業務効率化に適した手法が「PDCAサイクル」です。ただ、PDCAサイクルは古いと言われたり、うまく現場で活かせなかったりすることもあります。そこで、新しい手法との比較やPDCAサイクルを実践する上で注意すべき点と改善策、さらに実際の企業の事例をご紹介します。
目次
PDCAサイクルとは
PDCAサイクルは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)の頭文字をとったもので、4つの段階を循環させ、目標を達成するために業務効率化を図って改善していく方法を指します。
実際にPDCAサイクルは多くの企業で実践されており、マーケティングのみならず様々な業務で活用されています。
Plan(計画)
目標の設定と、達成するための行動計画を立てるフェーズです。
実行例
営業:既存顧客へのアプローチを強化するため、他部署との連携を図る
飲食:顧客獲得に向けた新メニュー、コースを考える
Webマーケティング:検索キーワードを決定する
Do(実行)
立てた計画を、計画通りに実施するフェーズです。
実行例
営業:他部署で収集したデータをもとに新たなアプローチをする
飲食:計画したメニューを作り、提供する
Webマーケティング:サイトを最適化する
Check(評価)
計画の実行後、実績を集計して結果を分析するフェーズです。
実行例
営業:問い合わせ件数、販売数、申し込み件数などの検証をする
飲食:メニューの売れ行き、注文が伸びた時間帯や客層などあらゆる情報の分析する
Webマーケティング:検索順位、アクセス数、CV率などの検証をする
Action(改善)
分析したデータをもとに改善し、再び計画を立てる段階につなげるフェーズです。
実行例
営業:アプローチに足りないデータをピックアップ
飲食:売れ行きの伸びたメニューを通常メニューに入れる
Webマーケティング:評価をもとに改善
PDCAサイクルが“古い”と言われる背景
PDCAは業務効率化や改善に適した方法として多くの企業で取り入れられていますが、新たな手法が登場してきたため、PDCAは古いと言われるようになりました。
類似する新たな手法
OODA | Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Action(行動)の頭文字をとったもの。目標達成に向けてまず顧客や市場を観察して状況を判断し、どうするべきか計画を立て、実行する手法 |
STPD | See(事実を見る)・Think(考える)・Plan(計画)・Do(実行)の頭文字をとったもの。事実をとらえてからどうすれば良いかを考え、計画、実行する手法。一つの事実から考察して計画を立てるため、計画を立てやすくサイクルが速いのが特徴 |
DCAP | Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)・Plan(計画)の頭文字をとったもの。PDCAと順番は違うが内容は同じ手法。新たな事業や未知の領域の業務などで用いられ、まず行動が求められる |
PDCAと新たな手法では、順番やサイクルを実現するスピード、再現性などが異なります。DCAPはPDCAとよく似ていますが、順番が異なります。PDCAは計画が先ですが、DCAPは実行が先です。つまり、考えるよりもまず行動してから振り返り、改善策を立てるという流れです。
どの手法にも向き不向きがあるため、優劣や新旧でとらえるのではなく、それぞれの特徴を理解し、自社に合った手法を取り入れましょう。
関連記事:VUCA時代とは?ビジネスで広がる共創の概念。なぜ必要とされているのか?
PDCAサイクルのメリット
・目標・実行項目が明確になり効率的
・改善項目が明瞭
・過程の検証・改善の習慣化
PDCAサイクルを導入すると業務改善につながることは周知されていますが、実際にどのようなメリットがあるのかご紹介します。導入を目的とするのではなく自社に合うかご判断ください。
目標・実行項目が明確になり効率的
PDCAサイクルはあらかじめゴールを設定して取り組む方法のため、目標ややるべきことが明確になり効率的です。目標を設定することで、何をすべきかがおのずとわかるため、闇雲に作業をする必要がありません。
改善項目が明瞭
どのような行動をとって結果があらわれたのかがわかりやすく、改善すべき点も浮き彫りになるメリットがあります。PDCAを1サイクル終えると、次に取り組むべき業務や行動がわかり、さらなる改善・改良が自然と続きやすくなります。
課題の検証・改善の習慣化
何が良かったのか、何が悪かったのかを逐一振り返り、見直して改善するように取り組むと、ミスそのものの減少につながります。PDCAサイクルを続けると検証や改善が習慣化するため、時間をとって計画を立てなくても「何をすべきか」を軸に行動できるようになります。
PDCAサイクルのよくある失敗例と改善策
・導入に伴う反発が発生する
・業務量が増加してしまう
・各項目・各ゴールの設定が不明瞭になる
・想定外の事態への対応が難しい
・新たなイノベーションが生まれにくい
PDCAサイクルに取り組んでいるにもかかわらず、業務効率化につながらなかったり、自社に合っていないように感じたりする企業もあります。失敗例とともに具体的な改善策を把握しましょう。
導入に伴う反発が発生する
PDCAサイクルという新しい手法を導入する際、現場の従業員からは反発が発生する場合があります。人は環境が変わったり、新たなチャレンジをしたりするときなど、「わからないこと」に不安を抱きやすいため、PDCAサイクル導入によって何を叶えたいのかを明確にし、連携しましょう。
改善策
・従業員の不安を取り除くよう計画はオープンにする
・従業員へのメリットを提示する
業務量が増加してしまう
PDCAサイクル導入により、業務量が増えることを懸念する声もあります。従業員の負担にならないように、必ず計画通りに実行することが重要です。詳細な計画を立てるとともに、業務量の可視化に努め、タスクの適切な割り振りを心がけましょう。
改善策
・計画を詳細に立て、やるべき業務を可視化する
・タスクが偏らないよう割り振る
各項目・各ゴールの設定が不明瞭になる
PDCAサイクルは最初に計画を立てますが、具体的にいつゴールするのかがわからないとモチベーションも下がってしまいます。計画を立てる際には期限を設定し、いつまでに何をすべきか決め、不明瞭な点をなくしましょう。
改善策
・ゴール期限を設ける
・工程ごとにも期限を決める
想定外の事態への対応が難しい
PDCAサイクルは最初に計画を立てるため、想定外の事態への対応が難しいのはネックです。その都度メモや記録をとり、改善策の一つとして次のサイクルにつなげましょう。サイクルを継続していくと従業員の経験値も増え、計画通りに進められることが増えたり、想定外の事態や失敗も減っていったりするでしょう。
改善策
・万が一の事態になった際は必ず記録をとる
・必ず振り返りをする
・次の改善策につなげる
新たなイノベーションが生まれにくい
PDCAサイクルはもともと品質改善や業務内容の改善手法のため、まだ世に出ていない新たなものを誕生させる手法ではありません。そのため計画にない業務や、思い付きのような突発的な内容には取り組まないのが基本。一方で、新たなビジネスモデルやアイデアとなる「イノベーション」が生まれにくいと言われています。
新たな発想が生まれた場合には、次のサイクルに積極的に取り入れたり、失敗を最小限にするためにも小さなサイクルを繰り返したりすると良いでしょう。
改善策
・改善策を講じる場面で積極的に新たな案を取り入れる
・場合によってはDCAPサイクルなど順番を変えた方法を取り入れる
関連記事:PDCAサイクルを効果的に回すマーケティングの重要ポイントとは?
PDCAサイクルの成功例
実際に、PDCAサイクルを取り入れて事業に成功している企業は多くあります。成功企業が取り組んだPDCAサイクルにはどのような工夫があったのでしょうか。
良品計画
無印良品を展開する「良品計画」では、PDCAを根付かせることに取り組んでいました。PDCAを定着させ、数ある店舗の誰が店長になってもベストな売場作りができるようにしたと言います。
また、場合によってはPlan(計画)ではなく、Do(実行)からスタートするDCAPの形をとることもあったと言います。PCDAは柔軟性に欠けるというデメリットがあるものの、Do(実行)を重視した独特のやり方で、基本的には自由にしてもらっていたそうです。週1回の委員会で改善策を出し、PDCAサイクルを定着させていきました。
ソフトバンク
ソフトバンクが取り組んだPDCAは、複数のサイクルを並行して進めることが大きな特徴です。少し期限を先に設定した大きな目標と、短期間の期限を設定した小さな目標を立て、毎日検証をするという方法です。
また、新たなイノベーションが生まれにくいというデメリットのあるPDCAですが、ソフトバンクでは、思いついたアイデアを可能な限り計画に含めて実行することも大きな特徴と言えます。
複数のサイクルを並行し、小さな目標を立てて大きな目標達成につなげるため、短期間で多くのPDCAサイクルを回す「超高速PDCA」と呼ばれています。
トヨタ自動車
トヨタ自動車では、PDCAとOODAを掛け合わせた「トヨタ式5W1H」と呼ばれる手法を取り入れており、PDCAサイクルが多くの企業で取り入れられるきっかけを作ったとも言えます。
「なぜこうなったのか」を深く考えるのが特徴で、5回のなぜ(Why)を繰り返してから、やるべきこと(How)を考える方法です。徹底して「ムダ」を排除しようとしてきたトヨタらしい発想といえます。
まとめ:PDCAサイクルは自社に合わせたアレンジを
多くの企業が実践し、成功を収めているPDCAサイクルは、業務効率化や目標を明確にするために誰もが活用できる再現性のある手法です。昨今では「古い」などと言われることもありますが、計画・実行後の改善策を考案する場面で新たなアイデアが生まれる可能性もあります。
まずはPDCAサイクルを定着させ、見直し・改善を繰り返すところから始めると良いでしょう。