「インボイス制度」を知っていますか。作成を行う請求書に記載する内容や、仕入税額に関する控除の規則が変わるなど事業を行っている人たちにとっては色々な影響があるため、個人で事業を行っている人やフリーランスで仕事を行っている人たち、個人で仕事を請け負っている外注に仕事を依頼している企業の担当者は、内容を理解しておくことが非常に重要となります。
しかし、名称は知っていても、実際自分たちにはどんな変化があるのか、事前にどのような準備が必要となるのか、あまり理解していない事業主も多いようです。制度が実際に始まると、個人事業主や法人は、正しく作成された適格請求書の「発行」と「受領」のそれぞれで必要な準備を行うことが重要となり、何も準備をしていないことで大きな損害を受ける可能性があるかもしれません。理解をせずに進めてしまうことで、罰則を受けてしまう恐れも考えられます。
本記事では、インボイス制度の概要や制度が始まったことによる変化、必要な対応や手続きについて解説を行っていきます。「制度スタートが近づいているのにあまり理解が進んでいない」という人は、今回の記事を読んで適切な対応を進めていきましょう。
目次
インボイス制度とは?
「インボイス制度」は作成を行う請求書に記載する内容や、仕入税額に関する控除の規則が変わるなどこれからの取引に多くの影響を与えます。まずは、内容について理解を深めていきましょう。
消費税の仕入税額控除に関する制度
インボイス制度は、「適格請求書等保存方式」といった正式な名称がある制度で、要件を満たした適格請求書を売り手が買い手に発行し、双方がそれらを保存することで、消費税に関する税額の控除が適用されるようになります。
事業者は売り上げにかかる消費税を申告・納付を行いますが、商品やサービスを仕入れる場合には消費税を支払うようになっています。そこで、消費税額を割り出す際には、課税売上にかかる消費税額から課税仕入にかかる消費税を差し引くことで、税額を求めてその分を納税するようになります。この仕組みを「仕入税額控除」といいます。
例えば、販売価格が5,500円(商品代金5,000円+消費税500円)の商品があったとして、その商品の仕入れにかかる代金が2,200円(仕入代金2,000円+消費税200円)だったとします。その場合、控除を活用したときは「500円(売り上げ時に受け取った消費税)-200円(仕入時に支払った消費税)=300円」となり、納税すべき消費税は「300円」となります。
一般的に制度導入までは、売り手が免税事業者であっても控除が受けられるのですが、制度が始まると、控除を受ける際には、適格請求書の発行または保存が条件になります。そのため、適格請求書を発行できない事業者から仕入れを行った場合、原則的には控除が受けられなくなってしまいます。
制度導入の背景には、2つの消費税率の存在があります。2019年の消費税率の8%から10%への引き上げに伴い、食料品などに対し軽減税率が導入されました。軽減税率とは、この増税にともない、一部の商品を対象として今まで通りの8%の税率とする処置のことです。酒類・外食を除く飲食料品や、テイクアウトや宅配などによる食事、定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞などが8%の税率の対象です。
このように2つの税率が平行して運用されているなか、どの取引に、どちらの税率が適用されているかを明確にする必要が出てきました。どちらが適用されているか明確になることで、これまでより正確な経理処理が可能になると期待されています。
消費税における2種類の事業者
そもそも「免税事業者」と「課税事業者」の意味があまり分からない方も多いかもしれません。全ての事業者はこの2つのどちらかに分類されるようになっています。「消費税の課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下」の要件を満たしている場合は、消費税の納税が免除される免税事業者となります。この場合は納税義務がないため、取引で発生した消費税を利益としてそのまま得ることができます。しかし、「消費税の課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下」を満たしていない場合は課税事業者に分類され、消費税の納税が義務付けられるようになっています。
登録は必須ではない
課税事業者は基本的に今回の制度で登録を行うことになりますが、今まで免税事業者であった場合は、登録は必須ではありません。しかし、買い手である課税事業者は控除を活用するために売り手に適格請求書の交付を求めます。登録を行っていない事業者の場合、適格請求書の発行はできません。そのため、現状、免税事業者である者が課税事業者と取引を継続するために登録を行うかどうかは自身の判断が必要となります。
適格請求書とは
この制度で最も重要なポイントになってくるのが「適格請求書」という特別な書類です。これを正しく利用し、保管をしておかなければ正しく制度を行うことができず、控除も受けることができません。適格請求書については正しく理解を深めておきましょう。
所定の記載要件を満たした請求書
商品やサービスなどを提供する側が、購入する側に対してより正確な消費税額や税率などを伝えるための手段が、「適格請求書」になります。これを活用することで、同一の商品から重複して消費税を支払わないようにすることが可能となります。
区分記載請求書との違い
一般的に使用されている請求書は「区分記載請求書」という形式のものとなっていますが、制度によって今後必要となる適格請求書は、現在一般的に使用されているものなどに比べて記載が必要となる項目が増えます。適格請求書は、以下のような項目を記載するようになります。
● 発行者の氏名または名称
● 取引年月日
● 取引の内容
● 対価の額
● 請求書受領者の氏名または名称
● 軽減税率の対象品目である旨
● 税率ごとに合計した対価の額(税込)
● 登録番号(適格請求書のみ)
● 税抜価額または税込価額を税率ごとに区分した合計額および適用税率(適格請求書のみ)
● 消費税額等(適格請求書のみ)
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インボイス制度導入による変化とは?
スタートは間近に迫っていますが、実際に私たちにはどんな変化が起きるのでしょうか。変化を把握しなければ、どのようなことを行えばいいのかも分かりません。行うべきことを行わなければ、事業に損害がもたらされることもあります。ここからは、制度導入後の変化について解説を行っていきます。
インボイスの発行と保存が義務化
仕入税額控除を受けたい場合、消費税を取引先に支払ったことを証明する必要があるため、取引を記録した帳簿と請求書等の保存と提出が義務化されるようになります。
そのため、商品やサービスに対しての対価を受け取る側は、適格請求書を交付する必要があります。適格請求書発行事業者に登録しておくことで発行が可能です。登録を行っていない人が、適格請求書と誤解される可能性がある請求書や書類を交付することは禁止されており、もし違反を行った場合は罰則も設けられているため、注意してください。
仕入税額控除の適用要件が変わる
制度導入後は、売り手側から発行された適格請求書を保存している取引のみ控除の対象です。発行されていないものは控除の対象外となるため、買い手側は売り上げ時に受け取った消費税額をそのまま支払わなければなりません。
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課税事業者への影響
「消費税の課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下」の要件を満たしておらず、納税を行ってきた課税事業者は、このまま通りの売り上げを維持して事業を継続していく場合、登録は必須となるでしょう。その場合、以下のような影響が考えられます。
● 適格請求書発行事業者の登録申請を行わなければならない
● 適格請求書の発行と保存を行わなければならない
● 確定申告で消費税の申告を行わなければならない
● 取引先が広がる可能性もある
適格請求書発行事業者の登録申請を行わなければならない
前述していますが、適格請求書は登録を行った事業者のみが発行可能です。登録は書面で行うことが一般的ですが、電子申請することも可能です。登録申請が各自治体の税務署により受理されると、適格請求書発行事業者における登録番号が発行されるようになります。請求書には、この登録番号を記載する必要があるのできちんと把握しておきましょう。制度がスタートする2023年10月1日から登録を受けるためには、同年9月30日までに登録申請書を税務署に提出する必要があります。9月30日までに提出した場合は、開始する2023年10月1日までに登録通知が届かなかった場合でも、同日から登録を受けたものとみなされます。
適格請求書の発行と保存を行わなければならない
売り上げについては課税事業者が発行する側となります。記載するべき内容を問題なく記載した適格請求書の発行・保存の準備を進めておきましょう。従来とは異なる書式となるため注意が必要です。記載が必要な項目を改めて把握・確認し、新しくフォーマットを用意するようにしましょう。
確定申告で消費税の申告を行わなければならない
登録を行った場合、課税事業者は消費税を納税しなくてはなりません。各自治体の確定申告方式に乗っ取って正確に確定申告を行い、納税を実施しましょう。申告や納税が遅れてしまうと延滞税などのペナルティが課せられるため早めに準備を進めましょう。確定申告に関して不明点や不安な点がある場合は、早めに税務署に相談し、正しく納税できるように手はずを整えておくことが重要です。税務署は確定申告に関してのサポートを手厚く行ってくれます。
取引先が広がる可能性もある
登録を行っておくことで手間が増えてしまう点もありますが、取引先を広げていくチャンスにもなり得ます。課税事業者の買い手と免税事業者の売り手が取引を行なった場合、課税事業者は仕入税額控除を受けられなくなってしまいます。そのため、適格請求書を発行できる売り手の方が良いと考え、取引先の見直しを考えること可能性が高くなります。そのような際に、登録を行っておくことで新しいビジネスチャンスになることもあり、新しい企業との取引が増えることもあるかもしれません。
登録しない免税事業者への影響
消費税の課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円に満たない免税事業者は、以下のような影響が考えられます。
● 適格請求書の発行ができない
● 取引先から仕事を減らされてしまう恐れがある
● 新規顧客の獲得が難しくなる可能性がある
適格請求書の発行ができない
適格請求書を発行するには登録をすることが条件となるため、免税事業者では発行は行えないことになります。適格請求書を発行したいと考えている場合、登録を行って課税事業者になる必要があります。登録を行っていない事業者が、適格請求書と誤解される恐れがある請求書や書類を交付することは禁止されており、違反を行った場合は罰則も設けられているため、注意してください。
取引先から仕事を減らされてしまう恐れがある
課税事業者である買い手と免税事業者である売り手が取引を行なった場合、買い手は控除を受けられなくなります。そのため、適格請求書を発行できる売り手の方が良いと考え、取引先の見直しを検討することもあるでしょう。免税事業者であることによって企業側に負担がかかることから、仕事を減らされてしまう可能性があります。
新規顧客の獲得が難しくなる可能性がある
先程の「5.2 取引先から仕事を減らされてしまう恐れがある」に通ずることですが、課税事業者の買い手側からすると適格請求書を発行できる売り手の方が良いと考えるため、新規の契約を行ってくれないことも多くなるかもしれません。
新規の契約を行ってくれる場合でも、控除を受けられない点を考えた上で、消費税相当の金額を値引きするように相談されたり、できる限り安く値段交渉をされたりする可能性も考えられます。
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インボイス制度に向けて行うべきこと
まもなく制度はスタートとなりますが、そのスタートに向けて準備や手続きが必要となります。多くの経営者・事業者達が、スタートに向けて経営判断が必要になるでしょう。ここからは、制度に向けて実施すべきことをケース別に解説していきます。
課税事業者
取引先の事業者の種別をチェック
最初に、既存の取引先が課税事業者もしくは免税事業者かチェックを行うようにしてください。適格請求書は登録を行っている課税事業者しか発行できず、発行を行えない事業者である場合控除を受けられなくなってしまい、納税する額が上がってしまうことになります。取引先が免税事業者であった場合、今後登録を行う予定があるのか確かめるようにすると良いでしょう。
適格請求書発行事業者の登録
適格請求書は、登録を済ませた場合のみ発行可能です。控除を活用するうえで必須の手続きなので、確実に登録しておくようにしましょう。
登録申請は書面で行うことが一般的ではありますが、電子申請で行うことも可能です。申請が税務署によって受理されると、適格請求書発行事業者としての登録番号が発行されます。請求書には、この登録番号を記載する必要があるのできちんと把握しておくようにしましょう。制度がスタートすると同時に登録を受けるためには、2023年9月30日までに登録申請書を税務署に提出する必要があるので、余裕を持って実施することをおすすめします。
適格請求書の発行・保存の体制を整えておく
売り上げに関しては、課税事業者が請求書を発行する側となります。登録が完了すれば、要件に満たした適格請求書の発行・保存が必要となりますので、事前に体制を整えておくことが重要です。従来のものとは違った書式となるため、新しくフォーマットを用意しておく必要があります。記載が必要な項目を以下にまとめたので、改めて把握しておきましょう。
● 発行者の氏名または名称
● 取引年月日
● 取引内容
● 対価の額
● 請求書受領者の氏名または名称
● 軽減税率の対象品目である旨
● 税率ごとに合計した対価の額(税込)
● 登録番号
● 税抜価額または税込価額を税率ごとに区分した合計額および適用税率
● 消費税額等
免税事業者
取引先の事業者の種別をチェック
免税事業者も、最初に取引先や顧客が課税事業者か免税事業者かチェックを行うようにしましょう。課税事業者サービスを提供している場合は、その取引先が控除を活用するために適格請求書の発行を求めることが想定されます。その場合、免税事業者であることで発行は行えないようになっています。
課税事業者になるか検討
現在取引を行っている事業者の種別をチェックしたうえで、自分自身は登録を行うべきなのかを検討するようにしましょう。登録は任意ではありますが、取引先が課税事業者の場合、適格請求書の発行が行えないことで控除を受けられなくなってしまうため、今後の取引を断られたり仕事を減らされたりしてしまう恐れがあります。取引先との関係の深さによっては、登録を行わざるを得ないケースも考えられるでしょう。自身の事業展望や取引先との今後を考えて、検討することが重要となります。課税事業者となる場合、消費税に関する納税が発生したり、納税による事務的な作業が増えてしまったりする点が大きなデメリットとして考えられます。事業を営んでいるものとして、正直税金の負担は少しでも減らし、経理・事務的な作業の負担はできる限り簡易的にしたいものです。
相手がほとんど中小企業で、取引における単価が10,000円未満になっている場合は、適格請求書がなくても当面は控除が可能となります。このような取引が多い場合は、しばらくは登録が不要であるケースも想定されます。
また、単に、消費税の課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円を超えて課税事業者になるケースと、登録を行って課税事業者となるケースは何点か違いがあることは把握しておくようにしましょう。単に登録を行って課税事業者となった時は、課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下になっても消費税の申告・納付が必要となります。
制度対応への支援措置
制度に対応できるように体制を整えるには、さまざまなコストがかかってしまうことも想定されます。そのような人達のために、税負担の緩和や事業負担の軽減を目的とした支援措置が設けられているのです。
● 消費税の納税額の2割特例
● 1万円未満の仕入れは適格請求書の保存が不要
● 会計ソフトを導入する事業者に「IT導入補助金」が適用
消費税の納税額の2割特例
免税事業者が登録を行った場合、一定期間納税する消費税額を売上税額の2割とする負担軽減措置が設けられており、この負担軽減措置を2割特例といいます。2割特例の対象は、免税事業者から新しく登録をした人です。
例えば、「売り上げ800万円=税額80万円」で「経費200万円=税額20万円」の事業主がいたとします。実際の本則課税は「80万円-20万円=60万円」となりますが、2割特例の場合、「80万円×2割=16万円」となり、納税の金額が16万円となります。2割特例を活用することで、非常に負担を解消させることに繋がります。
1万円未満の仕入れは適格請求書の保存が不要
企業が国内で課税仕入れを行う場合、その仕入価格が10,000円未満であれば適格請求書の保存が一定期間不要になります。これは買い手側の措置です。
しかし、こちらを活用するには、一定の要件を満たしている必要があります。対象の要件は、「2年前の課税売上が1億円以下または前年の1~6月(法人は事業年度の上半期)の課税売上が5,000万円以下」となります。こちらの要件を満たしていれば、2029年9月30日まで措置が活用可能です。
会計ソフトを導入する事業者に「IT導入補助金」が適用
制度に対応している会計ソフトを導入する事業者に「IT導入補助金」が適用されます。IT導入補助金は、ITツールを導入したいと考えている中小企業や小規模事業者が利用できる補助金で、以前より活用されていましたが、IT導入補助金の制度の中に「デジタル化基盤導入枠」というものがあり、これは生産性の向上とともに、これから始まっていくインボイス制度を見据えて、デジタル化を推進していくことを目的とした補助金になります。
会計ソフトはIT導入補助金の対象のうち、ITツールに該当します。以前までは、補助金の下限が50万円とされていましたが、低価格の会計ソフトを導入するケースにも対応できるように下限が撤廃されました。会計ソフト以外にも、レジやパソコンなどのハードウェアも補助対象となっており、さまざまな業種において活用できるようになっています。利用にはハードルが低いので、ぜひ活用してみてください。
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まとめ
本記事では、インボイス制度の概要や制度が始まったことによる変化、必要な対応や手続きについて解説しました。事業者の種別問わず影響があり、立場別に準備するべきことが違ってくるため、スタートする前に必要な手続きを進めていかなければなりません。もうスタートは間近に迫っており、後回しにはできないものになっています。
登録を行わなければインボイスを発行することができず、登録を行った際は保存の義務も生じます。企業はもちろんのこと、個人事業主もさまざまな対応が求められることになるでしょう。登録は任意となりますが、取引がなくなってしまったり、少なくなってしまったりすることが想定されるので、事業の状況や展望、また、取引先との今後によっては登録を検討していかなければならないでしょう。事業の内容や顧客の属性などによって制度に対応すべきか、免税事業者のままでもいいのかが変わってきますので、税理士や税務署に相談してみても良いでしょう。今後の事業を問題なく継続させていくためにも、しっかり対応していくことが重要です。