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日本アドバタイザーズ協会緊急提言の意味する事 なりすまし広告問題について【デジタル広告の現状と課題 長澤秀行 連載第1回】

2024.6.20
読了まで約 8

生成AIをはじめとした最新の手法や技術が次々に導入され、急速に進化しているデジタル広告。その一方で、なりすまし広告や詐欺広告の横行といった深刻な課題も浮き彫りになってきた。

本連載では、クオリティメディアコンソーシアム事務局長で株式会社BI.Garage 特命顧問を務める長澤秀行氏が、インターネット広告の黎明期から現代に至るまでの進化を俯瞰し、現代におけるデジタル広告の問題点と、本来あるべき理想形について解説する。

本稿を通じて、なぜデジタル広告はここまで嫌われてしまったのか、なぜ詐欺広告問題が勃発したのか、そして本質的なデジタル広告の要件とは一体何なのか?を探っていこう。

始めに:デジタル広告の信頼回復と未来への展望

「パーミションマーケティング」(1999、セス・ゴーディン著作より)はインターネットメディア誕生初期のネットマーケティングの革新性を表した言葉である。セス・ゴーディン氏は当時の勃興するネットメディアのパイオニア、米国Yahoo!の副社長経験者。テレビ他当時のメインであったマスメディアを利用したマーケティングを、ユーザー本人の同意を取らず一方的に大量の広告情報をシャワーのように浴びせ続ける「土足マーケティング」としてその傲慢さを指弾した。そして双方向メディア=インターネットメディアの登場でユーザーに丁寧に事前同意(パーミション)を取り、ワンツーワンで広告情報を送るユーザーフレンドリーなマーケティングがネットの登場で可能になったとするインターネットのマーケティング活用が注目され始めた黎明期の最新マーケティングロジックであった。

その時、電通でデジタルメディアの担当を始めた自分はこのテーマで社内勉強会を同著の訳者を招いて開いたが、あのマスメディアマーケティングの総本山の電通ホールが満員になった記憶が蘇る。インターネットの登場はそれだけ革新的だと捉えられていた2000年前後のマーケティング環境であった。

それから25年、インターネット広告手法の評価は激変していく。

ターゲティング広告配信の自動化により、ネット広告がユーザーの受容性心理を無視した土足マーケティングに入り込んでしまったネットマーケティングの倫理性の欠如が社会的問題化し始めている。なりすまし広告等に象徴される「泥棒マーケティング」である。

生成AIで手口はますます巧妙になる。広告の原点に立ち戻って、広告品質やユーザー受容性を取り戻せるかが今必須の状況だ。それにはクオリティコンテンツメディアのもつ品質やユーザー受容性によりそうのが信頼回復の王道になると長澤は思い「クオリティメディアコンソーシアム」事業(連載後半で説明)を手掛け始めた。

電通に入り20年間新聞広告を扱い、ネットの日本上陸と共にインターネットメディア広告の開発、啓蒙、営業活動にのめりこんだ自分のいわば先祖返りだが、その20数年間でインターネットメディア広告は最大のメディア広告手段となり、ネットマーケティングは現代マーケティングのメイン手法になった。その成長の歴史の中で「パーミションマーケティング」の記されたユーザーの広告受容性獲得への広告にとって一番大切だと思うプロセスが無視され「デジタル広告は邪魔な嫌われ者」という評価が定着しつつある現況への強い反省がある。

もともと広告は嫌われ者だ。それをユーザーに受け入れてもらう為に、コンテンツメディアの包み紙に丁寧につつみ、広告クリエーティブに粋をこらしてお届けして、ようやく見てもらえる存在。

これはアナログでもデジタルでもかわらない受け取る人の感性原理と思う。
デジタルではそのユーザー感性を無視して広告を「価値あるもの」として強引にユーザーにぶつけた。その結果が0.1%のクリック率をよしとする狭域最適化とそれを実現する為のアドテク三昧だ。

ネット広告の最大の危機はそれを20年つづけてデジタル広告不信に多くのユーザーが陥って来ていること。その原因は具体的には、

1. 個人データターゲティグにより広告掲載メディアと広告を切り離してターゲティングして人を追い回す「行動ターゲティグ広告」や「リタゲ広告」への嫌気。

2. ソーシャルメディア等でのアテンションエコノミーに入り込む為のギミック満載の広告表現や、お目当てのコンテンツをユーザーがきちりと体験できないお邪魔広告フォーマットの乱発、なりすまし広告はその究極のギミックだ。

3. デジタル情報流通の担い手であるデジタルプラットホームが本気でコンテンツ安全管理、広告安全管理をしない情報流通プラットホームを、ユーザーは信頼性を持つメディアとしてみてしまう出し手と受け手の情報認識ギャップによる広告不信の頻発。

プラットホームの情報無責任放置体制の結果の蹉跌だ。これらがなりすまし広告だけでなくネット広告全体を不人気にしている。

嫌われ者広告。特に広告掲載コンテンツメディアと広告枠の運用型広告での分離により好きなコンテンツを楽しみにメディアに訪ねていくユーザーには広告受容性を「しかと」しておかっけてくる広告は邪魔者にしか見えない。それもユーザー行動データ利用を事実上はノーパーミションで行動ターゲティングやリタゲを仕掛けてくる。クッキーレス化してもIDが代替するだけだ。

ユーザーの多様なネットコンテンツを楽しみたいメディアニーズと、クライアントのクリックしか広告KPIとして評価しない広告ニーズのブレ=意識ギャップが大きく存在する。ユーザーの好意度や信頼度を無視した土足マーケティング、なりすまし広告はその果てに出現したあだ花だ。

インターネットによる情報利用は日常化し、デジタルプラットホームは広告情報を含んだ巨大な社会情報基盤を形成し、多様な利便性をユーザーに提供してきた。しかしそこでは社会倫理性の軽視、ユーザー受容性の無視、メディアコンテンツの買いたたき等も含む環境下での自動化取引仲介エコシステムで、デジタルプラトホームプレーヤーは収益を最大化した。AIとクッキーレスの流れでさらに加速しそうな予感がする。それはユーザーがますます広告から離れるプラットホーム帝国の没落なのか、AI武装した新世紀ID帝国時代の始まりなのかわからない。それが現在地だ。本論考シリーズではそんなネット広告の現在地の風景を自分なりに俯瞰してみたい。

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日本アドバタイザーズ協会緊急提言の意味するもの

2024年5月17日、日本の広告主の総本山「日本アドバタイザーズ協会(JAA)」(以下、アド協)から緊急提言が発表された。

参考資料:社会問題化するデジタルメディア上の詐欺広告に対する緊急提言|お知らせ|公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会

そのタイトルは「社会問題化するデジタルメディア上の詐欺広告に対する緊急提言」。別にアド協の参加広告主が詐欺広告を出稿した訳ではない。デジタルプラットホーム(以下DPF)メディア上で頻繁に掲載される、いわゆるなりすまし投資勘誘広告の多くが詐欺広告であり、その被害額が最近3か月だけで219億(警察庁調べ)に達し社会問題化したため、JAAが広告業界に対して警鐘を鳴らさざるを得なくなった結果である。

JAAはデジタル広告の品質課題(アドフラウド、ブランドセイフティ、ビューアビリティ等)の解決に取り組み続けており、各種活動を推進してきた。デジタル広告はもはや日本の広告費において最大のメディア広告に急成長し、多くの広告主が従来のマスメディア広告費以上の費用を投入するメイン媒体になっている。(表1参照)

グラフ:日本の広告費におけるインターネット広告費の比率推移(2007年〜2022年)

表1:日本の広告費におけるインターネット広告費の比率推移(2007年〜2022年)
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しかしマスメディアと違い多種多様な広告メディアが存在し、運用型広告市場での自動広告取引により、これも多種多様な広告主が比較的自由に広告を出稿できるため、デジタル広告には常に拡大と共に新たな課題も発生している。

アドフラウド撲滅や、ブランドセーフティの確立にために、JAAは2021年に日本広告業協会(JAAA)、日本インタラクティブ協会(JIAA)とともにデジタル広告品質認証機構(JICDAQ)を設立し、第3者認証制度による優良デジタル広告事業者の認証及び啓蒙活動を推進し、デジタル広告の健全化への取り込みを推進してきた。

しかしデジタルプラットホームを中心とした様々なインターネット利用のユーザーへの普及、インターネット上の各種サービスの急激な拡大により、フェイクニュースや偽情報の流通拡散等、情報流通メディアとしての信頼性、安全性を大きく損なう社会的問題が表面化している。日本はもとより各国政府が対策を検討せざるを得ない状況がグローバルでも現出しているのだ。その代表的な事案がいわゆる「なりすまし投資詐欺広告」の横行である。

この悪質な違法広告が、多くのユーザーや広告主が利用するデジタルメディア上に掲載され続け、消費者被害が頻発している。この状況が、アド協が緊急提言という形でデジタル広告ビジネスに関わる関係者に警鐘を鳴らし、改善へ早急で真摯な努力を求めた所以である。それはデジタル広告が様々なプレーヤーによる関与でエコシステムが形成され、その健全な運用にはユーザーも含めた広告市場参加者が協力して課題是正に向かわないと、社会的問題として解決しがたい巨大化した複雑な社会情報基盤を構築しているからである。

故にJAAは「悪意を持って権利侵害を行い、関連法規に違反する詐欺広告、フェイク広告はデジタルメディアの媒体価値や広告主と生活者の信頼関係を棄損する重大問題である。デジタル広告にかかわる関係者の一人一人があるべき広告の未来への大きな影響力を担っていることを自覚すべきだ」と提言にあたり強く主張している。全くの正論であると思う。

(JAAの提言に呼応する形で長澤が事務局に関与する有力コンテンツメディア30社で構成するPMP「クオリティメディアコンソーシアム」も広告メディアのクオリティを最重視する立場からアド協緊急提言に対して「賛同表明」を6月6日に発した。)

参考資料:日本アドバタイザーズ協会の詐欺広告に対する緊急提言に賛同いたします | MediaString – 価値ある広告をこれからにつなげる

「なりすまし広告問題」とは

ここで、アド協緊急提言等、現在進行形でその対応策が各所で論議されている「なりすまし広告詐欺の事例とその仕組み」に関して簡単にリアル詐欺広告の事例を含め先ず説明をしておく。(表2)

画像:フェイク記事広告詐欺の事例

表2:フェイク記事広告詐欺の事例
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これらはなりすまし広告掲載が集中するfacebookの事例である。まず右が偽池上彰版のフェイク広告だ。多数の有名人が無許可で肖像や発言を使われ、投資推奨人物になりすまされている。左が日経電子版でのイーロンマスク記事という、より真実味をます工夫をしたなりすまし広告である。

各新聞社の記事や題字が無断で使われ、広告クレジットも入っていない。そして動画でも多数のなりすまし広告がfakebook上で掲載されている。それもテレビ局のニュースの形を模倣したケースが多い。

画像:左がテレビ東京ニュース動画を模倣したケース、右がNHKニュースでの首相会見を巧みに模倣したケースで、音声、画面内説明ボードまで巧みに改ざんし、生成AIを活用して海外で制作したと思われる

表3:左がテレビ東京ニュース動画を模倣したケース、右がNHKニュースでの首相会見を巧みに模倣したケースで、音声、画面内説明ボードまで巧みに改ざんし、生成AIを活用して海外で制作したと思われる。
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このような記事やニュースの模倣に、新聞社や放送局もユーザーに警鐘を鳴らしている。(表4)

画像:フェイク記事詐欺への各メディアの対応例

表4:フェイク記事詐欺への各メディアの対応例
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まさに日本国内の株価が最高値をつけ、新NISAでの投資ブームが盛り上がっている背景をついた詐欺広告である。その仕組みは巧妙で、多くがなりすまし広告や動画から次の画面で説明風説得画面にユーザーを引き込み、個別にLINEアカウント(仮名偽アカウント)に誘導して、後は個別LINEチャットで言葉巧みに詐欺トークを展開し、ユーザーを巻き込み投資資金を振り込ませると(仮名口座へ)その資金は海外口座に即座に転送され、そこで暗合通貨化され現金は闇に消えてしまう。SNS上でのなりすまし広告と偽SNSアカウントによるダブル詐欺構造である。国際的組織犯罪のケースがほとんどであり取り調べサイドも海外まで追求しきれていない現状であるといわれている。悪質でインターネットと金融の仕組みを知り尽くした知能犯である。(表5)

画像:facebookやLINE等を使った詐欺広告や偽アカウントの事例

表5:facebookやLINE等を使った詐欺広告や偽アカウントの事例
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1.多くが海外からfacebook等グローバルデジタルプラットホームに広告出稿を申込して広告主実態がよくわからない。もしくは装った偽装広告主である。

2.LINEなどの偽アカウントに誘導して個別に詐欺行為をオンラインで対面せず行い、偽口座に振り込ませ海外に送金させるので国内検挙が難しいサイバー犯罪である。

3.デジタル広告の行動ターゲティング手法を犯罪活用して投資に興味を持ち脆弱性のあるターゲットユーザーを絞り込む「効率的」なデジタル広告配信している。DPFの保有する豊富な個人関連IDデータが犯罪にフル活用されている等、今までのオレオレ詐欺等のアナログ犯罪に比べれば格段に知能犯罪であるといえる。

このような犯罪広告に対してそこから広告収入を得ている広告掲載メディアや広告配信メディアの広告管理の責任はあるのか、あれば何故それがきっちり管理運用されていないのか。デジタル広告の運用の仕組みの瑕疵を犯罪者につかれていないか等、本来はユーザーに有益で利便性を付与するはずの広告が逆に被害を与えている現状に対してのアド協他の強い危機感がある。

現在、政府デジタル部会や総務デジタル情報の健全化の在り方検討会(詳細議事録、資料は総務省ホームページで公開中)等で広告問題を含めた対策議論が進行中であるが、概ねのユーザー識者の意見は、詐欺広告対策の第一人者でもあるクロスワーク株式会社の笠井北斗氏が寄せた東洋経済オンライン記事(AERA dot.寄稿)でのコメントが大方の率直な考え方だと自分は思う。(表6)

画像:“私がなぜ?”多発するSNS広告のなりすまし被害 投資反対派・荻原博子氏の顔写真が投資広告に | AERA dot. | 東洋経済オンラインより

表6:“私がなぜ?”多発するSNS広告のなりすまし被害 投資反対派・荻原博子氏の顔写真が投資広告に | AERA dot. | 東洋経済オンライン
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そして当事者であるfacebookを運営するMETA社の見解は以下だ。(表7)

画像:デジタル広告の質管理に関してのMetaからの見解抜粋(2023年度第11回 デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合より)

表7:デジタル広告の質管理に関してのMetaからの見解抜粋(2023年度第11回 デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合より
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かなりのデジタル広告への管理責任への倫理観への隔たりを強く感じる。

このように巨大化したデジタル情報プラットホームはなりすまし広告以外にも様々な社会情報基盤としての信頼性、安定性への課題を現出させている。(表8)

画像:能登半島地震発生時にデマや偽情報が急増した問題で、総務省はXをはじめとしたプラットフォーム事業者に対し適切な対応を要請した

表8:能登半島地震発生時にデマや偽情報が急増した問題で、総務省はXをはじめとしたプラットフォーム事業者に対し適切な対応を要請した
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今回のアド協の緊急提言は、なりすまし詐欺広告事案だけでなく、デジタル広告の多様で深刻な課題へ関係するマルチステークスホルダーの対応を具体的に提言している。次回以降はその提起に沿ってデジタル広告の現状と課題をさらに深堀していきたい。

関連リンク:Facebookとは?基礎知識とインスタ連携、広告も解説

【デジタル広告の現状と課題 長澤秀行 連載】
1. 日本アドバタイザーズ協会緊急提言の意味する事 なりすまし広告問題について(本記事)
2. 底割れをしてしまったデジタル広告への不信と広告質、広告メディア質の課題
3. デジタル広告はユーザーにどれくらい嫌われているのか。その課題
4.デジタルプラットホームメディアのパワーとその寡占がまねく問題。なりすまし広告問題等の背景にある構造課題
5. 生成AIが台頭する現代における広告・コンテンツ環境においてデジタル広告の再生のための処方箋とは? 「クオリティメディア宣言」の意味

執筆者

長澤 秀行

長澤 秀行(ながさわ ひでゆき)

クオリティメディアコンソーシアム 事務局長
株式会社BI.Garage 特命顧問
1977年(株)電通入社、新聞局デジタル企画部長を経て、2004年 インタラクティブコミュニケーション局長、2006年 (株)サイバー・コミュニケーションズ 代表取締役社長 、2013年(株)電通 デジタルビジネス局局長、2014年一般社団法人日本インタラクティブ広告協会常務理事を歴任。
2017年より(株)デジタルガレージの顧問に就任し2020年には同社グループのBI.GARAGEの取締役に就任。
現在は同社にて日本国内の30媒体社からなるコンテンツメディアコンソーシアムの事務局長としてコンテンツメディアの価値を活かしたデジタル広告事業を推進。
著作 「メディアの苦悩28人の証言」 (光文社新書)。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

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