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第2回 経営戦略とマーケティング戦略って何が違うの?〜良い戦略の要諦とは〜 花王・廣澤連載

2024.2.29
読了まで約 11

前回の記事(第1回 マーケティングって何だろう?~レベルの異なるマーケティングの区分と解釈~)では、マーケティングの歴史や定義、マーケティングを経営視点でとらえる「マネジリアル・マーケティング」という概念と、その特徴について紹介しました。そこでは、「マネジリアル・マーケティングとは、企業の戦略そのものをマーケティングと捉え、経営者による意思決定を伴うもの」と説明しています。

マーケティングを経営視点で捉えるとき、切っても切り離せないのが経営戦略との関係性です。前回の記事をお読みいただいた方の中には、マネジリアル・マーケティングの概念や特徴をご覧になった上で、「経営戦略」と「マネジリアル・マーケティング(あるいは、マーケティング戦略)」はいったい何が異なるのだろうか、と、疑問に考えた人も多いのではないでしょうか。

今回は、経営戦略とはそもそも何か、その定義や経営戦略の分類について確認し、マーケティング戦略との関係性やそれぞれの位置づけについて説明していきます。

経営戦略とは何か?

経営戦略とマーケティング戦略は別物なのか?という問いについて、結論から言えば、経営戦略とマーケティング戦略に関して、学術的にも明確な定義の違いは設定されていません。その理由は大きく2つあります。第一の理由は、そもそも経営戦略やマーケティング戦略というそれぞれの言葉について、世界でも学術的に統一的な定義が存在していない点です。

第二の理由は、前回の記事でも触れた通り、経営戦略論とマーケティング論が同時期に確立していったこと、また、その出自や系譜、重視点がそれぞれ異なっている点にあります。

この節では、経営戦略論の教科書的な文献を中心に、それぞれの戦略の定義や経営戦略の対象領域を確認していきましょう。

戦略とは何か?~戦略のさまざまな定義とその共通点~

加藤(2014)によれば、経営戦略という言葉の意味は、多様で曖昧です。また、経営戦略とか戦略といった言葉は一般的なビジネスの現場でも用いられており、そこでは、“戦略”という言葉を付け足すだけでどのような経営上の方策も経営戦略になってしまうとも指摘しています。

実務やビジネスの現場において、戦略という言葉が乱用され、何でもかんでも経営戦略の方策とみなしてしまうような現象は、主に戦略という言葉の解釈やスコープ(範囲)が発話者によって異なっていることに起因すると言えます。

そこで、以下の表1では、国内外の代表的な経営学者による経営戦略の定義をいくつか抜粋しました。ここでは、代表的な複数の定義から、共通点を見出し、戦略において本質的に不可欠な要素について確認してみましょう。

1 「企業の長期目標・目的を定義し、これらの目標を遂行するのに必要な行為の道筋を採択し、資源配分を行うこと」 Chandler(1962)
2 「経営戦略とは、組織活動の基本的方向を環境との関わりにおいて示すもので、組織の諸活動の基本的状況の選択と諸活動の組み合わせの基本方針の決定を行うものである」 伊丹(1984)
3 「環境適応のパターンを将来志向的に示す構想であり、 企業内の人々の意思決定の指針となるもの」 石井ほか(1996)
4 「自分が将来達成したいと思っている「あるべき姿」を描き、その「あるべき姿」を達成するために自分の持っている経営資源(能力)と自分が適応するべき経営環境(周りの状況)を関係づけた地図と計画(シナリオ)」 沼上(2000)
5 「コミットメントとアクションの統合的かつ調整された集合であり、コア・コンピタンスを活用し、競争優位を得るべく設計されたもの」 Hoskisson et al.(2007)
6 「戦略の基本は、最も弱いところにこちらの最大の強みをぶつけること(中略)良い戦略は、第一に、狙いを定めて一貫性のある行動を組織し、すでにある強みを活かすだけでなく、新たな強みを生み出す。第二に、視線を変えて新たな強みを発見する。(中略)良い戦略は、十分に立脚した基本構造を持っており、一貫した行動に直結する。良い戦略の基本構造は、診断、基本方針、行動の三つからなる。」 Rumelt(2011)
7 「企業の将来像とそれを達成するための道筋」 青島・加藤(2012)
8 「到達すべき将来の状況と、それを実現するための具体的な方策」 加藤(2014)

表1:「経営戦略の定義」, 筆者作成

表1の定義を見てわかるように、それぞれの定義は粒度や重視点が微妙に異なっています。しかし、今回取り上げた定義からだけでも、大きく以下の二つの共通点を見出すことができます。

(1)戦略とは、企業の指針や方針を示すものである
(2)戦略とは、企業の行為や行動、計画の遂行を伴うものである

実際、加藤(2014)でも、「経営戦略は、現状の状況を前提として、1.ビジョンに代表される到達すべき将来の状況と、2.そこに至る道筋である方策という2点で構成される」と言及しています。

経営戦略について、経営者がビジョンや方針を定めることであるとか、リーダーシップを発揮することであるとか、最悪なのは組織をいじくりまわすことだと勘違いしている文章や人物を稀に目撃しますが、これらは大きな間違いです。無論、ビジョンや方針の策定も、リーダーシップも、実行力を高めるための組織改編も、それぞれが戦略において重要な「パーツ」なのは間違いありません。

問題なのは、それぞれのパーツ“だけ”を戦略だと勘違いし、各々が断絶してしまっている状態が散見される点です。特にありがちなのは、戦略として発信されている内容に、行動や実行力が伴っていない、具体的な方策への落とし込みがなされていないといったパターンです。

先に示した通り、戦略の共通点は方針の策定と実行力ですが、そもそも、方針を策定する上では本質的な問題の認識、すなわち現状の理解が必要条件となります。つまり、戦略において重要な点を改めて整理すると、1.問題認識(現状理解)、2.方針策定、3.実行力の三つがしっかりと連環している状態だと言えます。

これについて、戦略の大家とも称されるRichard Rumeltは、2011年に発表した『良い戦略、悪い戦略』にて、以下のように言及しています。

「良い戦略は、目標やビジョンの実現以上のことを促す。良い戦略は、直面する難局から目をそらさず、それを乗り越えるためのアプローチを提示する。状況が困難であればあるほど、行動の調和と集中をはかり、問題解決や競争優位へと導くのが良い戦略である。(中略)悪い戦略は厄介な問題を見ないで済ませ、選択と集中を無視し、相反する要求や利害を力ずくでまとめようとする。悪い戦略は、目標、努力、ビジョン、価値観といったあいまいな言葉を使い、明確な方針を示さない。(中略)少なからぬ人が、戦略とは全方位を見据えた全体図であって、何か特定の具体的な行動とは別物だと考えている。だが戦略をそのように曖昧に幅広くて定義すると、戦略と実行が断絶してしまう。(中略)戦略のカーネル(核)は、診断、基本方針、行動の三つの要素で構成される。」(Rumelt, 2011, pp.8-11)

以上の戦略の定義とその共通点やRumeltの議論から、戦略において欠かせない本質的な要素は、1.現状の理解(分析)、2.方針の策定、3.実行の三つです。この三つは、経営戦略だけのものではなく、さまざまな“○○戦略”にも共通している要素であると言えます。

関連リンク(資料)
【テンプレート付き】PEST分析とは?戦略に活かす分析のやり方や具体例を解説

経営戦略が対象としている領域

前項では戦略のエッセンスについて確認しました。本項では、経営戦略について考える際の領域(≒階層、あるいはレベル)について説明し、マネジリアル・マーケティングが具体的にどの領域を対象としているのかを確認しましょう。

一般的に、図1の通り、経営戦略は、1.全社戦略、2.事業戦略(競争戦略)、3.機能別戦略の三つに区分されます(佐川,1992; 青島・加藤, 2012; 小倉・斎藤, 2012; 加藤, 2014; 山田, 2018)i

図1:経営戦略論の3つのカテゴリー

図1:「経営戦略論の3つのカテゴリー」, 加藤(2014)より引用.

加藤(2014)によれば、全社戦略に関する議論は、企業全体での経営資源(ヒト・モノ・カネなど)の配分を主題としています。そうした性質上、全社戦略に関する議論は、複数の事業を抱える多角化企業を基本的な対象としています。

一方で、競争戦略に関する議論は、製品市場における方策を中心に取り上げ、個別事業を対象にしています。そのため、競争戦略は事業戦略とも呼ばれます。

機能別戦略については、経営戦略を構成している各機能部門の方策に関する議論が対象となります。機能別戦略は経営戦略の構成要素の1つとして捉えられるため、経営戦略の議論においては、これらを単体で取り上げるというよりは機能別戦略の要素を複合的に扱います。

ただし、これは機能別戦略の議論が経営戦略の議論より重要ではない、劣っているといった意味ではありません。実際、財務戦略はファイナンス論と、販売戦略はマーケティング論と強い結びつきがあるように、機能別戦略で対象としている領域は、それ単体で学問として成立しうるものです。したがって、どの機能が偉いといった話ではなく、あくまで、自身が扱おうとしている議論の階層がどこにあるのかを認識するための枠組みとして理解しておくことが重要になります。

以上の枠組みを踏まえると、多くのビジネスパーソンが日常的に扱っているさまざまな“○○戦略”は、そのほとんどが事業戦略、もしくは機能別戦略を対象としていると言えるでしょう。

マネジリアル・マーケティングは企業の戦略そのものをマーケティングと捉える志向性を指します。では、マネジリアル・マーケティングが対象としているのは、実際に経営戦略のどの領域(≒レベル)になるのでしょうか?

先述の通り、全社戦略は多角化企業(大半が大企業)を対象としています。そのため、多角化企業におけるマネジリアル・マーケティングの対象領域は、全社戦略のレベルから事業戦略レベルまでの意思決定を中心に扱うことが多いと言えるでしょう。

他方、単一事業を展開している企業や中小企業、ベンチャー企業におけるマネジリアル・マーケティングの対象領域は事業戦略のレベルから機能別戦略の一部までの意思決定を担うと考えることができます。

なお、前回の記事では、経営戦略のレベルの区分についてまだ触れていなかったため、戦略レベルがマネジリアル・マーケティング、事業計画レベルがマーケティング・マネジメント、業務レベルがマーケティング・オペレーションズと考えられると説明しましたが、「かなり乱暴である」と前置きしたのはこうした前提があったためです。

以上のように、戦略やマーケティングの捉え方は多層的です。実務でこのような違いに厳密にこだわる必要性は低いかもしれませんが、こうした概念の区別や理解は思考や議論を整理する助けにもなりますので、心のどこかに留め置いていただくと良いかもしれません。

マーケティング戦略とマーケティング・マネジメント

前節では、戦略の定義と経営戦略の対象領域について確認し、マネジリアル・マーケティングという概念に包含される範囲について説明しました。本節では、マーケティング論における教科書的な文献を基に、マーケティング戦略とマーケティング・マネジメントの定義や範囲について考えてみましょう。

マーケティング戦略とは何か?

既述の通り、マネジリアル・マーケティングの概念は、戦略の3つの階層(全社戦略・事業戦略・機能別戦略)にまたがって議論される場合があります。

企業単位のマーケティング戦略について、嶋口・石井(1995)は、顧客や競合の理解、自社の強みや事業の範囲、ポジショニングを定義した上で、組織的観点から戦略的方針と経営資源の配分を計画する活動であり、「戦略的マーケティング」とも呼ぶ、としています。

一方、井上・石田(2021)はマーケティング戦略について、「マーケティング戦略は機能別戦略の一角に位置づけられる」と言及しています(Ibid, pp. 188-189)。

このように、嶋口らのマーケティング戦略の解釈はマネジリアル・マーケティングのレベル、井上らの解釈はマーケティング・マネジメントの視角からマーケティング戦略を捉えていると言えます。

ここで生じる疑問は、結局、マーケティング戦略の定義とはいったい何なのだろうか、ということでしょう。

既に述べた通り、マーケティング戦略をどの階層(レベル)でとらえるかによってそのスコープは変化しますので、実務家の方がこれについて厳密にこだわりすぎる必要はありませんが、マーケティング戦略の定義について、まずはマーケティング論を体系的に整理したKotler et al.(2021)の『マーケティング・マネジメント』から最新のものと、国内のマーケティング関連書籍で取り上げられているものを確認してみましょう。

1 「適切なマーケティング戦略を長期的に展開するには、規律と柔軟性の両方が必要だ。企業は戦略に固執しながらも、常に改善していかなければならない。(中略)成功するマーケティング戦略の核心は、顧客の真のニーズにこたえる永続的な価値提案の開発にある。(中略)マーケティング戦略には2つの重要な要素がある。それは、企業が競争するターゲット市場と、関連する市場主体(企業、ターゲット顧客、協力者)に対する価値提案である。慎重に選ばれたターゲット市場と、よく練られた価値提案は、企業のビジネスモデルの基盤となり、企業の提供するサービスを定義する戦術的な決定を行うための指針となる。」(Kotler et al, 2021, pp. 47-54)
2 「マーケティング戦略とは、顧客価値の提供によって、組織が特定の目的を達成することを可能にするようなマーケティング活動、ならびにマーケティングの資源配分に関して、重要な選択を特定する意思決定の統合的なパターンである。」 Varadarajan(2010)
3 「マーケティング戦略とは、製品やブランドに関する目標を達成するため、企業を取り巻く外部環境下において進むべき方向性を決定し、資源配分を行うことである。(中略)マーケティング戦略は環境分析に始まり、STP、STPマーケティング・ミックスの決定、戦略の実行、そして統制というプロセスで立案・実行される。」 井上・石田(2021, pp. 25-68.)

上記の3つの定義を見ても、前節で示した戦略の本質である、方針を定めること、それを(戦術的に)実行していく、決定していくという要素が盛り込まれているのがわかります。ただ、前節の経営戦略の議論と異なっている点として、マーケティング戦略の議論においては、「市場の特定」や「価値提案(≒あるいは顧客価値の提供)」といったキーワードが強調されている点です。

前回の記事でも示した通り、マーケティング論は実務家による販売管理論にそのルーツを持っており、元々は事業戦略(競争戦略)や機能別戦略として語られていた議論が、1960年前後を境に、経営レベルへの議論へと視座が上がっていった経緯があります。そのため、マーケティング戦略の定義においては、前節の経営戦略の定義に比べて、市場志向性や顧客志向性が色濃く反映されていると言えるでしょう。

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マーケティング・マネジメントとは何か?

ここでは、前回の記事から度々言及しているものの、具体には触れてこなかったマーケティング・マネジメントについて説明します。

まずは、例のごとく、マーケティングの教科書から定義を確認してみましょう。

1 「マーケティング・マネジメントとは、内的に整合がとれているとともに、外部環境とも整合的なマーケティング・ミックスを実現するためのマネジメントである。設定したターゲット、コンセプト、ポジショニングに沿って、マーケティング・ミックスを策定するというのが、その基本である。」 石井ほか(2013)
2 「マーケティング・マネジメントというのは、ターゲット市場を選択し、優れた顧客価値を創造、提供、伝達することにより顧客を獲得、維持、成長させる、アートでありサイエンスなのである。」 Kotler et al.(2021)
3 「どの顧客(Who)に向けて、いかなる価値(What)を、どのように(How)提供するのか。個々の製品・ブランドに関して、これらの問いに対する答えを導く作業体系を、マーケティング・マネジメントという。」 恩藏・坂下(2023)

上記の3つの定義に関しては、既述のマーケティング戦略の定義と重複していると感じる部分も少なくないかもしれませんが、マーケティング・マネジメントの定義におけるポイントは、石井ほか(2013)や恩藏・坂下(2023)で示されているように、作業体系としての意味合いが強調されている点と言えるでしょう。すなわち、実行とそのための計画という論点に焦点が当てられています。

筆者自身は、実務におけるマーケティング・マネジメントを考える際、このような「作業体系としての意味合い」が非常に重要であると考えています。したがって、筆者自身が「(実務としての)マーケティングとは何か?」と問われたときに回答しているのは、「買われる仕組みをつくり、運用し、改善し続けること」と回答していますii。換言すると、実務としてのマーケティング・マネジメントとは、詰まるところバリューチェーンの構築・管理・改善であると、筆者は考えています。

このマーケティング・マネジメントの実行を支えるフレームワークとして用いられるのが、STPやマーケティング・ミックス、4Pといった考え方です。本記事でご紹介するのはマーケティング・マネジメントの解釈にとどめ、実際に、買われる仕組み、バリューチェーンをどのように構築、運用するのか、そこに各種フレームワークはどのように関わってくるのか、そうした具体に関する説明はまた別の機会に行いたいと思います。

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結局、経営戦略とマーケティング戦略は別物なのか?

冒頭でも述べた通り、経営戦略とマーケティング戦略に確立された定義はありません。また、これまでの議論のように、自社が多角化企業なのか、単一企業なのか、事業ドメインの種類や数、或いは企業規模によっても全社戦略が対象とする範囲は異なります。そのため、“経営戦略とは○○のことであり、マーケティング戦略とは■■のことである”と断言することはできません。

今回の記事で最も重要な点は、経営戦略であれ、マーケティング戦略であれ、Rumeltが示した、1.現状の理解(問題の特定)、2.方針の策定、3.実行、の3つの要素は絶対に欠かすことのできない戦略本質として存在しているという点です。

実際、20世紀後半の花王の成長をけん引した佐川(1992)は、企業戦略とマーケティング戦略は表裏一体のものであるため、必ずしも画一的な順序や分類に従うわけではないとしながらも、企業戦略の策定プロセスとマーケティング戦略の概観について、以下の図2と図3のように示しています。

図2:企業戦略策定のプロセス

図2:「企業戦略策定のプロセス」(佐川, 1993)より引用.

図3:マーケティング戦略の概観図

図3:「マーケティング戦略の概観図」(佐川, 1993)より引用.

佐川の整理を見ても、企業の戦略策定のプロセスは、現状の理解→方針策定→(組織の策定)→マーケティング戦略となっていることがわかります。また、マーケティング戦略の中には、マーケティング・マネジメントやマーケティング・ミックスで示されている要素が並んでいることも見て取れます。

実務の世界では、経営陣に明確な戦略がない、あるいは、戦略を打ち出しているのに計画通りに事が進まない、組織を構築したのに人が動かないといった問題を抱えている、とお話される企業やビジネスパーソンを頻繁に見聞きします。こうした問題を抱えている企業や人物は、実のところ、戦略に欠かせない本質的要素の中でも、1.の問題の特定が明確でない、もしくは、机上の空論やご立派な計画書や稟議書だけが発信され、3.の実行に繋がる明確な方針を打ち出せていないか、のどちらかに問題がある可能性が高いのではないでしょうか。

私自身、経営に携わるっているわけではないため、偉そうに戦略について語れるほどの経験やスキルは持ち合わせていませんが、1人の実務家として、物事の方針を示す、或いは何かを決める際には、必ず行動に移せるか、実現可能性(Feasibility)があるかを意識しています。本記事をお読みいただいた方は、少なくとも、日常の業務や会議の中で飛び出す“戦略”は、実行に結び付くものかどうか、この観点を厳しくチェックいただくと良いのではないでしょうか。

前回記事と今回の記事では、二回にわたって抽象的な議論や概念的な議論が続きましたが、次回以降では、上記のような佐川(1993)の整理や、学術的な経営戦略論の議論も踏まえて、戦略の思考法や、マーケティング・マネジメントの具体的な諸活動について、徐々に踏み込んでいきたいと思います。

  1. 機能別戦略の部分を商品戦略としている文献もある(佐川, 1992; 山田, 2018)。
  2. この「買われる仕組みをつくる」という表現は、筆者がまだ花王の新入社員だったころに、経営学者かつ経営者である高広伯彦氏からマーケティングに関する指南を受けた際に用いられた言葉で、筆者自身もそれ以来、この表現がもっとも適切であると考えて使用しています。

関連リンク
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【参考文献】
青島矢一・加藤俊彦(2012).『競争戦略論』東洋経済新報社.
Chandler, Alfred D.(1962), Strategy and structure: chapters in the history of the American industrial enterprise, Cambridge, MA: The MIT Press. (有賀裕子訳 『組織は戦略に従う』 ダイヤモンド社, 2004)
井上淳子・石田大典(2021).『新訂 マーケティング』一般社団法人 放送大学教育振興会.
石井淳蔵・栗木契・嶋口充輝・余田拓郎(2013). 『ゼミナール マーケティング入門 第2版』 日本経済出版.
石井淳蔵・奥村昭博・加護野忠男・野中郁次郎(1996)『経営戦略論』有斐閣.
伊丹敬之(1984).『新・経営戦略の論理 見えざる資産のダイナミズム』日経BPマーケティング(日本経済新聞出版).
加藤俊彦(2014).『競争戦略』日経BPマーケティング(日本経済新聞出版).
Kotler, P., Keller, K., and Chernev, A. (2021), Marketing management 16e, Pearson Education Limited.(恩藏直人監訳 『コトラー&ケラー&チェルネフ マーケティング・マネジメント〔原書16版〕』 丸善出版, 2022)
McCarthy, E. J. (1960). Basic marketing: a managerial approach. Homewood, IL: R.D. Irwin. (粟屋義純監訳; 浦郷義郎 ほか訳 『ベーシック・マーケティング』 東京教学社, 1981)
恩藏直人・坂下玄哲(2023).『マーケティングの力 最重要概念・理論枠組み集』有斐閣.
沼上幹(2000)『行為の経営学 経営学における意図せざる結果の探求』白桃書房.
小倉行雄・斎藤穀憲(2012).『経営学入門』放送大学教育振興会.
Robert, H., Michael, H., Duane, I. and Jeffrey, H. (2007), Competing for advantage, Cengage Learning.
Rumelt, R.(2011). Good Strategy/Bad Strategy: The Difference and Why it Matters, Crown Business. (村井章子訳 『良い戦略、悪い戦略』日経BPマーケティング(日本経済出版), 2012)
Rumelt, R. (2022). The Crux: How Leaders Become Strategists, Public Affairs. (村井章子訳『戦略の要諦』日経BP日本経済出版, 2012)
佐川幸三郎(1992). 『新しいマーケティングの実際』プレジデント社.
嶋口充輝・石井淳蔵(1995).『現代マーケティング(新版)』有斐閣.
山田幸三(2018).『経営学概論』放送大学教育振興会.
Varadarajan, R. (2010),Strategic marketing and marketing strategy: Domain, definition, fundamental issues and foundational premises, Journal of the academy of marketing science, 38(2), 119-140.

【学習用推奨文献】
沼上幹(2009). 『経営戦略の思考法』 日本経済新聞出版社.
沼上幹(2023). 『わかりやすいマーケティング戦略 第3版』 有斐閣.

執筆者

廣澤 祐

廣澤 祐(ひろさわ ゆう)

花王株式会社 DX戦略部門 インタラクティブプラットフォーム統括センター

2015年に花王株式会社に入社。デジタルマーケティングの分野でキャリアを積んだ後、化粧品ブランドのマーケティング業務に従事。2021年より同社のDX戦略部門において、デジタル技術の導入と活用を推進。

2020年より公益社団法人日本アドバタイザーズ協会のデジタルマーケティング研究機構U35プロジェクトの幹事を務め、業界の若手リーダーとしての活動も行う。2021年には一橋大学大学院経営管理研究科(MBA)を修了し、現在は同大学院の博士後期課程に在籍、MOTの研究に携わる。

Advertising Week AsiaのAdvisory Councilのメンバーとしても活動し、各種カンファレンスへの協力、講演、寄稿などを通じて、デジタルマーケティングやDXの分野で広範な影響を与えている。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

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