企業・産業における経営戦略、事業戦略の構築に携わる人であれば、おなじみとなるバリューチェーンという概念があります。
自社の強みや弱みを発見し、コスト削減につなげ、企業の体制を少しでも立て直すためには熟考する必要があります。
本記事では、競合他社との競争において、優位に立つための鍵を握るバリューチェーンという概念について解説します。
関連記事:バリューチェーンとは?分析方法や構成要素・活用事例をご紹介
目次
バリューチェーンとは?マイケル・ポーターが提唱した概念
バリューチェーンはマイケル・ポーターが自身の著書である『競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか』の中で提唱したビジネスフレームワークの一つです。
ではいったいマイケル・ポーターとは何者で、バリューチェーンとはどのようなシーンにおいて活用するフレームワークなのでしょうか。以下にまとめました。
・ マイケル・ポーターとは
・ バリューチェーンとは
・ サプライチェーンとの違い
・ バリューチェーンの概念図
・ バリューチェーンの解説でよく取り上げられるスターバックスの事例
マイケル・ポーターとは
マイケル・ポーターは米国の経営学者です。学位は経済学博士で米国ハーバード大学の経営大学院教授を務めています。
企業における戦略の構築や競合他社との競争に関する研究において第一人者とされており、バリューチェーンの他にもファイブフォース分析の提唱者としても知られています。
バリューチェーンとは
バリューチェーンとは「バリュー=価値」+「チェーン=連鎖」=「価値連鎖」という意味合いで、いわゆる「個別に発生する価値をつなげる」という発想になります。
企業が行う事業活動それぞれの工程ごと、及びプロセスごと単体における「付加価値」を連鎖させ「一連の流れ=チェーン(全体)」として捉えます。
なぜ価値を連鎖させる必要があるのか
それぞれの工程ごと、プロセスごと、単体での付加価値では、競合他社にたやすく模倣されてしまうことも多くなります。
しかし一連の流れとして、メイン商品やメインサービスに複雑に絡み合った「全体としての付加価値」を提供することができれば、競合他社が簡単に模倣することも難しくなります。
結果として、それが自社だけのオリジナリティや強みへと変化していくのです。
バリューはマクドナルドでもおなじみ
ちなみに「バリュー」はマクドナルドでも商品名にするなど、聞いたことがある人も多いかと思います。
マクドナルドのメイン商品であるハンバーガーに1品2品を付加する「バリューセット」「バリューランチ」などを開発し、ハンバーガーを更に美味しく食べるためのいわゆる「付加価値」としてサイドメニューを位置づけています。
サプライチェーンとの違い
バリューチェーンを考察する際、同様に考察しなければならないのが「サプライチェーン」です。
サプライは「供給」「補給」という意味で「サプライチェーン」とは、「供給連鎖」という意味合いになります。
原材料の調達から部品の製造、完成品の運搬から販売に至るまでの、いわゆる「モノの連鎖」のことを言います。
バリューチェーンが価値の連鎖に着目する一方で、モノの流れに着目するのが「サプライチェーン」なのです。
バリューチェーンの概念図
バリューチェーンというフレームワークを用いて、それぞれの工程やプロセスにおける付加価値を分析するには、自社の事業活動を「主活動」と「支援(サポート)活動」に二分して考察していく必要があります。
・ 主活動
・ 支援(サポート)活動
主活動
主活動は自社で扱う商品やサービスを製造・販売するための直接的な活動のことを指します。
いわゆる企画・立案から原材料の調達、製造、運搬、販売に至るまで、事業活動のメインとなる活動です。
支援(サポート)活動
一方で、支援(サポート)活動は主活動を支えるための間接的な活動のことを指します。いわゆる総務や労務、人事、経理、技術開発など、主活動を支援する任務がある部署での活動となります。
バリューチェーンの解説でよく取り上げられるスターバックスの事例
バリューチェーンの解説事例として良く取り上げられるのがスターバックスです。
スターバックスはバリューチェーンを取り入れ、自社の強みを明確にしたことにより、大きな躍進を遂げることができた企業のひとつです。その強みとは以下になります。
・ 品質の高いコーヒーを提供
・ 接客マニュアルのない接客
・ 居心地の良い空間を提供
品質の高いコーヒーを提供
スターバックスのコーヒーは、同業他社のコーヒーと比べて価格が少々割高ではあるものの業績自体は伸びています。
そこには同業他社に劣らず、高品質なコーヒー豆を使用してお客さんに美味しいコーヒーを味わってもらうための強いこだわりがあるからです。
・ 高品質なコーヒー豆を使用
・ 食品世界最大手と言われるネスレ(スイス)も着目
高品質なコーヒー豆を使用
スターバックスはコーヒー豆の仕入れに独自ルートを持ち、世界各国のサプライヤーから高い品質のコーヒー豆を仕入れることに日々尽力しています。
栽培条件が厳しいうえ、病気にも弱く、管理が難しいとされるアラビカ種のコーヒー豆だけを仕入れるこだわりようです。
こういったこだわりやポリシー、自社の強みから、スターバックスにおける熱狂的ファンやリピーターを生み出しているのです。
食品世界最大手と言われるネスレ(スイス)も着目
スターバックスの強みでもある「品質の高いコーヒー豆の仕入れ能力」に着目したのが、食品世界最大手と言われるネスレ(スイス)です。
ネスレ(スイス)は主力であるコーヒーの分野においてさらに躍進を試みるべく、スターバックスの卓越したコーヒー豆の仕入れ能力に着目しました。
そしてその高品質コーヒー豆の販売権を取得するべく、2018年に一度約7900億円でスターバックス側との合意を成立させたとの報道がありました
このように自社の強みは他社からも一目置かれることもあります。
接客マニュアルのない接客
チェーン展開する飲食店などに通常あるはずの「接客マニュアル」がスターバックスにはありません。
それはスターバックスの経営方針の一つに「ホスピタリティ=おもてなし、思いやり」の追求があるからです。
従業員をマニュアルというもので縛り付けて個性を抑え込むのではなく、マニュアルに縛られず従業員一人ひとりの個性や人柄の良さを前面に出した「ホスピタリティのある接客」をさせたいとの思いがあるのです。
それは以下のポリシーからも感じ取ることができます。
OUR MISSION
人々の心を豊かで活力あるものにするために-
ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから
参照:スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社「Our Mission and Values」
一杯のコーヒー、ひとつのコミュニティからお客様を豊かにすることは私達のミッションであると明言しているのです。
このような経営方針もスターバックスのバリューチェーンのひとつとなっています。
居心地の良い空間を提供
美味しいコーヒーを心底楽しんでいただくためには、味わっていただく「居場所」も重要との経営方針から、スターバックスでは提供する空間にもこだわり抜いています。
こだわり抜いた空間も顧客には居心地の良い場所として人気になり、いつしか「スターバックスでノートPCを広げて優雅に仕事をするのがおしゃれ」とのイメージまで定着するようになりました。
「高品質コーヒー」からの「居心地の良い空間」として付加価値がつながっており、まさしくバリューチェーンの概念として成り立っています。
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バリューチェーン分析と目的
バリューチェーンとは「価値連鎖」であることは上述より解説してきました。ではいったいバリューチェーンを分析することで何がわかるのか、その目的などについて以下より解説いたします。
バリューチェーン分析とは
バリューチェーン分析とは、企業における事業活動の各工程、及び各プロセスをフェーズごとに考察し分析することです。それぞれのフェーズにおいて、付加価値を見出していきます。
バリューチェーン分析を行う目的
バリューチェーン分析を行う目的は、自社の強みと弱みを理解し、自社事業活動におけるどのフェーズにおいて付加価値が生み出されているかを把握するためです。
これらを理解し把握することで、経営資源分配の見直しを図ることができ、コスト削減も実現できます。また競合他社が提供している付加価値についても知ることができます。
・ 自社における付加価値の把握
・ 自社の強みと弱みを理解する
・ 競合他社の付加価値を知る
・ コスト削減を実現する
自社における付加価値の把握
バリューチェーンにおいて、工程ごと、及びプロセスごとに切り分けて各別個のフェーズとして検証していくことにより、どのポイントにおいて付加価値が発生しているかを把握できるようになります。
これら個別に存在している付加価値を連鎖させていくことにより、バリューチェーンとして機能するようにします。
自社の強みと弱みを理解する
上述における個別の付加価値が発見できると、自社の強みと弱みを理解することができます。
あるフェーズにおいて、付加価値が生み出されていると確認できれば、それが自社にとっての強みと判断できます。
また競合他社に実現できていて、自社に実現できていない付加価値と判断できれば、それが弱みであると判断できます。
競合他社の付加価値を知る
上述より競合他社に存在している付加価値を知ることは、自社の弱みを見つける上で非常に重要です。そのためには競合他社もバリューチェーン分析にかけてみることが有効な手段となります。
競合他社の付加価値がどのフェーズにおいて発生しているのか、どのような事業活動を行うことによってその付加価値は得られているのかを分析していきます。
コスト削減を実現する
自社の強みと弱みが分かれば力の入れどころも分かるようになり、コスト削減に動くことができます。
すでに強みとして確立している部分のコストを見直し、付加価値が生み出されていないフェーズにおいて、経営資源の再投下を行うようにしていきます。
バリューチェーン分析の方法
バリューチェーン分析は主に以下の4つの項目を行っていきます。
・ バリューチェーンの図式化
・ 事業活動においてフェーズごとにコストを明確化する
・ 自社の強みと弱みを把握する
・ VRIO分析で自社の経営資源を評価する
バリューチェーンの図式化
バリューチェーンを図式化すれば、自社で行っている事業活動が可視化され活動内容を把握しやすくなります。
その結果、自社で足りていない作業、発生していない付加価値が明確化され、これから行うべき活動内容の特定ができるようになります。
図式化するためには、自社で行っている事業活動のすべてを細分化し書き出していきます。
書き出す際には、上記「バリューチェーンの概念図」の項目に掲載されている図を見ながら各項目書き出していきます。
例えば「主活動」であれば以下のようになります。
■主活動細分化事例
購買物流 | |
原材料の仕入れ | 自社の地道な営業活動により、複数の関連企業との信頼関係構築に成功。原材料の安定調達が可能となった。 |
原材料の運搬 | 納入までを素早く行ってくれる配送業者を確保できている。 |
製造 | |
商品の製造 | 特注の製造マシーンをフル稼働した生産性の高いライン作業。人材を最小限に留めることができ、人材コストの大幅削減が可能となった。 |
製造工程及び品質の管理 | 特注の製造マシーンと同時期に発注したAI搭載の製造工程及び品質管理制御システムにより、高レベルの現場管理が可能となった。 |
出荷物流 | |
配送・輸送 | 以前より付き合いのある運輸会社が増便を決定してくれたことにより、リードタイムが大幅に縮小された。 |
販売・マーケティング | |
販売 | 自社の地道な営業活動により、複数の関連企業との信頼関係構築に成功。自社独自の販売ルートを確立している。 |
マーケティング | 先方企業が定期的に店頭で宣伝を行ってくれているため、広告費を下げることに成功した。 |
アフターサービス | |
カスタマーサポート | 自社が考案した独自のマニュアルによる購入顧客への手厚いサポート体制を構築。おもてなし精神が功を奏した。購入前の顧客対応に関しては、AI搭載のチャットボットシステムを導入し、業務を効率化させることに成功した。 |
事業活動においてフェーズごとにコストを明確化する
自社で行っている事業活動を細分化し、フェーズごとに書き出したら、次は各業務を依頼している先方企業を書き出し、コストを記載していきます。
コストを計算する際には「四半期分」「半期分」「一年分」など決算期を統一しておくようにします。
購買物流 | |
取引企業 | コスト(百万円)/年 |
A商事株式会社 | 〇〇円 |
B商事株式会社 | □□円 |
C運輸株式会社 | △△円 |
製造 | |
取引企業 | コスト(百万円)/年 |
A工業株式会社 | △△円 |
株式会社B製作所 | 〇〇円 |
出荷物流 | |
取引企業 | コスト(百万円)/年 |
有限会社D配送サービス | □□円 |
販売 | |
取引企業 | コスト(百万円)/年 |
店舗A | □□円 |
店舗B | 〇〇円 |
アフターサービス | |
内容 | コスト(百万円)/年 |
チャットボットレンタル料 | △△円 |
オペレーター外注費 | 〇〇円 |
このようにコストを可視化すれば、どの項目で無駄が発生し、どこのフェーズにおけるコスト削減を試みればよいかが明確になります。
自社の強みと弱みを把握する
自社の強みとは「バリュー=付加価値」を生み出せている事業活動のことです。
そして自社の弱みとは、付加価値を生み出すべきところで生み出せていない、課題や問題、改善点のことです。
これらを把握するためにはフェーズごとに「実現できていること」と「実現できていないこと」を競合他社と見比べ、比較することが良い方法と言えます。
例えば、他社製品に付帯しているお助け機能が自社には真似できない、実現できないなど、細かい点に至るまで網羅的にリストアップしていきます。
このように分析していくと自社に何ができて、何ができないのかが明確化されていきます。
VRIO(ブリオ)分析で自社の経営資源を評価する
把握した強みに対してVRIO(ブリオ)分析を行い、経営資源を評価していきます。
VRIO(ブリオ)分析は経営資源を評価するためのビジネスフレームワークのひとつです。自社における経営資源の現状を知り、競合他社との優位性を比較する場合に活用されます。
以下4つの項目から自社の経営資源を評価することができます。
・ 経済的価値:Value
・ 希少性:Rareness
・ 模倣可能性:Imitability
・ 組織:Organization
経済的価値:Value
「経済的価値=Value」では、自社の経営資源がマクロ環境に適応できるかどうかを評価します。
「外部からの脅威に適応できるか」「社会に影響を与えられるか」など経営資源の評価から、競争優位なのか競争劣位なのかを判断できます。
希少性:Rareness
「希少性=Rareness」では、自社経営資源に独自性があるかどうかを評価します。
競合他社になく、自社だけにあるオリジナリティを見つけることができれば、その希少性が自社の強みとなり市場シェアで優位に立てる可能性が高くなります。
模倣可能性:Imitability
「模倣可能性=Imitability」では、競合他社が自社経営資源に対して模倣できる可能性があるのかどうかを評価します。
競合他社が簡単に模倣できてしまう商品やサービスでは、市場シェアで優位に立つことは難しいと言えます。
逆に競合他社が模倣できない仕組みを確立できれば、自社における経営資源の強みが活かされ、競合他社の模倣難易度は上がります。
組織:Organization
「組織=Organization」では、企業が自社の経営資源を使いこなせているのかを評価します。
組織の内部体制から業務フロー、人材の活用、福利厚生やコンプライアンスに至るまで、いわゆる「しっかりとした組織体制」が構築されているかどうかが焦点となります。
これら経営資源を余すことなくしっかり使いこなせるようにすることで、競争優位の状態を持続することができるのです。
まとめ
価値連鎖を意味する「バリューチェーン」。自社の強みと弱みを知り、フェーズごとの付加価値を連鎖させていくことで、最終的な利益(マージン)へとつなげていきます。
自社のビジネスモデルについて再考し、経営体制を立て直す上でとても重要な戦略であると言えるのです。