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第6回 広告はユーザーを偏りから解き放つ【LINEヤフー宮村壮 連載】

2024.12.4
読了まで約 6

インターネット広告がテレビ広告の売り上げを追い抜き、広告業界の中心的存在になってから早くも5年が経とうとしています。その一方で、費用対効果の低下や、ユーザーからの信頼低下などの課題も顕在化してきました。

本記事では、LINEヤフーの営業企画組織で部門長を務める宮村壮氏が、インターネット広告の業界が抱えるこれらの課題を深掘りし、ユーザーファーストの視点から解決策を解説します。

関連記事:宮村壮氏のプロフィールと連載記事一覧

ユーザーファースト=”市場の健全化”

皆様こんにちは、宮村です。今回で連載記事が第6回目になりましたが、今回はこれまでの5回の総まとめのような内容です。冒頭で過去の内容を簡単におさらいさせて下さい。

第1回では私が見てきた約10年のデジタル業界の変遷を踏まえ、普遍的に変わらない考えの一つとして「どれだけテクノロジーが発展してもユーザーファーストが第一」を提示致しました。

関連記事:第1回 デジタル広告 激動の変化から解く不変的な考え【LINEヤフー宮村壮 連載】

第2回〜4回ではユーザーファーストの実践として「枠」と「人」の2つの領域をユーザー視点でどう捉えるべきかについて、第5回ではそれらを実行する組織体制の考え方ついて言及しました。

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過去5回の全てに共通している点は、第1回で提示した「ユーザーファースト」を強く意識した内容であるという事です。では、何故ユーザーファーストが重要だと考えられるのか?それは広告効果といった短期的なものだけでなく、広告業界の「市場の健全化」に繋がるからです。

今回はこの「市場の健全化」を一つのテーマとして話していきます。過去の記事と比較して実践よりも意識・マインド要素の多い内容ですが、是非最後までお付き合い頂ければ幸いです。

広告市場は今「健全」か?

前述した広告業界の市場の健全化は、言い換えれば「広告が正しく機能している状態」と言えると思います。では今広告は「正しく機能している状態」と言えるのでしょうか?あくまで私の主観になりますが、きっとそうは言い切れないと思います。その根拠について2点、幾つかの調査結果に触れながら説明します。

1.広告接触体験の分散

昨年に私が広告代理店様と共同で取り組んだプロジェクト内で行った調査では、この10年間で広告投下に対するキャンペーン認知率・話題醸成率は有意に低下している結果になりました。つまり同じ量の広告投下をしても、相対的にユーザーが興味を持ち辛くなっているという変化が起きているのです。

画像:ブランド認知や話題性の獲得効率悪化

出典:LINEヤフー株式会社「セレンディピティ・マーケティング」

この結果の要因を一つに確定させる事は難しいでしょうが、仮説の一つとして1ユーザーに対する1広告接触の価値が低下している事が考えられます。これは当然といえば当然で、我々が日々接触する情報量はこの約10年間で10倍以上にも増加していると言われていますし、この約5年でマス広告よりもインプレッション単価が安価なインターネット広告の広告費が大きく増加している事から、我々が接触する広告の総インプレッション数も爆増していると考えられます。

画像:ユーザーが触れる情報量の爆発

出典:総務省 情報通信白書令和2年版
出典:電通 日本の広告費

一方で、我々の1日の時間は10年経っても変わらず24時間であり1年間は365日です。変わらない時間の中で爆増する情報・広告、ユーザーが1つの情報・広告に対して向けられる時間や意識は分散しており、結果的に1広告接触の価値は下がってしまっていると考えられるでしょう。

関連リンク:インプレッション(impression)とは?意味や類似用語との違い、増やす方法

2.広告へのネガティブ意識

ユーザーの広告に対するネガティブ意識は、広告の世界では切っても切り離せない、昔から付きまとうテーマでしょう。ただそのネガティブ意識は年々高まってきている事が調査でも分かっています(これは完全に個人的な肌感覚ですが、課金により広告排除が可能なサブスクリプションモデルのサービスが主流になった時期から、広告=排除すべき存在という意識のギアが一段階上がったように思えます)。また、直近では「詐欺広告」といった業界問題が話題となり、更にユーザーに悪い印象を与えたことでしょう。

広告業界ではブランドリフト率・クリック率・コンバージョン率などの指標のように「広告にポジティブに反応した人の効果」が広告実行のレポートで評価される事が主流ですが、その数字の裏側には、広告接触を通じてブランド・商品にネガティブな効果を与えてしまうリスクもはらんでいます。広告そのものに対するネガティブ意識の高まりは、そのリスクを高めてしまう側面を持つと私は考えており、広告が持つ本来の機能を正しく発揮できない状態を繋げてしまうと思います。

画像:デジタル広告の信頼度低下

出典:LINEヤフー株式会社「セレンディピティ・マーケティング」

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ブランドリフトとは?ブランディング広告の効果を把握する調査方法

市場が不健全だと起きる事

ユーザーにとってもマイナス

広告が持つ価値は、当然出稿主様にとっては自社ブランド・商品を宣伝しコンバージョンを獲得する=自社売上を増やすための機能的価値ですが、ユーザーにとっても「自分が本来知り得なかった新しい情報を受動的に得る事ができる」という価値でしょう。

この価値を基準に考えると、広告市場が不健全で広告が機能していない状態は「ユーザーが自分にとって価値のある未知の情報を受動的に得る事が出来なくなる状態」とも言い換える事が出来ます。多少大袈裟に聞こえるかもしれませんが、極論この世から全ての広告(デジタル広告だけでなくテレビCM・看板・チラシ・PR案件なども含む)が消えてしまったとしたら、自分の興味や発想の外側にある真に未知の情報に出会うチャンスは、きっと大きく減ってしまう事でしょう。

そして広告がユーザーに与えるこの価値は、今後の世の中ではより必要になってくる価値だと私は考えています。

偏っていく思考

以前私が拝読した記事で、現代人は読書が出来なくなっているという記述を見た事があります。現代人はコストパフォーマンス・タイムパフォーマンスの意識が高まっており、回り道をして伝えたい事を伝えるアプローチに耐えられなくなってきているからです。効率が良くなる事自体は悪い事ではありませんが、ただ結論だけ伝えても理解できない、回り道をするからこそ響いて身につく発見もきっとあるでしょう。

上記の指摘は「フィルターバブル」と呼ばれる言葉と非常に近しい意味合いを持つと感じました。

画像:フィルターバブル現象とは?

出典:総務省「進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0」

我々プラットフォーマー事業者からすると非常に耳が痛いのですが(汗)、実際にスマートフォンアプリを利用していると自分の興味のあるコンテンツばかりが流れてくるという経験は、皆様もユーザー視点で肌感覚があるのではないでしょうか。最適化・レコメンドの領域はAIの力を借りる事であらゆる分野で標準化していくことでしょう。

テクノロジーの高度な発展や情報量の爆発は、我々に進化のチャンスだけでなく後退するリスクも同時に与えています。都合が良い情報だけに接触し、それらを深く吟味する事にも耐えられない。それだけに偏ってしまう状態は、人間の思考の幅を狭めてしまう可能性にも繋がってしまうでしょう。

「自分が本来知り得なかった新しい情報を受動的に得る事ができる」という価値を持つ広告は、その偏りを開放する機能を持っていると思います。出稿主様のブランド・商品を知るだけでなく、企業が社会に対し行っている取組を知り、プロモーションを通じたインスピレーションを得て、商品を購入する事で生活内部に変化が生まれる。単なる広告認知以上の様々な未知を摂取する事ができるはずです。

企業が広告宣伝を行う事は自社売上を上げるという意味だけではなく、ユーザーをフィルターバブルから解き放つという意義も大きくなってきているのではないでしょうか。

市場の健全化の為に出来る事

ユーザーファーストの追及

フィルターバブル現象が強まる現代で存在意義が高まっているはずの広告において、ユーザーのネガティブ意識が高まっている事は皮肉な話です。この状況の変化に必要なのが「市場の健全化」であり、その為に必要なのが「ユーザーファースト」の考え方と私は考えています(ようやく冒頭の話に戻ってきました笑)。

要はユーザーが広告を「煩わしい」よりも「有益」と感じられている状態がそれですが、明日突然ユーザーが広告に対しての認識が変わる事はあり得なく、ユーザーが日々接触する広告への印象の蓄積でしかなり得ない状態ですので、一歩目のアプローチはやはり我々事業者側が起点です。有益と感じる広告の市場での供給量が増えれば増えるほど比例的に認識変化に繋がっていくと私は信じていますし、その為に必要な考え方を記事に起こしてきたつもりです。

画像:広告市場の健全化のサイクル

悪質な広告を減らしていく

一方でどれだけ有益な広告の供給量が増えても、たった一度の悪質な広告体験で広告全体の印象が一気にネガティブになってしまう恐ろしい事実もあります。

内容が虚偽の広告・煽り表現・コンプレックスを刺激するような表現などの悪質な広告は私が勤めているようなプラットフォーマー事業者は、ポリシー整備・審査の観点で向き合っていますが、LINEヤフーでは出稿内容が不正と思われるアカウントの非認証・停止は2023年で約7,800アカウントほどあり(勿論、全てにおいて悪質なケースだとは言えません)一定数ユーザーにとって不適切な広告が目に触れ続けている状態です。

また、広告審査の否認理由の上位としては、薬用化粧品の効果・効能を体験談のように訴求することで「誰にでも効く」と誤認されるケースや、明確な根拠が無いのに「世界初」「日本No.1」「最大」などと誇大表現がされているケース、公式ではないのに「公式」と表現されているケースなどが挙げられます。

出典:Yahoo!広告で非承認の多い表現は? LINEヤフー「広告サービス品質に関する透明性レポート」発表

これら表現はユーザーの誤認を生むという観点で、広告に限らずソーシャル上のオーガニック投稿でも同様の事が言えるのではないでしょうか。余談ですが最近特に根拠もなく「日本一美味しい」などと表現されるソーシャル上の投稿が本当に増えていると思います。

広告もオーガニックも、ユーザーの目に触れるデジタルコンテンツである以上、情報を届ける立場のあらゆる立場の方が意識して市場の健全化を図っていく必要があると考えています。

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2人に1人が反応するような広告

最後に一つ与太話ですが、私はこの業界に携わる中でクリック率50%の広告を作りたいという野望があります(笑)。引きのあるクリエイティブといった話ではなく、既存の広告の枠組みに捉われない形も含めて実現してみたいです。

分散されてしまった広告接触の中から思わず手を止めてしまう広告とは、きっと驚き・面白味・スマートさに溢れた体験ではないかと思っています。じゃあそれって具体的には一体何なのか?そんな発想から広告枠・プランニング・クリエイティブ・プロモーションを考えてみる事が、実はユーザーファースト発想の最初の一歩でもあると考えています。是非この業界に関わる皆様で、市場をより健全に、広告をより有益なものにしていきましょう。

今回の内容は以上になります。最後までご高覧下さり、誠にありがとうございました!

プロフィール

宮村 壮

宮村 壮(みやむら そう)

LINEヤフー株式会社
マーケティングソリューションズカンパニープロダクトマーケティング本部プロダクトマーケティング1部 及び ストラテジック・プランニング部 部門長

2015年にヤフー株式会社(当時)入社。広告営業から営業企画へと対応領域を拡大し、販売促進部の部長職など経て現職に。開発責任を担うプロダクト部門と販売責任を担うセールス部門の架け橋となる営業企画組織で部門長を務めている。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

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