ライフスタイルサポート事業(比較・情報サイト)、エンターテインメント事業(スマホゲーム)、EC事業の3本柱で事業を展開する株式会社エイチームは、ブランド力のさらなる向上と事業の拡大を目指し、来期の2025年7月期前半までにターゲット規模がEV(事業価値)最大50億円程度までのM&Aを目指している。
この連載では、同社のマーケティング戦略を担う社員が登場し、自社の強みや、独自のマーケティング戦略について語ってもらう。初回となる今回は、同社執行役員で経営戦略室長の山口貴史氏が、エイチームの主力事業を取り巻く現状と課題、経営戦略やマーケティング戦略について解説する。
エイチーム連載記事
・エイチームの動画広告戦略〜成功確率と再現性向上のための取り組み|エイチーム連載第2回
・エイチームのSEO戦略~データ分析と基盤作りについて~ |エイチーム連載第3回
・エイチームのブランディング戦略~ブランディングとしてのSNS運用~ |エイチーム連載第4回
・エイチームにおけるCX・DXへの取り組みとその道のり|エイチーム連載第5回
目次
広告単価の高騰とGoogleアルゴリズムの変更―アフィリエイトビジネスの障壁はますます高まっている
はじめに自社の主力事業の一つである、送客系の情報サービスの現状と課題についてご説明します。送客系情報サービスはその多くがアフィリエイトビジネスとして成り立っており、その中でもリスティング広告とSEOという2本の柱は、集客のための施策として欠かすことができません。そしてここに大きな課題があります。
もともとアフィリエイトビジネスというものは、個人がブログを書いて送客する仕組みとして始まりました。しかしその後、企業が組織的に参入し始め、今や個人では太刀打ちできない状況になっています。
ではなぜ太刀打ちできないのか?それはアフィリエイトビジネスの世界では物量がすべてだからです。たとえばリスティング広告の場合(最大限の効果を出す)レバレッジ化が不可欠なため、そこにいかに大きな資金を投下できるかが問われます。またランディングページに対しても、いかにベストプラクティスを作れるか、さらにそのためのABテストにエンジニアやデザイナーなどの人材をいかに投入できるかが鍵となります。
一方、SEOの場合も、他と差をつけるべく記事量を多くする必要があり、こうした現状から個人ブロガーはますますアフィリエイトで稼ぐのが難しくなっているのです。そしてこれは個人ブロガーだけの問題ではありません。我々のようなメディア側も同様に厳しい競争にさらされています。
リスティングに関して言えば、基本的には広告のテストをしっかりと行えばよいのですが、我々と同様の組織的なアフィリエイターが動くと、広告単価が一気に上がってしまうというリスクがあります。そのため、単価が上がる中、どこまで資金を投入できるかが各メディアの勝負のしどころになるのです。
このようにリスティング広告に資金を投入したり、引いたりを繰り返していても、大きな利益には繋がらないため、並行してSEOにも注力しなければなりません。SEOメディアを通じて、地道にオーガニックの集客を行っていくことも重要なのです。
そしてSEOに関しても大きなハードルがあります。Googleは不定期にアルゴリズムの見直し・改善を図ってコアアップデートを実施していることはよく知られていることでしょう。この、我々にとっては天変地異のような変更が起こると、検索順位は一気に下落する恐れがあります。
特に我々のようなメディアがリリースするコンテンツは、その分野を専業としている事業者がリリースするコンテンツと比べて、実態がないと見なされやすいため、Googleからの評価が低くなることが多いのです。直近のアルゴリズムの変更では、生活により密接に関わっているもの、つまりお金や医療に関する「YMYL」(Your Money or Your Lifeの略。お金や健康、安全などに関わる情報)コンテンツが大きな影響を受けました。
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デジタルマーケティングの勝ち筋は、リスクヘッジと地道な長期戦にあり
そうした中、我々が考えるデジタルマーケティングの勝ち筋とは一体何なのかと言うと、一つはリスクヘッジです。エイチームでは各SEOメディアにおいてノウハウをあえて揃えず、すべてバラバラに運営しています。非効率に感じられるかもしれませんが、アルゴリズムの変更はどこに影響を与えるのか予測できませんし、最悪の場合、すべてが一気に影響を受けて、売り上げがなくなってしまう可能性もあるのです。そうしたリスクに備えるべく、各メディアがそれぞれのノウハウを持って、しっかりと個別に運用する形を取っています。
そして何よりも重要な勝ち筋となるのは、信じてやり続けること。これに尽きるでしょう。特にリスティングに関しては、次々に競合が現れ、その度に我々は脅かされます。しかしその競合が市場にずっと居続けるかというと、実はそうではなく、いつの間にか撤退してしまうことのほうが多いのです。
先ほどもお伝えしたように、リスティングは物量を必要とするため、いかに長期間にわたってやり続けるか、積み重ねるか、が成功の鍵となります。そのときどきで一喜一憂せず、地道に長期戦に持ち込む。それが我々の勝ち筋なのです。
これは参入障壁にも関わる部分ですが、成果はすぐに跳ね返ってくるものではありません。やはりある一定のお金や人、時間をかける必要があり、コツコツと継続し、ティッピングポイント(転換点)を超えて初めて利益が出せるようになります。私たち自身もうまく横展開させて、ここまで成長してきました。そういった成功体験や勝ちパターンを持っているからこそ、たとえ最初は赤字でも我慢強くやり続けるという文化が染みついているのだと思います。
従来の即決型の仕組みから脱却し「再訪してもらえるメディア」に生まれ変わる
そして次なる打ち手とは一体何なのか。アフィリエイトメディアや送客系メディアに関して言うと、市場が大きいのは、人材、住宅・不動産、健康などの一部のカテゴリーに限られます。そしてこれらのカテゴリーに挑んでいかなければ、アフィリエイトメディアで成功を手にすることはできません。
弊社は2021年に転職サイト/転職エージェント比較サイトである「CAREER PICKS」(キャリアピックス)を買収して人材領域に本格参入しました。
競争の激しい市場ではありますが、「CAREER PICKS」は他にあるような求職者と企業をマッチングするサービスではなく、あくまでも転職サイトや転職エージェントを比較するサイトであるという点で我々が有利かつ特異です。つまり人材という大きな市場では非常にニッチな部分であり、まさしくニッチトップを目指していける事業であると考えています。
一方、それ以外の事業領域については、やはりリテンションの強化が必要不可欠です。誇張して言うとアフィリエイトメディアにはプロダクトがありません。なぜならランディングページで事が済むからです。ランディングページに訪れてもらい、そこで申し込みをしてもらえればビジネスは成立するのです。
我々はランディングページというものをプロダクトの中にあるものではなく、集客の中にあるものと捉えています。要するに集客そのものが我々の提供するサービス(プロダクト)というわけです。しかし、これには相性があります。比較検討する時間が短ければ短いほど、我々にとっては勝ち筋となるのです。逆に比較検討する時間が長くなると、お客様は色々なサイトを回遊することになります。
結婚式場の比較サイトを例に取ります。お客様はどの式場に見学を申し込むか、最初の訪問では結論づけません。2週間から1か月くらいかけて、じっくりと比較しながら見学先を決めます。そのため、何度も繰り返し再訪してもらうことが重要なのです。こうしたリテンションの部分に対して、我々がどういう価値を提供できるのかが次の課題となるでしょう。
一方、カードローンの比較サイトの場合ですと、お客様は急いでいることが多いので、ランディングして30分から1時間が勝負となります。引越しの比較サイトも1日から長くても3日です。今すぐ必要なものに関しては、集客して、勢いで申し込んでいただくというのが我々の勝ち筋でした。しかし即決いただいたとしても、実際のコンバージョン率はサービスにもよりますが、1%未満のものが多く、逆に言うと99%のお客様は離れてしまっているのが現状です。
我々は従来、この1%に特化してきましたが、やり方次第では2%もしくは3%に増やすことができるかもしれないと考えています。もちろん単純に考えれば2倍、3倍にするのは簡単なことではありません。しかし逆の発想をすると見え方が変わってきます。つまり99%を98%や97%にすることは可能なのではないか。99%は離れてしまうけれど、1%は迷った末にもう一度再訪してくれる、そんな方法があるのではないかということです。
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・リテンションとは?採用マーケティングで使う場合の意味と具体的なメリット
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ブランドへの投資の強化と顧客データの統合が喫緊の課題
従来の即決型のアフィリエイトメディアから脱却して、しっかり再訪してもらえるメディアにするためには一体どうしたらよいのか。そのためには2つの要素が必要だと考えられます。
1つ目は、広く認知され、信頼度を高めること。お客様が再訪する際は、「やっぱりメジャーなサイトだと安心できるよね」といった情緒的な面が大きく影響します。従って、ブランドに対する投資をより一層強化する必要があります。
2つ目は、お客様一人一人をきちんと認識すること。どんなビジネスでも一緒だと思いますが、お店の人に顔を覚えてもらえたら誰だってうれしいものです。そこで、訪問いただいたお客様を認識するためのデータの基盤とオペレーションを構築しなければなりません。それが構築できれば、「こんにちは、◯◯さん!」「何か困りごとはありませんか?」といった個別のお声がけが可能になるでしょう。
この取り組みの難易度は高いのですが、そのためのデータの統合は今後我々が早急に取り組むべき課題だと思います。
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・ブランディングとは?マーケティングとの違いや効果、成功事例を紹介
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熱量の高いお客様を増やすために、インオーガニックを通じて新たなノウハウの獲得を目指す
最後に、エイチームの今後の展望についてご説明します。
主力事業の送客系情報サービスに関しては、オーガニック成長(今ある資源を活用して成長すること)およびインオーガニック成長(外部との提携や買収を通じて成長すること)に向けた投資をさらに強化していく所存です。
自社ではこれまでGoogleでの集客に注力してきましたが、競合を見渡すと、Instagram、TikTok、YouTubeなどで集客している企業が増えてきています。もちろん我々もSNSを活用した集客も行ってはいますが、Googleほどの勝ち筋や成功体験を掴むには至っていません。そのために、まずはそれらのチャネルをしっかり研究し、ハックしていく。自分たちだけでは限界もありますので、インオーガニックという形でSNSや動画マーケティングにも強い企業を積極的に取り込んでいきたいと考えています。
クライアント企業が本当に求めているのは、お客様の人数(リード数)だけでなく、しっかり利益に結び付くお客様(ホットリード)をご紹介することにほかなりません。そういったお客様をいかに増やせるか。言い方を変えるなら、熱量が低いお客様をいかに熱量の高いお客様に変えられるか(リードナーチャリングできるか)。その点が大きな勝負どころとなるでしょう。そのためには従来のリスティングやSEOだけではない、新たなチャネルにおけるノウハウが間違いなく必要になってきます。
インオーガニックでさまざまなパーツを取り寄せ、また広告代理店やコンサルティング会社などもジョインさせて、ビジネスの上流から下流まで一気通貫できるデジタルマーケティングを実現させていきたい。それが我々の思い描くこの先のビジョンです。
次回以降は、リスティング、SEO、ブランディング、DX(デジタルトランスフォーメーション)、CX(カスタマーエクスペリエンス)など、それぞれのテーマを深く掘り下げた内容のコラムをお届けする予定です。ぜひご期待ください。
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