現在進行形でDX推進に取り組んでいる日本企業や行政は多いが、成功を収めていると言える団体はまだ少ない。とくに企業のDX担当者においては悩みが尽きないだろう。
この連載では、DX支援のプロフェッショナル企業であるFabeee株式会社の代表取締役CEO 佐々木淳氏に、DXにおける現状や課題、成功のための秘訣、そしてDXの未来について、豊富な実績と深い洞察力をもとに語っていただく。変革の波に乗るためにも、企業のDX担当者は、ぜひ本稿を参考にしてほしい。
◆執筆者:Fabeee株式会社 代表取締役 CEO 佐々木 淳
◆撮影場所:SPACES新宿
佐々木氏のインタビュー記事:日本のDX推進は間違いだらけ?「変革」を無視したDXに未来はない
目次
はじめに
現在、世界のあらゆる環境が過去に経験のないスピードで変化し、将来の予測が非常に困難な”VUCA(ブーカ)の時代”(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性の頭文字を取った造語)を迎えています。長年当然と考えられていた物の見方や考え方が、わずか1年ないしは2年の期間で様変わりし、 こうしたパラダイムシフトに迅速かつ柔軟に対応していくことは、世界全体に共通する大きなテーマであります。
経済活動において、それはより顕著であり、各企業は刻々と変容する価値観、消費者マインド、新たなテクノロジーなどを的確に把握し、それに即応できる体制作りは急務となりました。
日本を取り巻く経済状況も楽観視はできません。昨年(2023年)の国内企業の倒産件数は8,497件も発生(帝国データバンク調査)しています。これはバブル崩壊以降、前年からの増加率が最も高い数値です。また、コロナ支援策の縮小により、今年(2024年)はその影響がさらに色濃く反映されるとの予測もあります。そこに円安や物価高、慢性的な人手不足なども追い打ちをかけ、とくに中小企業や中堅企業は存亡の危機に晒され、いよいよ待ったなしの事業変革を迫られることになるでしょう。
わたしが代表を務めるFabeee株式会社は、伴走型DX支援サービスを通じて、クライアントのビジネス成長を加速させるDXコンサルティングファームです。
わたしたちの考える「デジタルトランスフォーメーション(DX)」をわかりやすく要約するならば「変革をデジタルで実施」という意味になります。変化自体が新標準であるDX時代においては、競合他社の後塵を拝さないためにも、今やDX推進は避けては通れません。
「伴走型」DX支援サービスの「伴走」とは、トレーニングジムにおけるパーソナルトレーナーを想像していただければわかりやすいかと思います。筋トレ同様、効果が出るまではクライアント企業さまと辛い時期も共有します。そのうえで目的を達成できるよう「並走」ではなく「伴走」により、手を携えて、進むべき方向を示していくことが我々の使命と考えています。
弊社は今年で15期目の節目を迎えますが、これまで非IT産業の企業を中心に、新規事業開発や業務プロセス改革の伴走型支援を核として、累計600社以上のお客さまにサービスを提供してきました。さらに実行支援として開発現場やマーケティングのリード、社内のDX文化構築に至るまで”一気通貫の支援”を実施。およそ3,000億円以上の価値創出に寄与しています。
とくに中堅企業様が抱えるDX推進の根本課題である「目線やリテラシーが揃わず推進できない」「形にならないことで継続的に投資がされない」といった部分に焦点をあて、目線やリテラシーがバラバラな社内外の関係者を、ビジネスとITの両面の専門家としてサポート。高いファシリテーション力や提案力と早い実行・検証で成果が見えづらい「DX推進を形にすること」を得意としています。
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変革へのアプローチ
弊社に寄せられるご依頼は「リソースが十分ではない中でも変革を実行したいので、二人三脚で実行できるところを探している」「すでにDX推進しているが思ったような成果が上げられていない」「旧態然とした組織構成を改革して、会社のあり方をさらによくしていきたい」「弊社のDXに関する考え方に共感いただきたい」など、多岐に渡ります。
どのようなご依頼であっても、変革をしなければいけないという意識をどこで持つか、さらに経営のトップを担う方々が、それを言葉と行動で表すモチベーションこそ、変革へのアプローチの大前提と思っています。
しかし実際の現場を経験すると2代、3代と受け継がれてきた企業はもとより、長い歴史を積み重ねてきた伝統ある企業ですら、一定の売上やアセット(編集部注:資産)があることから、変革への焦燥感が乏しいと感じることが少なくありません。
またリスクや失敗を恐れる古き慣習に縛られ、頭では変わっていかなければならないと悟りつつも、変革という言葉の響きの前に、これまで積み上げてきたものを壊して再構築し、アップデートすることに躊躇を感じる経営トップも珍しくありません。残念ながら、日本では大手企業以外は、まだまだDXが進んでいないのも現状です。
変革へのアプローチに話を戻せば、けして平坦ではない、いばらの道であろうとも「今やらなければいけない」という意思決定をしたならば、組織全体で現状を認識できる、事実を集約するための仕組みを構築することが重要です。つまり経営のトップから各部署に至るまで、バイアスのかかっていない、つまびらかなデータを持ち寄る作業です。ですがこれは企業によっては様々な困難が伴い、簡単ではありません。
また企業の規模が大きくなればなるほど、具体的に変革していくプロセスで、組織がサイロ化され、とりわけ情報の連携が図りづらい状況では、経営陣の意思決定や行動が組織全体に周知、浸透されるまでに多くの時間を費やすケースもあります。子細は後述しますが、組織の意識や体制を変革することは、DX推進を支援する我々にとっても一筋縄ではいかない難易度の高いミッションです。
仮に目の前が霧で覆われている状態であるとして、そこに気付かず、先行きは明るそうだという希望的観測が蔓延する中でDX推進を行っても、往々にして方向性を見誤ってしまいます。
より精度の高いデータが集積されてこそ、自社のブランドエクイティ(編集部注:ブランドが持つ資産価値)が解明されると同時に、新たな提供価値を生み出すクリエイティビティが発揮され、新規事業の立ち上げに役立てることができるようになります。あるいは近年台頭してきたChatGPTに代表される生成AIをはじめ、各種テクノロジーを駆使してコスト削減や効率化を図るうえでも、自社の特性に沿った形に備えられます。
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“DX”ではなく”XD”という考え方
DXは合理的なテクノロジーと、情緒的な側面のある、良好な人間関係の形成やコミュニケーションを活性化させる、風通しのよい環境整備・組織体制構築といった、性質が異なる2つの要素から成り立っています。ですが現状ではSaaS導入など、デジタルを使うこと自体が変革だと思われている節があります。むろんSaaSを軽視するわけではありませんが、重要なのは本来の目的である”変革”そのものに目を向け、”変革ありきのデジタル利用”として捉える考え方です。
ゆえに”D”ではなく”X”が前にくる”XD”とでも呼ぶべきスタンスで、企業の経営トップから各部署のキーパーソンまで、組織全体が同じ方向に向かうよう働きかけ、変革のためのマインドを醸成することがDX推進には不可欠といえるでしょう。
こちらの問いかけに対して、柔軟に話し合える関係性を築くまでには時間もかかります。DX推進の大きなカギとなるだけに、我々も多くの関係者と対面し、粘り強く地道な折衝と調整が続きますが、会話を重ねるごとにどこか手触り感のある感覚、すなわち苦楽を共にする「伴走感」が生まれてきます。
またクライアントの企業さま側も、是正しなければならない点もわかってくれば、進むべき方向に迷いがなくなり、自ずと自己肯定感も高まります。そうなると目の前の曇りが晴れたクリアな視点となり、変革を見据えた手段としてのデジタル導入はスムーズに進んでいきます。
もちろん最初から最後まで全てが順風満帆に進むわけではありませんが、どのような業種であれ、経営トップのモチベーションが牽引し、各部署の推進の旗振り役となるキーパーソンが連携することで、リスクを取りつつ、変革を断行するための手段として、デジタルを活用していくことこそが「DX推進」の本来の形であると考えています。
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