【第二部】
採用手法の変化の大きな流れと
社会的観点からの問題点
株式会社人材研究所 代表取締役社長 曽和利光氏
採用難を背景に、オーディション型採用からスカウト型採用へ
私も寺澤さんのお話と同様、採用マーケティングやオウンドメディアなど従来とは違う採用手法が求められくると思っており、今回はその理由についてお話させていただきます。
採用手法はこれまで「オーディション型採用」が中心でした。
「オーディション型採用」の特徴としては、広く公募して、その中からジャッジをしたり、多数に接触できるものの、合格率が低く、やや非効率だったり、自社のファンが中心で質は採用ブランドに依存していることなどが挙げられます。
こうしたデメリットは以前から指摘されており、この数年、採用活動は「オーディション型」から「スカウト型」へとシフトしてきました。
「スカウト型採用」は、ターゲットを特定し、会社側からアプローチしたり、合格率は高いものの、手間がかかり、スキルが求められたり、自社ファン以外にリーチするためブランドに依存しないことなどが特徴です。
「スカウト型」の具体的な手法としては、リクルーター制や、スカウトメディア、リファラルなどが挙げられます。
本日ご参加された皆さんの中にも、就職ナビを減らしながら、「スカウト型」を増やしている方が多いのではないでしょうか。
「オープン&フェア」か「効率・効果性」か
しかし先進的な企業の中には、数年前からいち早く「スカウト型採用」を導入したもの、何年か続けているうちに、いろいろと問題点が露見し始めているケースもあるようです。問題点は主に4つあります。
まず1つ目は、自社のファン以外にもアプローチするため、動機づけ力(口説き力)がなければ最終成果に結びつかないということ。「スカウト型採用」を取り入れれば、いい人材には必ず出会えます。しかし出会えても、口説く力がなければ、採用することはできません。
続いて2つ目は、狙った人材にしかアプローチしないため、人材の同質化や、誤った採用基準での採用を増幅させてしまう可能性があるということ。
要するに意外な人材には出会えないのです。しかも狙っているターゲットが外れていたら、間違った人ばかりどんどん集めてしまう、というリスクにもなります。
続いて3つ目は、多くの企業が導入することで、スカウト型採用の効果が漸減するということ。
使う企業が増えれば増えるほど、当然のことながら、反応率は落ちていくのです。
そして4つ目は、採用の成否というよりも、社会的な問題だと思うのですが、クローズドな採用手法なため、社会最適な採用手法なのかという疑問が出始めています。
「スカウト型」の場合、スカウトメールが届かなければ、その会社が採用しているかどうかはわかりません。
民間企業には採用の自由があるとは言え、世の中的には、新卒採用はすべての学生に扉が開かれているべきだと考えられていますから、そういう意味ではフェアではないという意見も出てくるでしょう。
まとめますと、従来の「オーディション型採用」は、オープンでフェアだという利点はあるものの、それゆえに非効率性がありました。一方、進行中の「スカウト型採用」は、効率性や効果性はあるものの、クローズドでアンフェアであり、いわば「オーディション型」と「スカウト型」は互いに相反している関係にあると言えます。
では、両方の良さを併せ持った第3の手法はないのでしょうか。昨今、採用先進企業ではその点について模索し始めています。
デジタルデータ、テクノロジーに基づいた採用マーケティングのトレンド
現在、採用先進企業では主に次の4つの取り組みにチャレンジし始めています。
1つ目は、ピープルアナリティクスの成果の採用への展開です。
これまで経験と勘に頼ってきた採用業務において、さまざまなデータを科学的に分析することで、例えばハイパフォーマーの特性を割り出すことができ、パーソナリティテストの利用方法の拡大にも繋げられます。
続いて2つ目は、オンラインリクルーティングです。
動画説明会や録画面接等を行うことで、地方に暮らす学生や留学生などにもアプローチできるなど、効率性を高められます。
続いて3つ目は、AI 面接です。
ロボットが質問し、それに答えるというもので、オープン&フェアと、効率性&効果性の両方を満たすことができます。
そして4つ目が、オウンドメディアリクルーティング。
これは、従来の「オーディション型」から「スカウト型」にシフトし、再び「オーディション型」へと戻ってきた、つまり「新たなオーディション型採用」と言えます。
大昔の採用はクリエイティブが重視されました。
あのようなアートの時代から、就職ナビのようなわかりやすい科学の時代に移行し、さらにもうひと回りして、アートと科学が融合したイメージです。いずれにせよ、いかにオープン&フェアと、効率性&効果性を両立させるかのチャレンジだと思います。