DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功事例を業界・業種別に紹介します。DXは、新たな市場を生み出すだけでなく、企業体力をつけるためにも欠かせない改革です。ぜひ事例から、DXへの向き合い方のヒントを見つけてください。
目次
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって2004年に提唱された概念です。デジタル技術を浸透させることで、人々の生活がよりよい方向に進むことを意味します。
日本では、2018年に経済産業省が「DXレポート」を発表したことで、DXが注目されるようになりました。DXレポートでは、企業がデータとデジタル技術を用いてビジネス環境に変化に対応することをDXと定義しています。また、製品・サービス・ビジネスモデルなどの変革だけでなく、ビジネスそのものや組織、企業文化などもDXによって変革して企業競争力を高めることもDXのひとつです。
なお、DX化と混同しがちな言葉として「IT化」が挙げられます。IT化とは、ITテクノロジーを活用してアナログ作業にデジタル化をもたらし、業務効率化やコスト削減を実現することです。一方、DX化はデジタル技術の活用により、サービスやビジネスモデル、ビジネス自体を変革することを指します。つまり、IT化とはDX化の手段のひとつで、DX化にはIT化も含まれます。
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DX推進が求められる理由
IT化が進んだことで、消費者の行動やニーズも変化しています。消費者の新たなニーズを把握し、消費行動につながる商品やサービスを提供するためにも、DX化が必要です。
また、DX化により、業務効率の向上を実現できます。人材不足や業務の属人化を課題としている企業も、DX化の推進が求められます。
とはいえ、DX化と一口にいっても適用可能な範囲が広く、具体的に何をすればよいのか迷う方も多いのではないでしょうか。業界・業種ごとの事例も参考にして、自社の課題を解決するDX化を実現してください。
関連記事:マーケティングDXとは?成功のためのポイントと6つの事例を紹介
【建設・住宅業】DX成功事例-5社
建設・住宅業は、人と人とのつながりで仕事を進める業界です。しかし、業務内容によってはDX化が可能です。DX化の成功事例をいくつか紹介します。
株式会社大林組
株式会社大林組では、大林グループ全体のデジタル改革を牽引する組織として、2022年にDX本部を設置しました。DX本部は各事業部と連携し、経営戦略に即したデジタル戦略の立案から推進、監理までを担います。また、事業部の枠を超えた業務プロセスの変革やデジタル人材育成、デジタル関連の投資の最適化なども請け負います。
大林グループでは、持続的な発展に欠かせない要素としてDXを捉えてきました。DX本部では各事業の強みを深化させ、ステークホルダーの期待に応え、収益向上を目指す活動を進めていきます。
清水建設株式会社
清水建設株式会社では、「ものづくりをデジタルで」「ものづくりを支えるデジタル」「デジタルな空間・サービスを提供」の3つのコンセプトを柱とするデジタル戦略「Shimzデジタルゼネコン」を打ち立てました。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、社会は大きく変わりました。業務内容やプロセスの見直しが必要とされているだけでなく、社会のニーズも変化してきています。
たとえば、建設業界では、スマートシティなどのデジタルサービスを提供できる街づくりが求められるようになってきました。清水建設株式会社では、このような変化にいち早く対応するためにも、「Shimzデジタルゼネコン」を打ち立て、デジタル戦略の見直しを定期的に行っています。
また、DX化の取り組みが評価され、2021年・2022年・2023年の3年連続で、経済産業省・東京証券取引所・情報処理推進機構が選定する「DX銘柄」にも選ばれています。
参考:清水建設株式会社「シミズのDX ものづくりの心を持ったデジタルゼネコン」
鹿島建設株式会社
鹿島建設株式会社では、DXの戦略的推進として2021年~2023年の3年間にわたる中期経営計画を打ち立てています。この計画では、鹿島建設グループがデジタルでつながり、主体的に顧客や社会の課題を発見し、便利・快適・安心できる世界をつくることを目指します。
DXを「業務DX」と「建設DX」、「事業DX」の3つに分け、段階的かつ同時進行的に進めていくのも鹿島建設株式会社のDX化の特徴です。まずは業務DXで成長・変革に向けた経営基盤を整備し、建設DXで中核事業を強化、事業DXで新たな価値創出を実現します。
参考:鹿島建設株式会社「September 2021:特集 鹿島DX | KAJIMAダイジェスト」
大和ハウス工業株式会社
大和ハウス工業株式会社では従来の本社部門や事業本部、グループ会社に加え、DX推進を専門とする「建設DX推進部」と「経営企画部(DX推進室)」、「情報システム部・商品IT業務部」を設けました。
建設DX推進部ではバリューチェーンのデジタル化を図り、経営企画部(DX推進部)ではプロセス・IT全体を俯瞰し、情報システム部・商品IT業務部ではバックオフィスのデジタル化を実現します。また、これらの組織と従来の組織が情報共有し、なおかつ連携することで、大和ハウス工業株式会社全体のDX化を推進します。
なお、大和ハウス工業株式会社のDX化は比較的早く、1970年にはテレックスとパソコンの導入による仕事改革、1972年には顧客管理システムの電算化などを実現してきました。今後も業界をリードするDX化への取り組みが期待されます。
株式会社長谷工コーポレーション
株式会社長谷工コーポレーションでは、長谷工グループ全体のDX推進のために「グループDX検討推進部会」を結成しました。グループDX検討推進部会では、設計や施工、修繕、暮らし方にかかわるさまざまな場面でのDX活用と発展について話し合います。
長谷工コーポレーションでは、元々設計・施工を一貫で扱う比率が90%を超えていました。DX化も設計・施工に分けずに共同で推進し、協力会社も巻き込んでトータルでのDX活用・発展を実現しています。
参考:株式会社 長谷工コーポレーション「グループ全社で考え、進化させる「豊かな暮らし」のためのDX」
【不動産業】DX成功事例-4社
不動産業も、基本的には人と人とのつながりが重視される業界です。しかし、物件紹介やニーズの開発など、DX化と相性のよい業務も多数あります。不動産業におけるDX化の事例をいくつか紹介します。
SREホールディングス株式会社
SREホールディングス株式会社では、社長直轄のDX推進室など、企業内に多数のDX関連部署が配置されています。これらのDX関連部署では、社内外のDXニーズを収集し、現場の社員とエンジニアが協力して業務のスマート化を進めています。
たとえば、SREホールディングス株式会社の不動産仲介事業では、売主・買主のそれぞれに専任担当者を置くエージェント制を採用し、従来よりニーズに応じた質の高いサービスを提供していました。同時に先端技術を活用したツールを開発し、試験的に導入することで仲介事業の生産性向上を実現しています。
開発したツールは、不動産業界や金融業界などのさまざまな企業に提供してきました。実践的に利用してもらうことで、UIやUXが磨きこまれるだけでなく、不動産取引に必要なデータの収集にも役立っています。
参考:SREホールディングス株式会社「「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2021」および「DXグランプリ2021」に選定」
東急不動産ホールディングス株式会社
東急不動産ホールディングス株式会社では、2030年においても価値を創造し続けるグループであるために、「DIGITAL FUSION」と題したDX推進のビジョンを掲げています。
DIGITAL FUSIONとは、デジタルの力であらゆる境界を取り除くことです。過ごし方や働き方といった生活シーン、オンライン・オフラインの垣根などを超え、事業や組織にもとらわれずに変革を目指します。
プロパティエージェント株式会社
プロパティエージェント株式会社は、DX推進により現実空間に強みを持つ会社のあり方を目指す総合DX企業グループです。
なお、プロパティエージェント株式会社のDX推進は、不動産・不動産DX・システム導入・デジタルサービス・社会課題の異なる要素が、お互いにかかわり合うことを意味します。このかかわりから、不動産というリアルなものが今までにない顧客体験や社会課題解決を生み、よりよい企業、よりよい社会を実現します。
参考:プロパティエージェント株式会社「DX推進への取り組み」
株式会社ミライト・ワン
株式会社ミライト・ワンは、情報通信設備建設などで培った技術力を基盤に、街づくりや企業DX、グローバル事業を進める企業です。経営ビジョン「MIRAIT ONE Group Vision 2030」を打ち出し、DXを推進し、顧客・社会課題を解決するためのビジネスモデルやマネジメントにおける方向性を広く示してきました。
株式会社ミライト・ワンは、2021年、経済産業省が定めるDX認定事業者に認定されました。また、2023年には認定継続が決まり、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンを策定・公表している企業として広く認められています。
参考:株式会社ミライト・ワン「経済産業省が定める「DX認定」を更新」
【運輸・物流業】DX成功事例-7社
運輸や物流の業界でも、DX化の波は押し寄せています。いくつかの企業事例を紹介します。
日本郵船株式会社
日本郵船株式会社では、グループのミッション「Bringing value to life.」を実現するためのさまざまな取り組みを実施してきました。たとえば中核事業の深化と新規事業開拓を両輪とするAX・BX、人材・組織変革・グループ経営変革を示すCX、DXとEX(エネルギートランスフォーメーション)を同時並行的に推進する「ABCDE-X」戦略など、革新的な取り組みがあります。
そのほかにも、次の取り組みを推進し、経済産業省などが主催するDX銘柄2023に選ばれました。
● DXインフラとアプリケーションシステムの整備
● 船陸サイバーセキュリティとデータ品質管理体制の構築
● DX人材の育成
● 郵船ロジスティクスのサプライチェーンマネジメントの整備
● デジタル設計技術などを駆使した脱炭素船隊の整備
参考:日本郵船株式会社「「DXグランプリ 2023」に選定」
株式会社商船三井
株式会社商船三井は、2023年3月、デジタル化の取り組みをさらに推進し、社会課題を解決するための「商船三井グループ DXビジョン」を策定しました。このDXビジョンでは、海運業で培った技術・情報を基に、海の可能性を探求し、多様な人材により新たな価値創造を目指します。
なお、DXビジョンの策定にあたっては、株式会社商船三井が大切にするものとして人・安全・社会・新たな領域の4つのキーワードを抽出しました。これら4つのキーワードが融合し、海運業の舞台である海やその先に変革をもたらします。
参考:商船三井「「商船三井グループ DXビジョン」を策定 ~デジタル技術を活用し、業務・文化をトランスフォーメーション~」
日本航空株式会社
日本航空株式会社では、顧客一人ひとりのニーズに応じたサービスを提供するために、国内線運賃を全面的に刷新しました。新しい基盤では、従来の複雑でわかりにくい運賃体系を抜本的に見直し、シンプルかつ理解しやすいものへと変更しています。また、乗り継ぎ運賃も導入し、より顧客目線でのサービス提供を実現しました。
あらゆる地域でシームレスな輸送を実現するために、ドローンや空飛ぶクルマの事業も推進しています。他企業や国とも協力しながら、2023年度には奄美・瀬戸内町でドローン事業の開始を目指しています。
これらの活動が評価され、日本航空株式会社はDX銘柄2023に選定されました。なお、DX銘柄の前身である「攻めのIT経営銘柄」も含むと5回目の選定です。
参考:JAL企業サイト「JAL、「DX銘柄2023」に選定」
ヤマトホールディングス株式会社
ヤマトホールディングス株式会社では、ヤマトグループ全体のデジタル戦略を担う「ヤマト運輸デジタル戦略推進部」を設置し、デジタル基盤の運用・強化やデータ分析、部門横断的なデータ活動などを推進しています。主な取り組みは以下をご覧ください。
● DX人材育成のため、階層ごとの研修カリキュラムからなるデジタル教育プログラムを開始
● 予測に基づいた意思決定と施策を実施するデータ・ドリブン経営
● アカウントマネジメント確立に向けた顧客情報の統合
● 物流のリアルタイム把握によるサービスレベルの向上
● 稼働の見える化・原価の見える化
参考:ヤマトホールディングス株式会社「「Oneヤマト2023」の改革を支えるデジタル戦略の推進」
SGホールディングス株式会社
SGホールディングス株式会社では、物流業界全体をターゲット領域と定め、成長戦略としてDX戦略を位置づけています。社会・顧客課題の解決というグループ全体の目的達成のために、サービスの強化・業務効率化・デジタル基盤の進化を三位一体の施策とし、持続的な競争優位性の確立を目指します。
たとえば、サービスの強化では、顧客と他社を連携したプラットフォームサービスを拡充しました。顧客・他社サービスとの連携によりオープンイノベーションを実現し、アジャイル開発の加速と開発内製化にもつなげています。
株式会社日立物流
株式会社日立物流では、直面する社会課題に対して、現場オペレーションを「見える化」することで、徹底的に分析し、アナログ時代に培った知恵を加えて新たなソリューションを生み出すことをDX化の目標に定めています。
現場オペレーションを「見える化」するのは、DX技術です。仮想空間やビッグデータ、AIなどの技術をフルに活用し、アナログ的な知識・知恵も加えてオリジナルのソリューションを具現化します。
参考:株式会社 日立物流「「LOGISTEED 2021」実現に向けて-」
日本交通株式会社
日本交通株式会社では、株式会社Mobility Technologiesが展開するアプリ「GO」と提携し、アプリ注文専用車両「GO Reserve」と専用乗務員「GO Crew」の稼働を開始しました。
タクシー業界では人材不足や遊休車両が問題視されています。配車アプリサービスを使うことで、顧客の利便性を向上するだけでなく、雇用の窓口を広げる効果を期待できます。
参考:日本交通株式会社「【ニュースリリース】アプリ専用車『GO Reserve』専用乗務員『GO Crew』が始動」
【商社・小売・卸売業】DX成功事例-6社
生産者と消費者をつなぐ商社・小売・卸売業の業界でも、DX化は進んでいます。いくつかの事例を紹介します。
双日株式会社
総合商社の双日株式会社では、2030年のあるべき姿として「事業や人材を創造し続ける総合商社」を打ち立てました。実現には、マーケットインの徹底や競争・共有の実践、組織・人材のトランスフォーメーションなどが必要とされ、そのいずれにもDX化が欠かせません。
双日株式会社では、社長がDX推進委員会の委員長となり、社内のDX化推進を進めています。また、CDOとCIOはDX実装の最高責任者、CISOは情報セキュリティの最高責任者として、コーポレート全体の調整から個別事業のDX実装支援までを担当します。
データと対話を重視した双日株式会社の取り組みは評価され、経済産業省やProFuture株式会社などが開催する「第8回 HRテクノロジー大賞」の受賞につながりました。今後もより一層の人的資本経営の実践や、DXを活用したデータ・ドリブンな人事推進体制の整備が期待されます。
参考:双日株式会社「双日の価値創造とDX戦略」
関連記事:第8回 HRテクノロジー大賞 授賞企業決定!
三井物産株式会社
三井物産株式会社では、時代の変化のなかで求められる役割を知り、新しい事業を生み出すために、デジタルの力を活用する独自のDXを目標としてきました。基本となる柱は、Operational TechnologyとDigital Powerの相乗効果で、業務の効率化やコスト削減、ビジネスモデルの創出などを目指します。
実現に向けた主な攻め筋は、以下の6つです。
● 既存事業アセット基盤でのDX
● 売買・物流基盤でのDX
● 消費者事業基盤でのDX
● 社会インフラなどの大型DX
● 新技術活用視点からのDX
● 産業破壊・創成視点からのDX
日本瓦斯株式会社
日本瓦斯株式会社では、エネルギー事業とプラットフォーム事業の2つの側面からDX化を進めています。エネルギー事業では、LPガスと都市ガスに加え、顧客のニーズに応えるべく東京電力と提携して電気のセット販売を実施してきました。また、DX導入により物流システムの変革を行い、効率性の高いオペレーションを実現することで、供給コストを抑えて販売価格を抑えることにも成功しています。
プラットフォーム事業では、ガスメーターのオンライン化を実現し、リアルタイムに指針や保安にかかわるデータを取得・蓄積しています。セキュリティを担保しつつ関連各社でデータを連携することで、サービス提供の効率アップを実現しました。
株式会社ユニメイト
オフィスや工場などのビジネスの場で着用するユニフォームを販売する株式会社ユニメイトでは、モデルチェンジや入社時のサイズ交換率が最大約40%と高いことを解決すべき課題と捉えていました。サイズ交換率が高いと、顧客となる企業側には、「従業員からの問い合わせが増える」「欠品が発生して追加生産が必要になる」「調整の手間が増える」など、さまざまなデメリットが生じます。
そこで、AIを活用したサイズ提案サービス「エアテイラー」を開発しました。エアテイラーを活用すると、画像データをアプリに入力するだけで、実際に採寸することなくユニフォームのサイズがわかります。また、サイズ交換が減ることで業務の効率化が進むだけでなく、無駄のない発注ができ、ユニフォームの廃棄数も減ります。費用と環境負荷も低減できる、優れたDX化の実例といえるでしょう。
トラスコ中山株式会社
トラスコ中山株式会社では、デジタル戦略本部(デジタル推進部)を設け、最先端のツールを活用した顧客利便性向上につながるサービスを提供しています。また、デジタル技術の導入により、社内の業務効率も向上し、残業を増やすことなく社員1人あたりの売上高増を実現しました。
トラスコ中山株式会社がDX化を実現する前に注目したのは、業務オペレーションに重複部分やアナログ対応領域が多いことです。これらが非効率化につながり、サプライチェーン全体の生産性を低下させています。メーカーや販売店、ユーザーとの連携において適宜デジタル技術を活用することで、調達工程や納期の削減を目指しました。
株式会社ファミリーマート
ファミリーマートなどのコンビニエンスストアの価値としては、店舗数が多いことと人による接客を受けられることが挙げられます。いずれも人力によって維持される価値ですが、デジタル技術を導入することで、顧客利便性と業務効率の向上の実現が可能です。
たとえば、無人決済店舗やデジタルサイネージの設置、独自のキャッシュレス決済サービス「ファミペイ」などを実施し、次世代のコンビニエンスストアモデルを実現してきました。また、人型AIアシスタントや遠隔操作ロボットの導入もスタートし、より一層の店舗業務の省力化と顧客満足度の向上を目指しています。
【金融・保険業】DX成功事例-6社
キャッシュレス決済が普及し、金融や保険の業界もデジタル化が進んできました。注目したい事例をいくつか紹介します。
株式会社鹿児島銀行
株式会社鹿児島銀行では、地域社会のデジタル化をリードする企業グループであるために、「デジタル戦略グランドデザイン(10年戦略)」を策定しました。この戦略では、DX化によりカスタマーエクスペリエンスの追及と生産性・コスト構造変革、人材の高度化を体系化し、実現を目指します。
また、第8次中期経営計画(2021~2023年度)では、デジタルを経営戦略のひとつととらえ、顧客への新しいサービスの提供と行内業務の生産性向上を目指したビジネスモデルの転換にチャレンジします。さまざまな業務のデジタル化が進むなか、デジタル技術の活用は喫緊の課題です。株式会社鹿児島銀行では、組織ひとつの課題ではない点に注目し、組織や金融業の枠を超えて課題解決を進めていきます。
株式会社りそなホールディングス
株式会社りそなホールディングスでは、会える顧客と会えない顧客のどちらにもアプローチするために、「デジタルバンキング戦略」構想を打ち立てました。主な取り組みは以下をご覧ください。
会える顧客向けの店頭サービス | 会えない顧客向けのオンラインサービス |
● 営業店の端末 ● ATM ● 店頭タブレット ● 渉外 |
● ホームページ ● e-mailサービス ● 電話 ● チャットサービス ● SNS ● 外部提携 |
デジタルより取得したデータは分析され、新たな顧客ニーズを反映する商品開発に活かされます。また、会えない顧客向けのオンラインサービスをひとつのアプリに集約することで、アプリを銀行として活用する仕組みの構築も目指します。
参考:株式会社りそなホールディングス「りそなのDXへの取り組み~デジタルバンキング戦略~」
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
株式会社ふくおかフィナンシャルグループでは、DX化により、デジタル技術活用を前提とした「顧客起点の銀行ビジネス」の再構築を目指します。主な取り組みは、以下をご覧ください。
デジタルサービス | 概要 |
YOKA!Pay | QRコード読取型のスマホ決済サービス。加盟店側にはコスト減と入金までの時間短縮、顧客には口座直結型の引き落としで資金管理がしやすくなるなどのメリットあり。 |
フィンディ | 事業者向けのローン商品。申込みから審査まですべてオンラインで行う。決済情報だけでなく銀行口座情報も審査に加えることで、利用者の拡大を目指す。 |
iBank | 金融サービスプラットフォーム。銀行と顧客、銀行と事業者をつなぐことで、地域経済の活性化を目指す。 |
参考:株式会社ふくおかフィナンシャルグループ「デジタル技術の活用」
ソニー損害保険株式会社
ソニー損害保険株式会社では、AIを活用した運転特性連動型の自動車保険「GOOD DRIVE」の提供を開始しました。GOOD DRIVEは、スマートフォンで計測した申込者の運転特性から、事故リスクを割り出し、結果に応じて保険料を最大30%キャッシュバックする新しいタイプの保険です。
事故リスクの低い運転をする申込者にインセンティブを提供することで、安全運転を促し、交通事故の少ない社会の実現も目指します。ユーザー目線のサービスを提供するだけでなく、よりよい社会を構築するためのDX化といえるでしょう。
参考:ソニー損保「AIを活用した運転特性連動型自動車保険「GOOD DRIVE」販売開始
MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社
2022年度に開始したMS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社の中期経営計画では、グループの基本戦略のひとつとして「Transformation(事業の変革)」を掲げました。急速に変化する事業環境に対応するために築いてきたDX基盤をさらに強化し、事業変革を実現していきます。主な取り組みは以下の3つです。
● デジタル人材の育成
● 事業効率化を実現するシステムの開発・導入
● データマネジメントによる新たなビジネスの創出
東京海上ホールディングス株式会社
東京海上ホールディングスグループ内の東京海上日動火災保険株式会社では、個人向けドライブレコーダー付き自動車保険「ドライブエージェントパーソナル」を販売しました。保険契約者に通信型ドライブレコーダーを貸し出すサービスで、契約者にはトラブル時の記録を残せるメリットが、保険会社側には走行データ取得により新サービスを開発できるメリットがあります。
グループ内のイーデザイン損保株式会社では、テクノロジーを活用した自動車保険「&e(アンディー)」をリリースしました。「&e」では契約者に、センサーとスマートフォンを連携した安全運転支援サービスを提供しています。
また、このような取り組みが評価され、東京海上ホールディングス株式会社では、2022年と2023年の2年連続でDX銘柄に選定されています。
参考:東京海上ホールディングス株式会社「 「デジタルトランスフォーメーション デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2023」に選定」
【メーカー(精密機器・化学・製造業)】DX成功事例-10 社
DXを進めるメーカーも増えてきました。なかでも精密機器や化学、製造業の領域では、DX活用の事例が多く見られます。
株式会社トプコン
医・食・住にかかわる社会的課題を解決し、豊かな社会づくりを目指す株式会社トプコンでは、医・食・住の各分野でのDX化を目指します。現場を知り、顧客の声に耳を傾け、顧客がまだ気付いていないニーズやソリューションを提案します。
株式会社トプコンは、2020年~2023年の4年間連続でDX銘柄に認定されました。また、2023年にはDXグランプリにも選出され、DX化への取り組みが高く評価されています。
参考:株式会社トプコン「トプコンのデジタルトランスフォーメーション(DX)」
旭化成株式会社
旭化成株式会社では「デジタル変革ロードマップ」を作成し、全社員がデジタルを活用する流れをわかりやすく提示しています。2024年からは「デジタルノーマル期」に突入し、全社員が当たり前にデジタルを活用し、新たな価値を生み出していく段階へとステップアップします。
また、デジタル化に向けて、次の取り組みも実施してきました。
● IPランドスケープ
● Fresh Logi
● Akliteia
● BLUE Plastics
● カーボンフットプリント算定システム
たとえばBLUE Plasticsは、再生プラスチックの資源循環を可視化するプラットフォームです。再利用の状況を「見える化」することで、消費者の行動変容を促します。
また、カーボンフットプリント算定システムは、温室効果額の排出量を「見える化」するシステムです。サプライチェーンの在り方を考えるきっかけとなり、旭化成という企業だけでなく、取引会社やステークホルダー、消費者の行動変容につながります。
参考:Asahi Kasei DX「「DX銘柄」3年連続選定!!~境界を越える、旭化成の多様なDX~」
株式会社IHI
IHIグループでは、従来は製品・部品の販売と修理がメイン(モノ売り)でしたが、カスタマーサクセスの実現を目指した提案型ソリューションビジネス(コト売り)への転換を図っています。顧客のニーズをいち早く気付くには、顧客情報の収集・分析が欠かせません。営業・サービス・技術・製造が一体となって顧客データを集めることで、ビジネスモデル改革を実現します。
また、DX化により業務プロセスの改革も実現しました。カスタマイズが必要な産業機械などについては、標準化した部分とオプション部分に分け、短時間で顧客が必要とする製品を提供できる仕組みを構築しています。
参考:株式会社IHI「IHIが「DX銘柄2022」に選定 ~デジタルを活用したビジネスモデル変革が評価~」
富士フイルムホールディングス株式会社
富士フイルムグループでは、デジタルの活用により生産性を高め、イノベーティブなカスタマーエクスペリエンスの創出と社会課題解決の実現を、独自の「DXビジョン」として掲げています。DXビジョンの実現の基盤となるのが、次の4つの要素です。
● 製品・サービス(AI技術などを用いた高付加価値サービスの提供やビジネス変革)
● 業務(生産性向上によるクリエイティブ業務へのシフト、働き方改革)
● 人材(DX人材の育成・獲得、データに基づいた人材配置最適化)
● ITインフラ(セキュアかつ柔軟・強靭なインフラ)
参考:富士フイルムホールディングス株式会社「DXビジョン 」
中外製薬株式会社
中外製薬株式会社では、デジタル技術によるビジネス革新を見据え、「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を打ち立てました。CHUGAI DIGITAL VISION 2030では、次の3つの基本戦略で社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するイノベーターを目指します。
● デジタル基盤の強化
● すべてのバリューチェーンの効率化
● デジタルを活用した革新的な新薬創出
2023年にはDX銘柄に選出され、DXプラチナ企業2023-2025に選ばれています。
参考:中外製薬「デジタルトランスフォーメーション “CHUGAI DIGITAL”」
株式会社今野製作所
株式会社今野製作所では、自社の業務プロセスやエンジニアリングプロセスを可視化するために、「プロセス参照モデル」を作成しました。複雑化した業務プロセスをフロー図化することで、不足する人材や改善点などが明確になり、デジタル技術活用による取り組みがより具体的なものとなっています。
株式会社今野製作所では、元々デジタル技術に対する知見がなかったため、外部の専門家に相談し、援助を受けてDX化を進めていきました。また、同じような中小企業同士でサークルを作り、ツール開発などの実務の情報交換を行い、効率よくDX化を実現しました。
沖電気工業株式会社
沖電気工業株式会社では、情報通信本部の傘下工場である本庄工場と沼津工場が連携し、仮想的にひとつの工場として業務を進める「バーチャル・ワンファクトリー」に着手しました。バーチャル・ワンファクトリーでは、部門間融合・精算融合・試作プロセス融合・IT融合の4つを融合し、コスト削減だけでなく外部環境の変化への対応も目指します。
各生産拠点におけるDX人材は少ないため、工場を仮想的にまとめることで、課題解決をスムーズに進めています。また、このバーチャル・ワンファクトリーの取り組みにより、全社的なスキル底上げも実現しました。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社では、デジタルデータを一元管理する「工場IoT」を情報共有基盤として定め、次の目的実現を目指します。
● 既存資産の有効活用
● 現場の困りごとをAIで解決
● 既存データの有効活用
● 外部と接続するIoT工作機器などのセキュリティ対策
● インターフェースの標準化
データとモノが一体となってデジタル化を進めることで、欧州やベンチャーと比べて立ち遅れている工場と市場の連携に取り組みます。また、既存データのうち、必要なものだけをデジタル化し、コスト削減も目指しました。
株式会社クボタ
株式会社クボタでは、グローバルICT本部を立ち上げ、新たなソリューション創出に向けたDXの実現を目指しています。2020年にはマイクロソフトコーポレーションと戦略的提携を実現し、DX実現を加速させました。
たとえば、基幹システムとして高いセキュリティレベルを誇るマイクロソフト社のAzureを導入し、グローバル規模でのデータ活用を実現しています。
参考:株式会社クボタ「マイクロソフトとの戦略的提携でクボタのDXが本格的に加速する!」
株式会社小松製作所
株式会社小松製作所では、自社の強みである商品やサービス、ソリューションを持続的に成長させるために「ダントツバリュー」を掲げました。自社の強みと顧客・代理店・パートナー・地域社会・現場をダントツのクオリティでつなぐことで、成長を続け、世界を変えることを目指します。
参考:株式会社小松製作所「コマツのデジタルトランスフォーメーション戦略」
【ソフトウェア(IT・通信事業)】DX成功事例-2社
ITや通信事業はDXと親和性の高い業界です。いくつかの事例から、DXの進め方のヒントをつかんでいきましょう。
株式会社スペースリー
株式会社スペースリーでは、360度VRコンテンツを簡単に制作・編集できるソフトウェア「スペースリー」を提供しています。撮影した写真やCGデータをクラウド上にアップロードするだけで、高品質VRコンテンツの作成が可能です。
たとえば、不動産業ならば現地まで行かなくても内覧できるようになるため、顧客獲得が容易になります。また、顧客が注目したポイントから商品開発や広告方法のヒントを得られるのもメリットです。
参考:スペースリー「360°パノラマVRなら「スペースリー」」
KDDI株式会社
KDDI株式会社では、DXにより人と人、モノとモノを通信でつなぎ、次の3つのポイントからビジネスや生活の発展を目指します。
● コーポレートDX(働き方改革、業務の生産性向上)
● ビジネスDX(デジタルの力で経営・社会課題を解決)
● 事業基盤サービス(データセンター、コンタクトセンター)
参考:KDDI株式会社「KDDIのDX 法人・ビジネス向け」
DX事例を参考にDX推進を目指そう
DX化は、企業の現状と課題に沿って進めていくことが必要です。また、予算や期間なども、企業ごとの状況にあわせて設定することが求められます。
紹介した事例を参考に、自社にあう形でDX推進を目指してください。
よくあるご質問
DX実現に必要なものとは?
DX実現には次の要素が必要です。
● デジタイゼーション
● デジタライゼーション
デジタイゼーションとは既存のビジネスモデルにデジタル技術やデータを取り入れ、業務を効率化することです。デジタイゼーションの実現後にデジタライゼーションを進めます。デジタライゼーションとはデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを創出することです。この結果としてDXが実現し、企業競争力が高まります。
DXに必要なテクノロジーとは?
DXの実現には、次のテクノロジーが必要です。
● データ
● コンピュータ
● AI
● 5G
● クラウド
● IoT
● サイバーセキュリティ
課題解決や新ビジネスの開発にはデータ活用が前提となります。データを処理するコンピュータ、効率性を高める学習能力のあるAIも必要です。また、高速処理を可能にする5Gや膨大なデータを保管できるクラウド、インターネットとモノがつながったIoT、安全にデータを活用するサイバーセキュリティも欠かせません。
DX推進の先にあるものとは?
DX推進の先には、次の新たな課題が生まれます。
● DXにより誕生した新しいビジネスの維持
● 組織内外の経営資源の再構築
● 変化に柔軟に対応できる事業モデルへの転換
まずは、DXにより誕生したビジネスの維持が必要です。また、資源や手順に無駄が生じないようにすべての工程を見直して、ビジネスを再構築しなくてはいけません。その後、さらにビジネスをブラッシュアップし、変化に対応できるモデルへと転換していきます。