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マーケティングにおける視覚デザインの活用-海外論文の知見から―【上智大学 外川拓准教授 連載 第3回】

2024.8.29
読了まで約 8

「感覚マーケティング」の研究者で、上智大学 経済学部経営学科の外川拓准教授が執筆する本シリーズも今回で最終回となる。本記事では、最新のマーケティング研究から得られた知見をもとに、視覚デザインが顧客の購買意欲やブランド評価にどのような影響を与えるのかを深く掘り下げる。

本サイトでも人気記事として注目されている「黄金比」や、シンプルさといった要素が、顧客心理にどのような影響をもたらすのか、またブランドロゴにおいてはどのような傾向が見られるのか、具体的な事例とともに解説する。ブランディングやクリエイティブに関わるマーケターはぜひ参考にしてほしい。

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・マーケティングにおける視覚デザインの活用-海外論文の知見から―【上智大学 外川拓准教授 連載 第3回】(本記事)

はじめに

“Good design is good business.” これは、IBMで初代社長を務めたトーマス・J・ワトソン氏が述べたもので、多くのビジネス・パーソンにデザインの重要性を印象付けた。

英語のdesignには、「設計」や「仕組みづくり」のニュアンスも含まれるが、いわゆる「外観」や「見た目」の意味ももちろん含まれる。どのような視覚デザインを採用するかは、製品本体だけでなく、パッケージや包装、広告、ダイレクトメールなどの販促ツール、ブランド・ロゴ、ウェブサイト、アバターなど、様々なツールにおいて重要な意思決定となる。

視覚デザインは、いうまでもなく、アートとしての性格が強いものである。優れた視覚デザインを生み出すうえで、マーケターやデザイナーの美的センスや技量が重要なのはいうまでもない。一方で、視覚デザインは、サイエンスとしての顔も併せ持つ。マーケティングの研究では、実験や二次データ解析などの科学的手法を用いて、顧客の行動に影響を与える視覚デザインが明らかにされてきた。

本記事では、様々な研究成果を見ながら、顧客を惹きつけたり、行動を促したりする視覚デザインの傾向を紹介する。デザイナーなど芸術分野に造詣の深い読者にとっては、直感的に体得している「常識」と思われることも多いかもしれない。ただ、この記事で紹介する研究結果は、いずれも科学的な分析によって発見され、定評のある学術誌に発表されたものばかりである。自身の直感の「裏付け」や「答え合わせ」として読んでいただければ幸いである。

黄金比の形状は売上を増加させるか?

最近の研究では、マーケティングにおける見た目の重要性が次々と明らかになっている。例えば、自動車市場において、車体の美しさは売上を30%以上増加させる力がある(Burnap et al., 2023)。同じ材料と調理法が用いられていても、食器の見た目や料理の盛り付け次第で美味しさが変わってくる(Motoki et al., 2023)。

では、顧客を惹きつける視覚デザインとは具体的にどのようなものだろうか。
代表的な要因の一つが黄金比である。人は、1:1.62という縦横比の長方形に対して、他の比率の四角形に比べて、美しさを感じたり、好ましく評価したりする。この比率はパルテノン神殿などの建築物からモナリザなどの芸術作品まで応用されているといわれている(黄金比の詳細は、過去の記事も参照されたい)。

関連記事:黄金比ってなに?デザインを思考する上で欠かせない概念を徹底解説!

黄金比は、市場シェアなど、重要なマーケティング成果にも影響を及ぼすことが明らかにされている。プリヤ・ラグビール教授(ニューヨーク大学)らは、石鹸、洗剤、シリアル、クッキーの市場シェア8~10位の製品を対象とし、パッケージの縦横比と市場シェアとの関係について統計的に分析した(Raghubir & Greenleaf, 2006)。日用品のなかでも、石鹸と衣料用洗剤は比較的慎重に購入されるカテゴリー、シリアルとクッキーはそうでないカテゴリーの代表として選ばれている。分析の結果、特に慎重に購入される製品群において、黄金比と市場シェアとの有意な関係が見いだされた。

黄金比が購買意欲を高める効果は、他の実験でも確認されている。実験では、コンサートの案内状を、(A)正方形(1:1)、(B)黄金比でない長方形(1:1.38)、(C)黄金比の長方形(1:1.62)に印刷し(図1)、参加者に示した。その際、正方形のAを参照点とし、Aと比べたときのBを評価するタスク、Aと比べたときのCを評価するタスクを与え、BやCのコンサートに対する参加意向を7点満点で尋ねた。その結果、黄金比でないBに比べ、黄金比に従ったCのほうが、高い参加意向が示され、その差は統計的に有意であった。
したがって、製品特性によって効果に違いはあるものの、パッケージや販促ツールをデザインする際に黄金比を意識することは、顧客を惹きつけ購買を促すうえで有効といえそうである。

画像:実験で使用された案内状の縦横比

出典:Raghubir and Greenleaf (2006)をもとに筆者作成

図1 実験で使用された案内状の縦横比

対称性とブランドとの相性

対称性も重要な要素である。一般的に、人は左右対称な形状に対して美しさを感じるといわれており、芸術や建築物などでも古くからこの原理が用いられてきた。ただし、マーケティングにおいて注意しなければならないのは、「美しい」と感じるものが常に好まれるとは限らない点である。

ジョナサン・ラファレリ講師(ロンドン市立大学)らの研究グループは、ロゴの対称性とブランド特性との適合性効果に注目した(Luffarelli et al., 2019)。身の回りのロゴを見渡してみると、マクドナルドのMをかたどった、いわゆるゴールデンアーチのように左右対称のものもあれば、ナイキのスウォーシュのように左右非対称のロゴもある(図2)。対称的なロゴと非対称的なロゴ、どちらを使うべきかはブランドの特性による、というのが彼らの研究の発見である。

人には「タフ」、「誠実」といった人格があるように、ブランドにも人格のような特性があるといわれている。この考え方はブランド・パーソナリティと呼ばれ、一般的に「誠実」、「刺激的」、「有能」、「洗練」、「頑丈」という6つのパーソナリティ次元が提唱されている(Aaker, 1997)。ラファレリ氏らの研究では、ブランドが「誠実」や「有能」と認知されている場合、左右対称のロゴがブランド評価を高める一方で、「刺激的」と認知されている場合は、左右非対称のロゴがブランド評価を高めることが明らかになった(図2)。

ヤング・アンド・ルビカム社のブランド価値ランキング上位100ブランドを分析したところ、非対称的なロゴ形状と刺激的というパーソナリティが一致したブランドは、ブランド価値が高く算定されており、その傾向は統計的に有意であった。類似した知見は、他の研究でも報告されている(Bajaj & Bod, 2018)。

そのため、ブランド・ロゴを選定する際には、単にそれが美しいか否かという視点だけではなく、自社のブランド特性にフィットしているかどうかという視点を考慮することが重要といえる。

画像:対称的/非対称的ロゴの例

出典:Luffarelli et al. (2019)をもとに筆者作成

図2 対称的/非対称的ロゴの例

関連記事:ロゴ作成初心者必見!デザインの考え方やコツを解説

シンプル・イズ・ベストは本当か?

「デザインは引き算だ」、あるいは「シンプル・イズ・ベスト」といった教えは、読者の皆さんも一度は耳にしたことがあるだろう。確かに、あれもこれもと詰め込まれたデザインよりも、すっきりとしたデザインのほうが美しく感じるのは、直感的にもうなずける。では、本当にデザインにおいてシンプルに勝るものはないのだろうか。最近報告された、いくつかの研究結果を見てみたい。

ラン・タン講師(テキサス・クリスチャン大学)らの研究グループは、米国のスーパーマーケットの売上データをもとに、パッケージ・デザインのシンプルさと支払金額との関係を分析した(Ton et al., 2023)。シャンプー、洗剤、クラッカー、シリアルの製品画像1,353点と、それぞれのブランド名、販売価格、製品重量を分析した結果、パッケージ・デザインのシンプルさと、当該製品の1オンス当たり金額にはプラスの関係があることがわかった。このことは、シンプルなパッケージの製品に対して、顧客がより多くの金額を支払ってもよいと考えていることを間接的に示唆している。

さらに、別の分析では、「シンプルなデザイン→支払意思額の増加」という効果がなぜ生じるのか、というメカニズムについても検討されている。分析結果によると、食品や日用品において、シンプルなデザインは、含まれる成分が少ないことを象徴的に意味し、「ピュアな製品だ」という連想をもたらす。ピュアさは一般的に高い価値をもっていると思われており、結果的に、支払意思額の向上をもたらしたというメカニズムが明らかになった(図3)。

一方、彼女らの研究によると、この効果もブランドのタイプや顧客のマインドによって異なってくる。具体的には、図3の効果は、プライベート・ブランドの場合には生じない。また、非健康的なもの(例えば、ジャンク・フード)を求めているときには、むしろシンプルでない複雑なパッケージ・デザインが支払意思額を高める。

画像:シンプルなパッケージ・デザインの効果

出典:Ton et al. (2023)をもとに筆者作成

図3 シンプルなパッケージ・デザインの効果

最近の研究では、デザインのシンプルさから、顧客は製造コストを推論していることも明らかにされている(Min et al., in press)。ローレン・ミン講師(カンザス大学)らの研究によると、シンプルなデザインの製品は、「低コストで製造されている」という連想を引き起こし、支払意思額を低下させることを明らかにしている。これは、先ほど紹介した図3の効果とは矛盾する結果にみえる。

なぜこのような対立する研究結果が発見されたのか、理由は断定できない。ただ、いくつかの可能性は考えられる。例えば、図3の効果は食品や洗剤のパッケージを対象としている。一方で、後者(ミン氏ら)の研究は、シャツ、スニーカー、バックパックなど、ファッション性が求められる製品の外観を対象としている。シンプルなデザインを目にしたとき、「ピュアな製品だ」と感じるか、「低コストで作られた製品だ」と感じるかは、こうした製品特性によって異なる可能性がある。

ベネフィットを伝達する視覚デザイン

ブランドとは、何らかのベネフィットを顧客に約束するものである。提供するベネフィットには様々なものがあるが、マーケティングの研究では長らく「快楽/実用」という軸が注目されてきた。

例えば、同じ菓子製品でも、美味しさという快楽的なベネフィットを提供しているブランドもあれば、栄養補給という実用的ベネフィットを主たるベネフィットとするブランドもある。近年、花王では、シャンプー・ブランドの主な提供ベネフィットを、洗浄力などをベースとした実用性から、優しさや躍動などの感情をベースとした快楽性へとシフトし、新ブランドの出荷本数が計画比9倍を達成した(砂村, 2024)。実用/快楽、どちらのベネフィットを伝達するかは、ブランドの命運をわける重要なポイントといえる。

ベネフィットを伝達するうえで、有用なツールが視覚デザインである。最近の研究では、実用/快楽、それぞれのベネフィットを伝達するために最適なデザイン特性が明らかにされている。

フェリペ・アフォンゾ講師(オクラホマ州立大学)らの研究グループは、パッケージや製品のデザインを、「構造的」と「非構造的」に大別した(Affonso and Janiszewski, 2023)。構造的デザインとは、対称性が高く、バランスが取れ、共通の規則的なパターンが連なったものを指す。「整然としたデザイン」と言い換えることができるかもしれない。これに対して、非構造的なデザインとは、非対称的かつアンバランスで、異なる要素どうしが不規則に連なるものを指し、「ランダム、あるいは雑然としたデザイン」とも呼べる。

この研究では、複数のブランド価値指標(例えば、カンターミルウォードブラウン社が提供するBrandZトップ100)をもとに、各ブランドのベネフィットと、そのロゴ・デザインが分析された。その結果、実用的なポジショニングのブランドは構造的、快楽的なポジショニングのブランドは非構造的なデザインのロゴが用いられているとき、ブランド価値が高まる傾向が示された(図4)。成果指標として、ブランド価値の代わりに製品評価、製品選択などに注目した実験でも、同様の結果が得られている。

ブランドが提供するベネフィットを伝達するうえで、視覚デザインの構造性は一つのカギになるだろう。

画像:視覚デザインによるベネフィットの伝達効果

出典:Affonso and Janiszewski (2023), Figure 1を再構成して作成

図4 視覚デザインによるベネフィットの伝達効果

***

連載の最終回となる本記事では、視覚デザインの効果に注目し、最新の研究知見を中心にいくつかの法則や原理を紹介してきた。要点をまとめると、以下のとおりである。

1. 黄金比に即した形状の製品やパッケージは購買を促しやすい
2. 「刺激的な」ブランドはあえて非対称的なロゴ・デザインを用いることが効果的である
3. シンプルなデザインは、顧客の支払意思額を高める効果があること(ただし、異なる見解の研究もある)
4. 視覚デザインの構造性によって快楽/実用といったブランド・ベネフィットを伝達できる

マーケティング・リサーチやエビデンスの重要性は頭ではわかっていても、実際に製品、パッケージ、広告、ロゴなどのデザインを決める際、意思決定者のセンスや好みが影響することは珍しくないだろう。場合によっては、声の大きなメンバーが意思決定を左右することもあるかもしれない。

しかし、冒頭でも述べたとおり、デザインにはサイエンスとしての性格もある。どのようなデザインで進めるべきかという判断に迷ったとき、こうした科学的知見は一つの拠り所になるだろう。

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参考文献
Aaker, J. L. (1997). Dimensions of brand personality. Journal of Marketing Research, 34(3), 347-356.
● Affonso, F. M., & Janiszewski, C. (2023). Marketing by design: The influence of perceptual structure on brand performance. Journal of Marketing, 87(5), 736-754.
● Bajaj, A., & Bond, S. D. (2018). Beyond beauty: Design symmetry and brand personality. Journal of Consumer Psychology, 28(1), 77-98.
● Burnap, A., Hauser, J. R., & Timoshenko, A. (2023). Product aesthetic design: A machine learning augmentation. Marketing Science, 42(6), 1029-1056.
● Luffarelli, J., Stamatogiannakis, A., & Yang, H. (2019). The visual asymmetry effect: An interplay of logo design and brand personality on brand equity. Journal of Marketing Research, 56(1), 89-103.
● Min, L., Liu, P. J., & Anderson, C. L. (in press). The Visual Complexity= Higher Production Cost Lay Belief. Journal of Consumer Research.
● Motoki, K., Spence, C., & Velasco, C. (2023). When visual cues influence taste/flavour perception: A systematic review. Food Quality and Preference, 111, 104996.
● Raghubir, P., & Greenleaf, E. A. (2006). Ratios in proportion: What should the shape of the package be?. Journal of Marketing, 70(2), 95-107.
● 砂村 風香 (2024), 花王の高価格シャンプーが計画比9倍 「機能より情緒」マーケ大転換, 日経クロストレンド(https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/01467/)。
● Ton, L. A. N., Smith, R. K., & Sevilla, J. (2024). Symbolically simple: How simple packaging design influences willingness to pay for consumable products. Journal of Marketing, 88(2), 121-140.

執筆者

外川 拓

外川 拓(とがわ たく)

上智大学経済学部准教授。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得。博士(商学)。千葉商科大学商経学部専任講師、准教授を経て、2020年より現職。 専門はマーケティング論および消費者行動論。Journal of Consumer PsychologyやJournal of Retailingなどの学術誌に論文を発表。 近著に『デジタル時代のブランド戦略』(分担執筆、2023年、有斐閣)、『マーケティングの力:最重要概念・理論枠組み集』(分担執筆、2023年、有斐閣)。 訳書に『感覚マーケティング』(共訳、2017年、有斐閣)。 日本マーケティング学会マーケティングジャーナル2023奨励賞などを受賞。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

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