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第5回 BtoBマーケティングとは「組織デザイン」である【LINEヤフー宮村壮 連載】

2024.10.4
読了まで約 6

自称「LINEヤフーのなんでも屋」こと、LINEヤフーの営業企画組織で部門長を務める宮村壮氏の連載。今回は「BtoB(法人)マーケティングを上手く実行するための組織デザイン」について語ってもらいます。BtoBマーケティングでかかえることの多い課題や、その抜本的な解決方法について、「なんでも屋」という俯瞰的な立場から詳しく解説します。自社のマーケティングに行き詰まっている、解決策が見つかりにくい、現状の組織体制に課題を感じている、そんなお悩みを持つBtoBマーケターはぜひ参考にしてください!

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なんでも屋視点のBtoBマーケティング

皆さまこんにちは、宮村です。今回は連載記事の第5回目です。第2〜4回にかけては「人×枠」というテーマでデジタルマーケティング業界の変遷・潮流・今後について私見を述べさせて頂きましたが、今回はBtoB業界におけるマーケティングの実行について触れていきたいと思います。「LINEヤフーという会社」のマーケティングソリューションを「広告主様・広告会社様」へ提供するというBtoB業界に身を置く一人の人間の視点で話していければと思います。

関連資料:BtoBでゼロから始めるWebマーケティング手引書【企業が取り組むべき4ステップ】

マーケティングの実行を俯瞰的に見る

本テーマを語る上で始めにお伝えしたいのが、私は今の会社でBtoBマーケティング(以下、BtoBマーケ)の専門部隊、いわゆる法人マーケティング(以下、法人マーケ)部門に所属した経験はありません。そんなお前が何を語るのだという感じですが、「営業企画職」の立場でBtoBマーケ施策の企画~実行の一連をガッツリ回した経験はたくさんあります。営業企画職としてのBtoBマーケ施策への携わり方とは一体どんなものでしょう?

私は今の会社を営業職からスタートしました。わずか3年程でしたが、全社の営業賞を2年連続で頂けるほどには、営業という仕事に熱中していました。次に営業企画職に異動し、広告プロダクトの開発部門とお仕事をする機会が増えました。エンジニアでは無いので開発は行いませんが、新商品の企画・既存商品のリブランディングの案件に携わった際は、顧客視点の注入とリリース後の営業部門への啓蒙の2点において、営業に打ち込んだ経験が大いに活きました。

営業企画職歴が長くなると、ヤフーの持つ媒体としての強みを社外へ訴求するために法人マーケ部門と連携する機会が増えました。法人マーケ部門と連携した仕事の中で最も上手くいった案件では、プロダクト部門との繋がりを活かし、BtoBマーケ施策をフックに新しいプロダクトを開発する事もしました。BtoBマーケの訴求とそれを体現する新プロダクトがセットになったその施策は、他のどの施策よりも上手くいった手応えもありました。

このように営業企画職としての立ち回りは、穿って言えば「なんでも屋」です。この「なんでも屋」だから得た経験・実績(失敗も)があり、客観的に俯瞰で見られる立場だからこその知見もあると思っています。

画像:「なんでも屋」としての営業企画職

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良い施策でも上手くいかない理由

バーティカルであるBtoBマーケ領域はより特化された実行手段が増えてきています。例えば非常に重要な要素の一つである事業者・決裁者へのターゲットリーチに関しては、オフラインにおけるイベント協賛・セミナー開催・タクシー広告などの手法が主流であり、更にオンラインではリード獲得に特化した広告キャンペーンや法人データを活用した事業規模・業種に特化したターゲティングなども開発されています。

これら施策のテクニカルなノウハウは昨今ネット上に教材が溢れており、業界全体のナレッジは上がっていっていると感じます。一方で、どれだけ施策の品質が上がっても依然として上手くいかない事も残り続けている印象です。集客が足りない、リード獲得しても成約までいかない、成約しても離反率が高い。私はこれら「上手くいかない」ことの原因は、施策単体の品質だけではなく、実行する体制の在り方に潜んでいると考えています。

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言行一致が出来ているか?

「ズレが生まれ易い」構造的特徴

BtoBマーケにおける構造的特徴は、顧客へのコミュニケーションに「ズレが生れ易い」事です。一般消費財と比較して購入者の意思決定プロセスが複雑である点が理由ですが、要素をかみ砕くと3つの理由があると思います。

● 伝え手が多い
様々な部門・担当者が伝える
プロダクトそのものがコミュニケーションになり得る
● 受け手が多い
様々な部門・担当者・レイヤーの納得が必要
受け手によりニーズが異なる
● 説明が必要
衝動買いがなく説明~理解が必要
説明回数も一度ではなく複数

物凄く大雑把に言うと「色んな人が色んな人に対し色んな説明をしている」という状況が起きています。そのためどこかで整合性が合わなくなりズレが生れる事で、一貫性が損なわれるという事が起き易い構造になっています。

また、ここで重要なのがマーケ施策の訴求内容・営業の提案内容といった言語的な説明だけでなく、実際提供するプロダクトの機能内容や提供価値そのものも顧客にとっては説明の一つになるという事です(具体例は次のパートでお伝えします)。

画像:BtoBマーケティング構造的特徴

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決裁は「違和感」に厳しい

これは経験則ですが、顧客視点でこうしたズレの積み重ねは漠然とした「違和感」へ繋がってしまいます。そして一度その違和感が芽生えてしまうと、心理的バリアになってしまい一気に温度感が冷めてしまう事が多いです。つまり「色んな人の色んな人への色んな説明が一貫している事」が重要ということです。

では、具体的にどのような部分でズレが生まれるのかをいくつかの例で説明します。

画像:「ズレ」が生まれるケース

①法人マーケの訴求⇔営業の案内

法人マーケ部門と営業部門の距離が遠く、動きが連動し切れていないケースは業界でも良く聞く話です。法人マーケ側の施策詳細を、リリース直前に営業部門が知るといった事も少なくはないようです。

私自身、営業時代は誰よりも顧客と向き合い、最も生々しい課題に直面している自負心がありました。故にマーケティング施策の内容と肌感覚にズレがあると、顧客への案内をしない選択すらするでしょう。せっかく作り上げた施策の浸透率や集客率に影響し、かつ顧客視点では会社内で整合が取れていないように感じてしまうでしょう。

②法人マーケの訴求・営業の提案⇔プロダクトの機能思想

行動は言葉よりも高い説得力を誇るように、実際に体現されているプロダクトというものは言葉による説明以上に高い説明力を持ちます。法人マーケ部門・営業部門が実際のプロダクトへの解像度が低いと、マーケ施策の訴求と実際にプロダクトで出来ること&出来ないことに小さなズレが生れてしまうケースはあるでしょう。

またここで重要なのは、現状だけでなく今後のプロダクトのロードマップ(=プロダクトの目指す方向性)までが一貫している事が理想であるという事です。

③受注後の問い合わせ⇔プロダクトの機能提供

少しアドバンスドなケースですが、受注後の継続率・単価も重要なBtoB領域では受注後の顧客要望を開発へ反映させられると理想的です。新規獲得においても同様の訴求を続けているだけでは数も枯渇するため、反映させた内容をマーケ施策の訴求・営業の提案などの説明に加えていく循環の仕組みが非常に重要でしょう。

繋ぎとめる存在を創る

「一本の筋を通す役割」が必要

これらズレを無くし一貫性を担保するためには、各セクションを繋ぎとめる何かしらの存在が必要です。開発・マーケ・営業間の小さなズレを解消し「一本の筋を通す役割」と言えるでしょう(営業部門と法人マーケ部門の筋を通すのが最優先ですが、開発部門と連動ができている事で上手くいく確率は大きく上がる印象があります)。

冒頭申し上げた私の経験の中では「営業企画職」が偶然にもこの役割を果たした案件が複数ありました。そうした案件においても一貫性を担保できた場合は一定の成果を出せ、逆に大々的にマーケ施策を打ったものの営業部門の納得感が低く数カ月でクローズした案件もあります。では、「一本の筋を通す役割」として考えられる例をいくつか挙げてみます。

人・組織・プロダクト

ランドマークとなる「人」

スタートアップ企業等はこれら一貫性の担保が上手くいっているケースが多いです。それは社長・事業責任者が筋を通す機能を果たしているからです。マーケ施策のコアメッセージを決め、イベント登壇では自分の言葉で語り、自らトップ商談を行い、顧客要望を開発に指示し反映できる。自分で全てやっているのでそもそもズレも生じ辛いです。

企業規模が大きくなると役員自ら全てを行うのが難しくなります。その場合でもやはり誰か1人、ランドマークとなる存在を決めるべきだと思います。ブランドやプロダクトの責任者がベストですが、難しければ役職に拘る必要はありません。大事なのは鳥の目でズレを埋める立場である事と、周囲にとってランドマークな存在である事です。各部門が縦割りになっている企業においては各部門の役職者が並列で物事を決めており、こういった役割のアサインはまだまだ不在のケースが多いように感じます。

横断で動ける「組織」

一つ目のようなキーマンの設定が難しい場合は、同様の役割を持つ集団が必要です。私の場合はそれが営業企画部門であり、マーケ部門にも営業部門にも開発部門にも所属しない組織が理想ですが、難しい場合は各部門から選抜したプロジェクトの形式でも十分と思います。

余談ですが誰もが気付くような大きなズレはこうした役割が無くても社内承認のプロセスで修正されます。修正すべきは小さなズレです。大枠は間違ってないが現場目線でリアリティが無いなど、その粒度を細かく潰す事が仕上がりを大きく変えると思います。そういった意味でプロジェクトにアサインする人間は現場を知る人間が好ましいでしょう。

象徴的な「プロダクト」

新しいプロダクトというのは何よりも強いマーケティング訴求になり得ます。どんな口上よりそれを開発したという事実が強力なメッセージになり、分り易い受注に繋がり易いです。私が過去関わった案件の中でも、既存商品のリブランディングなのか新商品が不随するリブランディングなのかで成功実感が全く異なります。また、新しい商品というのは営業部門にとっても提案する強い動機になり、インナーマーケティングの効果も絶大です。

こういった効果から、法人マーケ部門と開発部門が普段から強いリレーションを作っておく意義が非常に深いと考えられます。

画像:「ズレ」を繋ぎとめる存在

真の事業スケールのために

私は常々から「マーケティングは突き詰めると経営になる」と考えています。営業部門の重要性が高く開発部門との連携により効果が大きく高まるBtoBマーケ領域は、特に組織デザインという観点で経営的であると、私の過去の経験から強く感じます。

自社商品の認知獲得・リード獲得といったようなマーケティングKPIの達成だけではなく、その先の事業スケールを見越した組織設計、もしくは何かの案件でのプロジェクト化から是非トライしてみてはいかがでしょうか。

今回の内容は以上になります。最後までご高覧下さり、誠にありがとうございました!
是非、次回も読んで頂ければ幸いでございます。

関連リンク:KPIツリーの具体的なつくり方をKGIの設定含めて解説!

執筆者

宮村 壮

宮村 壮(みやむら そう)

LINEヤフー株式会社
マーケティングソリューションズカンパニープロダクトマーケティング本部プロダクトマーケティング1部 及び ストラテジック・プランニング部 部門長

2015年にヤフー株式会社(当時)入社。広告営業から営業企画へと対応領域を拡大し、販売促進部の部長職など経て現職に。開発責任を担うプロダクト部門と販売責任を担うセールス部門の架け橋となる営業企画組織で部門長を務めている。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

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