コロナ禍を経て、Webサイトやeコマースを含むオンラインで顧客と接するマーケットが大きく広がっています。
過去のマーケティングはテレビや雑誌、新聞といったマスメディアを通じたものが主流でした。しかし現在ではソーシャルメディアや比較サイト、口コミサイトなどのアーンドメディアが急速に発展し、製品やサービス、企業に対する消費者の評価や評判が、消費者自身によって広範囲かつ迅速に拡散される時代となりました。
このようなオンライン中心のマーケットでは、企業は短絡的な売上やシェアだけでなく、自社ブランドの価値を維持・向上させるために、対面接客を含むあらゆる接点における顧客体験(CX)を重視する必要があります。なぜなら、CXの改善策を誤ると、その評価はたちまち拡散され、業績の低下だけでなく、企業ブランドの低下も招くレピュテーションリスク(風評リスク)にさらされる可能性があるからです。
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一方で、消費者はさまざまな製品やサービスを選ぶ際、Webや口コミを通じて情報を検索して比較し、意思決定を行うことが当たり前になっており、そのプロセスはますます広範囲かつ即時的になっています。
つまり、製品やサービスの選定から購入・利用までの行動プロセスは、入手する情報の種類や経路の多様化や、消費者の多様な価値観によって、より複雑に細分化されてきているのです。
こうした現代のマーケット環境では、多様な顧客がそれぞれどのようなプロセスを経て購入・利用に至るのか、顧客の意識や感情を考慮して整理し、適切にマネジメントすることが、企業価値を高めるために欠かせない戦略となっています。
これに基づき、顧客の細かな行動プロセスを予測し、それをマップに落とし込んで可視化する手法であるカスタマージャーニーとカスタマージャーニーマップに注目が集まっています。
そこで今回は、カスタマージャーニーという概念の定義や設定する際のポイント、そのメリットとデメリットなどを解説します。具体的なカスタマージャーニーマップの作り方を紹介し、最後にパワーポイント(PPTX)形式のサンプルテンプレートもご案内します。
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目次
カスタマージャーニーとはマーケティングにおけるフレームワークの一つである
そもそもカスタマージャーニーとは何を表す言葉なのでしょうか。英語のCustomer Journeyを直訳すると「顧客の旅」になります。
ここでいう「顧客」とは、後述するペルソナであり「旅」とはそのペルソナが自社の製品やサービスを認知し、購入あるいは利用の意向をもって実際に購入・利用するまで、さらには、購入・利用後に廃棄・離脱するまでに辿る一連の体験を「旅」になぞらえたものです。
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言い換えればカスタマージャーニーは、ペルソナが認知から購入に至る一連のプロセス(行動、思考、感情など)を時系列化し、そのプロセスの途中でどんな体験をして、どんな心理的変化を起こすのかを見極め、マーケティングに活用するためのフレームワークなのです。
消費者の価値観が多様化した現在、企業と消費者のタッチポイント(接点)という側面から見ても、まとめサイトなどのキュレーションメディアや、比較サイトなどのレピュテーションメディアといった、いわゆるアーンドメディアなどが台頭し、さらに多くの顧客接点が生まれてきています。
このため、顧客行動プロセスを把握する際に「問い合わせがあった」「バナーがクリックされた」などの目に見えるリアクションだけを追っていたのでは、その実態に迫ることはできなくなっているのです。
顧客はそのアクションの前後にもさまざまな思考や感情、課題を持っていて、しかもその背景は複雑で細分化された接点から成り立っているからです。
顧客行動とプロセスを把握し、どのタイミングで、どのような情報を顧客に提供するべきなのかを正確に掴むためにも、カスタマージャーニーマップを作成することをおすすめします。
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カスタマージャーニーを理解するために知っておきたい「ペルソナ」とは
実際のカスタマージャーニー設定では、顧客(ペルソナ)がどのように商品の接点を持ち、どんな強みに関心を持ち、購入にまで至るのかを自社の戦略に沿って思考や感情も含めて定義していくことが必要です。
ただしその説明の前に、カスタマージャーニーを理解するために押さえておきたい言葉をお伝えしておきます。それはペルソナです。
ペルソナとは、実際に自社の商品やサービスを使ってくれるであろうモデルユーザー(ペルソナ)を創出し、そのニーズを満たすような形で商品やサービスを設計するというマーケティング手法のための、架空の「人物像」のことです。架空といっても、自社の求めるモデルユーザーであるため、実態に即したリアル感のある「人物像」である必要があります。
ペルソナを設定するにあたっては、性別、年齢、職業などの基本的な情報はもちろん、性格、価値観、ライフスタイル、個人的な嗜好に至るまで、実在している人物であるかのようなリアリティのある詳細な情報を落とし込んでいきます。
こうして設定したペルソナの行動をプロセスに分解し時系列化したものがカスタマージャーニーであり、それぞれのタッチポイントにおける、行動や感情、思考の変化をマップに落とし込んだものがカスタマージャーニーマップなのです。
なお、同じ製品やサービスであっても、ペルソナの属性や環境(購入・利用の目的やシーン)が異なればペルソナを複数設定することが必要です。その場合はベルソナごとにカスタマージャーニーマップを作成しましょう。
また、複数のペルソナを想定して、それぞれのカスタマージャーニーを適切にマネジメントしていくためには、属性や環境を可視化する際の精度が重要であり、しっかりとPDCAを回して運用、管理することが必要不可欠です。
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カスタマージャーニーの設定で得られる5つのメリット
カスタマージャーニーを設定することの主なメリットを紹介します。
顧客視線で自社の製品やサービスについて再点検できる
企業経営においては、顧客の視点から何事も捉えていくことが重要ですが、理解していてもいざ実際のビジネスを行うとなると、つい売り手の視点から製品やサービスを提供したり、その根底に「シーズ(Seeds)」が優先されたりしがちです。しかし、カスタマージャーニーを策定するには、まず顧客の視点から物事を考え始めないと成り立ちません。
特に設定に入る前に、顧客の行動や意識を、アンケートや聞き取りなどの調査によってリサーチすることは不可欠です。これをおろそかにすると精度の高いカスタマージャーニーマップを作成することができません。
リサーチ結果をもとに顧客の行動や心理をカスタマージャーニーとして整理していくにあたっても、担当者は、顧客の視点に立って考えなければなりません。
カスタマージャーニーを設定する過程では、見込み顧客の取り込みから購入検討、購入・利用、廃棄・離脱までのプロセスにおいて、首尾一貫して顧客視点から見直すことになります。このため、自社のブランド力から製品やサービスの質に至るまで、顧客視点からの改善ポイントや方向性の誤りなどを発見することができるのです。
マップに落とし込むまでもないような些細な見直しにつながるものも含めて、売り手の側からは見えていなかった顧客視点での気付きは企業にとって大きな財産になるでしょう。
メンバーが共通の認識を持つことでスピーディーな対応が可能となる
カスタマージャーニーマップは、マーケティングや営業、カスタマーサクセスなどの顧客に関係するメンバーが「顧客理解」という共通の目的を持って作成していくため、社内外を問わず顧客に対して共通の認識を持つことができます。
メンバーの認識が共有化されれば、結果としてメンバー間の情報共有やコミュニケーションも活性化されて、さまざまな場面でより素早い対応が可能になるでしょう。
KPIが明確になり精度も上がる
カスタマージャーニーを設定するにあたっては「顧客ファネルの、どの段階にあるペルソナの、どのような課題に対して、どんな情報を提供し、何を解決し、どのような体験をしてもらうか」というように、明確に策定していく必要があります。この時に最も重要なのは、できるだけ実態に即した的確なKPIを設けることです。
例えば製品やサービスの認知度を上げ、ペルソナの興味や関心を惹きたい(顧客ファネルにおける集客・誘導)という場合にリスティング広告を実施するとすれば、KPIとしてPVをカウントするのか、インプレッション数を重視するのか、などで施策の方向性は異なってくるためです。
また、問い合わせやクレーム等に対する具体的な解決手段を探す顧客(育成段階)に対しては、メールマガジンの開封率やユーザーサポートの満足度調査結果などをKPIとして設定し、この達成度に基づいて次の施策を検討するというPDCAを回すことになります。
つまり、カスタマージャーニーを設定していく過程で行うKPIの洗い出しは、そのままマーケティング全般でのKPIを設定することにもつながるのです。
カスタマージャーニーマップは、ペルソナの行動や思考、感情に関する仮説を整理し、可視化したものであるため、マップの精度を上げるために設けられたKPIは、マーケティングのみならず経営全般における重要な指標にもなっていくでしょう。
ブレークスルーが可能になる
マーケティング活動を行うとき、顧客の行動や感情が明確化できず、これを捉えることが難しくなるというケースは多いものです。今ひとつ客観的に見ることができずに、マーケティング側の理論で施策を推進しているときに陥りがちです。
そこでカスタマージャーニーマップを作成する際、実際の顧客の行動や感情に徹底的に注目することで、思いもよらない視点に気づいたり、顧客の行動が見えたりすることがあります。こうした新しい発想や打開策といったブレークスルーが可能になることも、カスタマージャーニーマップを作成するメリットのひとつでしょう。
企業ブランドの向上
これまで述べてきたメリットにつながるような精度の高いカスタマージャーニーマップを作成することができれば、それは結果として企業ブランド全体を押し上げることになります。
マップを作成するにあたり、顧客視点に立って自社の製品やサービスにつながる顧客の体験のすべてを再チェックすることで、顧客とのタッチポイントの最適化を図ることができ、CXの質を高めることができるからです。
高いCXを提供できれば、企業ブランドは向上し、さらに優良な顧客を獲得する好循環が期待できます。
カスタマージャーニーの設定で発生する3つのデメリット
カスタマージャーニーマップの作成にはメリットだけでなく、デメリットもあります。主なものとしては以下の3つが考えられます。
作成するのに時間と手間がかかる
ペルソナを作成し、カスタマージャーニーマップを作成するためには、顧客の思考や動きなどを正しく知る事が重要です。想像や予想ではなく、実際の顧客の声をヒアリングしたり、アンケートやモニター調査を行ったりという調査が欠かせません。カスタマージャーニーは、根拠となる事実やデータなどに基づいて作成するのが理想だからです。
そのため担当者が実際に顧客にヒアリングをしたり、Webで調査を行い、その結果を詳細に解析するなど、時間と手間がかかることは避けられないでしょう。逆に言えば、ここに時間を割くことができない企業はカスタマージャーニーマップの施策が中途半端になってしまう可能性があるのです。
効果測定が見えにくい
マーケティングに関する施策のなかには、効果が出るまでに時間を要するものも多く、カスタマージャーニーもそのひとつです。実施してから効果が見えるまでには、根気よくPDCAを回していく必要があります。
また、カスタマージャーニーマップを作成したことで得られたものだと明確にわかる効果が特定しにくく、効果測定自体が難しいという側面もあります。
作成したあとのPDCAにも手間がかかる
カスタマージャーニーマップを作成するのには時間と手間がかりますが、作成したあとも同様に時間と手間がかかります。PDCAサイクルを回して常に見直しと改善を図っていく必要があるからです。
作成したカスタマージャーニーと現実の顧客行動との間に乖離があれば適宜修正を行い、都度ブラッシュアップをしていかなければこの施策は成功しません。
あらかじめ明確で納得の行くKPIを設定して、数値による管理を徹底することが重要なのです。
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カスタマージャーニーマップの5つの設定ステップ
ここからは実際にカスタマージャーニーマップの作り方を見ていきます。
ここでは以下の5つのステップでマップを作成する方法を紹介します。
<マップ作成のための5つのステップ>
1.ペルソナを設定する
2.顧客の情報を集める
3.顧客行動を予測する
4.顧客の思考・感情の整理をする
5.マッピングする
1.ペルソナを設定する
はじめに自社のペルソナを明確にします。自社のターゲットとする顧客像を、基本情報、行動傾向、心理傾向、ライフスタイルに至るまで詳細に落とし込んでいきます。
ペルソナを設定することで、その人物がどのような思考のもとで購買行動に至るのかをイメージしやすくなるため、ニーズに沿ったアプローチ方法や製品開発を行うことができるでしょう。
2.顧客の情報を集める
自社のペルソナがどのように考え、行動するのかを把握するために、顧客の情報を集めます。事前に行える調査の代表的なものは次の3つです。
1.インタビューやアンケート分析
2.市場に出回っているアンケート結果など既存データの活用
3.オウンドメディアや自社サイトのアクセスログの解析
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3.顧客行動を予測する
次にペルソナがとるであろう行動を予測していきます。2.で集めた情報から得られた行動パターンを分類し、そこから予測できる行動を可視化していくのです。
4.顧客の思考・感情の整理をする
次に思考や感情に関する情報を整理します。顧客は行動する際に、どのような思考や感情が働いたのか、という情報を集め、メンバー間で議論します。議論を経てペルソナの体験を深く理解することができるため、より具体的で高精度な施策を策定することが可能になるのです。
5.マッピングする
収集し予測した情報を踏まえて、わかりやすくマップに並べます。その際、情報をメモや付箋に書いて考察しながら進めていくことをおすすめします。
また、文章だけだとわかりにくい場合は、図やイラストを用いるのも良い方法です。
カスタマージャーニーマップ設定の3つのポイント
ここまでカスタマージャーニーマップを作成する手順を紹介しました。続いてはカスタマージャーニーマップを設定する際に陥りがちな失敗と、押さえておいたほうがいいポイントを紹介します。
1. 作り込みすぎない
先ほど紹介した5つのステップ以外にも、カスタマージャーニーマップの形式やまとめ方は数多くありますが、顧客の行動を時系列にステップ化して、タッチポイント別の行動や心理について一覧化したものという点では共通しています。この共通部分さえ押さえておけば、カスタマージャーニーマップに問題はないでしょう。
もちろんカスタマージャーニーマップの作成は簡単ではありません。顧客の一連の体験を俯瞰できる情報を集める必要がありますし、組織内に顧客に関する情報が少なければ、外部から調達したり、新たにリサーチしたりしなければ精度の高いものは作成できないからです。
しかし、あまりに気合を入れすぎて取り組んだ結果、初動段階に時間がかかりすぎて頓挫したり、詳細すぎる条件設定でペルソナの幅が狭まったりするなど「作り込みすぎる」ことで失敗するケースも多くあります。
そこで、粗くてもいいので一度ざっくり作成してみることをおすすめします。作成していく過程で、自分たちが理解できていない意外な部分が見えてくるでしょう。最初から複雑で詳細なものを作ろうとせず、自社で得られる情報を活用できる範囲でシンプルに作成し、その後PDCAを回してブラッシュアップしていく方が現実的です。
いずれにしてもPDCAを回し続ける必要はあるで、初期段階で息切れすることがないようにしたいものです。
2.都合の良い想定や妄想をしない
カスタマージャーニーマップ作成時に最も陥りやすい落とし穴は、作成するメンバー同士で「こうだといいな」「きっと顧客はこう動くだろう」という願望をマップに反映させ過ぎてしまい、事実からかけ離れた妄想に近づいて行ってしまうことです。
調査や面談などの客観的な情報に基づき、事実をベースとしてマッピングしていくことが重要です。どうしても事実が見いだせない部分については、仮説であることを明確にし、検証のステップを必ず挟むことを忘れないようにしましょう。
とはいえ時間や予算などの制約で必要な情報がすべて集まり切らないこともあるでしょう。その場合、予想や思い込みですべての項目を埋めてしまうのではなく、思い切ってブランクのままにしておき、PDCAを回す中で得られた情報から順次埋めていき、徐々に精度を高めていくことをおすすめします。
3.作っただけで満足しない
出来上がったカスタマージャーニーマップをバージョンアップせずにいつまでも使いまわしていると、あっという間に陳腐化してしまいます。
VUCAと呼ばれる不確実で不透明な社会環境の中で、顧客の情報や購買行動は目まぐるしく変化しています。一度作ったカスタマージャーニーマップを1年以上もそのままにしておくと、現実と乖離した部分が必ず生まれてくるものです。一年前から今までの社会情勢や消費マインドの変化を振り返ってみれば、それは実感できるはずです。
そのため、半期や1年単位、もしくは大きなキャンペーンなどのイベントの際にカスタマージャーニーマップを見直し、PDCAを回し続けて常にバージョンアップできる仕組みにしましょう。
まとめ
カスタマージャーニーによって顧客の行動プロセスを時系列に沿って可視化し、タッチポイントを洗い出し、思考や感情について整理することは、マーケティングを策定する上で大変有効な手法です。
顧客視線で自社の製品やサービスについて再点検できる、自社のブランドを高められるなど、プラスのメリットが期待できるのがカスタマージャーニーです。
マーケティング施策を誤れば、評価の低下はたちまち拡散され、業績の低下のみならず、企業ブランドの低下にもつながるレピュテーションリスクが高い現代にあっては、リスク回避の意味でもカスタマージャーニーマップの果たす役割は大きいものです。
今回は5つのステップと3つのポイントに整理してカスタマージャーニーマップの作り方を紹介しました。もちろん、これ以外にもより単純な方法やもっと作り込む方法などもあります。他社の成功事例なども参考にしながら、自社にあったカスタマージャーニーマップを作成する際の参考にしてください。
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