Japan Cloud(ジャパン・クラウド)は、技術力や革新性に優れたSaaS企業を世界中から厳選し、日本市場に投入している企業だ。共同経営を行う11社の関連企業は、いずれも先進的なテクノロジーに裏打ちされたB2B SaaSばかり。今回は、Japan Cloud社長の福田康隆氏に、コロナ禍後の業界の変化と、SaaSの最新トレンド、さらに日本の企業が現在直面している課題と、成功への道筋について伺った。
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コロナ禍で定着したデジタルテクノロジーがB2B SaaSの利用を促進
ーーJapan Cloudでは多彩なSaaS企業を傘下に抱えています。B2B向けのSaaSは、コロナ禍を経て何が変わったのでしょうか。
福田 デジタルトランスフォーメーション(DX)においてデジタルツールの活用がかなり進んだことがコロナ禍後のトレンドと言えます。リモート営業やデジタルマーケティングは、コロナ禍を経たことにより、受け手側の抵抗感が少なくなり、モバイルやアプリなどによるセールステック(営業関連のテクノロジー)の活用レベルが大きく向上しました。
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ーーどのくらいの企業がセールステックを利用しているでしょうか。また、受け手側の抵抗感が減ったことの要因は何でしょうか。
福田 感覚的に、コロナ禍以前はセールステックの利用はほとんどなかった状態で、今では7割ぐらいの企業が、何らかのセールステックを取り入れています。以前はDXを進めようとしても「社内のITリテラシーが…」などという声を聞くことが多く、お客様にITの利用をお願いすることが難しかった。
ところがコロナ禍を経た結果、社員であり顧客であるみなさん自身が、日常生活でモバイル、アプリなどのデジタルテクノロジーを使う経験が一気に増えました。モバイル決済や電子マネーも急激に普及しましたし、レストランでも紙のメニューではなく、自分のスマホでメニューを閲覧できる仕組みを使うお店が増えました。
テクノロジーにおいては、企業が変わって消費者が変わる、ということはあまりありません。消費者側でテクノロジーが浸透してくると、企業側はそれに追従せざるを得ない状況になります。これがコロナ禍で起きたことです。過去の事例を見ると、モバイルやソーシャルなどがそのパターンでした。
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ーーコロナ禍を挟んで、DXが一気に進んだのでしょうか。
福田 「DXによって本当の意味での経営改革が進んだか?」と言われれば、まだその境地には至っていないと思います。しかし、少なくともツールの活用という面では大きく進展しましたし、デジタルを使うことが定着したのは、コロナ禍における大きな進歩だったと言えます。
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B2B SaaSのトレンドはAPIマネジメントとカスタマーエンゲージメント
ーーJapan Cloud関連会社である11社のSaaS企業は、どのような会社なのでしょうか。
福田 さまざまな分野のソリューションがありますが、いずれも各カテゴリでリーダー企業に位置付けられている会社ばかりです。海外のスタートアップ企業が対象だと思われている方も多いのですが、いずれもグローバルでは売上100億円以上で、上場している会社が大半です。グローバルである程度の規模がないと、日本市場に対して十分なサポートを得られないので、この点は重要視しています。以前は業務アプリケーションが多かったのですが、最近はDevOpsなど企業の内製化の動きを支援するようなソリューションも増やしています。
ーー最新のトレンドを象徴するようなサービスやツールを教えてください。
福田 11社すべてが最先端のテクノロジー企業ですが、ここでは2社ご紹介します。
1つ目は2023年11月に日本へ進出したばかりの、APIマネジメントプラットフォームのKong(コング)です。APIというのはアプリ同士の通信をつかさどるインターフェースで、今日ではインターネット通信の約80%を占めています。ChatGPTのAPIを使って自社サービスに生成AIの機能を統合したり、自社が保有するデータや資産を外部にAPIとして公開したり、お客様の利便性を高める動きも金融や製造、ITサービス業などを中心に増えています。さらに社内システムを従来の大規模システムから、マイクロサービス化してAPIでやり取りする流れも加速しています。こうしたAPI通信上のセキュリティやパフォーマンス管理をするプラットフォームとして、この領域のグローバルリーダーであるKongの日本法人を設立しました。
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福田 もう1つは、コンシューマー向けのカスタマーエンゲージメントのツール、Braze(ブレイズ)です。
マーケティングのセオリーとして「適切な人に、適切なメッセージを、適切なタイミングで」というものがあります。とはいえ、これまでのマーケティングツールは、お客様に適切なタイミングでメッセージを届けることは難しく、一律のマスメールや、モバイルアプリのプッシュ通知などを送るくらいしかできませんでした。ところが現在では、データを高速で処理できるようになりました。その結果、お客様のまさにこの瞬間の情報を反映して、それに即したマーケティングメッセージを送るという、本当の意味での「リアルタイムマーケティング」ができるようになったのです。Brazeは日本でもすでに、70社あまりのお客様が導入しています。
この2社の登場は、デジタルの活用が世の中で進んできたことの象徴と言えるでしょう。
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ーー各社の製品・サービスには、相互の関連やシナジーがあるのでしょうか。
福田 もちろんあります。顧客企業の使うアプリケーションが増えると、顧客満足を維持するために、それぞれのシステムのパフォーマンスや監視、モニタリングが大事なテーマになります。それらに関わるのがNew Relic(ニューレリック)や PagerDuty(ページャーデューティー)です。11社それぞれは独立した会社ですが、お客様のデジタル活用を進めていくとさまざまなニーズが出てきますので、そのニーズに対応すべく、Japan Cloudでは年に数社、関連会社を増やしています。
ーー11社の企業同士が競合することはないのでしょうか。
福田 我々のポリシーとして、競合せずにお互いに補完関係になる企業を選定しています。顧客のなかには、11社のうちの8社のツールを使っている企業もありますし、Japan Cloud関連会社同士が互いにお客様を紹介したり、お客様同士がサービスを紹介し合ったりすることもあります。顧客のCIO(情報統括責任者)のつながりも作りたいので、今後はCIOラウンドテーブルを企画する予定です。
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ーー顧客企業からはどのような評価を得ていますか。
福田 海外のツールを積極的に利用しているある顧客企業の場合、以前は個々の会社の調査に時間をかけ、請求や契約関連など、さまざまな調整が大変だったそうです。ですが、「Japan Cloud関連会社は、一定の目利きをJapan Cloudがやってくれているので安心感がある、契約関連も日本のニーズに合わせてくれているので採用しやすくなった」という声をいただきました。そういう面でも日本のお客様の役に立っていると思います。
マーケター、セールスは注目!セールス前後の効率化を推進するXactly とGainsight
ーーマーケティングや売上拡大に役立つサービス、ツールを教えてください。
福田 B2Bの営業・マーケティングの観点では、Xactly(エグザクトリー)とGainsight(ゲインサイト)の2つが挙げられます。
Xactlyは、商談の着地やパイプラインのトレンドを可視化できるフォーキャスト(売上などの目標達成見込みを予測する)管理ツールで、多くの日本企業でも導入が進んでいます。営業の現場ではCRMツールに商談情報を入力しても、フォローが難しかったり、マネージャーがどの商談にフォーカスしたらよいかわからなかったりすることが多いものです。しかしXactly では、さまざまなファクターをもとに商談の進捗をスコアで示し、AIが「今この状況だったら、最後の着地はこうなりますよ」と予測をしてくれるのです。
Xactlyを利用している顧客企業からは、「営業やマネージャーの時間の使い方が格段に変わった」「これまでは商談情報を共有するための営業会議に多くの時間を費やしていたけれど、必要なくなった」「マネージャ―と営業がピンポイントで確度の高い商談を検討できる」といった声をいただいています。
また、近年のサブスクリプションサービスの普及とともに「カスタマーサクセス」という言葉を耳にすることが増えました。このカスタマーサクセスを提唱した会社がGainsightです。Gainsightは、あるSaaSを契約したお客様が、どのくらいそのSaaSを実際に利用しているのか、または担当者とのやり取りの履歴などのさまざまな情報を組み合わせ、SaaS利用の健康度をチェックし、次にどうアクションするかを自動化するツールを提供しています。
カスタマーサクセスとは、お客様がそのSaaS製品を使って成功することを目指すものです。Gainsightを導入して顧客がカスタマーサクセスを促進することは、SaaS提供側から見ると、既存顧客からの売上拡大につながります。現在ではどの会社でも、人を増やして業務をカバーするのではなく、いかに少ない人数で生産性を上げていくかに注力しています。Gainsightは、そうした業務効率化による売り上げ向上に貢献できるツールです。
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グローバルスタンダードと人事改革で世界的な成功を目指せ
ーーJapan Cloud関連会社は、製品・サービスをグローバルに展開している企業です。マーケットとして日本を見たときに、日本は世界の中でどのような位置づけにあるとお考えでしょうか。
福田 海外の企業からよく聞くのは、米国を除いて、日本ほどグローバル企業が多い国は他に無い、ということです。フォーチュン500(米フォーチュン誌が年1回発表する全米上位500社のリスト)に入る企業は、以前より減っているとは言え、日本はダントツに多いほうです。オーストラリアをはじめとしたオセアニアにグローバル企業はあまりありませんし、シンガポールも金融企業としては大きなものがいくつかあるものの、数多くはありません。その点、日本は製造業界や金融業界にもグローバル企業が多く、海外から見ると日本の市場は非常に大きいと考えられています。
ですから、グローバルで成功している製品・サービスを日本のグローバル企業に紹介していくことは、インパクトもあるし、意義が大きいことなのです。
ーー日本はマーケットとして、欧州、米国、アジアなどとどのような違いがありますか。
福田 欧州はアメリカに次ぐマーケットですが、英語圏はイギリスだけなので、参入するには、フランス語やドイツ語などにも対応しなければなりません。APAC(アジアパシフィック地域)の場合も、英語、中国語、韓国語などがある。そんな中、単一の言語のみで対応すればよく、規模としても大きい市場は、アメリカに次いで日本が2番目なのです。
ーー最後に、日本の大手企業が取り組むべき課題について、福田さんの考えを聞かせてください。
福田 日本企業の課題として考えられるのは二つあります。
一つは「いかに市場が大きいところで勝負するか」です。たとえば大谷翔平さんの契約金額が最近話題になりましたけれど、彼がどんなに素晴らしい野球選手でも、日本にとどまった場合、あれだけの契約はできなかったでしょう。アメリカという大きな市場で勝負したからこそ可能になったのです。
Japan Cloudは海外のベンダーを日本に持ってきてお客様にサービスを提供していますが、私たちの究極の目的は、日本の企業が世界で成功することです。そのためには世界で成功している会社のやり方やグローバルスタンダードを身につける必要があります。グローバルのベストプラクティスを日本でも取り入れる必要があるのです。
もう一つの課題は、人材の採用・育成です。グローバルで競争力があり、人事制度や給与体系が整っている日本企業はまだまだ少ない。今ここで根本的に手をつけていかないと、海外でも日本でも、優秀な人材はいずれ採用できなくなるでしょう。
「日本は特別だ」などと言っている場合ではありません。世界の成功企業のベストプラクティスを取り入れ、人材育成に注力することができれば、大きな躍進につながるはずです。