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「ハルメク・エイジマーケティング」代表取締役の木船信義氏(左)と、「生きかた上手研究所」所長の梅津順江氏(右)

シニアマーケティングのリーティングカンパニーに聞く「ハルメク」成功の秘密

2024.2.27
読了まで約 9

国内人口が減少し、マーケット全体の縮小が予測される日本経済において、今シニアをターゲットとしたマーケティングに注目が集まっている。そんな「シニアマーケティング」の世界で躍進を続けているのが、シニア向けに特化したビジネスを多数展開しているハルメクグループだ。50代以上の女性を対象とした雑誌『ハルメク』は、出版不況といわれる中にあって定期購読者数は47万人を超え、Webメディア『ハルメク365』も月間PV数500万以上を有している。

ハルメクグループが提供する多彩なコンテンツの基盤となるのが、「生きかた上手研究所」という独自のシンクタンクである。さらに2018年には、それまでに培ってきたアセット(資産、資源)を活かしてシニア向けビジネスのコンサルティングを行う「株式会社ハルメク・エイジマーケティング」も立ち上げた。

ハルメクグループは、どのようにしてシニアの心をつかむことができたのか。ハルメク・エイジマーケティング代表取締役の木船信義氏と、生きかた上手研究所所長の梅津順江氏に話を聞いた。

モニター会員「ハルトモ」のリアルな声をマーケティングに反映

ーー「ハルメク・エイジマーケティング」と「生きかた上手研究所」は、グループ内でそれぞれどのような役割を担っているのでしょう。

木船 「ハルメク・エイジマーケティング」は、ハルメクグループの中で、BtoBビジネスやアライアンス事業を展開している会社です。これまでハルメクグループは、シニア世代の読者や生活者の方々に対して、コンテンツの提供や通販、物販事業などを行ってきました。その有形無形のアセットを活用し、シニアをターゲットとする企業に対するマーケティング支援などを行っています。

私は入社後、CRM部門を経て新規事業開発に配属になり、そこでBtoB事業をスタートさせました。その事業が軌道に乗り「ハルメク・エイジマーケティング」として分社化し、その後、媒体広告部門なども吸収統合して大きく成長しています。

梅津 私が所長を務める「生きかた上手研究所」は、主に社内のリサーチコンサルティングを行うシンクタンク組織です。一般的なアンケートやインタビューも実施しますが、特徴的なのが、「ハルトモ」というモニター会員様の声をコンテンツやサービス、商品づくりに活かしている点です。

現在約4,500名が在籍している「ハルトモ」は、雑誌『ハルメク』をはじめ、各種のサービスや商品の開発においても欠かせない存在です。『ハルメク』の読者や元読者である皆さんに共通していえるのは、言語化が非常に巧みだということです。ハルトモの方の言葉を、そのままプロモーションとして使いたいと思うこともあるくらいで、私たちはいつもいろいろなことを学ばせてもらっています。

さらに、ハルトモの方々と協働し、他社からのリサーチニーズにも対応しています。皆さんは厳しいこともハッキリ言ってくださるので、クライアントからは「参考になる」「厳しい意見だからこそ信頼できる」という声をいただくことが多いですね。従来のリサーチの枠組みにとどまらない、一歩進んだリサーチコンサルティングで、シニアのインサイト(顧客や消費者自身がまだ気づいていない潜在的な欲求)を的確に把握する仕組みをつくり上げています。

木船 私たちが長年培ってきたお客様を知る力、シニアを理解する力は、ハルメクの無形資産ともいうべきものです。ハルメク・エイジマーケティングも、生きかた上手研究所と連携しながら、クライアントへのコンサルティングや、オウンドメディア支援などを展開しています。

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ダイレクトマーケティングで構築する信頼関係

ーー出版不況といわれて久しいですが、雑誌『ハルメク』は右肩上がりの成長を続けています。好調の背景にも、その「シニアを理解する力」があるのでしょうか。

木船 『ハルメク』は書店やコンビニでの販売はなく、年間定期購読のみという直販スタイルの雑誌です。定期購読のメリットは、お客様とダイレクトにつながれること。書店販売の場合、実際に誰が買ってくださっているのか、店舗から先のことはわかりません。でも、ハルメクには自社のコールセンターもありますから、お客様とダイレクトにつながり、コミュニケーションをとることができます。そこは大きな強みですね。

梅津 お客様との距離は非常に近いと思います。コールセンターにお電話をくださる方も、まるで親戚に電話をしているような気軽さでお話しをしてくれますね。例えば、定期購読を突然やめるとなったときでも、「引っ越しをする」「介護が始まった」といった理由を詳しくお話しいだだけるので、一人ひとりの状況を把握でき、それをちゃんと記録として残しています。

購入してくださる商品一つとっても、「最近化粧水を変えた」など、一人ひとりの歩みが会社の情報として蓄積されていく。一方的な情報発信ではなく、私たちが皆さんの生活に伴走しているイメージです。お客様と信頼関係を築きやすいのも、ダイレクトマーケティングならではだと思います。

画像:ハルメクの特色の一つとして「お客様との距離の近さ」が挙げられると語る梅津氏
ハルメクの特色の一つとして「お客様との距離の近さ」が挙げられると語る梅津氏

ーー信頼関係を維持するために大切にしていることは。

梅津 あらゆる領域で、常にお客様に信頼されるような振る舞いを心掛けています。例えば、商品を購入したお客様から、少しでも「思ったものと違う」という声があれば、丁寧に対応して交換したり、先方のお宅まで伺ってお詫びをしたりします。こういった真摯な姿勢は社員一人ひとりの遺伝子に刻み込まれており、徹底していることの1つです。

木船 通信販売も雑誌の定期購読も、実物を目で見て購入できるわけではありません。ですから余計に、お客様との信頼関係が重要な意味を持ちます。グループ全体として、誠実であることに意識を払っていますし、コストもしっかりかけています。もちろんほかの企業でもやっていることだとは思いますが、特にハルメクにとっては大切なこだわりです。

ハルメクホールディングス社長の宮澤(孝夫)も、内に対してはフェアであり、お客様に対しては誠実であることを経営の軸に据えていると感じます。お客様のことを徹底的に理解するには、聞き、調べ、寄り添わなければならない。手間暇をかけることを「効率が悪い」と思う人もいるかもしれませんが、「それをやらない方がよっぽど非効率だ」と。一見遠回りで非効率なようでも、お客様を理解するためには一番良い方法なのだという考えが、社員にも浸透しています。

梅津 社長の宮澤と『ハルメク』編集長の山岡(朝子)に共通しているのが、本質を見抜く力ですね。加えて、山岡は美学のある人だと思います。一本芯が通っていて、自分がこうだと思ったことをやり抜く、しなやかな強さをいつも感じます。

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オフライン広告でも顧客からのレスポンスをきめ細かく把握

ーー実物を見て買えないことは、一見定期購読のハードルのようにも感じますが「定期購読を申し込む」という最初の一歩を踏み出してもらうために、どのようなアプローチをしているのでしょうか。

梅津 メインは新聞広告で、そこからレスポンスをいただくことが多いですね。最近は取材を受ける機会も増え、テレビで『ハルメク』という名前を認知してくださる方も増えています。そのほかにもラジオCMやイベント、そしてWeb広告なども展開していますが、シニア世代はほかの世代と比較してオフラインでの接触時間が長いのではないかと感じています。

木船 加えて、申し込みがあったときには、必ず「何を見たか」というアンケートをとっています。それも、新聞広告なら「どの言葉に興味を持ったか」ということまで伺うのです。そうすると、「小さい見出しだけれどアテンション(注意を引いた)があった」「大きく打ち出したのに意外と反響がない」など、いろいろなことが見えてきます。そういった試行錯誤をふまえて、広告の中身を全体的に見直していくのです。例えば、まず地方紙などの小規模な出稿で様子を見て、改善をしてから全国紙に展開する、というように。

このように、すぐにアクションを起こせるのも、自分たちでコールセンターを持ち、リアルタイムかつダイレクトな反応を把握できるからこそです。コールセンターでは、新聞広告のどこにアテンションがあったかを、細かくカウントしています。デジタル広告なら当たり前のことかもしれませんが、紙媒体の広告でここまでしっかり効果検証をしている会社はほかにあまりないと思います。

画像:新聞広告などの紙媒体でも、どの文言に反響があったかを詳細に検証すると語る木船氏
新聞広告などの紙媒体でも、どの文言に反響があったかを詳細に検証すると語る木船氏

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これからの人生における「青い鳥探し」を支援するWebメディアへ

ーー2022年からは、Webメディア『ハルメク365』もスタートしました。

梅津 40代後半から50代くらいの世代では、「紙の雑誌をあまり読まなくなった」という方も少なくありません。『ハルメク365』は、そのような方々にも楽しんでいただけるように、ファッション、美容、料理、エクササイズなど、さまざまなコンテンツを提供するWebメディアです。

ちょうど人生の折り返し地点である50代は、これから先の人生における“青い鳥”を探している人たちだといえます。「生き方の参考になる先輩たちの意見を聞きたい」「充実した生活を送るための新しい趣味を見つけたい」など、ご自身が幸せになるための情報を探しているのです。

『ハルメク365』で提供したいのは、そのような方々すべてにフィットするコンテンツです。記事や動画、イベントなどさまざまなコンテンツがありますが、「ここに行けば今の私にぴったり合うものが見つかる」と思っていただけるようなWebメディアを目指しています。

画像:梅津氏「青い鳥を探す人々にフィットするコンテンツの発信を目指しています」
梅津氏「青い鳥を探す人々にフィットするコンテンツの発信を目指しています」

ハルメクの特徴は「イベントの充実」「双方向コミュニケーション重視」「広告主導の企画無し」

ーー『ハルメク』『ハルメク365』と、競合他社のシニア向けメディアには、どのような違いがあるのでしょうか。

梅津 一番の違いは、イベントが身近にあることではないでしょうか。特に『ハルメク365』では、美容や健康をはじめとしたイベントを多数開催しています。先ほどもお話したように、私たちには「お客様とダイレクトに接する」という姿勢が刻み込まれています。ですから、Webでも情報をただ届けて終わりではなく、双方向でのやりとりを大切にしているのです。誌面やWeb上でも、「同年代の人同士がつながりを感じてもらえるような場でありたい」という思いでコンテンツをつくっています。

木船 広告を担当している立場から他社メディアとの違いを考えると、実は、『ハルメク』は広告なしでも成立する雑誌だというのが大きな違いかもしれません。というのも、基本的に日本の雑誌は広告なしではやっていけないのがほとんどです。しかし『ハルメク』は、読者の皆様からいただく年間購読料だけで採算がとれています。

ですから、世間でよく言われるような、広告主のための記事や企画は『ハルメク』には全く存在しません。広告主に一切忖度せず、「読者にとって良いもの、良い情報だけを届けたい」という編集方針はすごいと思いますね。そういった誠実なメディアだからこそ読者が増えて、結果として広告の価値も上がる、という好循環にもつながっています。

画像:木船氏「広告主に忖度した記事や企画は『ハルメク』には存在しません」
木船氏「広告主に忖度した記事や企画は『ハルメク』には存在しません」

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シニアのお金の使い方に見られる特徴は「推し活、健康維持への十分な投資」「無駄遣いはしない」

ーーそのようなシニアマーケティングの実績と強みを活かして、本格的にBtoBビジネスを展開することになったわけですね。

木船 当初は『ハルメク』『ハルメク365』といった自社媒体の広告販売がメインでしたが、最近は、他社のオウンドメディア支援や商品・サービスの共同開発などが多くなってきました。クライアント企業の業種は、通販会社や不動産管理会社、保険会社など多岐にわたります。

私たちのコアコンピタンス(企業の中核となる強み)は、顧客理解力です。以前はその強みを自社のマーケティングに役立ててきましたが、業種が違っても活用できる点は多々あります。国内の家計金融資産は2,000兆円といわれますが、その多くを占めているのは50代以上だそうです。このお金を動かさないことには、日本の経済も活性化できません。ですから私たちのミッションはとても大きいと思っています。

ーー50代以上の方がお金を使うポイントに傾向はあるのでしょうか。

梅津 「生きかた上手研究所」でも、その点についてはかなりこまめに調査をしてきました。例えば、今50代以上の女性の約半数が推し活をしていて、年間平均で約10万円使っているというデータがあります。また、健康のために費やすお金について調査したところ、年間平均13万円という結果が出ました。この健康のためのお金というのは、治療費や薬代ではなく、主にトレーニングジムにかける費用なのです。つまり、病気になってからの医療費ではなく、病気になる前の、予防のための健康づくりにお金をかけているわけです。

推し活などの自分の好きなことや、自分が健康であるためにお金を使い、反対に、自分にとって価値のないものには無駄なお金をかけない。本当にお金の使い方が上手だと思います。

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自分たちに都合のいいシニア像をペルソナに設定しないことがシニアマーケティングの鉄則

画像:N1分析を先入観や願望をもった形で行い、ペルソナ設定を歪ませてしまうことが原因でマーケティングが失敗する可能性を指摘する両氏
N1分析を先入観や願望をもった形で行い、ペルソナ設定を歪ませてしまうことが原因でマーケティングが失敗する可能性を指摘する両氏

ーーいわゆるステレオタイプのシニア像とはギャップがあるように感じますね。マーケティング支援を行う中でも、クライアントが考える「シニア像」に違和感を覚えることはありませんか?

木船 実はよくあります。例えば、企業がシニアの心理を理解しようとしたとき、マーケティング担当者が30~40代の“子供世代”であるケースは少なくありません。そうなると、N1分析(特定の1名の顧客を選び、自社商品・サービスに対する考えや感想を深く掘り下げる分析方法)において、自分の父親や母親を選ぶことがほとんどです。その結果、ごく限られた一部分しか把握できなかったり、無意識に「こうあってほしい」という願望を投影したりしてしまうことがあります。それに気づかないままユーザーを理解したつもりになると、ターゲットの心に届くマーケティングはできません。

ステレオタイプのシニア像や、「高齢者はこうあるべき」という先入観が、マーケターの目を曇らせてしまう可能性は大いにあります。メタ認知を意識しないと、せっかく作った広告が、当のシニア世代にとっては滑稽に映りかねません。売上やレスポンス率などの数字ばかりにとらわれて、肝心のペルソナ設定がうまくいっていないケースもよく見られます。

梅津 N1分析を親御さんで行うと「いい歳して、こんな格好して」「いい歳して恋愛なんて」などと無意識のうちに、親にはこうあってほしいというバイアスがかかってしまうことがあります。それが広告にも反映されてしまうと、実際のシニアの方々からは大きな反発を受けることになるでしょう。

以前シニア世代にインタビューをしたときに「『いい歳して』『年甲斐もなく』なんていうのは、老人いじめ、老人差別だ」とおっしゃる方もいました。もちろん、同じ年代の女性でも、考えていることや好きなことは人それぞれです。「シニア」と一括りにしたマーケティング戦略は、残念ながら失敗するケースが多いですね。

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「シニアの幸せ」を追求し、長寿化社会の成功事例を世界に示す企業を目指す

画像:ハルメクグループの今後の展望は?
ハルメクグループの今後の展望は?

ーー最後にハルメクグループとしての今後の展望を聞かせてください。

木船 2023年、ハルメクホールディングスは東京証券取引所グロース市場に上場しました。今後、ハルメクグループの提供サービスにとどまらず、他社とのコラボレーションや商品開発など、掛け算の発想で新たなビジネスを展開し、日本経済の活性化にも貢献していきたいと考えています。

「シニアの方々を幸せにしたい」という同志をたくさんつくり、大きなコンソーシアムを構築していきたい、というのが密かな夢ですね。

梅津 シニアのトレンドを考えたとき、今はまだ数年単位の短いスパンでしか捉えることができていません。しかし今後は、もっと大きなスケールでシニアを理解し、それを啓蒙していくことで、長寿化社会のケーススタディを示すことが可能になると思っています。そして、日本のケーススタディが世界に波及し、未来の展望を指し示すようなことができたらいいですね。

シニアの方々が幸せであるために必要なことは、介護制度の整備だけではないはずです。日本は長寿化の先進国ですから、国内のシニアや企業はもちろん、世界の多くの人々にとって、よりよい社会の在り方を考える材料を提示できるようになりたいです。現状はまだ小規模ですが、そんな野望を持っています。

監修者

古宮 大志(こみや だいし)

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長

大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、クライアントのオウンドメディアの構築・運用支援やマーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。Webマーケティングはもちろん、SEOやデジタル技術の知見など、あらゆる分野に精通し、日々情報のアップデートに邁進している。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

執筆者

『MarkeTRUNK』編集部(マーケトランクへんしゅうぶ)

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