インシデントという言葉は聞いたことがあるものの、正しい言葉の意味や使われ方についてよくわからないという人もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、インシデントと似たような言葉に「アクシデント」がありますが、違いがよくわからない人も多いかもしれません。これらの言葉は混同されがちですが、意味は異なるため適切に使い分ける必要があります。
本記事では、インシデントの言葉の意味や「アクシデント」との違い、「インシデント管理」について、分かりやすく解説します。
インシデントの意味が分からない人は、ぜひ本記事を参考にしてインシデントの言葉の意味を理解し、業務改善に役立ててみてください。
目次
インシデントとは?
「インシデント(incident)」とは、「出来事」や「事件」という意味を持つ英単語のことです。
ただし、ビジネスの中で使われるインシデントという言葉は、業界や分野によって意味が異なるため、それぞれの業界や分野における意味を理解しておく必要があります。
ビジネス上で「インシデント」を使用する業界は、主に下記の通りです。
● IT業界におけるインシデント
● インターネット広告におけるインシデント
● 情報セキュリティにおけるインシデント
● 医療におけるインシデント
それぞれ順番に解説します。
IT業界におけるインシデント
IT業界におけるインシデントとは、「システムが正常に使えない状態」のことです。
たとえば、下記のような状態に陥ると、インシデントが起こっていると言えます。
● メールが送受信できない
● 社内Webシステムへアクセスしにくい
● ソフトが途中でフリーズする
また、IT業界では上記のようなインシデントの要因のことを、「アクシデント」と表現します。
たとえば、システム障害が代表的なアクシデントです。両者の違いと関係性を明らかにした上で、コミュニケーションを取るようにしましょう。
インターネット広告におけるインシデント
インターネット広告におけるインシデントは、主にユーザーの意に反して、ソフトのダウンロードページや課金ページへ誘導される事象のことを指します。
急に出てくるポップアップ広告や、ユーザーが本来したいページ遷移やスクロールなどの行動を妨害するような広告表示が、広告におけるインシデントにあたります。
また、虚偽の広告を見せることで、ユーザーを悪意のあるWebサイトに遷移させたり、悪意のあるソフトをダウンロードさせたりするケースも多いものです。
インシデントによって実際にこのような被害が起きてしまうことを、広告業界では「アクシデント」と呼びます。
ユーザーがアクシデントに遭うのを防ぐには、ポップアップなどの表示がソフトによる正当な警告なのか広告表示なのかを判断できる「情報リテラシー」を身に付けておくことが大切です。
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情報セキュリティにおけるインシデント
情報セキュリティにおけるインシデントとは、紙媒体・電子データなどの社内情報が外部に漏えいする原因となる事象のことです。
たとえば、下記のような事象が情報セキュリティにおけるインシデントです。
● メールの誤送信
● 不正アクセスを受ける
● マルウェアなどのウイルス感染
● 紙媒体・電子記録媒体の盗難
また、情報セキュリティにおいては、上記の事象が原因となって発生する重大な情報漏えい事故のことを、「アクシデント」と呼びます。
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医療におけるインシデント
医療におけるインシデントとは、医療事故には至らなかったものの、事故になる可能性があり、未然に防ぐことができた事象のことです。医療の現場におけるインシデントとして、代表的なものは下記の通りです。
● 薬の投与量などの誤り
● 患者による点滴の自己抜去
● 歩行介助時の転倒
● 採血時の患者間違い
もし、上記のようなインシデントが原因で、患者への治療が必要となったり、重症・死亡などの事故が起きてしまったりした場合は、「アクシデント」となります。
インシデントとアクシデントの違い
ここまで各業界におけるインシデントとアクシデントの違いについて解説してきましたが、意味が混同してしまうという人もいることでしょう。
そこで、前述した各業界におけるインシデントとアクシデントの違いを、下記の表にまとめましたので、参考にしてください。
分野 | インシデント | アクシデント |
IT業界 | 通常の処理が不可能な状態 | システム障害 |
広告 | ソフトによる警告を思わせるデザインの広告 | 意図しないソフトのダウンロード、課金 |
情報セキュリティ | セキュリティ対策の脆弱性 | 情報漏えい事故 |
医療 | 医療事故につながる原因 | 医療事故 |
全ての業界に共通することとして、インシデントに対する対策が不十分であった場合に、アクシデントが発生する可能性が高まるということです。
アクシデントを防ぐためには、インシデントのうちに素早く発見し、早期に改善を行うことがとても重要なのです。
インシデントとヒヤリハットの違い
ヒヤリハットとは危険やトラブルを未然に防ぐための注意喚起や予防措置を促すことを目的とした取り組みとなっている。日々の業務の中で小さな事故やトラブルについての注意喚起のことを指します。職場で起こりうるリスクや危険を想定しそれに対する対策を考えることで業務上の事故やトラブルを防ぐことが目的です。例えば業務の中で作業の際に安全帽を着用することや、営業などで車を運転する際には交通ルールを守ること、また工場などで火災が起きた場合の避難経路を知っておくことなどがヒヤリハットです。ヒヤリハットの取り組みは予期せぬ事態が起こる可能性を減らし安全を確保するために重要な役割を果たします。
インシデントとヒヤリハットは安全管理において似ているように思いますが以下のような違いがあります。
インシデントは実際に発生した事故やトラブルのことで通常業務の流れを阻害するような出来事です。対してヒヤリハットは事故や大きなトラブルには至らなかったものの危険を感じた瞬間や小さなミス危うく事故に繋がりかけた状況を指します。
これらの小さな「ヒヤリ」や「ハッと」を記録し共有することで大きな事故やトラブルを未然に防ぐ対策を講じることがヒヤリハットの目的になります。
インシデント管理におけるよくある問題(課題)
アクシデント(不慮の事故)が発生する原因として、その原因となるインシデントの管理が十分に行われていないことが挙げられます。
同じアクシデントが何度も発生する職場は、インシデント管理において下記の問題や課題があることが多いでしょう。
● 共有ができていない
● 問題管理ができていない
それぞれ順番に解説します。
共有ができていない
インシデント管理におけるよくある問題として、「共有ができていない」という点があります。
従業員がインシデントを発見・体験した際に、その事例を当事者のみが知っているだけでは、他の従業員が同じインシデントに直面した時に適切に対処できません。その結果、事態が深刻化してしまい、アクシデントへ発展してしまう可能性があるのです。
そのため、従業員間でインシデントを共有できる仕組みを作ることが大切です。インシデントを発見・体験したら、職場の全体ミーティングなどで事例を共有する、共有ファイルにリスト化して誰もがインシデント内容を参考できるようにする、などの仕組みを作っておきましょう。
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問題管理ができていない
もう1つの問題として、インシデントに対する「問題管理ができていない」という状態が挙げられます。問題管理とは、インシデントの根本原因を突き止め、インシデントが「再発しない」ための処置を行う過程のことです。
問題管理には、一時的な対処ではなく、恒久的な処置を行うことが求められます。
たとえば、社内申請システムで申請内容を入力し「次へ」ボタンをクリックしたところ、次の画面へ遷移できないという不具合が発生したとします。「次の画面へ遷移できない」というインシデントは、「サーバーのメモリ開放」という対処で一時的に解消できますが、この対処を行うと、同じ事象が今後も発生する可能性があるのです。
この場合、処理の負荷を軽減できるロジックとなるようプログラムを改修するという対処を行うことで、恒久的にインシデントが発生しない対処を行うことが大切です。
問題管理を適切に行えば、従業員や担当者の負担の軽減や、業務の改善にもつながるでしょう。
インシデント管理をするメリット
インシデント管理は、職場の業務改善に対して大きなメリットがあります。
インシデント管理を行うことによる主なメリットは、下記の2点です。
● 従業員や担当者の負担を削減できる
● 安定的にITシステムが稼働できるようになる
それぞれ順番に解説します。
従業員や担当者の負担を削減できる
インシデント管理を適切に行うと、従業員や担当者の負担を削減できます。
なぜなら、過去に発生したインシデントに対する対処方法を速やかに参照し、対処できるようになるからです。
インシデント管理には、過去に発生したインシデントの内容や対処方法をまとめて、「ナレッジ化」しておくことも含まれます。
もし、インシデントの事例と対処方法をナレッジ化できていれば、同じようなインシデントが発生した時に、一から調査して対処する必要がなくなりますので、従業員や担当者の負担を大幅に削減できるでしょう。
安定的にITシステムが稼働できるようになる
上記のようなインシデント対処の「ナレッジ化」を行うことができれば、安定的にITシステムが稼働できるようになります。なぜなら、ナレッジ化された内容をもとにしたシステム改修や業務フローの見直しが可能となり、ITシステムを効果的に改修できるからです。
インシデントへの対処は一時的なものではなく、恒久的に解決できることが理想です。蓄積されたインシデントの内容を分析することにより、「どの部分をシステム改修すべきなのか」、もしくは「業務フローを変えて運用でカバーすべきなのか」が明確になるため、具体的な改善施策を打つことも可能になります。
ナレッジ化と改修・業務フローの見直しを繰り返すことによって、インシデントの発生リスクそのものも大きく減らせるでしょう。
インシデント管理におけるポイント
せっかくインシデント管理を行うのであれば、職場の業務改善となるよう、有効に活用したいものです。
インシデント管理を有効なものにするためには、下記3つのポイントを押さえておくことが大切です。
● インシデントにおける共有内容を決める
● 業務フローを見直す
● インシデントにおける情報を可視化する
それぞれ順番に解説します。
インシデントにおける共有内容を決める
インシデントが発生したら、従業員へ共有できるように記録を残す必要があります。
インシデントの共有を行うにあたっては、「どのような内容を記録しておくか」をあらかじめ決めておき、共有できるようにしておきましょう。
インシデント発生時に記録しておくとよい項目は下記の通りです。
● 発生日時
● 担当者
● カテゴリ
● 内容
● 原因
● 対処内容と進捗状況
● 再発防止策
上記はあくまで一例ですが、職場の状況に応じて、似たようなインシデントが発生した時に活用できるような内容を残しておきましょう。
業務フローを見直す
業務フローを見直すことで、インシデント発生を防ぐことができる場合もあります。なぜなら、業務フローそのものが、インシデント発生の原因になっていることがあるからです。
システムの改修で対処を行うには、時間も経費もかかるものの、業務フローの変更・改善については大きなコストがかかることはほとんどありません。
同じ結果を出す行程でも「他の方法で対応できないか」を検討し実践することで、インシデントの発生を防ぐだけでなく、業務効率化になる場合もあります。
無駄なコストをかけないためにも、業務フローの見直しができないかどうかも考えてみましょう。
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インシデントにおける情報を可視化する
インシデントに関する記録は、可視化して誰もが共有できる状態にしておきましょう。そうすれば同じようなインシデントが発生した場合に、一から対処法を調べなおす手間が省けるでしょう。ナレッジとして溜め込んでおくことで、未来の同様のインシデントの迅速な解決にもつなげられるはずです。
また、今現在発生したインシデントを可視化しておけば、知見のあるメンバーからインシデント対応のアドバイスをもらうことも可能です。
すべてのインシデントはリスト化して共有フォルダなどに格納し、従業員の誰もが閲覧できるようにしておきましょう。
まとめ
本記事では、インシデントの言葉の意味やアクシデントとの違い、インシデント管理について解説しました。
インシデントは本来「出来事」という意味ですが、使われる分野によって意味が異なります。
しかし、どの分野においても、発生したインシデントへの対処をおろそかにすると、さらに重大事故となる「アクシデント」に発展してしまう点は同じです。
そのため、アクシデントを未然に防ぐ「インシデント管理」は、職場において非常に重要であると言えます。適切にインシデントを管理することは、従業員や担当者の負担軽減になるだけでなく、ITシステムの安定的な稼働にもつながるのです。
また、インシデントの共有方法を工夫したり、業務フローの見直しを行うことで、迅速にインシデントに対処できたり、業務効率が上がったりすることもあります。
ぜひ本記事を参考にして、自分の職場に潜むインシデントがないか、インシデントに対して、どのような対処ができるかなどを考えてみましょう。