ビジネスでWebに携わっている人であれば、モックアップを活用している人が多いかもしれません。
モックアップとは、Webサイトやアプリケーションを作成・開発する際に、製品の初期設計を具現化した「見本品」となるもののことです。実際の完成品をイメージしやすいように形を作り、デザインを把握することに使われます。最近では無料で作成できるツールも多くリリースされており、誰でも簡単に作成することができます。
本記事では、モックアップの概要やモックアップ作成で得られるメリット、作成時の注意点、ポイント、無料ツールについて解説します。Webサイトを作成したりリニューアルに関わったりする予定がある人は、ぜひモックアップを活用してみてください。
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目次
モックアップとは
最初にモックアップの意味と概要を説明します。
モックアップとは製品の初期設計を具現化したモデルのこと
モックアップ (mock-up) は、日本語では「実物の模型」を意味し、Webサイト制作やアプリケーション開発などの場で、製品の初期設計を具現化したモデルのことを指します。
Webサイトやアプリケーションの制作において、デザインと構成は非常に重要です。完成が近づくにつれ、予想とは異なる成果物が出来上がると、すべてをやり直す必要が生じるかもしれません。これは個人だけでなく、クライアントや社内のチームと協力して進める場合も問題です。デザインや構成が予想と異なると、多くの人に迷惑をかけてしまう可能性があるためです。そういったリスクを回避するためには、完成形のイメージを共有するためのモックアップを作成し、それを元にプロジェクトを進めていくことが重要です。
最近では無料で利用できるモックアップ作成ツールが増えてきており、手軽に活用できるようになってきています。ツールにもよりますが、Web上で複数人による共同作業を行いながら最新版を皆で共有できるため、非常に便利です。
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モックアップとワイヤーフレーム、プロトタイプの違い
ワイヤーフレーム、モックアップ、プロトタイプという用語は、ウェブデザインやアプリ開発の分野でよく聞かれますが、これらはそれぞれ異なる役割を果たします。以下で簡潔に説明します。
モックアップは、ワイヤーフレームにデザイン要素を追加して、実際の完成形に近づけたものです。色やフォントなどのデザイン要素を含み、プロジェクトの最終的な外観と感触を具体化します。
ワイヤーフレームは、プロジェクトの全体的な構造や配置を決定するスケッチのようなものです。デザインや色は考慮せず、要素の配置や機能の基本的な配置をシンプルな図で示します。手書きのものでも問題ありませんし、オンラインの作成ツールで構成だけ簡単に作成しても良いでしょう。
プロトタイプは「試作品」という意味で、ワイヤーフレームやモックアップに動作や機能を追加したものです。たとえばWebサイトの場合、ボタンをクリックしたときの動作や画面の遷移を実際に体験できるように作成します。
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モックアップを作成する5つのメリット
モックアップは、Webサイトやアプリケーションの作成や開発において、初期設計を具現化することに役立つものです。モックアップを活用することで得られる5つのメリットについて詳しく解説します。
完成のイメージが湧きやすい
モックアップを作成すると完成形のイメージがより具体的になります。文字の大きさや写真・画像の配置、各種ボタンの位置、色合いなどが視覚的に確認できるため、思い描いたデザインとの整合性を容易に確認できます。
掲載した写真が思ったよりイメージと合っていなかったり、色合いが考えていたものと違っていたりなど、思い描いていたものとの相違が起きづらくなるのです。モックアップを活用することで、試作段階から希望通りの編集が行いやすくなるでしょう。
修正点や課題を出しやすい
モックアップの作成により、完成品の想定が行いやすくなるため、必要な修正点や課題を早期に発見しやすくなります。
たとえばユーザーフレンドリーなWebサイトを作成する場合、ユーザーの視点からサイトの構成を確認できます。モックアップがあると、ユーザーがスムーズにサイトを閲覧できるかどうかを簡単にチェックすることができるのです。
全体で共有しやすく評価を行いやすい
モックアップは完成形の模型としての役割を果たすため、チームや顧客と連携して問題の有無をチェックするのに適しています。
Webサイト制作などで顧客と協力している場合や、企業内でアプリケーションを開発している場合、モックアップを使用して問題点を共有し、全体で評価を行うことが大切です。
ユーザビリティテストを行うことができる
モックアップを使用すれば、外部の協力者を対象にユーザビリティテストを行うこともできます。
ユーザビリティテストとはユーザーテストとも言い、実際のユーザーにWebサイトやアプリを使ってもらい、評価やフィードバックを収集するプロセスです。新たな課題を発見して、Webサイト制作やアプリ開発に活かします。実際の使用感や利便性などをユーザー視点で確認することができ、より良いものに発展させていくことができます。
ユーザーにチェックを行ってもらい、意見やフィードバックをもらうことで、ユーザーがストレスなく利用できているか、ユーザーが狙い通りの行動をとってくれているのかを事前に確認でき、より良い顧客体験を生み出していくための改善が簡単にできるようになるのです。
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完成後の修正リスクを低減
モックアップを事前に作成することで、イメージの齟齬による変更や修正のリスクを軽減することができます。完成間近に修正や大幅な変更を行うことはできる限り起きないようにしたいものです。モックアップを作って共有しておけば、顧客や社内チームとのコミュニケーション不足による変更や修正を最小限に抑え、プロジェクトにかかるコストを削減できるでしょう。
モックアップを通じて、計画外の変更を最小限に留め、スムーズなプロジェクト進行を実現しましょう。
モックアップを活用する上での3つの注意点
さまざまなメリットがあるモックアップですが、効果的に活用するにはいくつかの重要な注意点があります。以下の3つの点について見ていきましょう。
● ワイヤーフレームやスケッチからスタートする
● 客観的な目線を忘れずに作成する
● 関係者間で情報共有を徹底する
ワイヤーフレームやスケッチからスタートする
Webサイトやアプリケーションの開発においては、いきなりモックアップを作るのではなく、最初にワイヤーフレームやスケッチを用いて計画を立てることが重要です。
ワイヤーフレームは、デザインや色合いなどは基本的に考えず、どこに何を配置するのか、どこにどんな機能を搭載するかなどをシンプルな図で表したものです。大まかな構成を作成したうえで徐々に構成を作っていき、ステップを踏んでいくことで実用的な形へと構築していくようにするのがおすすめです。そうすることで、当初の予定や希望とのズレを最小限にして進めていくことができるでしょう。
客観的な目線を忘れずに作成する
モックアップを作成する際は、客観的な目線を忘れずに作成することが重要です。企業がWebサイトを作成したり、アプリケーションを開発したりするときは、顧客に利用してもらうために作成・開発を行います。そのため、完成品の前段階である試作品の時点でも、ユーザー目線で快適に利用できるデザインなのかをチェックすることが非常に重要です。
色合いは自社やサービスのイメージに合っているか、レイアウトは顧客が快適に利用できるものになっているかなど、ユーザーの目線でチェックしましょう。
関係者間で情報共有を徹底する
モックアップを作成する過程で、関係者間で情報共有と調整を行うことも非常に重要です。予想とのズレや誤解が生じないように、進捗を共有し、細部にわたって確認を行いましょう。
プロジェクトが進むにつれて、具体的な構想について詳細な検討や確認を行い、最終的なイメージの一致を計りましょう。完成間近で、「イメージが大きくずれているためすべて変更」という事態になると、時間的にもコスト的にも無駄になってしまう恐れがあるからです。プロジェクトの最終段階で大幅な変更が必要になるのを避け、時間とコストを節約するためにも、途中段階での確認を重ねることを心がけましょう。
モックアップを活用する際のデザイン制作
モックアップはWebサイト制作やアプリ構築のプロセスにおいて必要不可欠なものです。機能的な部分が備わっていないサンプルであるため「簡単に作れそう」と感じる人もいますが、実際にはステップを踏んで制作しないと、余計な手間や時間がかかることもあります。そこで、モックアップを活用する際のデザイン制作のステップについて説明します。
ワイヤーフレームやスケッチから作成
最初にワイヤーフレームやスケッチを活用して計画を立てます。大まかな構成を作成し、段階的に詳細な形状に進化させて、実用的なデザインを構築していきます。
スケッチではフリーハンドなどでサイトのレイアウトを描き、ワイヤーフレームではサイトの基本的な骨組みを考えていきましょう。サイトを訪れるユーザーにとって最も重要な部分や伝えたい情報、ユーザーに望む行動を考慮しながら設計を進めましょう。プロジェクトの目的を念頭に置き、その目的に沿ったデザインを構築していくのです。
モックアップの作成
ワイヤーフレームが完成したら、モックアップの制作に移ります。
色の見え方やレイアウトの見やすさなどを確認し、ユーザーフレンドリーなデザインを考えていきます。特に色の見え方は、濃さや薄さによってイメージとかけ離れてしまうこともあるので、慎重に検討することが必要です。
ユーザーの視点から課題を洗い出し、洗練させていくことが重要です。また、クライアントや企業内のチームと連携して進める場合は、情報を共有し、イメージを共通化させます。情報共有はプロジェクトの成功に欠かせません。構想通りのものが出来上がりますし、完成後の変更や修正のリスクを抑えることができるからです。
プロトタイプの作成
確定したデザインに基いてプロトタイプの制作を行いましょう。これまでは主にデザインに焦点を当ててきましたが、プロトタイプには実際の動作を模倣する要素を含みます。ボタンをクリックするとどのような動作が起きるのか、どこに遷移されるのかなど、機能面でのサンプルとなるものです。
この段階ではユーザーの視点を重視し、望む行動がスムーズに行えるデザインになっているかどうかを検証し、必要に応じて改善を行いましょう。完成後もコンバージョン数やアクセス数などのデータをモニタリングし、目標に向けた調整を行うことが重要です。
モックアップ作成時のポイント
モックアップは「とりあえず作る」だけでは十分な効果を発揮できません。効果的なモックアップを作るためには、以下のポイントをおさえて作成していきます。
● 必要な画面数を確定させて作成漏れを防ぐ
● ファーストビューに注力したレイアウトにする
● ユーザーの行動を促す効果的な導線設計を心がける
● 解析ツールなどを活用してユーザーの動きを分析する
必要な画面数を確定させて作成漏れを防ぐ
Webサイト制作やアプリ制作において、さまざまな画面に遷移する仕組みが必要な場合、遷移先の画面数を事前に確定させて作成漏れを防ぎます。ワイヤーフレームの段階で必要な画面数を確定させ、モックアップ作成時に漏れが無いように注意します。後から漏れに気がついて追加の作業が発生すると、無駄な時間とコストを引き起こす恐れがあります。クライアントや社内のチームとの情報共有をこまめに行い、漏れなないように随時確認しましょう。
ファーストビューに注力したレイアウトにする
ファーストビュー(最初にユーザーが目にする部分)に注力したレイアウトを採用しましょう。ファーストビューは、ユーザーがWebサイトを訪れた瞬間に目にする部分で、サイト全体の印象を左右するものです。ユーザーはファーストビューを見た瞬間に、そのWebサイトを閲覧するかどうかを判断します。ファーストビューで良い印象を与えることができなければ、Webサイトを離脱してしまう可能性が高まってしまいます。ファーストビューを設計する際には、以下の点を考慮します。
● 誰に何を伝えるのかを明確にする
● サービスを利用するメリットを分かりやすく伝える
● 行動を促すCTA(Call To Action)を配置する
ユーザーの行動を促す効果的な導線設計を心がける
モックアップは、ユーザー目線を忘れずに作成し、ユーザーの行動を促す効果的な導線設計を心がけましょう。一目見ればすぐに何をすべきか分かるようなボタンを配置したり、他のページも読みたくなるような構成にしたりすることで、ユーザーの行動を効果的に促すことができます。
特にWebサイトにおいて、問い合わせや購入を促すコンバージョンボタンはもっとも認識しやすいものにしましょう。これらのボタンはユーザーの具体的なアクションを促す重要な役割を担っています。ユーザーの行動を喚起するようなCTA(Call To Action)を含めているとさらに効果的です。「数量限定」や「まずは相談」などの文言だけでも、アクションを起こしやすくなる可能性があります。
モックアップは「作成するだけ」ではなく、自社が求めている最終的なゴールに合わせて、目的を持って作成することが大切です。
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解析ツールなどを活用してユーザーの動きを分析する
モックアップを用いながらデザインをしても、想定していたユーザーの行動が無かったり、離脱率が高かったりすると、作成した意味があまりありません。完成後も解析ツールなどを活用して、ユーザーの動きを分析していくことが非常に重要です。
分析結果をもとに、より行動を起こしやすいデザインに変えたり、ボタンのレイアウトの工夫などを行っていったりすることで、ユーザーにとって良い顧客体験ができるものに仕上がっていくでしょう。Webページの分析には、Google Analyticsのようなアクセス解析ツールや、ヒートマップツールなどを活用していくことをおすすめします。
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モックアップ作成ツールを活用しよう
かつてモックアップを作るには、デザインツールを操るスキルが必要でしたが、昨今ではオンライン上で誰でも簡単にモックアップを作れるようになりました。ここからはモックアップ作成ツールについて詳しく解説します。
自分でも手軽に作成が行える
モックアップ作成ツールは、誰でも無料で手軽に利用できるのが大きなメリットです。特別な技術や知識がなくても、Webサイトやアプリケーションのレイアウト、配色などのデザインをサンプルとして作成することができます。さらにオンライン上で複数人がリアルタイムで共同作業をしながら、変更履歴を残しつつ最新版を共有できるツールもあります。これにより、柔軟な調整と協力が簡単に行えるでしょう。
モックアップ作成ツールを使う時の検討ポイント
モックアップの作成ツールは非常に便利ですが、さまざまな種類があるため、どのツールが良いのか分かりにくいかもしれません。自社に最適なものを選ぶ際は、以下の3点を考慮して検討してみてください。
● 機能性
● UI(ユーザーインターフェース)
● 料金
機能性
ツールの機能性は非常に重要です。デザイン機能の豊富さやテンプレートの多彩さはもちろんのこと、共同作業や変更履歴の管理、セキュリティ機能なども考慮しましょう。
特に、チームでの作業には共同作業機能が必要です。情報共有が円滑でない場合、関係者間での認識のずれが生じる可能性があるためです。自社の状況とプロジェクトの性格に合わせて、最適な機能を備えたツールを選択しましょう。
UI(ユーザーインターフェース)
作成効率を高めるためには、UIが優れているかどうかも重要です。UI(ユーザーインターフェース)とは、ユーザーと製品・サービスをつなぐ接点(インターフェース)を指し、外観や使いやすさなども含みます。
モックアップ作成ツールの中には海外発祥のツールも多く、英語表記のみで日本語に対応していない場合も多いものです。使用するメンバーによっては英語のみの表記に不便さを感じるかもしれません。その場合は日本語対応をしているツールを選ぶと無難です。
UIの使い勝手は実際に試してみなければ分からないことが多いため、無料版や体験版を利用して使用感を確かめることをおすすめします。無料版でも問題なく利用できればそのままでも大丈夫ですし、使い勝手が良く、色んな機能を使いたいということであれば有料ツールを検討してみても良いでしょう。
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料金
ツールの料金は利用前に必ず確認しましょう。無料で利用できるツールも増えてきてはいますが、有料のツールの方が多彩なデザインのバリエーションや機能を提供していることも多いものです。予算を考慮したうえで、有料ツールを利用するかどうかを検討しましょう。
また、実際に作業する社内のメンバーに、どのような機能が必要かを確認し、最適なツールを選択する際の参考にしましょう。
モックアップやワイヤーフレーム、プロトタイプを作成するのに便利なツール「Figma」については、下記のページで詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてください。
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まとめ
本記事では、モックアップに関する概要、作成のメリット、注意点、ポイントについて説明しました。
モックアップの作成には手間がかかると思われがちですが、デザインがコンセプトに適しているかの確認や、イメージとの生合成を確保するなど、さまざまな場面で役立ちます。
モックアップがあれば、視覚的に全体の設計を確認でき、クライアントやチームとの情報共有にも効果を発揮します。モックアップを活用することで、時間と費用を無駄にすることなく、プロジェクトの完成度を高めることができるでしょう。是非、モックアップを有効に活用してください。