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バリュープロポジションキャンバス(VPC)の重要性と作り方、事例を解説

2023.11.29
読了まで約 6

バリュープロポジションキャンバスとは、自社の製品やサービスと顧客のニーズとの間のずれを解消するためのフレームワークです。

バリュープロポジションの検討は、企業が競合との差別化を図らなければならなくなっている近年、重要性を増しています。この記事では、バリュープロポジションキャンバスの重要性と作り方を徹底的に解説します。

バリュープロポジションキャンバスとは?

バリュープロポジションキャンバス(Value Proposition Canvas)とは、自社の製品やサービスと顧客のニーズとのずれを解消するためのフレームワークです。

アレックス・オスターワルダーにより2015年に発表された著作、『バリュー・プロポジション・デザイン』で紹介され、注目を集めています。

まるでデザイナーが「キャンバス=帆布(はんぷ)」に絵を描くように、一枚の紙の上に「顧客に提供する価値=バリュープロポジション」をデザインしていきます。

● 自社が顧客へ与えられる「顧客への提供価値=バリュープロポジション」
● 顧客を把握し理解するための「顧客セグメント」

この2つの要素を同一紙面上にデザインすることで、両者の関係性が可視化され、お互いのニーズのズレを少なくすることができます。また、バリュープロポジションキャンバスの特徴としては以下があります。

● バリュープロポジションキャンバスが特に有効なタイミングは市場が未成熟の時
● 自社の経験や体験だけが先行してしまう場合がある

関連記事:フレームワークとは?思考を整理しビジネスを進めていくための枠組みを活用シーン別に解説

バリュープロポジションキャンバスが特に有効なタイミングは市場が未成熟の時

「バリュープロポジションキャンバス」が特に有効なタイミングとしては、市場がまだまだ未成熟で、競合他社がそれほど参入していないときです。自社が先陣を切って市場を開拓する必要があり、顧客を深く理解することが重要だからです。

すでに市場が成熟している場合には、「バリュープロポジション」により「3C=自社・競合他社・顧客」のそれぞれの視点から、価値を考察していきます。

関連記事:3C分析とは?やり方や手順、テンプレートも紹介

自社の経験や体験だけが先行してしまう場合がある

バリュープロポジションキャンバスにおいて注意しなければならない特徴のひとつとして挙げられるのが、「自社の経験や体験だけが先行してしまう」場合があることです。自社の経験や体験から、「このようにすれば顧客も喜ぶだろう」という企業側の一方的な想いだけが先行し、顧客の本当に望んでいる価値が見えていない可能性もあります。

自社がどれだけ顧客想いだとしても、顧客が必要としない商品やサービスでは意味がないことを忘れないようにしましょう。

バリュープロポジションとは?

前述のとおり、「バリュープロポジション」とは、「顧客に提供する価値」のことです。顧客は、自分にとって価値があると認めるからこそ、製品やサービスを購入します。

自社の製品やサービスのバリュープロポジションを検討するにあたっては、顧客の立場になって考えることが重要です。企業が想定しているものとは別の価値を顧客が見出していることは往々にしてあります。

例えばある喫茶店のマスターは、自分のお店の価値を「おいしいコーヒーが飲めること」であると考えていたとしても、顧客にとっては、「ゆっくりとタバコが吸える場所」とみなされているかもしれません。

バリュープロポジションキャンバスを利用することにより、自社の製品・サービスに対して想定しているバリュープロポジションと顧客のニーズとのずれを確認できます。ずれを認識することで、製品やサービスをより市場に受け入れられるものに変えていくことが可能となります。

関連記事:ニーズとは一体何?ウォンツやシーズとの違いも解説

バリュープロポジションを検討することの重要性

バリュープロポジションを検討することは、製品やサービスの差別化を図らなければならない状況にあるからこそ、重要性を増しています。近年は、製品やサービスの母数が増え、多くの競合が生まれています。

企業は、製品やサービスの差別化を図らなければ、生き残れないようになっているのが現状です。製品やサービスの母数が増えている状況では、差別化のために追加されたサービスや機能が顧客のニーズとずれてしまうことが多く発生しています。

顧客にとっては「使いにくい」と感じることが増え、また企業にとっても、ムダなコストが発生します。差別化をする際には、ただ「競合と違っていればいい」のではなく、「競合より顧客のニーズに合ったものになっている」ことが重要なのです。

バリュープロポジションキャンバスが注目を集めているのは、顧客への提供価値をしっかりと考えることが、企業にとって必要不可欠な時代になったことを意味していると言えるでしょう。

バリュープロポジションキャンバスを作るメリット

バリュープロポジションキャンバスを作るメリットとしては以下が挙げられます。

● 自社が提供している価値と顧客が想定しているニーズのズレを明確化できる
● 顧客ニーズを新たに模索できる
● 自社商品やサービスの改善点及び強みを見出せる

自社が提供している価値と顧客が想定しているニーズのズレを明確化できる

バリュープロポジションキャンバスを作ると、自社が提供している価値と顧客が想定しているニーズのズレを明確化できます。

しかし、顧客のニーズが顕在化してない場合もあり、こういったときにはなかなか把握ができず、自社と顧客のニーズに乖離があることに気づかないこともあります。

そのようなときには組織全体で情報を共有することも視野に入れ、複数の部署に渡って客観的にニーズを探っていくことが重要です。

顧客ニーズを新たに模索できる

バリュープロポジションキャンバスを活用していると、新たな顧客のニーズが見つかることもあります。マーケティングにおいて利用頻度を増やしたり、商品開発や企画の段階から取り入れたりすることにより、新たな顧客ニーズを模索できます。

バリュープロポジションキャンバスを少しでも多くのフェーズで取り入れることで、新しいニーズの発見につながるのです。

自社商品やサービスの改善点及び強みを見出せる

バリュープロポジションキャンバスを作成していくうちに、自社商品やサービスの改善点が見出せるようになります。

顧客ニーズとのズレがいわゆる自社の改善点であり、顧客の求めていない価値となります。またニーズのズレを改善していく中で、自社商品やサービス及び自社における強みが発見できる場合もあります。「競合他社が実現できていなかった技術が自社には実現できた」「自社にはこのようなこともできる能力があったのか」といったことも往々にして起こります。

このような模索と発見を繰り返していく中で、自社の開発・生産能力は強化され、自社商品やサービスの性能は向上していくでしょう。

バリュープロポジションキャンバスの作り方

ここからは、バリュープロポジションキャンバスの作り方を見ていきましょう。

作成手順は、

1. 誰に何を提供するかを簡潔に書く
2. 顧客のニーズを書く
3. 顧客に対して提供できる価値を書く

の3段階です。

 1.誰に何を提供するかを簡潔に書く

最初に、
①Value Proposition …顧客への提供価値
②Customer Segment …顧客セグメント
の欄を埋めます。

ここでは、長く書く必要はありません。一文で簡潔に表現することが重要です。BtoBの場合には、特に②の顧客セグメントについてよく考えましょう。

組織全体として見るのではなく、経営層なのかそれとも営業部長なのかなど、組織の中の具体的な人に対して、はっきりとターゲットを定めることが大切です。

関連記事:セグメントとは。マーケティングだけでなくビジネス全般で使われる用語の意味

 2.顧客のニーズを書く

次に顧客セグメントの下の欄を埋めていきます。

③Customer Job(s) …顧客が解決したい課題
顧客が解決したい課題について、できる限り主観を捨て、客観的に考えます。
<例>営業マネジメント強化のためのコンサル企業の場合なら、事業計画を達成するためのターゲットリストや営業ツールなど。

④Gains …顧客の利得
次にその課題を解決することにより、顧客が得るものを埋めていきます。
<例>顧客が増える、営業マンのスキルが上がる、など。

⑤Pains …顧客の悩み
課題を解決するにあたっての顧客の悩みを埋めていきます。
<例>案件熟成相談が増える、営業先に偏りが出る、など。

 3.顧客に対して提供できる価値を書く

最後に、顧客に提供できる価値の下の欄を埋めていきます。

⑥Product & Services …製品とサービス
自社の製品やサービスを書きます。

⑦Gain Creators …顧客の利得をもたらすもの
④の顧客の利得に対応し、利得をもたらす製品やサービスの内容を書きます。
<例>営業力強化のためのワークショップや、新規開拓のビジネスモデル構築、など。

⑧Pain Relievers …顧客の悩みを取り除くもの
⑤の顧客の悩みに対応し、悩みを取り除ける製品やサービスの内容を書きます。
<例>営業代行や顧客開拓コールなど。

バリュープロポジションキャンバスを作るときのポイント

バリュープロポジションキャンバスを作る際は、下記のポイントに留意しながら作成を進めていきましょう。

● 分かりやすく作る
● 顧客視点に立って考える
● 競合他社を把握する

分かりやすく作る

バリュープロポジションキャンバスは、誰が見ても分かりやすく作ることがひとつのポイントとなります。

上項目「顧客が想定しているニーズのズレを明確化できる」でも解説した通り、顧客ニーズが顕在化しておらず把握が難しい場合は、他部門に渡り情報を共有する必要性も出てきます。

そういったときに関係者全員が共通の認識を持てるように、なるべく分かりやすく作る必要があるのです。

顧客視点に立って考える

バリュープロポジションキャンバスを作るときは、常に顧客視点に立って考える必要があります。顧客視点からニーズを考察しなければ、独りよがりのバリュープロポジションキャンバスとなってしまいます。

そしてニーズを考察すると同時に、顧客にとって嬉しいことや嫌なことなども合わせて考えるようにすると、さらに顧客に寄り添った発想ができるようになるでしょう。

競合他社を把握する

バリュープロポジションキャンバス作りに没頭してしまうと、顧客ニーズばかりに目が向いてしまい、競合他社の存在を忘れがちになります。

バリュープロポジションは「競合他社にはない自社だけの価値」を提供することが重要なポイントとなります。つまり、顧客ニーズファーストでありながら、競合他社にはない自社だけが提供できる価値についても検討する必要があるのです。

こういった競合他社の要素も合わせて考えながら作っていくと、より精度の高いバリュープロポジションキャンバスができあがります。

バリュープロポジションキャンバスのテンプレート

Strategyzer AG」という企業のWebサイトでは、こちらのページから無料でバリュープロポジションキャンバスのテンプレートがダウンロードできます。

スイスのプレヴェレンジュにオフィスを構えるこちらの企業は、コーポレートイノベーションにおけるアドバイスやコーチング、トレーニングプログラムの提供などを行っています。

テンプレートは英語となりますが、分かりやすいアイコンなども描かれており、使い方を知っていれば非常に使いやすいテンプレートです。

バリュープロポジションキャンバスとビジネスモデルキャンバスの違い

バリュープロポジションキャンバスは、自社の提供している価値と顧客ニーズとのズレを修正できます。言わば顧客を軸にして、顧客側に自社の価値を合わせていくフレームワークです。

一方で、ビジネスモデルキャンバスというフレームワークもあります。ビジネスモデルキャンバスは、以下の9つの要素が相関関係にあり、各要素の関係を可視化することによってビジネスの収益構造を把握できるものです。

● 顧客セグメント
● 顧客との関係
● 価値の提案(バリュープロポジション)
● チャネル
● 収益の流れ
● コスト構造
● 主要な活動
● 主要なリソース
● 主要なパートナー

ビジネスモデルキャンバスは主に自社の提供できる価値を突き詰めて考察する場合などに活用され、バリュープロポジションキャンバスとは反対に、自社を軸にして考えていくフレームワークです。

これら2つのフレームワークは非常に相性がよく、合わせて利用することにより事業形態そのものを見直すきっかけになることも多々あります。

ビジネスモデルキャンバスの9要素には、バリュープロポジションキャンバスの「バリュープロポジション(=顧客への提供価値)」と「顧客セグメント」が含まれているため、そのままビジネスモデルキャンバスに組み込むことができます。

まとめ

◆ バリュープロポジションキャンバスは、自社の製品やサービスと顧客ニーズのずれを解消するためのフレームワークである。

◆ バリュープロポジションの検討は近年重要性を増している。

◆ バリュープロポジションキャンバスの作り方は、まず顧客セグメントを埋め、次に提供価値を埋める。

◆ バリュープロポジションキャンバスの作るときは、競合他社を把握し、顧客の視点に立って分かりやすく作ることがポイントである。

監修者

古宮 大志(こみや だいし)

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長

大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、クライアントのオウンドメディアの構築・運用支援やマーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。Webマーケティングはもちろん、SEOやデジタル技術の知見など、あらゆる分野に精通し、日々情報のアップデートに邁進している。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

執筆者

『MarkeTRUNK』編集部(マーケトランクへんしゅうぶ)

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