「近代マーケティングの父」と呼ばれるフィリップ・コトラー氏。
その最新の著書のタイトルが「マーケティング4.0」です。
「マーケティング4.0」は、一般的に「自己実現のマーケティング」といわれています。
どのような経緯で「自己実現の欲求」とマーケティングが関わるのか、またコトラー教授が提唱する5A理論にも触れ、BtoBマーケティングにおける視点で解説します。
マーケティング4.0とは?
「4.0」というだけあって、マーケティングの世界では、従来は「1.0」「2.0」「3.0」というものがありました。
以下、順に説明します。
・マーケティング1.0「製品主義」
1970年代までのマーケティング手法です。
製品やサービスを作る側が主導となって、商品開発を行っています。
つまり顧客の欲しいモノではなく、作り手側が考えて提案することがベースです。
新しい機能、斬新なカタチ、優れた性能などを大々的に広告することで、マーケティングは成り立っていました。
・マーケティング2.0「消費者志向」
1970年以降から「顧客主義」として、顧客が欲しいモノをキャッチし、製品とするマーケティング手法です。
これまで作り手側の視点しかなかったものが、立ち位置が真逆の消費者側に立った視点でマーケティングが行われるようになりました。
顧客のニーズをいかに把握できるかが重要となりました。
・マーケティング3.0「価値主導」
2010年あたりから広がった「価値」に重きを置いたマーケティング手法です。
大半の製品やサービスはコモディティ化されず、消費者側としては選択基準があいまいです。
そこで「社会貢献できるか」「社会をより良くできるか」という価値が問われ、その視点を狙ったマーケティング手法となります。
・マーケティング4.0「自己実現」
現在、欧米では主流となりつつある、顧客の自己実現に焦点を当てたマーケティング手法です。
心理学者マズローは人の欲求を7分類しましたが、そのうちの5番目である「自己実現の欲求」にフォーカスしたといわれています。
製品やサービスにより、顧客が「なりたい自分」「あるべき姿」を発見して達成することを目的とするマーケティング手法です。
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BtoBにおいてマーケティング4.0は可能?
顧客が企業となるBtoB領域において、マーケティング4.0が掲げる「自己実現のマーケティング」は可能なのでしょうか。
「自己実現の欲求」は、マズローの5段階層の最上位層に位置付けられています。
「あるべき姿の自分、なれる可能性のあるものになろうとする願望」は、本来、人間固有の欲求ともいえ、企業には当てはまらないようにも思えます。
しかし企業が自ら将来のあるべき姿をビジョンとして掲げることは、珍しくありません。
企業自体が持つ将来の展望に対して、自社の製品やサービスを手に入れることで叶うというマーケティング戦略を練ることも可能です。
またBtoB企業の場合、顧客は企業となりますが、段階的にみれば、意思決定にさまざまな人が複数関わることになります。
最低限の関与であっても、窓口となる担当者と、購入を決断する意思決定者は関わることになるでしょう。
企業に所属していても一個人としてのカラーは自ずと出るものです。
とくに担当者は、ファーストコンタクトの相手です。
担当者である一個人が製品やサービスを認識することから、マーケティングはスタートします。
BtoB領域であっても、その過程で個人が関わる限り、マーケティング4.0は可能といえるでしょう。
コトラーの5A理論のポイントとは?
もともと、マーケティングにおいては、顧客が製品やサービスを購入するまでの流れを、顧客視点で理解する「カスタマージャーニー」という思考方法が存在します。
従来では、「4A」として、以下の流れが主流でした。
・認知(Awareness)
・態度(Attitude)
・行動(Act)
・再行動(Act again)
マーケティング4.0では、コトラー氏はさらにAを加えた「5A理論」の展開をしています。
・認識(aware)
・印象(appeal)
・調査(ask)
・購買(act)
・推奨(advocate)
この5A理論のポイントは、マーケティングの最終目標が変更されたことです。
最終目標が変更されたことは、顧客のカスタマージャーニーが延びたことを意味します。
これまでは、ただ顧客が製品やサービスの購入を決めるという「行動」で終わり、繰り返されるだけでした。
しかし「推奨」つまり、他者に製品やサービスを勧めるという行為が追加されたのです。
IT技術の進化、SNSの発達などデジタル社会へ移行した現代だからこそ、マーケティングの最終目標が変化したといえるでしょう。
5A理論の内容にも変化があります。
自ら行動を起こして、製品やサービスについて調べる「調査」です。
マーケティングの目標が「推奨」です。口コミやユーザー評価など、他者の推奨をキャッチする想定といえます。
カスタマージャーニーは、これまで顧客から出発した直線でしたが、それぞれのジャーニーが繋がって複雑化していくことが予想されます。
マーケティング4.0を理解するカギは、その背景です。
マーケティング4.0が提唱された時代背景、つまりデジタルネイティブ世代が顧客層の中心を占めつつあり、今後さまざまな文化を作り、社会に影響を与えるという事実を前提にする必要があります。
マーケティング4.0について、コトラー氏は著書の中で、「企業と顧客のオンライン交流とオフライン交流を一体化させるマーケティング・アプローチ」としています。
SNSの発達で顧客側から情報発信する時代だからこそ、オンラインとオフラインのシームレスな交流が必要であり、多様な価値観に寄り添うマーケティングが求められるのではないのでしょうか。
まとめ
◆マーケティング4.0は製品やサービスにより「なりたい自分」を発見し実現させることに主眼を置いたマーケティング手法である
◆BtoBであっても「自己実現のマーケティング」であるマーケティング4.0は対応可能である
◆5A理論のポイントは、カスタマージャーニーの最終目的が製品やサービスを購入して終わるのではなく、他者に「推奨」することである