企業のWebサイトは一度作ったからといってそれでよいものではなく、定期的に更新してこそ存在価値のあるものとなります。
更新頻度の少ないWebサイトは、いっそのこと無い方がまだマシだ、といわれるくらいです。ビジネスにおいてこのようなWebサイトは、運営企業自体が活動的ではないと思われるばかりでなく、下手をすればその存在すらも危ぶまれてしまう恐れがあります。
今回は、Webサイトの運営に欠かせないCMSの選定方法から導入、運用の注意点について解説します。
目次
CMSとは?
CMSとは、Webサイトを構成するテキストやイメージ(図や写真)、動画などのコンテンツを総合的に管理・配信することを目的として作られたシステムです。
インターネットの黎明期には、ホームページビルダーやAdobe Dreamweaverといった名前を耳にした人も多いことでしょう。これらは当時、Webページの作成ツールとして人気があったもので、ワープロに近い感覚でWebページの作成ができることを売りにしていました。これらは、Webオーサリングツールと呼ばれ今も販売されていますが、Webサイトの構築ツール(システム)としてはCMS(Content Management System)が現在の主流となっています。
CMSは2010年代の中頃に普及し始めましたが、それまでのWeb作成には少なからずWebページを作成するための言語、HTML(Hyper Text Markup Language)やWebページのスタイルを指定するための言語、CSS(Cascading Style Sheets)の知識が必要でした。もともとHTMLはWebページのレイアウトが苦手な言語で、その欠点を補うためにCSSが使われ始めたという経緯があります。
つまり、思ったようなデザインのページや統一感のある大規模なサイトを作るためには、Webオーサリングツールを使っていたとしてもかなり専門的なソフトウェア言語に関する知識が必要だったのです。
CMSはこのような従来のツールの欠点を補うため、HTMLやCSSの知識を持っていなくてもWebサイトの構築、管理、更新が容易にできるシステムとして開発され、現在では多くのWebサイトで使われています。
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CMS導入のメリットとはなにか
ではCMSを導入すると、どのようなメリットが生まれるのでしょうか?ここで整理しておきましょう。
●Webサイト(Webページ)の更新が容易になる
先述のように、CMSは専門的なソフトウェア言語に関する知識を持っていなくてもWebサイトの構築、管理、更新が容易にできるシステムです。更新がしやすいということは、更新の頻度向上にもつながり、サイトの充実が期待できます。コンテンツが充実することは、閲覧するユーザーの満足度向上にも影響します。
●Webサイトの更新がどこからでもできるようになる
CMSの提供はクラウドであることがほとんどなので、インターネットにつながる環境があれば、どこからでも更新することが可能です。さまざまな場所から、担当者を問わずに更新できるということは、Webサイトに速報性を持たせることもできるということです。Webサイト内にブログなどがある場合には、このメリットは強い武器となるでしょう。
また、複数の部署や複数の担当者で更新の担当を分け、効率的にサイト全体の更新ができることも大きなメリットです。
●レイアウトやデザインの統一が容易にできる
企業のWebサイトは、ブランディングの観点からもページのデザインやレイアウトが統一されていることが重要です。これらがサイト全体で統一されていることで、ページが見やすくなることはもちろん、コンテンツの探しやすさにもつながり、ユーザーの離脱率を低くする効果も期待できます。
●コストの削減効果
コストの削減効果は、導入時と運用時に発揮されます。クラウド環境で提供されることがほとんどであるCMSは、社内に特別なサーバーを用意する必要がありません。また、ソフトのインストールやアップデートに対応する管理担当者も必要ありません。加えて、導入に際しての時間もほとんどかからないので、時間的なコストの節減にもつながります。
最初のサイト構築に関しては後述しますが、一度構築したサイトの更新にはほとんど費用がかかりません。サイトやページの更新は社内の担当者だけで完結できるようになるので、更新に関わる外注費などを削減できます。
CMS選定のポイント
このように多くのメリットがあるCMSですが、CMSツールは多くの種類が各社からリリースされています。どのようなポイントに注意して選定すればよいのでしょうか?
●運営するWebサイトの特性(目的)
一口にWebサイトといってもその種類はさまざまであり、Webサイトの主たる目的(種類)によって最適なCMSを選ぶ必要があります。おおよそ、以下のタイプに分けて検討するとよいでしょう。
・ポータルサイト系
Webサイトとしては一番多いタイプです。会社の事業概要などを紹介するコーポレートサイト、商品やサービスなどを紹介するサービスサイトなどがこれに含まれます。
・ブログ系
コンテンツマーケティングを実施しているWebサイトなどに多いタイプです。日々ブログなどを更新するような使い方に適したCMSが必要です。
・EC(イー・コマース)系
ショッピングサイトなど、EC系のサイト運営にはショッピング機能(買い物カゴや売上決済)を実装したCMSを選ぶ必要があります。
・コミュニティ系
会員制サイトやSNSなど、ログインや会員管理が必要なサイト運営に特化したCMSが必要です。
●商用のCMSかオープンソースか
CMSツールは、有償の「商用CMS」と無償の「オープンソースCMS」にも大きく分かれます。単純にコスト面では「オープンソースCMS」一択になりますが、オープンソースはソース(プログラム)が広く公開されている関係で、サイバー攻撃の標的になりやすいという欠点があります。有志の手によって攻撃に備えたバージョンアップはされていますが、常に最新のバージョンを使うか、別途セキュリティソフトの導入などが必要です。
商用のCMSは使用に際してライセンス料が必要になりますが、必要なセキュリティ対策やバグに対する迅速なサポートなどが受けられるので、費用対効果を考えてどちらのCMSを選ぶかを検討することになります。
実績のあるオープンソースCMSと商用CMS
ここでいくつか、オープンソースと商用のCMSツールを紹介しておきましょう。
・Word Press
オープンソースのCMSでは、世界で一番有名なCMSです。個人のWebサイトから企業のものまで、世界中のWebサイトの40%近くのシェアを占めているといわれています。あとから機能を追加できるプラグインも多く、EC系のWebサイトも構築可能です。ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドや、広告代理店の博報堂などがWord Pressを使っています。
・Drupal
Drupal(ドルーパル)もオープンソースのCMSでは有名なツールです。Word Pressと同様にプラグインで機能を追加できる柔軟性があり、特に堅牢なセキュリティ機能が高く評価されています。以前は米国・ホワイトハウスのWebサイトに使われており、現在でも国連、NASA、日本では毎日新聞のサイトなどがDrupalを使っています。
・Movable Type
Movable Type(ムーバブル・タイプ)は、オンプレミス型やクラウド型など顧客の要望に合わせて運用できる商用CMSです。商用といっても、個人での利用は無償、大学や教育機関で使う場合にはアカデミックディスカウントが用意されているなど、柔軟な料金体系と高いセキュリティ、手厚いサポートが人気のCMSです。日本国内での導入実績は5万サイト以上、PayPay株式会社や横浜FM放送などが導入しています。
・NOREN
NOREN(ノレン)も、日本国内での導入実績が多い商用CMSです。2002年の発売以来、導入した企業や団体は730社を超え、そのうち87%の企業が自社でWebサイトを運営しています。これはNORENがいかにシンプルで使いやすいCMSであるかを裏付ける実績といえるでしょう。国内ではセブン銀行や三菱重工、関西電力などがNORENを導入・運用しています。
CMS導入時の注意点
CMSを導入する場合に特に注意したいのがCMSツールの選択とコスト、それにスケジュールです。ツールの選択は上記のようにWebサイトの目的に合ったものを選ぶのが重要ですが、オープンソースと商用のCMSでは、導入時のコストとその後のコスト(主にライセンス費用)にかなりの差があります。
ツールの選択次第で予算の総額が大きく変わることに注意し、イニシャルコストとランニングコストに分けて予算確保をしておきましょう。
次に重要なのはスケジュールです。導入まで時間がかからないのがクラウド型の特徴と述べましたが、これはツールの導入に時間がかからないという意味であり、サイトの構築にはそれなりに時間がかかります。
通常は現状把握、課題整理、戦略策定、要件定義(ここでツールの決定)、Webサイトの構築、検証、サイト公開と進みますが、要件定義まではかなりの時間を要するのが普通です。 またサイトの規模によっては、Webサイトの構築や検証にもかなりの時間がかかります。CMSツールを入れ替え、Webサイトの更新を行うには短くても半年、できれば1年程度の余裕をもって計画を進めましょう。
CMSの効率的な運用方法
オープンソースは基本的に自力でサイト構築をせねばならず、商用CMSはライセンス供与をしている会社がサイト構築を請け負うのが原則です。ただし実際にはオープンソースの場合も、初期のサイト構築は外注に制作を依頼し、その後の運用を自社で行う場合がほとんどです。
CMSは自社で運用管理できることが一番のメリットですが、オープンソース、商用共に初期のサイト構築はプロに任せ、後の運用を自社で行っていくのが一番効率のよい方法です。 自社で一番力を入れるべきは、ビジネスの戦略策定とWebサイトの要件定義です。この条件や仕様がブレてしまうと、途中で、もしくはサイトの構築後にCMSを変更するような事態にもなりかねません。CMSはあくまで効率的なWebサイト運営のためのツール。一番重要なのは、ビジネス戦略であることを忘れないようにしましょう。
まとめ
◆CMSとは、以前は主流だったHTMLやCSS (Webオーサリングツール)の知識を持っていなくても、Webサイトの構築、管理、更新が容易にできるシステム。
◆CMSを導入することでWebサイトの更新が容易になる他、複数の部署や担当者で効率的にサイトの更新ができる、レイアウトやデザインの統一が容易にできる、サイト運営のコストが削減できるなどの効果がある
◆一口にWebサイトといってもその種類はさまざまなので、Webサイトの主たる目によって最適なCMSを選ぶ必要がある。たとえば、ポータルサイト系やブログ系、イー・コマース系などである
◆CMSツールは、有償の商用CMSと無償のオープンソースCMSに大きく分かれる。商用CMSはサポートやセキュリティに優れるが、ライセンス料などのランニングコストがかかる。オープンソースCMSは最低限のコストで運用可能だが、セキュリティなどに不安が残る。費用対効果を考え、どちらのCMSを選ぶかを慎重に検討せねばならない
◆CMSは自社で運用管理できることが一番のメリットだが、オープンソース、商用共に初期のサイト構築はプロに任せ、後の運用を自社で行っていくのが一番効率のよい方法である