世界中の優れたSaaS企業を発掘し、日本市場への参入にあたって共同経営を行うJapan Cloud(ジャパン・クラウド)。その中心にいるのが、ジャパン・クラウド・コンピューティングのパートナーで、ジャパン・クラウド・コンサルティング代表取締役社長である福田康隆氏だ。かつてセールスフォースでシニア・バイスプレジデントを務め、マーケティング・オートメーションのマルケトでは日本法人社長を務めた。Japan Cloudでは、新しいSaaSテクノロジーを日本企業に展開して生産性向上を支援するとともに、次世代におけるリーダーのキャリア開発を行い、日本企業の競争力向上に貢献することを目指している。
今回はJapan Cloudの仕組みと、福田氏の経験に基づいた「成功するためのキャリアの作り方」について伺った。
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目次
海外SaaSの日本参入を共同経営で行うJapan Cloud
ーーJapan Cloudは世界中の優れたSaaS企業を発掘し、日本市場への参入を共同経営で行っています。従来の海外製品・サービスの代理店とは何が異なるのでしょうか。
福田 代理店はある企業の製品を販売代理するもので、製品元と代理店は別の企業であり、製品元が代理店の経営に関わることはありません。一方で、私たちJapan Cloudは日本に参入する海外企業の日本法人の株主・オーナーとして、8年から10年の長期間にわたって一緒に経営を行います。その点が代理店との大きな違いです。
ーー海外からの参入企業は、Japan Cloudをどのように評価しているのでしょうか。
福田 彼らは私たちを「共に事業を推進し、同じ立場で経営を共有できるパートナー」として見てくれています。短期的な売上だけでなく、日本市場での長期的な経営基盤を構築し、着実に成長を遂げたいという想いにコミットメントできるパートナーを求めています。そういった企業が私たちに声をかけてくれている状況です。
ーーこれまで日本に参入した海外SaaSの実績として、どのような企業がありますか。
福田 私自身はこれまでセールスフォースやマルケトの日本法人立ち上げに関わってきました。現在(2024年1月時点)は11社の日本法人の経営に関わっています。
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ーー海外企業との共同経営とは、どのようなものなのでしょうか。具体的に教えていただけますか。
福田 まず、参入企業の海外本社とJapan Cloudの両社で出資をして、ジョイントベンチャー(合弁会社)として日本法人を設立します。そこに取締役会を設置して、日本の社長、我々Japan Cloudからは私とアルナ・バスナヤケ、本社のCEOやCFOといった経営陣が取締役チームを形成します。こうした体制作りが日本市場に対する強いコミットメントにつながりますし、中長期的経営をする意思の表れだと考えています。
具体的にいうと、最初に私たちが行っているのは、日本法人の社長とマネジメントの採用です。場合によっては、営業やエンジニアの採用も行います。Japan Cloudには戦略、マーケティング、PRなどのスペシャリストがいますので、立ち上げの初期には私たちのチームメンバーがそれらの業務を行います。
こうしたやり方は海外でも珍しいとされますし、日本でもほかにはないビジネスモデルで、Japan Cloudはユニークな存在だと言えます。
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過去の成功や失敗例を新会社に共有して成功率を高める
ーーJapan Cloudにはどのようなキャリアパスの方々が集まっているのですか。
福田 コンサルティングチームは約10人おり、多くの社員が以前Japan Cloudが関与した日本法人の勤務経験を持っています。過去の会社での成功例や失敗例はPlay Booksとしてまとめ、その情報を新しい会社でも共有しています。
また、私たちは11社(2024年1月現在)を連携させる役割も担っています。各社が独自の戦略を立てて経営していくことはもちろん重要なのですが、例えばマーケティング、インサイドセールス、人事採用、市場戦略など、役割ごとにコミュニティを形成し、Japan Cloudの各専門メンバーがつなぎ役として機能しているのが特徴です。11社のナレッジを集約して、各社に役立つ情報を提供しています。
私自身はマルケトの社長時代に、サンブリッジからサポートを受けていました。サンブリッジはJapan Cloudの共同創業者が創業し、2000年にセールスフォース・ドットコムの日本法人設立に関わった事からスタートしました。サンブリッジからスピンアウトしたのがJapan Cloudです。ベストプラクティスを共有し、協力して業務を進めることで安心感があり、お互いに頼りになる存在が大きな価値だと感じていました。今はサポートを提供する側になって、こうした活動をもっと広げていきたいと考えています。将来的にも年に数社ずつ増やしていき、人材を育成して、経験を積み重ねていく予定です。
ーーJapan Cloudが立ち上げた11社の日本法人のトップには、どのような方々がいらっしゃるのでしょうか。
福田 Japan Cloudが採用した各社の社長11人は、全員社長経験が無かった方です。外資系IT業界は社長が他社に移って社長になるケースが多いのですが、私たちは日本で活躍する多くの優秀な方々に社長というキャリアを経験する機会を提供して人材を育てていき、同時にその下の人材にも成長してもらいたいと考えています。
社長経験者がNGということではないのですが、結果的に社長未経験の方々に社長になってもらっています。年代的には40代前半くらいの方が多いですね。
ーー一般的な日本企業で働くのと、Japan Cloudの関連企業で働くのとでは、どのような違いがあるのでしょうか。
福田 Japan Cloudの関連企業では、事業をスタートするところから関わることができます。企業は起ち上げ期から成長し、最終的に成熟するというプロセスを経ますが、その起ち上げや成長期に参加する経験は非常に重要です。
私自身、1996年に設立5年目の日本オラクルに入社し、急速に成長する過程を経験し、同社は2000年に東証一部へ上場しました。その後、社員数30名弱のセールスフォース日本法人に入社して、起ち上げのフェーズを経験しました。こうした経験があったからこそ、マルケト日本法人の社長に就任して一から事業を始めることができました。
成功している会社を内側で見る機会や、自分が関与しながら経験する機会はなかなか得られませんが、Japan Cloudの関連企業では、貴重な体験ができます。こうしたチャンスは、キャリアを構築するうえで非常に重要な経験になるでしょう。
ーー一般的な外資系企業の日本支社や日本拠点とはどのように違うのでしょうか。
福田 一般的な外資系企業では、日本のトップがAPAC(アジアパシフィック地域)の下のポジションにいて、本社と直接的なコミュニケーションを取ることが難しい場合があります。また、日本やAPAC、または本社の上司が変わると企業の方針が変わってしまい、以前の経緯がわからなくなる、といったこともよくあります。
Japan Cloud関連企業の場合ですと、取締役会には私たちが常駐しており、本社と直接つながっていますので、過去の経緯がわかりますし、経営の継続性と一貫性を保つことができます。これはお客様との関係性において私が重要視している点であり、一般的な外資系企業と大きく異なる特徴だと言えます。
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成功体験のある環境でチャンスに飛びつき成功をつかめ
ーー福田さんは、ご自身のキャリアパスについて、どのようにお考えですか。また若手のビジネスパーソンにヒントがありましたら教えてください。
福田 キャリア形成というと、目標を決めて、そこに向かってキャリアパスをつくるという考え方があります。しかし私はそういうタイプではなく、目の前にある仕事をやっているうちに面白さを見出して、次のポジションに移っていくほうでした。
実を言うと、若いころはマネージャーを志望しておらず、営業も一番やりたくない仕事でした。ところがひょんなことから営業マネージャーになり、さらに目の前に来たチャンスにパッと飛びついて社長にもなりました。そうしたら営業マネージャーも社長という仕事も案外面白く感じられ、「人間の興味や志向は、経験によって変わっていく」ということを実感しました。
そういった私自身の経験も踏まえると、若手の方々には、はじめから自分の方向性を限定せずに、いろんなことにトライして視野を広げていってもらいたいですね。「何歳までにカントリーマネージャーになりたい」といった発言を若手の方から聞くことも多いのですが、その時点で自分の可能性を限定しているのかもしれません。若い時はもっとたくさんの選択肢がありますので、チャンスに飛びついて、いろんなことをやってもらいたいですね。
ーー新卒での入社や転職にあたって、重視すべきことがあったら教えてください。
福田 若い時の経験はその後の人生の礎になるので、自分がどこでその経験を積むかが重要です。私が新卒で入社した日本オラクルの当時の社長である佐野力(さの ちから)さんから聞いた、印象深いエピソードが一つあります。
佐野さんが大学生のとき、恩師に「どういうところに就職したらいいでしょうか」と質問をしたところ、その方は「その業界で一番成功している会社に行きなさい。なぜなら成功している会社には、それなりの理由がある。それを学べるはずだ」とおっしゃいました。そこで佐野さんは日本IBMに入社し、数々の成功体験を得たのです。
自分自身もたまたまですが、ものすごく成長している最中の日本オラクルに入社でき、たくさんの学びを得ました。つまり、大きな成長を遂げるには、仕事をする環境が非常に大切だということです。特に若い方には、成功している会社に身を置くことをおすすめします。
成功企業の見分け方
ーー「成功している会社」の見分け方や定義は何でしょうか。
福田 経営陣がこれまで成功に関わってきたかが重要です。日本オラクルやセールスフォースもそうでしたが、過去に成功経験を積んだ人たちが経営している会社や、そういう人たちが見極めた会社は成功する確率が高い。成功を経験した人たちと一緒に仕事をすることで、成功の法則が学べます。
ですからJapan Cloudが新規に取り組むSaaS企業を検討するとき、その会社のCEOやCFOなど、マネジメントチームの経験や人柄、つまり人を見ているのは事実です。ただ若手の方がそうした判断をするのは、少し難しいかもしれませんね。
ーー経営者の成功経験を見定めるのが難しいとすると、どのような方法がおすすめですか。
福田 20代、30代、40代でキャリアの選び方は違ってきますね。年代に応じた順番を間違えないことが重要です。
20代の選択肢の一つは、先ほどもお伝えしたように、すでに成功している大きな会社に入って学ぶことです。成熟した会社では、いろんな環境がすでに整っていて、なぜその仕組みやプロセスで成功ができ上ったのかがわからないことが多いかもしれません。しかし、注意深く周囲を見ながら経験を積み重ねていくと、「こうやったらうまくいく」という感覚をつかめる時が、30代前半にやってきます。
一方で、大きな会社にいると責任のあるポジションや立場を得られないこともあります。いわゆる、上がつかえている状況です。そうした場合には、小さなスタートアップ企業など、自分に責任を与えてもらえる環境がある会社に飛び込むのがいいでしょう。
Japan Cloudの関連会社でしたら、私たちが数多くの世界のSaaS企業から選んでいますから、間違いありません。30代や40代の方で、今のポジションに甘んじたくないと考えている方は、ぜひ飛び込んできてください。