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【現地報告】CES 2024から読み解く「デジタルマーケティング」の最新動向

2024.1.16
コロナ禍の期間は、オンライン開催を余儀なくされたCES。今年は主催団体の設立100周年を迎え、過去最大規模の開催となった
読了まで約 7

毎年、米ラスベガスで年初に開催されるテクノロジー業界の一大イベントが、CES(Consumer Electronics Show)だ。かつては、文字通りの「家電製品展示会」だったが、2015年に大きく方向転換。最新の製品とサービスを展示し、それらがもたらす社会変革について話し合う総合的なテクノロジーショーケースへと進化した。

今年のCESは、1月10日から12日までの会期で催された。出展社をみると、新製品の展示を行うスタートアップも多いが、大企業は主に将来を見据えたビジョンを説明するケースが増えている。例えばソニーは映像やゲームなどクリエイターの創造活動を支える企業として、どのようなツールを開発、提供しているかをデモンストレーションする場として活用している。

マーケティングという観点からも注目度が高い展示会だ。どのようにすればネットを通じたプロモーションや商品の販売を活性化できるか、といったホットな課題について議論が行われており、その内容はマーケッターにとっても重大関心事だろう。

筆者(本田雅一)は、このCESを現地で取材した。本記事では2つの観点から、CES 2024について報告する。第1はGAFAMに代表される米国の巨大技術企業(ビッグテック)のテクノロジーマーケティングに関するレポート。もうひとつはデジタルマーケティング先進国である米国における、最新技術の活用に関するレポートだ。

ますます強まるビッグテックの支配力

デジタル技術が導入されてからも、家電製品はあくまでもブランドメーカーが支配する製品であり続けていた。しかし、ネットワークに接続され、クラウドに溶け込んだサービスが大きな価値を持つようになると、背後にいるビッグテックの存在が目立つようになっている。

各社は、自分たちの勢力圏(エコシステム)を広げるために、どのようにパートナー獲得のためのマーケティングを行っているのだろうか。

アップル

アップルはCESに参加していない。「多くの企業の中の1社」とみられることを避けるためであり、ここに参加しないことは、アップルの大切なブランディングになっている。

しかし、その影響力は出展するスタートアップの製品という形で色濃く現れている。空間コンピューティングデバイスであるApple Vision Proの販売が2月2日に始まるとのニュースがCES期間中に発表されたが、この画期的なデバイスは、それ以前から業界全体の製品やサービス開発の方向性を定めていた。

主催者の発表によると、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)をテーマにした展示ブース数は前年より27%増加したという。ここ数年、VR関連展示は伸び悩んでいた。その理由は優れたコンテンツ制作にコストがかかる上、端末普及が遅れていたからだ。

そうした中で大幅に出展社数が伸びた理由には少なからず、Vision Proが影響している。
アップルが打ち出した”空間(Spatial)”というキーワードでの展示が目立ったことも、その影響力を感じさせた。仮想現実という感覚的なイノベーションにとどまらず、「Spatial」という新しいコンセプトを打ち出して、コンピューティング基盤そのものが革命を起こすというアイデアを広めたことも、アップルのテクノロジーマーケティングの妙といえるだろう。

グーグル

自動車産業に対するテクノロジーマーケティングに力を入れているのがグーグルだ。

同社の技術は、いうまでもなく「OK, Google」で呼び出すグーグルブランドのAIアシスタントとして組み込まれている。しかし、グーグルの技術は、基盤技術として多くの製品に浸透している。ソニーをはじめ大手家電メーカーのテレビにもグーグルの技術は欠かせないものとなっているし、現在の力点は自動車への食い込みだ。今年のCESでは、スマートフォンの自動車向け機能であるAndroid Autoの改良について発表された。

アップルのCarPlayと同様に、自動車のナビゲーション機能やドライバー体験の基礎として使われるようになってきているAndroid Autoに、新たに電気自動車向けバッテリー管理機能が追加されたのだ。

バッテリー残量情報を「Google Maps」と共有することで、ナビゲーション時に充電設備に誘導する機能などが追加された。もっとも、アップルのCarPlayと同様、Android Autoなどの機能は自動車メーカーのシステムとは切り離されており、自動車内の体験がグーグルやアップルに支配されることへの懸念を自動車メーカーは持っている。

しかし、Waymoという自動運転技術の会社をグループに抱えるグーグルは、テスラのような電気自動車、自動運転の先行企業と比較しても相対的な期待は高まっている。とはいえ、自動車業界からの不信感は根強い。パートナー企業とのきめ細かいコミュニケーションが課題になりそうだ。

マイクロソフト

マイクロソフトにとってCESは、長年、Windows PCの新しい方向性を示す場だった。そのため、CESをテクノロジーマーケティングの場として活用することにもっとも長けた企業といえるだろう。

今回のCESでは、クラウドプラットフォームのAzureを通じて提供する生成AI機能をアピール。いち早く優れたAI機能をOpenAIの技術をもとに導入したことに加え、効率の良いニューラルネットワークプロセッサー(AI処理専用チップ)への投資を行なったことにより、この分野では先頭に立っていることを示した。

また、Windows PCのキーボードに「Co-pilotボタン」を設置することで、ユーザーが簡単にAI機能を呼び出せるようにすると発表。今年春以降のWindows PCでは、より手軽にAIを活用できるようになる。

標準の呼び出しボタンが設置されることで、あらゆるユーザー、また今後、PCを使いこなしていく新しい世代は、AIの活用を前提にコンピュータを使いこなしていくことになる。これは今後のパソコンの使い方に大きな影響を与えることになりそうだ。

マイクロソフトは自動車に組み込むAI技術にも積極的に参入しており、ソニーホンダモビリティが2025年に受注を開始する予定の新型電気自動車「AFEELA」にはマイクロソフトの技術が組み込まれる。

その理由について、ソニーホンダモビリティの川西泉社長は「文脈を理解してパッセンジャーの要求を把握し、適切に応答するために最もよい選択肢だから」と話していた。電気自動車のように、商品単価が高く長期的なメンテナンスやアップデートが必要な製品は、対話性におけるより高い品質を求めてマイクロソフトの技術が浸透しそうだ。

アマゾン

オンラインショッピング世界最大手であるアマゾンはCESに専用ホールを借りて自社製品を数多く並べるなど存在感を強く示している。これは一般来場者向けのテクノロジーマーケティングだろう。その一方で、アマゾンの技術は、他社製品の中に組み込まれる形でも使われており、その新規提携がうまく進んでいることを知らせることにも力を割いている。

たとえば、話題の生成AIは、「Amazon Bedrock」として多くの産業機器、コンシューマー製品に組み込まれていることをアピール。低廉な製品も含めて、かなり幅広く使われはじめていることを明らかにした。ストリーミングデバイスである「Fire TV」は、これまで安価なテレビにしか入っていなかったが、今年のCESではパナソニックとパートナーシップを締結したことを発表。世界的なブランドに組み込まれることになった。

パナソニックがFire TVを搭載するテレビは、日本国内でも販売される。同社シェアが大きい日本国内市場では、ストリーミング配信作品の視聴動向にも影響を与える大きなニュースといえるだろう。

BMWの自動車内システムでもアマゾンのテクノロジーが取り入れられ、会話ベースでのアシスタント機能が提供される見込み。技術面ではアップル、グーグル、マイクロソフトなどよりも見劣りしていると見られがちなアマゾンだが、実際にはAWSを通じて多くの企業がアマゾンの提供するインフラに依存している。

とりわけIoT製品はAWS上にサービスが構築されていることが多く、一般消費者からは見えにくい。そうしたところにもアマゾンのサービスが存在している。CESの展示では、そのことを効果的にアピールしていた。

デジタルマーケティングには最新技術が続々

画像:展示会が行われるコンベンションセンターとは別、Aria Hotelで開催される「C-Space」ではマーケティングやコンテンツ、広告などの関係者がディスカッションを行なっていた
展示会が行われるコンベンションセンターとは別、Aria Hotelで開催される「C-Space」ではマーケティングやコンテンツ、広告などの関係者がディスカッションを行なっていた

デジタルマーケティングにおいて多くの最新事例が生み出されている米国市場を反映し、CESには「C-Space」という展示とパネルディスカッションの会場がある。これは2016年から設けられており、マーケッターからの注目度は高い。

今年のCESにおける中心テーマは、なんといってもAI。それにVR/AR/XRといった最新テクノロジーを組み合わせた事例の発表が目立った。たとえば、ユーザーに商品やサービスを擬似体験してもらうための手段としてXR技術を活用する、というものだ。

Wayfairは家具や家庭用品のオンライン販売プラットフォームとして最大級の企業。1万1000社を超えるサプライヤーから 1400万点の商品を集めているが、彼らが成長の鍵と考えているのはAR技術だ。

実際に自宅でどのように家具が見えるのか。どのようにレイアウトがアレンジできるのかなど、オンラインで自由に商品を選びながら確認できることは重要だ。そのためにARをはじめとするXR技術の応用が重要になる。

家具から始めたWayfairのARシミュレーション技術だが、現在はあらゆる日用品へと適応範囲を拡大。オンラインでも使い勝手を想起しやすいようスマートフォンやVRゴーグルで確認できるようになっているという。

旅行業界での取り組みも進んでいる。旅行会社のBrown + Hudsonは、ChatGPTをカスタマイズすることで、独自の旅行計画を、まるでエージェントに相談するようなステップで作れるシステムを開発。オンラインで、その時点での部屋や飛行機の空き、価格も調査しつつ、最適な提案が行えるというが、さらにVR技術を用いて提案する滞在先やオプショナルツアーを疑似体験できるようにした。

モロッコのマラケシュで裏通りを散策したり、ニュルブルクリンクでハイパーカーをドライブする体験などをリアルに体験できる。Six Senses、Shangri-La、Sonevaなどの欧州・アジアの超高級リゾートでも予約時にVRの使用を始めているという。

こうしたラグジュアリーリゾートでの応用が進んでいるのは、VRを活用するエージェンシーが専業で生まれているためだ。Gecko Digital Globalはテクノロジー活用で、ホテルグループとの提携を拡大している。

ショッピングモールのマーケティングも進化している。印象的だったのは、全米にショッピングモールを展開しているWestfieldによる取り組みだ。

同社のショッピングモールはWestfield Labsというイノベーション部門を抱えており、ショッピング体験を最新技術で強化するための研究開発を行なっている。サンフランシスコにイノベーションセンター「Bespoke」を設立。これは、75以上のデジタルマーケティングやECに関連したスタートアップ、ブランドを集めた拠点だ。

3700平方フィートという広さのBespokeには、3Dプリンティング、eコマース、データ分析、モバイル技術、ウェアラブル技術などをテーマにしたスタートアップが集まるコワーキングスペースがある。多様な企業が集まることで投資の方向や、実際の販売スペースあるいはウェブページへの組み込みを検討する場になっているだけではなく、一種のテストマーケティングにもなっているとのことだ。今後の「Bespoke」の動きに注目したい。

ライブイベントにも最新技術

最新技術を活用したデジタル映像制作で知られるNexus StudiosでVR/XR部門を率いるパブロ・ロビント氏は、ニューヨークのタイムズスクエアやロンドン・ピカデリーサーカスで行ったARイベントについて発表した。

この2つの場所は、観光客が集まる世界有数のスポット。多くの商業施設が複雑に入り混じる地域でもある。この地域で大きなイベントを開催する場合、その安全対策などは困難を極める。そこでAR技術を活用。QRコードをもとにスマートフォンを通じてライブイベントの最新情報や、近隣商業施設との連携について、グラフィカルにわかりやすく見せるトライアルを行なったという。

Nexus Studiosのソリューションはシンプルで、ヘッドマウントディスプレイを使って高精細な映像を映し出す没入型コンテンツとは真逆のアプローチだ。例えばメジャーリーグとの共同プロジェクトでは、より深く試合を楽しめるように過去のデータや選手にまつわるトリビア、あるいは試合そのもののデータなどを表示するシステムを開発しているという。ARにアシスタント的な役割をさせようということだ。

このようなアプローチは音楽ライブなどでも活用されている。

Live Nationは世界的なアーティストの巨大ライブイベントを主催する企業。同社のケビン・チェネット氏はテクノロジー企業と提携し、コンテンツ配信でARを活用しているという。

ライブイベントに参加中はデバイスを使わないが、ライブに参加できないファン向けに配信などオンラインでの体験価値開拓を同社は進めている。この中でARの活用を行なっているほか、コンサート入場までの待ち時間やファンフェスティバルでの体験の質を高めることで、ライブコンサートや参加するアーティストの価値を最大化している。

マーケティングは最新テクノロジーの力を借りて、新しい次元のものへと進化しつつあるーー。そんなことを実感したCESだった。

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編集者

山田俊浩(やまだ としひろ)

東洋経済新報社 編集局次長
2020年10月から現職。2014年5月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。就任時には月間3000万PVだった東洋経済オンラインを月間2億PVを超える大手新聞社に匹敵する大型ニュースサイトへと引き上げた。2019年1月から2020年9月までは週刊東洋経済編集長。著書に『稀代の勝負師 孫正義の将来』(東洋経済新報社)がある。また不定期でAbemaTV の『ABEMA Prime』(アベプラ)にコメンテーターとして出演中。趣味はオーボエ演奏で都民交響楽団に所属。

執筆者

本田 雅一(ほんだ まさかず)

ITジャーナリスト

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

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