校正とは、原稿に含まれる「誤字」や「脱字」「表記の揺れ」などを確認し、修正する作業を指します。また、校正者が修正作業者に修正箇所と内容を正確に伝えるために使用されるのが「校正記号」です。JIS(Japanese Industrial Standards:日本産業規格)で規定されている校正記号は、校正紙に修正箇所と指示を書き入れる際に使う特殊な記号を指します。この記事では、校正と校正記号の概要に加えて、使用頻度の高い校正記号の一覧と使い方を紹介します。
目次
校正と校正記号
書籍や雑誌などを含む出版物だけでなく、Web上で公開されているさまざまな記事が世の中に公開されています。記事を参考に考えたり、行動したりしている方も多いでしょう。この記事制作に校正作業は欠かせません。記事に誤りがないかをチェックし、読みやすく正しい情報を発信するために必要な作業です。また、校正を効率よく進めるために校正記号が使用されます。ここでは、記事制作に必須となる作業の校正と校正記号について詳しく解説します。
校正とは
校正とは、ドキュメントを含む出版物やWeb上で公開されている記事などに掲載される文章の誤字や脱字、表記ゆれなどがないかチェックして、修正する業務を指します。文章の品質を高め、伝わりやすい内容にするための重要な工程の一つです。校正作業は、具体的に「突き合わせ」と「赤字照合」に分けられます。前者の突き合わせとは、原稿と制作物の文字の違いを一文字ずつチェックする作業を指します。文章単位ではなく1文字ずつチェックすることで見落としを減らし、校正の精度を向上させるのです。一方、後者の赤字照合とは、原稿の修正点が正しく反映されているかを確認する作業を指します。原稿と初校・初校と再校・再校と三校、最終的には校了と、各段階における修正箇所と修正内容を確認します。この赤字照合は、突き合わせで実施される一文字単位の確認ではなく、修正点単位でチェックします。
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校正記号とは
校正で修正箇所と修正内容を簡潔に表記するために使用される記号が、校正記号です。JISで定められている統一規格で、DTPの普及などに伴い、2007年に改正されました(JIS Z 8208:2007 )。
校正記号は、必ず規格通りでなければならないという決まりはありません。しかし、校正者が独自の修正指示を記入すると、修正作業者は指示内容を瞬時に理解できず、内容を読み解く作業から始めなければなりません。その結果、時間がかかったり、誤った修正をしてしまったりする恐れが出てきます。スムーズで正確な校正を実施するためには、統一されたルールと指定された記号を使用して、自分だけでなく他者でも一目で理解できる指示を心掛けることが重要です。
校正のポイント
原稿の執筆はもちろん重要な作業の一つですが、校正はそれ以上に細心の注意を払い、慎重に進めなければなりません。ここでは以下の通り、校正のポイント4つを解説します。
原則は赤いペンの使用
印刷校正記号一覧には、校正指示を記入する際に赤色を使用するという規則が明記されています。
原則として、校正記号の表記には赤いペンを用いることが求められますが、赤色の使用目的は、指示すべき箇所や内容を際立たせるためです。なお、赤ペン使用に関する具体的な規定内容は以下の通りになります。
● 校正刷への修正及び出力見本への組版指定に関する記入は、赤色を使用する。ただし、補助的な指示を記入する場合、または修正が紛らわしい場合には、赤色以外を使用してもよい。
修正指示以外のコメントも赤にしてしまうと、逆に修正箇所や内容が目立たなくなり、見落としの原因となる恐れがあります。したがって、上記規定内容の通り、修正内容に関する補足説明や補助的な指示については、別の色で書き込みましょう。また、校正紙がフルカラーのため赤色が見にくい場合、他の色を使用することも認められています。
参考:有限会社小野印刷所|JIS Z 8208:2007 改正 印刷校正記号一覧
誤字、脱字のチェック
よく「誤字脱字」とひとくくりにされるケースがありますが、誤字と脱字は別物です。誤字とは、その名の通りで誤った文字を使用することを指します。例えば、誤った漢字の使用や固有名詞の表記間違い、パソコン入力での変換ミスなどです。一方、脱字とは、文章に必要な文字が抜け落ちてしまっている状態を指します。送り仮名や助詞の抜け落ちが脱字の典型例です。誤字や脱字をチェックするポイントは以下の通りになります。
・文字を一つずつ確認する
内容を読むのではなく、文節や文字単位に区切って、1文字ずつ確認することが重要です。文章を読んで誤字や脱字をチェックすると、どうしても内容や文脈への意識が強くなってしまい「タイポグリセミア現象」によって誤字や脱字に気づかなくなることがあります。
タイポグリセミア現象とは、文中の単語の順番が入れ替わっても、正しく読めてしまう現象を指します。人間の脳は単語の意味が分かっていれば、並びが多少変わっていても自動的に補完して予測し、正しい文章として認識してしまう現象です。
また、数字や固有名詞は、表記が間違っていないか特に念入りにチェックしましょう。具体的な項目としては、以下のようなものが挙げられます。
「人名」「会社名」「住所」「電話番号」「日付」「商品名」「価格」など
・項目を分けて確認する
誤字や脱字チェックに加えて、内容の確認や表記ゆれなどを一度にすべてチェックしようとすると、集中力が持続せず、間違いを見落としやすくなってしまいます。まずは、誤字や脱字のチェックのみを行い、その後に内容の確認や表記ゆれの確認を実施するなど、項目ごとに分けてチェックしましょう。
また、時間をおいてチェックすることも有効です。時間をおかずにチェックすると、集中が続かないだけでなく「確認したばかりだから大丈夫なはず」という油断が生じてしまいます。そのため、一度別の作業を行ったり、作業を翌日に持ち越したりするなどして、思考を切り替えることが重要です。
・ダブルチェックの体制にする
1人でチェックすると、どうしても誤字や脱字を見逃してしまう恐れがあります。自分で執筆した文章ならなおさら客観的なチェックは難しいため、第三者にチェックしてもらう必要があるでしょう。時間的な余裕がない場合は、数字や固有名詞など、絶対に間違えられない部分に絞るのも方法です。
・校正ツールを使用する
人間の目で誤字や脱字を完全に見つけ出し、修正することは簡単ではありません。
そんなときは、校正ツールや誤字脱字チェッカーといったデジタルツールの使用がおすすめです。ツールの中には、誤字や脱字だけでなく、文法の間違いや表記ゆれなどをチェックできるものもあります。人の目によるアナログチェックとツールを使ったデジタルチェックの併用で、より高い精度で誤字や脱字を検出することが可能です。
上記以外にも、プリントアウトの上、ペンやマーカーを使用して一文字ずつ確認する、声に出して読み上げた際の違和感などから、誤字や脱字を見つける、なども考えられます。確認の時間は十分に確保できるようにしましょう。
表記が統一されているかチェック
一つの文章の中にさまざまな表記が混じり合っているのは好ましくありません。同じ意味の言葉や言い回しを統一する必要があるのです。具体的には、以下のような例が挙げられます。
● 漢字と仮名
「子供達」と「子供たち」、「様々」と「さまざま」、「例えば」と「たとえば」など
● 送り仮名
「当たる」と「当る」、「短かい」と「短い」など
● カタカナ
「サーバー」と「サーバ」、「ユーザー」と「ユーザ」など
● 数字
「2025」と「二〇二五」など
● 旧字と新字
「桜」と「櫻」、「齋」と「斎」など
● 同音異義語
「改定」と「改訂」、「回答」と「解答」など
どの表記に統一するかは、基本的に出版社や企業が独自に決めます。表記を統一すべき用語やルールをまとめたものを「表記統一表」といいます。校正者は、この統一表を参考に校正を行うのです。なお、表記統一表がない場合は独自に判断せず、発注者や編集者の判断を仰ぎ指示に従いましょう。
修正指示は明確に書く
修正作業者による指示の見落としや誤解が生じないように、修正箇所と修正内容を明確に書く必要があります。そこで他者が容易に理解できるように規定されたのが、校正記号なのです。校正記号を使って修正箇所や修正指示を明確に書くためには、以下の点を意識すると良いでしょう。
● 範囲指定
修正範囲はどこからどこまでなのか、修正作業者に伝わるように意識して指定します。
● 引き出し線
引き出し線を修正する場所の近くに小さく書くと、修正作業者に伝わらず見落とされる恐れがあります。引き出し線は、目立つところに修正指示が書けるように、曲線で大胆かつしっかりと引き出しましょう。
● 番号を振る
修正箇所に、通し番号を振ると修正作業者も、確認しやすくなります。文字量や修正箇所が多い場合は、ページごと、章や節で番号を振りなおす方法も有効です。
● 修正指示を丁寧に書く
決してきれいな文字でなくてもいいので、修正作業者が容易に理解できるように丁寧に書きましょう。
● 修正指示の見直し
修正作業者に指示内容が伝わるか、見直してみることも重要です。誰が見てもわかりやすい指示ができているか、内容に誤りがないか確認しましょう。
校正記号 一覧
校正者には、どのようなスキルが必要になるのでしょうか。資格がなくても仕事をすることは可能ですが「校正技能検定」という資格も存在します。検定の中には、校正記号に関する問題も用意されているようです。校正者は、文章の修正指示を正確に伝えるために、校正記号に関する知識を身につける必要があります。ここでは、使用頻度の高い校正記号をご紹介しましょう。
使用頻度の高い校正記号の例
● 文字を削除する
該当範囲を指定して引き出し線を引き「トルツメ」と記載します。
トルツメとは、文字列を削除し、その空いた部分を埋めることを指します。略称として「トル」と記入することも可能です。また、削除して空いた箇所をそのまま空白にしておく場合には「トル ママ」や「トル アキ」と記載します。省略してママやアキと書き入れるケースもあります。
● 文字を挿入する
該当箇所の下に記号「∧」を記入し、引き出し線を延長して挿入する文字を記載しましょう。なお、挿入したい文字は、引き出し線から枝分かれさせた線で囲うようにして目立たせます。
● 書体を指定する
文字列の上部に書き込んだ平たい円弧の上部に、属性やフォント名、大きさなどを記載します。例えば、明朝体は「ミン」、ゴシック体は「ゴチ」または「ゴシ」などです。
校正記号 改行
読みやすい記事を制作するためには、適度な改行が必要です。改行を指示する記号は「Γ」です。改行を行う文章の先頭に配置します。また、段落を新しくする段落改行は、「Γ」の下に横線を追加した「階段(_Γ)」という記号を使用します。
(記入例)
Γ▢ ▢ ▢ ▢ ▢
_Γ▢ ▢ ▢ ▢ ▢
校正記号 詰める
行間や文字間も読みやすい記事の制作に必要なポイントです。行間や文字間の間隔を指定する場合と指定しない場合、それぞれの記号を確認していきましょう。
「間隔を指定しない場合」
● 行間を詰める
行の両端に記号「<」「>」を記載する。
(記入例)
▢ ▢ ▢ ▢ ▢
< >
▢ ▢ ▢ ▢ ▢
● 文字間を詰める
スペースの上下に記号「∧」を挿入し、上部先端にツメと記載する。
(記入例)
ツメ
∧
▢ ▢ ▢ ▢ ▢
「間隔を指定する場合」
● 行間を指定して詰める
行の両端に記号「<」「>」を入れ、二行アキや三行アキなどと記載する。
(記入例)
▢ ▢ ▢ ▢ ▢
二行アキ< >
▢ ▢ ▢ ▢ ▢
● 文字間を指定して詰める
記号「∧」を挿入し、二分(半角)アキや四分アキなどと具体的に記載する。
(記入例)
二行アキ
∧
▢ ▢ ▢ ▢ ▢
また、文字間の詰めには「ベタ」と記載する方法もあります。ベタは、文字間隔ゼロを意味します
校正記号 入れ替え
文字を入れ替える際には、該当する文字を「∽」のような曲線で囲みます。
離れた位置にある文字を入れ替える場合は、対象の文字をそれぞれ円で囲みます。円に矢印を使用して入れ替えの指示を記載します。
校正記号 スペース(半角 アキなど)
行間や文字間が詰まりすぎていても読みにくいものです。校正にて、行間を広げたり文字間を広げたりする場合には以下の記号を使用します。
「間隔を指定しない場合」
● 行間にスペースを入れる
行と行の間に記号「>」「<」を記載する。
(記入例)
▢ ▢ ▢ ▢ ▢
> <
▢ ▢ ▢ ▢ ▢
● 文字間にスペースを入れる
該当する文字間に記号「ⅴ」「∧」を記載する。
(記入例)
ⅴ
▢ ▢ ▢ ▢ ▢
∧
「間隔を指定する場合」
● 行間を指定してスペースを空ける
行間に記号「>」「<」を入れ、空ける行間の行数を指定する。具体的に「二行アキ」や「三行アキ」などと記載する。
(記入例)
▢ ▢ ▢ ▢ ▢
二行アキ> <
▢ ▢ ▢ ▢ ▢
● 文字間を指定してスペースを空ける:
該当する文字間に記号「ⅴ」を入れ、上部に開ける文字間を「分」で指定する。具体的に二分アキや四分アキなどと具体的に記載する。
(記入例)
二分アキ
ⅴ
▢ ▢ ▢ ▢ ▢
∧
校正記号 一字下げ
一字下げとは、改行の行頭や段落の書き出しなどを1文字分下げることです。行の先頭文字(行頭)を一字下げる場合は、まず下げたい文字数に相当する文字と次の文字との間に上下に直線を入れ、そこから角ばった「ひ」を右に90°倒したような記号にします。
まとめ
ドキュメントを含む出版物やWebコンテンツなどを制作するうえで、校正は欠かせない工程の一つです。校正の目的は、文章の質を向上させ、信頼性が高く、理解しやすい内容に仕上げることです。また、修正箇所やその内容を明確に示すための記号が校正記号です。
さまざまな種類と決まりごとのある校正記号は、すべてを覚えるのは簡単ではありません。しかし、修正を行う作業者が迷わないよう的確な指示を記入するためには、校正記号の使用が必要です。まずは、使用頻度の高い構成記号だけでも頭に入れて校正作業をスムーズに進めましょう。