2025年現在、日本経済は観光市場を中心にインバウンド需要で活気づいています。少子高齢化や人口減少が進む中、国内市場の縮小は避けられませんが、インバウンド需要を取り込むことで、ビジネスの成長機会を大きく広げることができます。
本記事では、インバウンドの現状と今後の未来予測、そして各業界における具体的な対策について解説します。
目次
インバウンド需要とは:定義・現状
インバウンド需要を分析するためには、まずインバウンドの定義を把握することが重要です。そこで、インバウンドとインバウンド需要の定義を解説します。
インバウンドとは
インバウンド(Inbound)とは「外から中へ入る」という意味の言葉です。
関連記事
・インバウンドとは?アウトバウンドとの違いについても解説!
・社内コミュニケーション活性化の切り札に!Z世代もインバウンドも夢中になる「スナック」の魅力をスナ女® 五十嵐氏が語る
本来さまざまな業界で使われていますが、現在もっとも耳にするのは観光業や外食業界などで使われているインバウンドです。訪日旅行や訪日外国人観光客を意味し、反対に自国から外国へ出かける旅行、またはその観光客をアウトバウンドと言います。
マーケティング用語としてのインバウンドは、マス広告以外の自然な形で見込み顧客と接点を持ち、時間をかけて購買意欲を醸成していくマーケティング活動全般のことです。ブログやSNSでの情報発信、SEO対策、コンテンツマーケティングなどを通して、顧客の方から企業や商品に興味を持ってもらうように働きかけます。対義語であるアウトバウンドマーケティング(Outbound Marketing)はマス広告中心のマーケティングで、インバウンドのような双方向性とは異なり、一方的な情報発信の形を取ることが一般的です。
また、セールス用語としてもインバウンドとアウトバウンドが存在します。インバウンド営業は、マーケティング用語のインバウンドと同様に、顧客からの問い合わせを促す営業手法です。アウトバウンド営業は、テレアポ、DM送付、飛び込みなど、企業側から顧客にアプローチする営業手法です。
関連記事: インバウンド営業とは?手法やメリット、アウトバウンド営業との違いを解説!
インバウンド需要とは
インバウンド需要とは、訪日外国人観光客が日本の宿泊施設、交通機関、飲食店、観光施設などを利用する需要のことです。各施設や店舗、交通機関などで消費活動を行うことで需要が生まれます。
インバウンド需要は、観光業・宿泊業・小売業・飲食業などに大きな経済効果をもたらしており、その額は数兆円規模にものぼります。日本政府も世界の観光需要を取り込むことで、地域経済の活性化や雇用機会の拡大などを目指しており、インバウンド需要の拡大を推進しています。
インバウンド需要の推移
ここでは、ここ15年ほどのインバウンド需要の推移を解説します。東日本大震災やコロナ禍などで落ち込んだものの、現在は水際対策の撤廃やビザ緩和により回復傾向にあります。
震災後〜コロナ禍以前までの成長
インバウンド需要の変遷を振り返るため、東日本大震災があった2011年に遡ってみましょう。
観光庁が発表した2011年の「訪日外国人の消費動向」によると、主要15か国・地域の全ての国籍において、旅行消費額が前年を大幅に下回りました。また、日本政府観光局の「年別 訪日外客数、出国日本人数の推移」によれば、2011年の訪日外国人観光客数は約621万人となり、前年から約200万人減少しました。この需要の急激な落ち込みには、震災による甚大な被害や、原発事故による放射線汚染への懸念などが背景にありました。
しかし、翌2012年にはインバウンド需要は回復傾向に転じ、訪日外国人観光客数と旅行消費額はともに前年比で増加。2012年の「訪日外国人の消費動向」(観光庁)によると、主要15か国・地域の全ての国籍で旅行消費額が前年を上回ったことが報告されています。また、日本政府観光局の同資料によれば、2012年の訪日外国人観光客数は約835万人に達し、震災前の2010年とほぼ同水準まで回復しました。
その後、インバウンド需要は拡大を続け、2018年には訪日外国人観光客数が3,000万人を突破し、旅行消費額は約4兆5,000億円を記録するまでに至っています。
出典
・訪日外国人の消費動向(平成23年 年次報告書)
・年別 訪日外客数, 出国日本人数の推移
・訪日外国人の消費動向(平成24年 年次報告書)
円安・東アジア諸国の経済成長・ビザ緩和などの影響
インバウンド需要が成長した要因として、以下の3つの要因が挙げられます。
円安の影響
2010年以降の為替レート(日本円/アメリカドル)の推移を見ると、2012年までは円高傾向が続き、1ドル80〜90円台で推移していました。しかし、2013年以降は円安傾向に転じ、これが訪日外国人旅行者の一人当たり旅行支出の増加に大きく貢献しました。実際に一人当たり旅行支出は、2013年は13.7万円、2014年は15.1万円、2015年は17.6万円と顕著な増加を見せました。
出典:訪日外国人消費動向調査 | 観光統計・白書 | 観光庁 – 国土交通省
東アジア諸国の経済成長
日本のインバウンド需要は、主に東アジア諸国からの旅行者によって支えられています。特に、中国や韓国などの経済成長に伴い、国民の生活水準が向上し、海外旅行を楽しむ層が増加したことが、訪日外国人観光客数の増加に大きく寄与しています。
ビザ緩和の推進
2013年以降、日本政府はタイや中国などの国々に対してビザ緩和措置(書類の簡略化、有効期間中は何度でも入国できる数次ビザの導入、滞在可能期間の延長、など)を積極的に実施し、日本への渡航を容易にしました。これにより、外国人観光客の増加が期待されるとともに、人的交流も促進されています。
近年では、アラブ首長国連邦やカタールなどの中東諸国、ブラジルやパナマなどの中南米諸国も新たにビザ緩和の対象となっています。
東京オリンピックと水際対策停止以降の回復
2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、各国で入国制限が敷かれ、インバウンド需要は壊滅的な打撃を受けました。しかし、2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックが、インバウンド需要の回復にわずかながらも貢献し、2021年7月の訪日外国人観光客数は5万1,100人となりました。コロナ禍以前の水準には遠く及ばないものの、前月の9,300人と比較すると約5.5倍に増加しました。その後、2022年10月には政府による水際対策(出入国管理措置)が大幅に緩和され、ビザなしの渡航や個人旅行が再開されたことで、訪日外国人観光客数は徐々に回復傾向に転じました。
出典:新型コロナウイルス感染症に関する水際対策の強化に係る措置について|外務省
さらに、2023年には新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行したことに伴い、水際対策は完全に撤廃されました。この結果、2023年1月には訪日外国人観光客数が2019年の半数を超える水準まで回復し、2024年4-6月期の訪日外国人旅行消費額は、2兆1,370億円にのぼりました。
出典:インバウンド消費動向調査2024年4-6月期(1次速報) | 2024年 | 報道発表 | 観光庁
2025年大阪・関西万博の影響予測
2025年4月に開催される大阪・関西万博は、インバウンド需要をさらに押し上げる起爆剤になると予想されています。
2025年日本国際博覧会協会が発表したアクションプランによると、来場者総数は約2,820万人を見込んでおり、そのうち約9割が国内、残り1割が海外からの来場者となる見込みです。つまり、約300万人の訪日外国人観光客が大阪万博を訪れ、開催地や周辺地域の経済活性化や、新たなビジネスチャンスの創出が期待されています。
また、経済産業省の試算によると、大阪・関西万博の開催による経済波及効果は約2兆9,000億円に達すると見込まれています。
出典
・大阪・関西万博 来場者輸送具体方針(アクションプラン)第5版 概要(EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト)
・大阪・関西万博経済波及効果 再試算結果について(経済産業省)
今後のインバウンド需要予測:高まりはいつまで続く?
国連世界観光機関(UNWTO)は世界の観光動向を調査分析し、将来予測を発表しています。2017年時点で、国際観光客数(雇用を除いた1泊以上の外国訪問客)は2030年には年間約18億人(延べ人数)に達するという予測を発表しました。2017年以降から現在まで、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行や各国の紛争など、経済が停滞する要因となる事象が多数起こってはいるものの、世界の観光市場は中長期的に成長すると見込まれています。
また、後述する日本政府の観光立国推進基本計画においては、2025年までに訪日外国人観光客数を2019年の水準より上回ることや、訪日外国人旅行消費額を5兆円にすることを目標に掲げています。この計画は2030年の目標達成を見据えたものであるため、少なくとも今後5年間は国を挙げて外国人観光客の誘致を積極的に推進していくと考えられます。
出典
・Tourism Towards 2030 Global Overview(UNWTO)
・第2章 第3節 今後のインバウンド需要拡大への展望 – 内閣府
インバウンド需要を牽引する要因分析
ここでは、インバウンド需要を牽引する主な要因である、日本政府の観光立国政策、円安傾向、国際的イベントの効果、各種インフラの多言語化対応、そしてキャッシュレス決済の普及について解説します。
政府の観光立国政策
日本政府は、国内の観光資源を最大限に活用し、観光客の誘致を強化することで、観光産業の発展と経済成長を目指す「観光立国推進基本計画」を掲げています。この計画は、観光立国推進基本に基づいて策定されており、「持続可能な観光地域づくり戦略」「インバウンド回復戦略」「国内交流拡大戦略」の3つを基本方針としています。
とくに、インバウンド回復戦略では、以下の目標を掲げています。
訪日外国人旅行消費額
目標:早期に5兆円にする
令和元年の実績:4兆8,000億円
訪日外国人旅行消費額単価
目標:2025年までに20万円にする
令和元年の実績:15.9万円
訪日外国人旅行者一人当たり地方部宿泊数
目標:2025年までに2泊にする
令和元年の実績:1.4泊
訪日外国人旅行客数
目標:2025年までに令和元年の水準を超える
令和元年の実績:3,188万人
日本人の海外旅行者数
目標:2025年までに令和元年の水準を超える
令和元年の実績:2,008万人
アジア主要国における国際会議の開催件数に占める割合
目標:2025年までにアジア最大の開催国(3割以上)にする
令和元年の実績:アジア2位(30.1%)
これらの目標達成に向けた取り組みが、外国人観光客の誘致を促進し、インバウンド需要の増加につながっていると考えられます。
出典
・観光立国推進基本法 | 観光政策・制度 | 観光庁
・観光立国推進基本計画 | 観光政策・制度 | 観光庁
円安傾向
近年、日本円とアメリカドルの為替レートは円安傾向で推移しており、2024年6月には一時1ドル160円台後半まで円安が進みました。
近年の円安の主な要因としては、日米の金利差の拡大が挙げられます。日本は経済活動の活性化を目的とした低金利政策を維持していますが、アメリカはインフレ抑制のため利上げを継続しています。この金利差により、投資家の間で高金利の米ドルを購入し、低金利の日本円を売却する動きが広がり、円安や進行しました。
このような円安傾向の強まりを受け、外国人観光客は日本での消費に多くの予算を充てられるようになり、インバウンド需要の増加に寄与する形になったのです。
2020東京オリンピック・大阪万博などの国際的イベントの効果
2020年の東京オリンピック・パラリンピック、そして2025年に開催される大阪・関西万博などの国際イベントは、日本への注目度を高め、訪日外国人観光客数の増加に大きく貢献します。実際に、2020東京オリンピック開催期間の2021年7月・8月は訪日外国人観光客数の増加が見られました。
国際的なイベントは世界中から注目されるため、開催期間中の情報発信は訪日意欲を高め、将来的な観光客増加につながります。
政府は、東京オリンピックの経験を活かし、海外メディアとの連携強化や情報発信基盤の整備を進めており、今後の大阪・関西万博や、2027年に横浜で開催される国際園芸博覧会などでの効果的な情報発信を目指しています。
各種インフラの多言語対応や整備
増加する外国人観光客に対応するためには、交通インフラや宿泊施設、レジャー施設などの多言語対応が不可欠です。
2018年10月に改正国際観光振興法が施行され、公共交通事業者には外国人観光客向けの多言語情報の提供が義務づけられました。具体的には、観光案内所や電光掲示板の多言語化、ピクトグラムや音声案内による情報提供が進められています。
これらの取り組みにより、外国人観光客にとって訪日旅行のハードルが下がり、さらなる観光客増加につながっています。
出典:多言語対応改善・強化のための観光庁の取組(観光庁)
キャッシュレス決済などデジタル技術の浸透
外国人観光客のスムーズな旅行体験には、キャッシュレス決済の普及が不可欠です。しかし、日本のキャッシュレス決済比率は、国際的に見てまだ低い水準にあります。
経済産業省はキャッシュレス決済比率を2025年までに40%に引き上げる目標を掲げ、普及を推進した結果、2023年のキャッシュレス決済比率は2020年の29.7%から約10%上昇した39.3%(126.7兆円)となりました。
キャッシュレス決済の普及は、外国人観光客の利便性を高めるだけでなく、インバウンド需要のさらなる拡大にも貢献します。
出典
・キャッシュレス将来像の検討会 (概要版)(経済産業省)
・2023年のキャッシュレス決済比率を算出しました (METI/経済産業省)
業界別インバウンド需要の傾向と対策
インバウンド需要がとくに大きな影響を与えている宿泊業、観光業、小売業、飲食業の傾向と対策について解説します。
宿泊業:高級ホテルからゲストハウスまで
宿泊業では、富裕層の外国人観光客の増加にともない、高級ホテルの需要が顕著に高まっています。国際的な市場調査会社であるユーロモニターの調査によると、2023年の日本の高級ホテル需要は前年比77.2%増と大幅な伸びを示しました。
その一方で、インバウンド需要を取り込むために、相部屋を基本とする簡易宿泊施設であるゲストハウス事業に参入する事業者も増えています。
このように、宿泊業は高級ホテルからゲストハウスまで、さまざまな宿泊施設が充実しており、今後も需要の拡大が見込まれます。
増加するインバウンド需要に対応するため、宿泊業ではスタッフの多言語対応や、無料Wi-Fiの整備、キャッシュレス決済への対応などの対策が進められています。
観光業:体験型観光の人気と地方誘客の取り組み
観光業では、訪日外国人観光客向けに、その土地の文化や自然を体験する旅行形態である体験型観光が人気を集めています。着物・浴衣(ゆかた)の着用体験や茶道体験といった日本の伝統文化に加え、アニメ関連のイベントやワークショップなど、大衆文化を体験できるアクティビティも注目されています。
また、近年では自治体単位での外国人観光客の誘客事例も増えており、インバウンド需要を地域活性化につなげる動きが活性化しています。日本政府観光局も観光立国推進基本計画に基づき、地方誘客の促進に注力する方針です。とくに北陸新幹線の延伸開業に合わせ、新潟・富山・石川・福井の北陸地域では、2024年1~10月の外国人宿泊者数は約250万人となり、前年比で93%増と大幅な増加を記録しました。
観光業では、インバウンド需要に応えるため、インバウンド向けプランの提供や、地元の特産品や文化体験を活用したマーケティングなどの対策が進められています。
小売業:免税店の拡大と越境ECの可能性
小売業では、外国人観光客向けの免税店の拡大が進んでいます。免税店では、非居住者以外の外国人観光客は消費税を除いた価格で商品を購入できるため、購買数の向上につながります。
また、インバウンド需要の増加に伴い、訪日中に気に入った商品を帰国後も海外から購入できる「越境EC」の重要性も高まっています。越境ECは訪日意欲を高める要因の一つであり、インバウンドと越境ECは相乗効果を生み出す関係にあります。
経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」によると、2023年における日本の越境BtoC-EC(アメリカ・中国)の総市場規模は4,208億円となりました。人口減少による市場規模の縮小が懸念される小売業では、インバウンド市場に対応するために、体験型サービスの提供やデジタルマーケティングなどの対策が進められています。
飲食業:多様化する食のニーズへの対応
外国人観光客の日本食への期待は高く、飲食業はインバウンド需要の恩恵を大きく受けています。
しかし、文化や宗教上の理由で特定の食材を摂取できない観光客がいるのの事実です。こうした多様なニーズに対応するため、ハラールやベジタリアン、ヴィーガンなどに対応したメニューを提供する店舗が増えています。
富士経済の調査によると、2024年のインバウンド外食市場は1兆6,870億円の見込みであり、2025年には2兆818億円にまで成長すると予測されています。今後も飲食業のインバウンド需要は拡大が見込まれます。
出典:インバウンド外食市場を調査 | プレスリリース | 富士経済グループ
インバウンド需要に対応する商品・サービス開発のステップ
ここでは、インバウンド需要に対応する商品・サービスの開発のステップを解説します。外国人観光客の消費傾向や人気商品・サービスの特徴を分析することは、ニーズに合致した商品・サービス開発に不可欠です。
外国人観光客の消費傾向分析
外国人観光客の消費傾向を分析することで、彼らのニーズにマッチした商品やサービスを開発することができます。消費動向を分析する際は、以下の4点に注目することが重要です。
属性
どのような国籍や年齢の観光客が訪れているかを分析することで、効果的なマーケティングのターゲット選定ができるようになります。
来訪の目的
地域のどのような観光資源や体験・経験を求めているのかを分析することで、訴求すべき観光資源を明確にすることができます。
認知のきっかけ
観光客がその地域をどのように知ったのかを分析することで、効果的な情報発信媒体・メディアを選定することができます。
来訪のルート
観光客がどのようなルートでその地域を訪れているのかを分析することで、二次交通の整備や周辺地域との連携強化に役立てることができます。
人気商品とサービスの特徴
外国人観光客に人気のある商品・サービスを分析することで、どのような商品・サービスが売れやすいのかを把握することができます。人気商品・サービスには、主に以下の特徴があります。
日本らしさがある
富士山、桜、日本語など、日本の文化を表現した商品が人気を集める傾向です。特に、浮世絵、書道、和柄など、日本の伝統文化をモチーフにした商品・サービスは独特の風情が高く評価されています。
また、日本の漫画やアニメなどのサブカルチャーも外国人観光客に人気があり、関連グッズやコンテンツも売れやすい傾向にあります。
品質が高い
日本製品は、車や家電をはじめとするさまざまな分野で、その品質の高さが評価されています。特に、日本独自の技術や素材を用いた商品は、外国人観光客にも人気です。
また、日本の伝統文化を反映したデザインや、革新的なデザインの商品も人気を集めています。
地域特性を活かした商品開発事例
ここでは、地域特性を生かした商品開発事例を紹介します。
大和高田市の綿
奈良県大和高田市は江戸時代中期から綿の栽培が盛んで、紡績工場が集積したことで商業も発展しました。しかし、国内消費の低迷や輸入品の増加により繊維産業は衰退し、人口も減少していました。
そこで、市は「わったーらんど」と名付けた綿畑を設け、綿を使ったベビー衣料品の開発に着手します。この製品をベビー&キッズエキスポという展示会に出展したところ、多くのバイヤーから評価をされ、大手百貨店の目にも止まり、現在では京都や関東の大手百貨店で販売されるようになりました。
出典:大和高田地域ブランドを担う繊維製品の開発 – feel NIPPON – 地域力活用新事業創出支援事業
富良野市のオムカレー
北海道富良野市はかつて年間約250万人の観光客が訪れていましたが、徐々に観光客数が減少していました。
そこで、市は富良野産の農畜産物を活用したオムカレーを、ご当地グルメとして売り出します。観光情報誌で紹介されたことをきっかけに人気に火がつき、観光客の行列ができるほどになりました。現在では外国人観光客にも人気のメニューとなり、地域活性化に貢献しています。
インバウンド需要に対するマーケティングの効果的な戦略
ここでは、インバウンド需要に対応するための効果的なマーケティング戦略を解説します。多言語対応やSNS活用はもちろん、インフルエンサーマーケティングや国ごとのペルソナの設計も重要です。
英語をはじめとした多言語対応とコンテンツマーケティング
インバウンドマーケティングにおいて、多言語対応は非常に効果的です。英語、中国語、韓国語など、ターゲットとする国や地域に合わせて言語を対応させることで、的確な情報発信が可能になります。
近年、機械翻訳の精度は向上していますが、不自然な言い回しになるケースもあるため、重要なコンテンツや正確性を求められる場合の翻訳は、翻訳会社や翻訳家に依頼することをおすすめします。
また、Webサイトの多言語対応では、lang属性設定やSEO対策が求められ、印刷物では慎重な校正などが求められます。
また、言語だけでなく、地域の特色に合わせたコンテンツの調整も重要です。対象地域の文化や習慣、ニーズ、好みに合わせた商品やサービスを表示することも望まれます。
SNSを活用した情報発信と口コミ・MEO対策
SNSは、外国人観光客の情報収集ツールとしても広く利用されているため、SNSを活用した情報発信は非常に効果的です。観光地の文化や自然などの魅力を発信することで、効果的に観光資源をPRできます。飲食店や宿泊施設であれば、目玉商品や美しい景観を発信することで、魅力を伝えられるでしょう。
SNSを活用する際は、国内でよく使用されているInstagramやX、TikTokだけでなく、中国で広く利用されているWeiboやWeChatなども視野に入れ、ターゲット層に合ったプラットフォームを選ぶことが重要です。
また、口コミ対策も効果的です。口コミは消費者の率直な意見を反映しており、信用度が高く、消費者の不安解消に大きく役立ちます。店内にQRコードなどを掲示し、誰でも簡単に口コミを投稿できるような導線を設けるなど、消費者の口コミ投稿を促しましょう。これにより、Googleマップでの店舗やサービスの表示順位を向上させるMEO対策にもつながります。
関連記事
・Weibo(微博・ウェイボー)とは?中国版Xの基本
・WeChat(微信)とは?中国の生活インフラでもあるアプリを解説
・MEO対策とは?メリット・デメリットから対策方法まで、MEOとは何かを徹底解説
インフルエンサーマーケティングの活用
ターゲットとする国が決まっている場合は、インフルエンサーマーケティングの活用が有効です。インフルエンサーマーケティングとは、影響力のある著名人などに商品やサービスを宣伝してもらうマーケティング手法です。
ターゲットとする国のインフルエンサーに商品やサービスを宣伝してもらうことで、幅広い層に効果的にリーチできます。ただし、海外のインフルエンサーの選定や運用は、一般の店舗や企業では対応が難しいため、代理店の利用を検討することをおすすめします。
関連記事:「インフルエンサーマーケティング」とは?得られるメリットから成功のポイントまで徹底解説
各国のペルソナ設計
各国のペルソナ(架空の顧客像)を設計することで、顧客の課題やニーズを明確にできます。
ペルソナの作成には、ターゲット情報の収集と具体的な設定が重要です。過去の顧客のデータなどを参考に、年齢・性別・職業などの基本的な情報だけでなく、趣味、所得、よく使うメディアなどの詳細な情報を設定しましょう。
東アジアからの観光客は訪日旅行の経験者が多いため、新しいコンテンツや旅のスタイルを訴求する必要があります。その一方で、北米や欧州からの観光客は訪日旅行の経験者が少ないため、日本独自の伝統文化や観光地を活かしたコンテンツが求められます。
それぞれの国の特徴や日本旅行の経験度合いなどから、その国独自のペルソナを設計すると、インバウンドマーケティングの成功が導きやすくなるでしょう。
なお、弊社ではBtoB用のペルソナの設定・作成に役立つ、無料のテンプレートを用意しています。一般的なペルソナの設計にも転用可能ですので、ぜひご活用ください。
関連資料:ペルソナ設定・作成ができる無料パワポテンプレート(BtoBマーケティング用)
インバウンド需要に関する課題と対策
急増するインバウンド需要には、オーバーツーリズムや人材不足などの課題もつきものです。そこで、インバウンド需要に関する課題と対策について解説します。
オーバーツーリズムへの対応
オーバーツーリズムとは、観光客の急増によって地域や住民が受ける過度な負担のことです。具体的には、公共交通機関の混雑、ゴミや騒音などのマナー問題などが挙げられます。
オーバーツーリズムに対応するためには、観光客の分散化や規制の導入が必要です。観光庁はオーバーツーリズムの防止・抑制に向けた対策パッケージを策定し、過度な混雑やマナー違反への対策を推進しています。
出典:オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた取組 | 持続可能な観光地域づくりのための体制整備等の推進 | 持続可能な観光地域づくり戦略 | 観光政策・制度 | 観光庁
持続可能な観光の実現
観光客の増加にともなう環境汚染や自然破壊は、地域住民の生活に悪影響をおよぼし、景観の劣化による観光資源を失うリスクも高めます。そのため、「持続可能な観光」という視点を持つことが重要です。
持続可能な観光とは、環境・社会・経済の3つの観点から、地域、観光客、観光事業者が持続的に発展できる観光を指します。環境負荷に配慮した観光コンテンツを提供し、全国各地への外国人観光客の安定した誘客を目指すことで、地域の環境と経済を守ることができます。観光省もSDGsの目標達成や持続可能な社会の実現に向け、持続可能な観光の実現を推進しています。
インバウンド対応人材の確保
宿泊業や飲食業、インバウンド需要が拡大している一方で、国内の人材不足傾向は慢性化しており、インバウンド対応人材の不足も深刻です。
複数の言語に対応できる人材を確保するためには、外国人人材の採用も視野に入れる必要があります。すでに日本に在住している外国人人材は、母国語と日本語を習得していることが多く、外国人観光客との円滑なコミュニケーションが期待できます。また、多言語対応のレジやオーダーシステムの導入も、人材不足解消に有効な手段となります。
まとめ:インバウンド需要を見極めビジネス成長の可能性を探ろう
円安傾向、東アジア諸国の経済成長、ビザ緩和などを背景に、インバウンド需要は継続的に成長しています。新型コロナウイルス感染症の影響で一時は大きく落ち込みましたが、東京オリンピック・パラリンピックの開催や水際対策の撤廃により、近年は回復傾向です。今後も大阪・関西万博や、観光立国政策により、インバウンド需要はさらに高まると予想されます。
インバウンド需要に対応するためには、外国人観光客の消費傾向の分析、多言語対応、SNSを活用した情報発信、地域特性に合わせたコンテンツマーケティングなどが不可欠です。また、中長期的な観光戦略の立案や、他者との差別化も重要な要素となります。
今後のインバウンド需要の動向を的確に見極め、ビジネスチャンスを拡大していきましょう。