デジタル技術や通信インフラが劇的に進化した現在、消費者や企業を取り巻く環境は急速にデジタル化・オンライン化され、リアルとデジタルの境界線は曖昧になった。その結果、顧客はオンラインでも実店舗でも製品を購入し、サービスの提供を受けられることが当たり前であり、多くの選択肢の中から求める価値を見出すことはますます容易になっている。そこでは表面上発生する顧客ニーズのほとんどは既に満たされた状態にあり、企業はそのニーズの奥の「なにか」を掴まなければ、新たな製品やサービスを開発しても消費者のマインドに届かず、成功を掴むことはおぼつかないという状況にある。
こうしたビジネスの大きな転換局面においては、従来から「マーケティング」の重要性が説かれていた。 しかし、マーケティングを実践しようとしても、具体的にどういう定義や種類、手法があるのか、正しく理解していなければ、ビジネスに役立て、売上のアップへとつなげることはできない。
しかも、現今のビジネス環境においては、マーケティングの定義や手法自体が従来とは大きく変わりつつある。そこで本稿では、マーケティング活動をビジネスに活かしたいという方に向けて、改めてマーケティングの定義や種類などといった基礎をおさらいし、ビジネスに役立つマーケティングについて、どのような手順・方法で行い、どのように戦略を策定していけばいいのかなどを解説していきたい。
目次
マーケティングとは何か?
マーケティングの基礎
○マーケティングの生い立ち
マーケティングという概念は、1900年初頭にアメリカで生まれたといわれている。記録としては1905年に、オハイオ州立大学のビジネスコースに「マーケティング」に関する科目が加わったことが記録されている。
日本には、高度成長期がはじまる1950年頃に輸入されたといわれ、その後、ビジネスに必要な新たな考え方として急速に認知されはじめ、さまざまに体系化されるに至った。
もともとマーケティングとは、市場で取引するという意味の「マーケット(market)」から派生した言葉だが、セールス(営業・販売)やプロモーション(広告宣伝活動)などのようにわかりやすい日本語に翻訳できないため、これを明確に表現する言葉がなく、日本ではマーケティングをそのまま使用してきた。そのため、マーケティングが日本に入ってきて以降、社会やビジネスを取り巻く環境の変化とともに、その定義や手法も進化・変遷してきたのだ。
この結果、マーケティングの定義は研究する学者や団体の立場、視点によって細かい部分では異なることが多くになった※が、大まかにいえば、「売買・交換に関係した幅広い概念」として捉えられている。
なかでも日本マーケティング協会が1990年に策定した定義によると、「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」とやや狭義に定義されている。
また、国際的な定義はアメリカのマーケティング協会によって今までに何度か改定されているが、直近である2007年の定義によると、「マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである」とされている。
日本とアメリカの表現が微妙に異なるが、そこから抽出されるポイントとして、 ・顧客やステークホルダーとの相互的な価値のやりとりであり一方的な押し付けではないこと ・顧客やステークホルダーが意識するとしないとに関わらず、その欲求を理解するプロセスが必要なこと ・顧客やステークホルダー、社会が求める価値を創造するための総合的な活動であること が最も包括的にマーケティングを定義するものと考えていいだろう。
言い換えれば、顧客に商品・サービスを選択してもらうまでのプロセス全般や、ステークホルダーや社会にとって価値あるものを提供することがマーケティング活動であり、販売促進(販促)やプロモーションなど目に見える個々の活動だけでなく、顧客の購買プロセス全体とそれを取り巻く全ての活動がマーケティングの対象領域であるといえよう。 ※一部、社会経済学やマクロ経済学の立場からはさらに異なる定義も行われているがここでは割愛する。
〇マーケティングの定義と変遷
○ドラッカーとコトラーそれぞれの定義
また、マーケティングの定義や目的は主唱する研究者によっても異なる。ここではもっとも著名な研究者であるドラッガーとコトラーの定義をおさらいしておこう。
まずは、マネジメントの権威であり経営学の父ともいわれるピーター・ドラッカーは、「マーケティングの理想は、販売活動を不要にするものである」という言葉を残している。
言い換えれば、顧客に対して「これを買ってください」と販売活動をしなくても、顧客の方から自然に買いたくなる状態をつくることがマーケティングだというのだ。
そのために企業は、顧客のニーズを適切に捉え、それに合った商品を開発し、適切なターゲット層に向けて届く有益な情報を発信していくことが必要となる。
具体的には、市場調査、分析から導き出された商品開発、販売戦略の策定、広報や広告宣伝とその効果検証までなどといった一連の施策のすべてを、一貫して計画・実行・管理することがマーケティング活動だということになる。
ドラッカーは、こうした一連のプロセスの中でも特に顧客側に立つことの重要性を強調していて、マーケティング活動によって顧客のニーズを理解し、顧客に合った商品・サービスを提供することができさえすれば、「売れる仕組み」は自然にできあがると述べている。
ここから、日本では「売れる仕組み」こそが、マーケティングの全体像だという考え方も生まれている。
一方で、現代マーケティングの第一人者であり『マーケティング・マネジメント』の著者として知られるフィリップ・コトラーの定義によれば、マーケティングとは、「製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものや欲しいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセス」となる。同書ではこれをもっと端的に示した定義として「ニーズに応えて利益を上げること」とも表現している。
この「ニーズ」とはもちろん顧客のニーズであり、これに応えるためには顧客の立場に立つことが必要不可欠なのはいうまでもない。つまり、ドラッガーもコトラーも同様のことを別の言葉として定義しているということになろう。
○コトラーが捉えたマーケティングの変遷
またコトラーについて述べるには、時代によって変遷するマーケティングトレンドの流れを、マーケティング1.0から4.0として捉えたことを押さえておく必要がある。社会が変化するにつけマーケティングの定義とフレームワークはどう変化したのか、それぞれの時代のマーケティングトレンドについて、コトラーの定義に基づいて見ていこう。
マーケティングの歴史
マーケティング1.0:製品中心の時代
1950年代は、自動車産業が興隆し、新しい工業製品が大量に生産されるようになった時代。まだまだ製品も情報も不足していたため、どんな製品も、作れば作っただけ売れるという、大量生産・大量消費の時代だった。特にアメリカではより大量に商品を生産して安く販売すれば、供給を上回る需要がそれをどんどん消費する、という経済構造だったため、コトラーはこの時期のマーケティングを、製品を主体に考えて「製品販売を目的とする製品管理」に重きをおいた「製品中心のマーケティング」であると位置付けている。
当時は、製品中心のマーケティングが模索されるなかで、自動車メーカーが主導する形でさまざまな手段を組み合わせたマーケティング・ミックスの手法が広まっていった。1960年代には現在もマーケティングの基礎として十分通用する「4P分析」(詳しくは後述)のフレームワークが誕生している。企業にとって、どのような製品(Product)を、どう流通(Place)させ、どんな価格(Price)で、どのように宣伝(Promotion)するか、を重要視する手法であり、当時の時代背景にマッチしたマーケティング手法として有効なものであった。
マーケティング2.0:消費者志向の時代
1970年頃には、大量生産の繰り返しにより生産技術が発展したため、安価な商品が大量に市場に出回り、しかも類似の商品が数多く流通することになる。このため市場には製品が過剰に供給されるようになり、それまで市場にある製品をそのまま受け入れてきた消費者が製品やサービスを吟味して選ぶようになっていく。企業と消費者の立場に逆転が起こったのだ。これに拍車をかけたのがオイルショックである。世界でも日本でも経済は低迷し、消費者の購買力は落ちたため、消費者はますます慎重に製品を選択するようになった。企業は、消費者が欲している製品やサービスがなにかを探るために消費者のニーズを分析して、マーケティング活動に反映することが求められるようになった。このため消費者志向の時代と位置づけられている。
マーケティング3.0:価値主導の時代
1990年頃から、インターネット公衆網回線が整備され、一般家庭にも普及したことで、消費者はインターネットを通じて自由に情報を入手できるようになっていく。企業からの情報だけでなくオンライン上で口コミやレビューを収集することで、消費者同士が製品やサービスに関する情報や意見を交換しあい、自らの価値観で比較・検討を行えるようになったのだ。このため、企業はインターネットを通じたマーケティング活動を導入することになる。
また、この時期になると、ものづくりの技術やサービスのクオリティーは格段と向上し、製品やサービスの機能や性能が高品質であることは当たり前の世の中となる。そこで消費者は、クオリティーやコストパフォーマンスに目を向けるだけでなく、その製品やサービスを購入することで、自分がどんな社会価値を享受できるか、またはそれを通じてどのような社会貢献ができるか、という観点で消費行動を起こすようになる。
企業側は提供する商品やサービスのクオリティーだけではなく、「どう社会に対して貢献しているか」という観点でも評価される時代となり、企業はそのビジョンや社会貢献活動、環境への取り組みなど、企業としての意義そのものが問われるようになっていく。このように消費者の評価が社会への価値という軸で考えられるようになったのが価値主導の時代だ。
マーケティング4.0:自己実現の時代
2010年頃からは社会的な要因だけでなく消費者の自己実現や欲求を叶えることで精神的な価値を満たす商品が求められるようになる。この自己実現という言葉は、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した欲求5段階説の最終段階をベースとしてマーケティングに導入された概念だ。
消費者の物質的欲求はほぼ満たされていると考えられる現代では、人々はブログやSNSなどの普及によって、投稿や「いいね」を通して、自己承認欲求も満たされるようになった。その後は、最後の欲求段階にある「自己実現」のフェーズに入っているとみなす考え方だ。企業は、これまでのように「購入までのプロセス」に着目するだけでなく、新たに「製品を購入した後」のプロセスまで考え、消費者がどういった自己実現を求めているかのニーズを分析して顕在化させ、それを製品やサービスを通して提供するというマーケティング活動を行うようになっていく。
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マーケティングにおける具体的な活動内容
マーケティング活動のメリットとその手法
これまでマーケティングの基礎として、定義やトレンドの変遷を見てきたが、次には、実際にマーケティング活動を導入するとどのようなメリットがあり、反対に導入しないとどのようなことになるのかについて見てみよう。
○マーケティング活動を行うメリット
マーケティング活動を行うメリットとして、主に以下の4つが挙げられる。
1.市場での価値を客観的に捉えることができる
2.価格競争に巻き込まれにくくなる
3.製品や技術開発の「無駄撃ち」を防げる
4.予算の最適化でコストを削減できる
1.市場での価値を客観的に捉えることができる
マーケティング戦略を立案するにあたっては、後ほども触れるがまず最初に市場調査を行い、市場における消費者動向や競合他社の評価などを調査・分析することになる。
これによって企業は、市場における消費者と自社の現状を数値化して把握することができる。この数字を活かせば、戦略を検討すべき製品やサービスの対象となる消費者がどれだけ存在するのか? どれだけのニーズがあるか? など、提供者側の主観やシーズに偏らない客観的な市場価値として捉えることができるようになる。
このため、市場調査から始める一連のマーケティング活動は、獲得したい消費者に対して、
求められる製品やサービスの価値を的確に届けていく活動であるとも言える。
2.価格競争に巻き込まれにくくなる
自社製品やサービスの市場価値を正確に把握したうえで、その価値を消費者に充分納得させることができれば、消費者は少々高い対価を支払ってもその製品やサービスを購入するだろう。
高額なブランド品や高級車がその価格に関わらず購入されているのも、マーケティング活動で消費者の動向を常にリサーチし、心を掴んでいるからだ。
つまり、マーケティング活動で自社の製品やサービスの価値を的確に捉え、それを上手に発信していれば、低価格競争の渦に巻き込まれることなく、独自の地位を確立することができるのだ。
3.製品や技術開発の「無駄撃ち」を防げる
いかに高機能な製品や良質なサービス・技術を開発しても、単なる営業活動を行うだけで市場に浸透することはまれである。
もはや、良い製品や技術であるというシーズだけでものが売れる時代は終わっているといえるため、場当たり的な営業活動を繰り返してもほとんどの場合、売上の向上は見込めないだろう。
このような時は、マーケティングの手法を駆使し、事前に製品やサービス・技術についてテストマーケティングを行えばよい。消費者に試供品を使わせたり、サービスを体験させて評価を得ることで、その製品やサービスがどの程度必要とされているのかを判断することができるからだ。
これを開発部門にフィードバックすれば、いわゆる「無駄撃ち」をなくして、開発にかかる人員や手間を低減することができ、ヒットする確率を上げていける。ここにマーケティング活動のメリットがあるのだ。
4.予算の最適化でコストを削減できる
マーケティングは消費者に商品・サービスを選択してもらうまでのプロセス全般をシームレスにつなぐ活動であるため、それぞれのプロセスが効率的なパフォーマンスを発揮しているかどうかをチェックする機能も同時に備えることになる。
その際には当然、効率やコスト、タイミングといった指標も見直すことになるため、予算の最適化も行うことが可能だ。
また、マーケティング活動による戦略的な消費者へのアプローチは、営業活動の効率も向上させる。いわゆる「飛び込み営業」などを行う必要はなくなり、営業担当は見込み客として十分成熟した顧客を相手に集中できるため、結果として業績アップが見込めるのだ。
○マーケティング活動をしないとどうなるか?
戦後、長く続いた高度経済成長期は良い製品を売り出せば次々とモノが売れた時代だった。しかし、現代社会ではマーケティング活動をしないとモノが売れない時代といわれている。
技術の進歩によって生活が豊かになり、消費者のニーズが拡大したことで商品の種類が多様化。市場に多くの商品が並ぶようになり、消費者に正しい情報が伝わりにくくなったことが原因としてある。
そのため、マーケティング活動をしないと消費者のニーズがわからず、求められていない商品を売り出してしまうことにもつながってしまうのだ。
前述の通り、世界では、いち早くこういったマーケティングの有効性に気付き、これを活用してきたのだが、日本の産業界ではこれまで、マーケティング活動をしっかりと行っていたのは一部の企業に限られており、十分に活用されているとはいえない状況にあった。この結果どういった状況が生まれたのだろうか。
1.「いいものは売れる」で消費者を失う
製品のクオリティが高いと自他ともに認められていた日本では、「製品中心」の考えから脱却することが遅れてしまっていた。特に製造業では、「いいものは売れる」信仰ともいうべきものがあり、消費者のニーズに耳を傾ける消費者目線のマーケティング活動にスムーズにシフトすることができていなかったのだ。その結果、プロダクト先行型と言われるスペック重視の情報発信やマーケティング活動がなされ、消費者の購買意欲を後押しすることができていなかった。これにリーマン・ショックによる経済低迷が追い打ちをかけ、一方で、海外などから廉価でそれなりの品質を持った製品が流入し、日本の製品は競争力を失っていくことになる。
2.「コモディティ化」でロイヤリティが低下
廉価でそれなりの海外製品が日本市場を席巻したとき、マーケティングの視点を持たない多くの企業がシフトした戦略は、価格か品質を下げて、市場シェアを広げるコモディティ化であった。これは、最も安易であり、一時的に売上を上げるには有効な方法ではあるが、結局は価格競争となり、他社の製品やサービスとの差別化ができなくなり、付加価値を失う結果を招いた。売上は増えても単価を押さえているため、利益は下がってしまう。その結果、新製品を開発する予算などから削減され、消費者にとって魅力的な製品でも企業でもではなくなっていき、最終的には事業を継続することが困難な状況に至るという負のスパイラルに陥ってしまったのだ。
マーケティングの典型的なプロセス
ここまで見てきたとおり、マーケティングはメリットが多く、より多くの企業で導入すべきだということがお分かりいただけただろう。
では、マーケティングとは具体的には、どのような活動をすればいいのか?
以下、フェーズごとに紹介しよう。
フェーズ1.
内外の環境の調査
マーケティング活動は、まず市場において自社の置かれている環境を内外ともに調査することから始まる。
外的環境としては対象となる市場に消費者がどれだけ存在していて、なにを求めているのかなどを探る市場調査を行う。
競合他社が持つ同カテゴリの商品やサービスが消費者からどのように見られているのかなどの客観的な事実を調査することが必要だ。
内的環境としては自社の製品やサービスの特徴や強み、弱みはもちろん、顧客層、近年の業績の変化などもしっかりと確認しておきたい。
こうした調査によって得た情報は、開発の是非や価格帯、商品を市場に投入するタイミングなど、マーケティング戦略全体の重要な要素を策定する判断材料となる。
フェーズ2.
セグメンテーションとターゲティング
次に、基準となる分類軸を設けて消費者(顧客と見込み顧客)を細分化していくセグメント化(細分化)と、セグメント化で切り分けたそれぞれのグループについて、市場としてのボリュームの大きさ、購買意欲の高さなどからどのグループを優先的にターゲットにしていくかを洗いだすターゲティングを行う。
セグメント化とは、例えば世代や性別、職業別などの属人的なファクターや居住地、勤務地などの地理的ファクター、趣味や嗜好といった心理的、行動特性などのファクターを軸として対象となる消費者を分類していく作業だ。
こうして、ある程度のボリュームを同質なグループに分類することがセグメント化であり、そのグループ内で共通するニーズを見いだし、その中でも優先順位の高いグループをターゲティングによって洗い出し、ここに向けたマーケティング戦略を策定していくことになる。
対象となるセグメントをターゲティングによって取捨選択することで、リーチしたいセグメントに効率的にアプローチすることができるので、セグメント化とターゲティングはセットでひとつのフェーズと考えるといいだろう。
フェーズ3.
ペルソナの設定
セグメント化からターゲティングに至るプロセスは、いままでマーケティングの主流を占めていたが、近年では、より細部までを設定した「ペルソナ」を用いてマーケティングを行うことも多い。
ペルソナとは、顧客像を詳細に想定した「半架空」の典型的なユーザー像だ。この人物像を担当者間で共有し、その理解を深めることでマーケティング方針を統一したり、よりユーザー視点に立った戦略を策定できるようになる。
ペルソナはターゲティングされた匿名的なセグメントグループとは異なり、架空の名前を持ち、独立したプロフィールがあり、その背景にはストーリーを持たせる場合すらある。
ペルソナの設定には様々なものがあるが、ほとんどの場合、以下の6項目を押さえておけばいいだろう。
ペルソナ設定の基本6項目
1.基本情報(年齢、性別、居住地、架空の名前など)
2.学歴・職業(大学・学部、業種・役職、最終学歴)
3.家族構成(恋人・配偶者・子供の有無など)
4.価値観(何を大切にするか、好き嫌い、お金に対する考え方、消費傾向など)
5.趣味嗜好(好きな食べ物、興味があること、マイブーム、休日の過ごし方など)
6.行動様式(起床から就寝までの時間をどう過ごしているか、通勤通学時間、昼型・夜型など)
この他最近では、インターネットへのアクセス時間や、スマホやパソコンをどう使っているかなど、ITリテラシーやネット上での生活傾向に関する項目を追加して設定することも多くなっている。
フェーズ4.
フレームワークを用いた分析
これまでの調査、設定のフェーズを踏まえてマーケティング活動を策定するわけだが、その前に検討しておかなければならない重要なフェーズとして「分析」がある。
分析にはすでに開発されたいくつかのフレームワークがあるので、それを用いることが効率的だ。
フレームワークは、すでに確立されている枠組みや仕組みのことであり、これを活用すればターゲット市場や自社の強みと弱み、他社製品との差別化ポイントなどを分析し、洗い出すことができる。
そのなかでも代表的なものについては後に紹介するが、変化が激しいビジネス戦略やマーケティングの分野では、状況の整理と全体を把握するための分析方法として、これまで多数のフレームワークが作られてきた。
これらのフレームワークのうち自社にフィットするものを選択して組み合わせ、最適なマーケティング戦略を策定していくとよいだろう。
フェーズ5.
マーケティングの実行
いよいよマーケティング活動をして実行に移すフェーズとなる。
ここでは具体的に、主に広告宣伝活動としてのマスメディアに広告を出稿するという手法のほか、マスコミにニュースリリースなどを送り記事として無料で取り上げてもらう「PR(パブリシティ)」といった手法が従来から知られているところだ。
最近ではインターネットを使って検索エンジンやソーシャルメディアからアクセスを集めるSEOも当たり前の施策となり、LINEやツイッターなどSNSで口コミを広める「バズ・マーケティング」、自社サイトを構築し、そこでのコミュニケーションを深化させる「オウンドメディア」など、さらに新しい手法もさまざまに開発されているので、これらの特性を活かして実際のマーケティング活動を展開していくことになる。
フェーズ6.
結果の評価と戦略の見直し(PDCA)
十分に調査をして分析に労力をかけ、最適と思われる戦略を策定して実行しても、すぐに思うような結果が出るとは限らない。
調査結果を読み誤っていたり、戦略ミスなど企業側の問題もあれば、市場の急激な変化や競合他社の予想外の動きなど想定外の問題が起こることもある。
また、消費者のライフスタイルや行動様式などは常に大きく変化するものだと捉えておく必要もある。
そのため、マーケティング活動は短期決戦で臨むよりも、各フェーズごとにKPIを設定し、定期的な達成度の確認と、その結果を分析・反映した新たな戦略を策定していくという、中長期的視野に立ってPDCAを回していくことが重要となってくる。
もちろん、すぐに短期的な目標が達成できたとしてもそこで歩みを止めるのではなく、マーケティング活動を戦略として定着、進化させていくためにはPDCAを回し続ける必要がある。
マーケティングを実践するには? 戦略と実施のポイント
○マーケティング戦略を考えるフレームワーク
マーケティング戦略を策定するためには、いくつものフレームワークが存在するのでそれを自社にあてはめて活用すればよい。ここでは、なかでも押さえておきたい代表的なものを紹介しよう。
・3C分析
3C分析は、マーケティングやコンサルティングでしばしば用いられるフレームワークである。現在のビジネス環境を市場(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)の3つの角度から分析し、商品やサービスが置かれている競争環境を整理するもの。
3C分析によって市場を確認し、自社の強みや競合他社の強み、自社の弱みなどを明確にしておくことができるようになり、自社やその製品、サービスがどういったフィールドで戦って行くのかを決定づけるものとなる。
https://www.tsuhan-marketing.com/blog/basic/regarding_marketing
・STP分析
競争環境を決めたら、次は「誰に」「何を」価値と感じてもらい選んでもらうかが重要となる。そこで用いられるのがSTP分析だ。
セグメンテーション(Segmentation)とターゲティング(Targeting)により「誰に」を決め、ポジショニング(Positioning)により「何を」を決定していく。
顧客やニーズの分布を整理できたり、どのようなユーザーにどのようなポジションから商品・サービスをアピールしていくのか、というプロモーション戦略を策定する際に役立つ。
https://delighting.co.jp/blog/stp/
・4P分析
既に商品・サービスや市場は決まっていて、「どう売っていくか?」を検討していくケースでは、「4P分析」に沿って商品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・広告宣伝(Promotion)を販売計画の策定に用いることができる。
重要なのは4Pのうち1つの要素を考えただけで、4P分析を活用できているとはいえない点にある。相互に関連する4つの要素を複合的に掛け合せて分析することで、4P分析は効果を発揮するからだ。このとき、「製品内容に対して価格は妥当性がある値段か」など各要素間で整合性がとられていることも重要となる。
また、最近ではこの4Pを消費者側の視点から見直した「4C」という概念も注目されている。
4Cとは、顧客にとっての価値(Customer Value)、経費(Cost)、入手の容易性(Convenience)、顧客とのコミュニケーション(Communication)の頭文字を取ったもの。この4Pと4Cはまったく別の概念というわけではなく、4Pがどちらかというと企業側の視点出会ったのに対して、より顧客側の視点でアプローチするのが4Cであるということになる。
https://mtame.jp/marketing_foundation/marketing_process/#a01_02
マーケティングの今とこれから
マーケティング最新事情
○マーケティング手法のトレンド
ここまで、マーケティング戦略の概要を見てきたが、その具体的な手法は、インターネットやITの進展によって現在も大きく変化している。
特に2020年以降はコロナ禍への対応という急激で大きなうねりがあったため、マーケティングの現場でもその影響を考慮した施策が生み出されている。
そこで、今後のマーケティングトレンドについて新型コロナの影響も踏まえて解説していこう。
まず、大きな流れとしては感染症対策を充分に考慮したコンテンツでなければ集客や望む効果を得られないという前提がある。
これは、オリンピックを始めとした大小様々なイベントが軒並み中止か縮小を余儀なくされた緊急事態宣言下の時期ばかりでなく、これからも「密になる」、「大声を出す」、「人と直接接触する」といったイベントでの集客は難しいと考えた方がいいだろう。
もちろん、スポーツや演劇、コンサートといった娯楽関連での集客は持ち直していくに違いないが、マーケティングに活用するような大規模セミナーや展示会、商談会などは、参加者に対して「どうしても行きたい」という大きなモチベーションを与えられない限り、企画しにくい施策と言わざるを得ない。
反対に、「密にならず」、「静かに」、「直接人と接触することなく」コミュニケーションを持てるような施策は歓迎されることになる。
そのような手法としてまず思いつくのはLINEややSNSのダイレクト・メッセージなどであろう。これらは企業と消費者を結ぶ手軽なコミュニケーション手段として、現在ではかなり定着してきている。
消費者側も、こうしたコミュニケーションに慣れてきたことによって、「更に深い」情報のやりとりも望むような傾向が見られるので、より製品やサービスなどに踏み込んだ内容でのプレゼンテーションを行うなど積極的なマーケティングを展開するいる企業も出てきている。
また、旅行業界でバーチャルツアーやオンラインによるアクティビティ体験などが脚光を浴びているように、体験型のマーケティングも今後増加していくだろう。
具体的には新機能に関するウェビナーやバーチャル展示会の開催など、画面越しであっても「現実感」を得られるイベントなどだ。
こうしたイベントは大規模であっても企業側は会場費や設営費などが大幅に削減でき、参加者側は交通費がかからないことと、会場への往復に時間を使わなくていいなど、双方にメリットがあるので、今後ますます増加して行くに違いない。
さらにコロナ禍は「人との隔たり」という負の面も生み出してしまった。ソーシャルディスタンスへの配慮は、人と人とが直接会ってコミュニケーションを取ることを躊躇せざるを得ない空気を作っているのだ。
しかし、これも裏を返せば「直接会わなくても会話できる」手段を消費者に与えれば、人と会話したいというニーズに応えられることを意味する。
そこでZoom、WebEx、Teamsなどのオンライン通話ツールが普及したことを追い風にした会話型のマーケティングが注目されている。
さらに進化した会話形マーケティングとしては消費者との間にAIを配することで、消費者個人の嗜好やニーズを自動的に読み取って差別化を図るという手法も出てきている。
そして、今後さらに加速していくことが間違いないのが動画を活用した各種のコンテンツだ。
現在、すでに多くの動画コンテンツがマーケティングの手法の一つとして市場に投入されているが、これからは数も種類もさらに大きく拡大していくと考えられる。
動画コンテンツは主に、カタログ機能や会社紹介などいままで別の媒体によって行っていた機能を代替したものと、YouTubeなどの動画配信サービスへの発信による集客効果を狙ったものに大別されるが、今後は編集ツールの進化や優秀な動画作成サービス会社の増加などにより、質の高い動画コンテンツが手軽に作れる環境が整って来ているので、全く新しいタイプの動画マーケティングが登場する可能性も期待される。
○DX推進でデジタルマーケティングがカギに
オムニチャネルに見られるように、いま世界は、リアルがデジタルに内包される「アフターデジタル化」した社会に変化しつつあり、その動きはコロナ禍において加速度を増している。 なかでも、AIやビッグデータ、IoTなどを活用していく「第4次産業革命」とも呼ばれる一連の動きは、企業活動のあらゆる場面に影響を与え、デジタル化を伴う変革(DX=Digital Transformation/デジタル・トランスフォーメーション)を企業にもたらしていくであろうと見られている。
日本における企業のDXへの取り組みは、第3波到来とされている新型コロナウイルスの感染拡大が続くなかで、来るべきアフターコロナ社会に向けて待ったなしの状況となっており、企業だけでなく、政府がデジタル庁の創設を目指しているように、日本の国そのものもデジタルを軸とした新たな顧客価値、顧客体験(CX)の構築に向かって動き出している。
この動きを推進していくためには、顧客が意識しているニーズの先にあるインサイト(顧客が意識していない真の欲求)を洞察し、それを満たすためにデジタルテクノロジーを用いて顧客価値を体験として提供することができる、デジタルマーケティングというアプローチが必要となってきている。
デジタルマーケティングは、単にマーケティングの手法をデジタルに置き換えたものではない。日々顧客の気持ちを考え、顧客体験の向上に邁進し続けるなかで、顧客が自ら欲しいと言ってもらえるように、売れる仕組みはどうやってつくれるか、そのために必要な活動はどのようなものがあるか、個々の施策の元になる戦略をどうやってつくっていけばよいか、というマーケティングの基本を繰り返す中で構築されるべき新しいアプローチだ。 各企業がDXを成功に導くことができるのかどうかは、日本の将来を大きく左右する問題だともいえる。その意味でデジタルマーケティングは、日本中を巻き込んで突き進みはじめたDXという大きなうねりの中で、各企業が取組むべき課題としての重要な鍵であることは間違いない。
まとめ
・ここまで定義や手法、トレンドの移り変わりなど、マーケティングの基本をおさらいしてきたが、マーケティングは分析・リサーチするターゲットが常に変化し続ける社会や市場であるため、その変化に敏感に対応していくことが求められている。
・マーケティング活動は効果的に商品を営業・販売し、市場や顧客のニーズを把握するだけでなく、その先にあるインサイトを洞察するためにも、ビジネスの基本となる存在となっている。特に現在は社会が地球規模で多様化し、企業は商品だけで評価されるものではない時代になった。DX推進という大きなうねりの中で、企業におけるデジタルマーケティングの成否はとても重要な鍵を握っている。
・本稿では奥深いマーケティングのほんの入口を提示したに過ぎない。ビジネスの根幹を握るマーケティングについて少しでも興味を持たれたら、より詳しい資料や文献にあたり、さらなる知見を深められることを念願している。