プライシングは、製品やサービスの価格設定をすることです。
マーケティングにおいて極めて重要な要素であり、顧客や競合、製品、流通、広告などのさまざまな要素と整合的に行われなければなりません。
プライシングの決め方、およびプライシング戦略の具体例についてみていきましょう。
プライシングはマーケティングの極めて重要な要素
プライシングとは、製品やサービスの価格を設定することです。
京セラ名誉会長 稲盛和夫氏は、「値決めは経営」「経営の死命を制するのは値決め」であると言っています。
価格設定の方法は、利幅を少なく取って大量に販売すること、反対に、少量の販売であっても利幅を多く取ることを両極として、その中間に無数の可能性が存在します。
どれだけの利幅を取れば製品がどのくらい売れるのかを予測するのは困難です。
しかし自社の製品の価値を正確に認識し、利幅と販売量のかけ算が極大になる一点を求めることが経営だと稲盛氏は語っています。
プライシングは、マーケティングを行うにあたって最初に取りかかるべき4つの領域「マーケティングミックス(4P)」の構成要素の一つです。
マーケティングミックスは、次の4つの要素から構成されます。
1.Product(製品)
2.Place(流通)
3.Promotion(広告・宣伝・コミュニケーション)
4.Price(価格)
価格は、単独に検討されるべきではなく、マーケティングミックスの他の3要素と整合的な設定が重要です。
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プライシングの目的
プライシングの目的についてみてみましょう。
●売上の最大化
売上の最大化は、プライシングの大きな目的です。高すぎず、かつ安すぎない価格を設定することにより、売上を最大化することができます。
●目標利益率の達成
売上の最大化とともに、目標利益率の達成もプライシングの目的となります。
ただし事業のスタート段階では、経営の元手となる目標利益率の達成を売上の最大化より優先させることもあります。
●価格の安定化
価格を安定化させることは、利益の安定化につながるのとともに、顧客からの信頼を得ることにもつながります。
商品の値段が下がってしまうと、「品質が落ちたのではないかと」顧客から思われかねないからです。
●市場シェアの維持・拡大
プライシングは、市場シェアの維持・拡大を目的として行われることもあります。
市場シェアが拡大し、商品の出荷量が増えることによるコスト低減が実現すれば、売上も利益も増やすことができるからです。
●競合への対応
プライシングは、競合への対応を目的として行われることもあります。
競合が思い切った値下げをしてきたら、同じような価格設定にする必要が出てくるケースもあります。
プライシングの方法
プライシングの方法として、とくに今ある製品・サービスについて一般的に行われる方法をみてみましょう。
●コスト志向型価格設定法
コスト志向型価格設定法は、コストに一定の利幅を加えることにより価格とする方法です。
製造業であれば、製造原価に一定率の利幅(マージン)を加えて価格とする、「マージン率によるコストプラス法」が主流です。
流通業であれば、仕入原価に一定率の利幅(マークアップ)を加える「マークアップ率によるコストプラス法」が使われます。
●需要志向型価格設定法
需要志向型価格設定法は、顧客が製品やサービスに対してどの程度の価格を認めるかにより価格を決める方法です。
市場調査やアンケートなどにより目標価格を決めた後に、目標価格で十分な利益が出せるだけの製品の開発、あるいは原材料の調達を行います。
●競争志向型価格設定法
競争志向型価格設定法は、競合との競争を意識して価格設定を行うことです。
競合の価格と同じ価格、あるいはそれより低い価格を設定します。
●心理的価格設定法
心理的価格設定法は、ブランド品などが持つステータスや、お菓子などが長年同じ価格で販売されている習慣、あるいは98円などの割安感のある端数などにより価格設定をすることです。
新製品の代表的なプライシング戦略
新製品を市場に投入する際には、今すでにある製品とは異なったプライシング戦略が取られることがあります。
その代表例として、ペネトレーション・プライシングとスキミング・プライシングがあげられます。
●ペネトレーション・プライシング
ペネトレーション・プライシングは「市場浸透価格戦略」とも呼ばれます。
市場シェアを一気に拡大することを目的に、思い切った低い価格設定をすることです。
大量生産によるコスト削減や、ほかの分野での技術を転用することにより、圧倒的な価格で商品を開発できる場合に有効であるとされます。
●スキミング・プライシング
スキミング・プライシングは「上澄み価格戦略」とも呼ばれ、ペネトレーション・プライシングとは正反対の戦略です。
新製品の発売当初に高い価格を設定し、市場が成長するに連れて徐々に価格を下げていきます。
「高くても新しい製品がほしい」と思う顧客がいる場合に有効であるとされます。
BtoBにおけるプライシング戦略の具体例
BtoBにおけるプライシング戦略の具体例をみてみましょう。
●Dell
パソコンメーカーDellは、チップなどの大量仕入れ、直販システムを採用した流通マージンのカットにより大幅な低価格を実現し、BtoBのパソコン市場でまたたく間に世界一となりました。
しかしHPやNECなどの他社が直販システムを導入し、価格優位性を維持できなくなると、今度はITソリューションプロバイダーへの変革を遂げています。
●SmartHR
労務管理クラウドのSmartHRは、プライシングをユーザーヒアリングで行いました。
「いくらなら使いますか?」ではなく、「いくらだと高いと思いますか?」と質問することにより、返答された価格に対し、「その8割の価格だったら使いたいと思いますか?」との確認が可能となり、理想価格を把握できるようになったといいます。
●アライドアーキテクツ
SaaS型プロダクツを提供するアライドアーキテクツは、他社との価格競争に参加しないことにより、年間平均契約金額を1年間で数倍にまで高めることができました。
価格競争に参加することは、競合にリプレイスされやすい、あるいは顧客のコミットが下がる、利益を出しにくい体質になるなどのデメリットがあるからです。
まとめ
◆ プライシングはマーケティングの極めて重要な要素
◆ プライシングには、売上の最大化や価格の安定化など多くの目的がある
◆ プライシングは、コストや需要、競争、心理などにより決められるのが一般的
◆ 新製品の投入時には、思い切った低価格、あるいは高い価格を設定することもある