可欠です。

監修者

古宮 大志(こみや だいし)

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長

大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、クライアントのオウンドメディアの構築・運用支援やマーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。Webマーケティングはもちろん、SEOやデジタル技術の知見など、あらゆる分野に精通し、日々情報のアップデートに邁進している。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

執筆者

『MarkeTRUNK』編集部(マーケトランクへんしゅうぶ)

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