「デジタルツイン」という言葉を知っていますか。ビジネスでWebに携わっている人であれば、活用している人も多いかもしれません。
デジタルツインとは、ヒトやモノなどさまざまなデジタルコピーをサイバー空間上に表現する先進技術のことで、急速にテクノロジーが進化する中で注目を集めています。製造業や物流業、都市開発などさまざまなシーンでこの技術が活用されており、今後さらにこの技術が利用されながら日本という国が発展してくことが推察されています。
本記事では、デジタルツインの概要や活用するメリット、活用するシーンや今後の発展性を解説します。今後の社会に取り入れられていくデジタル技術となっているので、自らの生活や仕事、企業の課題解決などにも活用できるように理解を深めていきましょう。
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目次
デジタルツインとは?
近年、さまざまなシーンでデジタルツインが注目を集めており、社会課題の解決や業務のクオリティ向上などに利用されています。まずは、意味や概要を解説します。
ヒトやモノなどさまざまなデジタルコピーをサイバー空間上に表現する先進技術
デジタルツインとは、ヒトやモノなどさまざまなデジタルコピーをサイバー空間上に表現する技術です。現実に存在するものとそっくりなコピーを、デジタルのデータとして構築するため「デジタルツイン」と呼ばれています。このサイバー空間上でデジタルデータを元に分析や未来予測などのシミュレーションを行っていくことができるため、その結果に基づく最適な方法や行動を考えることが可能となります。
注目される背景
デジタルツインが注目を集めるようになったのはIoTの普及が大きな要因です。IoTとは、「Internet of Things」の頭文字をとったもので、「モノのインターネット」と呼ばれており、さまざまな機器をインターネットに接続して、相互に通信する技術の総称です。相互に通信を行うことで情報を共有し合うことができ、自動化や遠隔制御などの目的を実施することが可能となります。
デジタルツイン自体は1960年代から存在していましたが、情報をデジタル化するためには、入出力作業などで人手が必要となり、その負担が非常に大きいものになっていました。しかし、近年IoTなどのデジタル技術が劇的に進化したことで、仮想空間における現実空間の再現度や解像度が大きく向上し、大きな注目を浴びるようになりました。現代でも、製造業や物流業、発電設備、自動車業界など、広い分野でその技術が使われており、無限の可能性を見せています。
大きな可能性が見いだせているからこそ、導入を検討している企業も現状増えてきています。しかし、まだまだ日本企業の導入は少なく、日本国内ではここから大きな発展を見せていくことが考えられます。
シミュレーションやメタバースとの違い
似た概念として、「シミュレーション」や「メタバース」がありますが、3つはそれぞれ違う特性があります。
シミュレーションとは、実際の物を使ってのテストが難しい場合などに、別のもので代用して検証を行うことを指します。そのため、デジタルツインはシミュレーションの一環といえます。ただし、現実空間を仮想空間に再現するデジタルツインに対して、シミュレーションは必ずしもコンピューター上などの仮想空間で実行される訳ではありません。イメージしやすい模型を利用して実験場などでテストを実施することもあります。また、デジタルツインは現実世界のデータをその瞬間ごとに収集し、実際の現実世界の変化に応じて変動させていきますが、シミュレーションにはデータをその瞬間ごとに収集するようなリアルな動きは必ずしもありません。
次に、メタバースとは、デジタル空間上に構築された仮想世界です。「デジタル空間上に構築」という点ではデジタルツインと一致していますが、メタバースでは「アバター」と呼ばれる、コミュニケーションで用いられる自分の分身となるキャラクターを使って活動を行います。また、デジタルツインがあくまでも現実世界を仮想空間に再現するものであるのに対し、メタバースは、現実とは何の関係もない世界や存在するはずのない要素を加えたものを構築することもあります。
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デジタルツインを活用するメリット
デジタルツインはすでに製造業や物流業、発電設備、自動車業界、都市計画など広いシーンで利用されている技術ですが、企業の課題解決や社会問題の解決などに役立てられています。ここからはデジタルツインの主なメリットを5つ解説します。
品質向上
全てが仮想の世界で完結するデジタルツインはトライアンドエラーが容易なため、製品の試作をローコストで繰り返すことが可能です。細かな欠陥の洗い出しやより使い勝手が良くなるための機能追加が可能となり、完成品の品質の向上につながります。また、IoTを活用して得られた多くのデータからAIが分析してくれるため、精度の高いデータを取得でき、より精密に製品の改善点や利用しにくい点ななどを発見しやすくなります。
コスト削減
試作のプロセスを現実の環境を反映した仮想空間で行うことも可能です。従来ではこういった施策のプロセスには、製品の完成の為に施策を何度も繰り返す必要があり、多くの時間や人員、費用などさまざまなコストがかかってしまっていました。しかし、仮想の空間で試作品を開発・制作できるため、実際の世界で試作品を多く製作するよりも非常に多くのコストを抑えられます。一度製作した試作品のデータを次の設計・開発に活かすこともできるので、試作品を作成する回数を減らして開発にかける期間を短縮することもできます。開発にかける期間が短縮されるということは、その分の人員や費用も削減できることに繋がるため、さまざまな面でコスト削減につながります。
設備保全・予防保全
製造の現場においてデジタルツインが非常によく活用されているのが、予防保全です。工場設備などで異常が発生した際、設置されている各種センサーが状況をリアルタイムに正しく伝えることでデータを収集・分析し、エラーや故障の原因を切り分けることが可能となります。また、蓄積されている情報から将来的な故障の予測を行う予知保全も可能となっています。
従来の製造の現場では、トラブルが起きた後、製造部門からの報告やクライアントからのフィードバックをもとに検証を行って設計を見直す必要があり、スムーズに開発や製造を行うことが難しくなっていました。技術を活用することで、その瞬間ごとに収集されたデータを使いながら素早く原因を特定し、改善を進めていくことが可能なのです。
リスク低減
製造の現場におけるリスクを低減できることも大きな利点です。製品の開発には、コストが非常にかかってしまう恐れがあり、多大なコストをかけても実現ができなかったというケースもあります。それだけのコストをかけて実現できなかった場合、企業にとっては大きな損害となってしまう恐れもあります。
物理空間を忠実に再現した仮想の空間を利用すれば、仮想の空間の範囲内での試作、生産を行った際の検証までを実際に行うことができます。そのため、現実の世界で試作品を作って開発を行うよりも低いリスクで開発や製造を行うことが可能となります。
アフターサービスの充実
クライアントに対する、提供した製品のメンテナンスなどのアフターサービスの充実にも活用できる点もあります。
従来では、クライアントが製品を利用していた際に不具合が生じると、クライアント側からメーカーや修理業者に修理依頼や確認の連絡をしなければなりませんでした。しかし、技術を導入して、製品から送られるデータをもとに利用状況や消費状況などを確認できるようになれば、部品交換などの処置・メンテナンスが必要なタイミングで連絡を送ることが可能となります。例えば、製品の使用によるバッテリーの消耗具合や摩擦状況を把握し、バッテリー交換などのアフターサービスを適切なタイミングで行うことが可能となります。クライアントからの信用・信頼度が高まったり、顧客満足度の向上も見込めたりするようになるでしょう。
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デジタルツインに利用される技術
さまざまなシーンで利用されているデジタルツインですが、より精度高く利用するためにさまざまな技術が使われています。主に以下の5つが利用されています。
● IoT
● AI
● AR・VR
● 5G
● CAE
IoT
IoTとは「Internet of Things」の頭文字をとったもので、「モノのインターネット」を意味し、さまざまな機器をインターネットに接続して相互に通信する技術の総称です。相互に通信を行うことで情報を共有し合うことが可能で、自動化や遠隔制御などの目的を行うことができます。
IoTは、仮想空間を創っていくための実際の現実空間のデータ収集に欠かせない技術です。IoT機器を通じて収集されたデータが、インターネットを介して仮想空間の構築に利用されます。例えば、センサーなどが取得した設備・機器などの情報を、インターネットを介して反映することで、よりリアルで精度の高い現実空間の再現を行うことができるのです。
AI
AIとは「Artificial Intelligence」の頭文字をとったもので、人の知能を人工的に再現したものです。一般的には「人工知能」と呼ばれます。コンピューターやシステムが大量のデータから学習して、相関関係やルールを導き出し、それをもとに問題解決や課題解決を行うことができます。
デジタルツインにおいては、AIによって仮想空間で創られた実際の世界の分析を高い精度で行えるようになっています。AI自体の情報を処理する能力の向上に加え、IoTの発展によるデータ量の増加でAIの学習機能が増加し、より正確な未来の予測を実施することが可能となっているのです。
AR・VR
ARとは「Augmented Reality」の頭文字をとったもので、VRは「Virtual Reality」の頭文字をとったものです。現実世界に情報を加えて拡張する技術であるARや、仮想空間を現実世界のように表現することができるVRも欠かせない技術となっています。仮想空間で起きた不具合やエラーを視覚化することで、実際の世界へのよりリアルなフィードバックが得られます。また、AR・VRを利用して、業務に関する研修や作業支援なども実施することができるため、企業にとっても好影響を与えるでしょう。
5G
5Gとは「5th Generation」の頭文字をとったもので、第5世代移動通信システムのことです。日本では2020年からサービスが開始されており、高速大容量・低遅延通信・多数同時接続の特徴を有しているため、デジタルツインの活用には欠かせない技術です。前世代の4Gと比較して、通信速度では約20倍を超えるようになり、さらに大容量のデータ通信を行えるようになりました。5Gによって大容量のデータを高速かつ低遅延で通信できるからこそ、その瞬間ごとに仮想空間へデータを反映できる仕組みが成り立っているのです。
CAE
CAEとは「Computer Aided Engineering」の頭文字をとったもので、コンピューターを用いて製品の設計や解析を行う工学支援システムのことをいいます。
試作を実際に制作するのに比べて大幅なコスト低減と期間短縮が可能となるため、製造業においては早くから利用されていました。技術が劇的に進化したことで、再現される現実空間の解像度が飛躍的に向上し、膨大なデータを利用しながらその瞬間ごとでの高度なシミュレーションを実現することができるようになったため、デジタルツインと共に利用されています。
デジタルツインを活用するシーン
デジタルツインの活用はさまざまな分野で始まっており、私たちの身近なものになるのはそう遠い未来の話ではありません。製造業をはじめ、さまざまな業界で積極的に利用されています。ここからは利用されているシーンを解説します。
製造業
デジタルツインは、製造業の現場で非常によく利用されることが多いです。製品の品質向上や試作を制作する際のコスト削減、トラブルの事前検知など、現場が抱える課題の解決や生産性の向上を目的に利用されています。例えば、生産量や在庫に関する生産計画、設備の異常検知など、リアルでは試しにくいような事柄を仮想空間であらかじめ試すことができるようになります。
また、最近では、製造ライン全体をまるごとデジタルツイン化して、ロボットの運用や、物流システムの最適化を進めていく取組みも始まりました。より業務の効率化やコストの削減が見込めるようになっています。
物流業
物流業界では、その瞬間ごとに再現される仮想倉庫を作成し、オペレーションをより効率的に行うための取り組みや物流の設計・管理の最適化を目的としてデジタルツインが利用されています。この技術のおかげで、円滑に物流が行われているといっても過言ではありません。
また、車両についたセンサーなどから取れるデータを利用し、渋滞の予測や在庫管理、輸送ルートの検証など、物流の過程を追跡・可視化することで、効率的な物流管理を行えるようになってきています。これからの物流業界はさらに発展し、私たちの生活においても好影響を与えてくれるでしょう。
発電設備
デジタルツインは発電設備などにも利用され、オペレーションの効率化などに貢献しています。私たちの生活に欠かせない発電設備は、環境への負担をおさえるために、オペレーションのさらなる効率化や、稼働率の向上が課題となっていました。しかし、実現には人員的な問題や多くのコストがかかってしまう点がネックとなっていたのです。そんな中、技術が発展してきたことにより、運転状況や設備の保全状態が簡単に実施できるようになりました。デジタルツインの活用により、効率の悪い箇所や改善点、不具合が起きるリスクを早い段階で検知し、負担少なく管理を行えるようになったのです。
都市計画
近年では、都市開発や駅前開発などにも技術が利用されています。デジタルツインでは、都市内の道路や建物、路線などの静的データに加え、街中での人の流れやエネルギーの消費状況などの動的データを統合した大規模なバーチャル都市を作成することが可能となっています。このような本物の都市を模したバーチャル都市を創り、都市の持続可能性や効率性を向上させるために、シミュレーションを行っています。
また、これらの技術はスマートシティの設計にも利用されています。スマートシティとは、AIやIoTなどの先端的な通信技術を活用して、都市機能やサービスの高度化・効率化を目指す取り組みを行った住みやすい街の事を指します。例えば人口や渋滞、建設などのデータを用い、バーチャル都市を作れば、都市開発のシミュレーションが可能となります。この取り組みは、日本の国土交通省のプロジェクトなどにも利用されているほどです。国を挙げてこの技術を使って、よりよい社会の創生に取り組んでいることが分かります。
ヘルスケア・サービス
ヘルスケアや医療の分野での活用も始まっています。
例えば、医療機器にセンサーやカメラを取り込み、デジタルツインと連携させていくことで、手術のリアルタイムな可視化などが可能となります。さまざまな視点から手術を実施することができるので、少し難しい手術でも最大限のパフォーマンスを発揮することができ、多くの患者を救える可能性が高まるかもしれません。
また、個々の患者に関する情報や状態を管理し、病状の経過観察や予測にも利用が可能です。患者の健康に関する情報やバイタルサインをその瞬間ごとに取得し、患者に合わせた病気の治療計画の制作や警告システムの構築が簡単に行えるようになることで、医療の質の向上にも繋がるようになるでしょう。
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デジタルツインは今後どのように発展するか
デジタル技術はさまざまな分野・シーン利用されており、私たちの日常において身近になるのもそう遠くないと考えられます。今後もさらに発展し、より私たちの生活や仕事を円滑にしてくれるようになるでしょう。ここからは現在の市場規模と今後の展望について解説します。
市場規模
リサーチステーション合同会社が公表したレポートによると、デジタルツインの世界的な市場規模は2021年の65億30万米ドルから急増し、2022年で69億ドル、2027年に735億ドルに達すると推定されています。( https://www.dreamnews.jp/press/0000269376/)
市場の成長要因としては、これからさらに製造業においてコスト削減やサプライチェーンオペレーションの改善のために技術が活用されたり、ヘルスケア産業においては技術の需要がさらに高まったりなど、さらに市場を加速させていくと考えられているためです。
多くの分野でさらに発展を見せる
デジタルツインをはじめとした技術やIoT、AI、機械学習などの組み合わせは、市場成長をさらに加速させ、より多くの分野で発展を見せていくと予想されます。新たなさまざまな用途に向けて、増え続ける技術が常につぎ込まれているため、デジタルツインの未来はほとんど無限に広がっているといえるでしょう。製品の改善やプロセスの効率化に必要な洞察を継続的に生み出すことが可能であり、各企業やデジタル技術の利用者に向けて最適な活用方法が生み出せるということです。しかし、デジタルツインを活用している日本企業はまだまだ少ないのが現状です、米国企業は8~9割の企業が利用しているのに比べて、日本企業は1~2割の企業しか利用ができていません。まだ理解が進んでいない部分もありますが、理解が深まることでさらなる活用・発展が行われていくでしょう。
デジタルツインにより解決を期待できる課題
ヒトやモノなどさまざまなデジタルコピーをサイバー空間上に表現する先進技術であるデジタルツインですが、これらを利用すれば、世の中の多様な課題を解決できると考えられています。ここからは解決を期待できる課題について解説します。
社会課題
SDGsのような世界規模の社会問題を予測し、どのような解決に向かっていくのか最適化をする役割がデジタルツインに期待されています。SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略称であり、2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた17つの目標です。貧困や環境問題、差別、人権問題などの社会課題の解決を目標に掲げています。
例えば、気象災害を想定した避難訓練や、避難行動の改善、現場の高齢化にともなう労働力不足の解消など、現実世界で生み出されるであろう社会課題をいち早く発見し、解決策をフィードバックする際にこれらの技術を利用することができます。
医療課題
医療分野では、バイオデジタルツインによる医療分野での課題の解決が期待されています。バイオデジタルツインとは、受診や検査、日常生活を通じて得られる各種の身体データを、デジタルなデータとしてコンピューター内に取り込み、デジタルツインコンピューティング技術によってサイバー空間上に緻密な写像や生体モデルとして実現しているものです。
手術や治療のシミュレーションをはじめとした、医療従事者の補助的な役割として収集データは活用されます。病気の早期的な発見や予防などにも、この技術は有用です。この技術によって医療の技術を格段に向上し、より病気から救われる人や健康に生きていく人が増えていくことに貢献できるでしょう。
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まとめ
本記事では、デジタルツインの概要や活用するメリット、デジタルツインを活用するシーン
や今後の発展性を解説しました。
デジタルツインとは、ヒトやモノなどさまざまなデジタルコピーをサイバー空間上に表現する先進技術のことで、急速にテクノロジーが進化する中でメタバースなどと共に注目を集めています。世界的な市場規模は2021年の65億30万米ドルから急増し、2022年で69億ドル、2027年に735億ドルに達すると推定されており、これからもさらに発展が見込まれています。
まだまだ日本企業には充分に取り入れられておらず、発展途中ですが、これからの時代の流れを考えると、取り入れた企業と取り入れていない企業では大きな差が付くと考えられます。
技術を活用することで、自社の課題解決に大きく影響を与えることも考えられるので、まずは最新の情報をキャッチすることから始めてみましょう。