オウンドメディア(Owned Media)は、広義では、自社が所有する(Owned)メディアを指します。
今やオウンドメディアは企業規模に関わらず、広報、マーケティングにおけるスタンダードになりつつあり、顧客の獲得や、企業・商品のブランディングに広く活用されており、今や広報にとどまらず経営戦略における重要なツールの一つとなっています。
ここではオウンドメディアの重要性から立ち上げ、注意点と詳しく説明していきます。自社でオウンドメディア持ってみたい方、すでに運用されている方必見です!
目次
なぜオウンドメディアが注目されているのか?
広告手法の限界
第一には、従来の広告手法が通用しなくなっているからです。消費者が広告を無視したり、広告を見ても反応しなかったりするという現象が起きています。
インターネットのバナー広告は、2000年頃には10%程度のクリック率がありましたが、今では1%を大きく下回っています。さらに、今後のスマートフォンには、広告ブロック機能が搭載されつつあります。従来の集客施策の中心であった広告が機能しなくなったので、オウンドメディアの必要性が高まっているのです。
検索エンジン対策のトレンドに対応するため
従来、検索エンジン対策(SEO)は、専門のSEO業者に頼んで、自社サイトにリンクをはってもらう、いわゆる被リンク(人工リンク、リンクファームなどとも呼ぶ)という手法が一般的でした。
しかし、検索の最大手企業であるGoogleがこの手法の取り締まりを強化。
特に2011年以降に、Googleは、「パンダ」や「ペンギン」、「ハミングバード」と呼ばれる多くのアルゴリズム変更を行い、現在は、質の高いコンテンツが上位に表示されるようになっています。
広告費の適性化を図るため
これまで企業は、即効性の高いリスティングに依存してきましたが、実は、ユーザーは、広告をクリックしなくなっているというデータもあります。
2012年時点の調査ですが、自然検索は、広告の4倍もクリックされているにも関わらず、使われているお金はリスティングの1/10にとどまっていました。
現在、企業は、リスティング広告予算は抑えて、自然検索からの流入を増やすための投資を増やしています。オウンドメディアも、そのトレンドに乗っていると言えるでしょう。
SNSやキュレーションメディアなどのトレンドに対応するため
今では日本でもFacebookやTwitterなどのSNSが広く使われるようになりました。質の高い記事は、ユーザーが自らFacebookやTwitterなどでシェアをするのが一般的となり、「口コミ」経由で、記事が伝わるようになりました。
企業がオウンドメディアに取り組むメリットとは
では次に、なぜ企業がオウンドメディアに取り組むのか、その理由を簡単にまとめていきましょう。
広告宣伝費をカットできる
あなたのビジネスは広告依存になっていませんか?
リスティングの費用がかさむ、ショッピングモールでの広告費支払いがかさむなど、広告依存は頭の痛い問題です。オウンドメディアに取り組む事で、この広告費依存体質から脱出する事ができます。
オウンドメディアに、コンテンツを蓄積すると自然検索での流入が増えて行きます。広告は止めてしまうと、売上が落ちますが、オウンドメディアは、ストック効果があるので、広告と違って更新を止めても、アクセスが維持されます。
過去の記事であっても、検索やSNS経由で読まれるからです。オウンドメディアは、まさに、顧客を生み出すコンテンツ資産を貯める事と同じなのです。
圧倒的なブランディング
2つめの重要なポイントは、ブランドの構築です。
オウンドメディアに専門性の高い記事を蓄積する事で、読者が繰り返し訪問して記事を読むようになります。
記事による「役に立つ情報の提供」によって、皆さんの会社が「専門家」として認識され、信用されるようになるのです。米国でコンテンツマーケティングに取り組んだプールの工務店では、ブログを30ページ読んだ人は成約率が80%だったそうです。ブログでブランディングができているので、売込みが不要だからです。
顧客のロイヤルティを高められる
3つめのポイントは、顧客ロイヤルティ(忠誠心や愛着)を高められることです。
顧客に役に立つ情報を出し続けると、「こんなに役立つ情報を惜しげもなく提供してくれるなんて、いい会社に違いない」という印象を与え、顧客のロイヤルティが高まっていくのです。
ロイヤルティは、ビジネスにさまざまなメリットをもたらします。たとえば、他社との比較検討がされにくい、価格競争に巻き込まれにくい、継続発注をもらいやすいなどです。
幅広い地域を対象にできる
4つめは、幅広い地域をターゲットにビジネスを展開できることです。
オウンドメディアを活用する事で、宮崎の企業が東京の一流企業と取引をしたり、東京の会社が地方のメーカーと取引をしたりする例が出ています。また、これまで海外進出は非常にハードルの高いものでしたが、オウンドメディアを多言語で展開することで海外からの問合せを獲得する事も可能です。
ジャストシステムが2015年7月に実施した、オウンドメディアの運用目的に関する調査「オウンドメディア活用実態調査2015」によると、運用目的の中で回答が多いのは、ブランド認知と顧客・リードの獲得で、全体の8割弱になっています。ついで、リード育成やエンゲージメント(それぞれ50%、61%)、SEOやウェブサイトへの流入増加(44%、56%)と続きます。顧客のロイヤリティ向上や採用目的も、3割弱程度いるのが興味深いところです。
優秀な人材の確保
「オウンドメディアリクルーティング」という言葉をご存じでしょうか。
近年注目されている採用手法で、オウンドメディアを活用した積極的な情報発信によって優秀な人材を引き寄せるのが特徴です。
オウンドメディアリクルーティングでは、従来の求人広告では到底書き切れなかった圧倒的な量の情報を、オウンドメディアで発信します。例えば、企業理念、創業ストーリー、代表者の考え方、社員インタビューなど、「その企業や働く人たちの肌感」をリアルに伝えていきます。
結果、「この会社が好きだ」「この会社で働きたい」と感じる人が増え、効果的な母集団形成に繋げることが可能です。同時に、深く企業を理解したうえで入社を希望する人物を採用できるため、入社後のマッチング精度を向上させることも見込めます。
タイプ別のオウンドメディアの事例
検索型
特徴:SEOに強く、検索からの流入が安定して多い。
自社メディアとの相性:美容などの商材を扱っている場合〇
代表的なオウンドメディア:LIGブログ、スキンケア大学など
ソーシャルメディア型
特徴:Facebookを中心としたSNS経由で集客できる。
自社メディアとの相性:面白いコンテンツが制作できる場合〇
代表的なオウンドメディア:TABILABO、サイボウズ式など
ブランド型
特徴:大手BtoC企業が得意。
自社メディアとの相性:既存のブランドが確立している
代表的なオウンドメディア:Beauty &Co.など
バランス型
特徴:集客経路が一極集中していない
自社メディアとの相性:上記3つを網羅してから使うと〇
代表的なオウンドメディア:エンジニアtype、FASHIONなど
オウンドメディア立ち上げまでの流れ
目的・ミッション・リソースの決定
オウンドメディア立ち上げのファーストステップは、「目的・ミッション・リソース」を決めることです。ここで決めたことが、オウンドメディアの根幹になります。
コンセプト・ターゲットの設定
次に、オウンドメディアのミッションを踏まえながら、オウンドメディアの在り方をより具体的に定義していきます。
オウンドメディアのコンセプトを決めることで、ターゲット像を具体的に設定します。
コンテンツの検討
設定したターゲットに合わせて、具体的にどんなコンテンツを掲載していくか、コンテンツの大きな方針を検討します。
サイト構成の検討
コンテンツをサイト内で、どのように構成するか決めます。
例えば各ページをカテゴリに分け、サイトマップを作成するなど、ユーザーにとってコンテンツが探しやすいことが重要です。
同時に、Googleなどの検索エンジンからの集客を狙ううえでは、SEOにも配慮する必要があります。
要件定義
ここまでに決めた内容を、Webサイトの要件として定義します。
これは、WebプログラマーやWebデザイナーに共有するため必要です。
制作開発
要件定義を基に、WebプログラマーやWebデザイナーが実際に制作開発を行います。
完成すると、オウンドメディアの立ち上げまでのフェーズが完了です。
オウンドメディア運営の流れ
オウンドメディアの運営のファーストステップは、キーワード選定です。
どんなキーワード(=テーマ)でコンテンツを作るか選定し、キーワードが決まったら、コンテンツの方針をプランニングし、実際にコンテンツを制作します。
さらに、コンテンツからユーザーが顧客化(コンバージョン)するための仕組みを作り、効果測定をして改善を行っていきます。オウンドメディア運営は、基本的にこの繰り返しなのです。
1.キーワード選定
ニーズを探ってテーマを決める
↓
2.プランニング
コンテンツの内容を考える
↓
3.コンテンツ制作
実際にコンテンツを制作する
4.コンバージョン設計
ユーザーが顧客化する仕組みを作る
↓
5.効果検証
各種データを分析して効果を検証する
↓
6.改善
改善を行う
オウンドメディアの名前の例
立ち上げにあたり、メディアの名前を考える必要があります。
名前を考えるにあたり、覚えやすいキャッチーなものや、発信する内容が分かるものにすることが望ましいです。
以下に、オウンドメディアの名前の例を挙げますので、参考にしてください。(イメージを湧きやすくするために大手企業のみにしました)
社名+α
・くらしの良品研究所(良品計画)
・ローソン研究所(ローソン)
・UNIQLO COMMUNITY(ユニクロ)
・Sony Select(ソニー)
・CLUB Panasonic(パナソニック)
・Starbucks Coffee Blog(スターバックス)
・Meet Recruit(リクルート)
コンテンツテーマ重視
・食物アレルギーネット(日本ハム)
・TRY家コラム(大和ハウス工 )
・FASHION HEADLINE(三越伊勢丹)
・健康美塾(第一三共ヘルスケア)
・Beauty & Co. (資生堂)
・TOYOTA DOGサークル(トヨタ)
・メディアコンセプト重視
・ニチペロ(日経新聞)
・MONEY PLUS(マネーフォワード)
・50代から考える これからの暮らしとおかねのはなし(みずほ銀行)
オウンドメディアが対象とする顧客層は?
オウンドメディアを使った情報発信は、すでに買いたいものが決まっている人よりも、ニーズが顕在化していない潜在顧客、見込み顧客に訴えかけることに適しています。
プロフェッショナルな視点に基づいた質の高いコンテンツを用意しておけば、検索やソーシャルメディアなど何かのきっかけでその情報を見た人や企業が、すぐに購入することがなくても、なんとなくサイトやお店を覚えていることがあります。その会社が提供しているサービスや製品が実現しようとしているコンセプトや解決しようとしている課題にまずは気づいてもらうこと、ここにオウンドメディアの重要な役割があります。
また、認知だけでは売り上げに結びつきませんので、その後どういうステップで購入に至るかを想定したカスタマージャーニー(顧客が商品に関連する情報や接点をどのように経由して最終的に購入まで結びつくかを旅になぞらえたもの)の考え方を取り入れるとよいでしょう。つまり一緒に旅をしながら「顧客を育成」するのです。
その後、購入してくれるロイヤルカスタマー、ブランドを愛し積極的な情報発信をしてくれるファン、他の人にもすすめてくれるアンバサダーになってくれるのが理想です。
コンテンツの内容にはどのような種類がある?
おおよそ次の4つのパターンが考えられます。
まず、企業経営者がどんな思いで事業に取り組んでいるか、業界動向についてどのように考えているか、働き方やスキルアップについてどのような意見を持っているかが書かれているいわゆる「社長ブログ」。
2つ目がサービスに関連する情報をコンテンツ化するオウンドメディア。
サービスの活用情報や業界の最新ニュースを配信することで、自社サービスへの誘導を図るものです。
3つ目がサービスの導入事例や活用事例についてインタビュー取材を行い、記事風にまとめるもの。
実際に導入した企業の担当者の生の声や写真、動画を交えることで生き生きとしたコンテンツになります。
4つ目が、生活の知恵から最新の便利ツール紹介まで特定の分野に特化したハウツー系の記事。
大きなアクセス数がなくても、本当にその情報を必要としている人が訪れるので、ロングテールのコンテンツ戦略が可能になります。
オウンドメディアの運用にはどんな人材が必要?
ブログメディアを運用する上で欠かせない作業と役割を例にとって、どのくらいの作業と人が必要なのか見ていきましょう。
まずコンテンツ全体の編集責任を負い、ブログ全体の方向性やターゲットの選定、予算確保と配分、他部署との調整を行う編集長。それから企画に従って関係者の調整や成果物の最適化を行う編集者。それから記事の執筆や図版の作成、写真撮影、コーディングなどを行うコンテンツ制作者、公開したコンテンツのアクセス、ユーザーの行動などを分析して評価するアクセス解析担当者などです。
いろいろな企業のオウンドメディアの運用体制を聞いてみると、1~5人くらいの小規模で運用している場合がほとんどで、他業務との兼務である場合も少なくありません。中小企業の場合、最初から大きな予算をコンテンツ制作に充てるのは難しいので、まずは内部でコンテンツ制作と公開を行い、反応をみて外部委託するのか判断するのがよいでしょう。
基本は編集担当者が1人で、記事の執筆は各部署が持ち回りでやるケースが想定されますが、注意したいのは更新が止まらないように気をつけることです。そのためには、空いた時間で仕方なくやるのではなく、本業と同等のタスクとして取り組む体制を構築しなければなりません。経営者のリーダーシップのもと、オウンドメディアの運用を全社的に推進していく意思を社内で共有することが大切です。
オウンドメディア活用時のインターネット上の画像使用の注意点は?
オウンドメディアでの記事投稿で、注意するべきは「著作者人格権(著作権)」「肖像権」「商標権」の3つです。
他の人が撮影した写真、制作したイラストなどを使うときは、利用の許諾を得る、または購入するようにしましょう。人物の撮影をするときは、被写体となる人に撮影の同意を得るようにします。その際同時に、写真の利用目的や利用媒体についても説明してください。商標権は、登録されている商標を排他的に利用できる権利で、知的財産権の一部になります。商品やサービス、ロゴなどが画像に写り込んでいる場合、権利者の確認が必要になる場合があります。
繰り返すようですが、第三者の著作物を許可なく利用したり、個人の許可なく撮影したりすることは絶対に避けてください。仮に写り込んでしまった場合は、加工して処理するといった対応をとり、判断に迷う場合は、公開しないようにしましょう。写真素材サイトなどで販売されている画像は、こうした権利の問題がクリアになっているものがほとんどなので、そうしたサイトの利用を検討するのも選択肢の一つです。
関連記事:商標登録を徹底解説します!円滑に進めるためのやり方とは?
まとめ
企業が自社サイトを中心に、オウンドメディアを持つことが当たり前になった現在でも、「オウンドメディアでどのように収益を上げればよいかわからない」という声はよく挙がります。オウンドメディアで収益化を図っても成果が出るまでには一定の時間がかかるケースがほとんどです。
ただ、オウンドメディアの運営を始めてみたものの頓挫してしまったという話も珍しくないので、きちんとした活用法を習得する必要があります。
オウンドメディアをマーケティングに活用するには、ブランディング、採用、ナーチャリングなどを鑑みて、仕掛けていくのが重要となります。