サブスクリプションサービスやSaaSは継続的な契約を前提としたビジネスモデルであり、毎月決まった売上が発生します。そのビジネスモデルの特徴ゆえに、毎月の経常的な売上から事業の成長性や将来性を見極めることができ、投資家が重視する経営指標になっています。
SaaSビジネスにおいて毎月発生する売上のことをMRRと呼びます。今回はMRRについて、SaaSビジネスにおける重要性を合わせて紹介します。
目次
MRRとは?4種のMRRで構成
MRRとはMonthly Recurring Revenueの略で、月次経常収益という意味になります。具体的には、毎月決まって発生する売上を指し、導入における初期費用やコンサルティング費用、追加費用などのスポットで発生する売上は対象外となります。
MRRは4種類のMRRで構成されており、前月のMRRにNew MRR・Expansion MRR・Downgrade MRR・Churn MRRに追加され、その月のMRRが確定します。
①New MRR
新規顧客に起因するMRRです。新規顧客の獲得には一定のマーケティング予算を投じ、マーケティング施策やセールス活動を行います。顧客獲得にかけたコストが過剰であるとビジネス全体が赤字となるため、適切なコストで算出するため重要なのがNew MRRです。
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②Expansion MRR
既存顧客に起因するMRRで、前月の利用料金からの増加分を計上します。複数の料金プランのあるサービスで契約プランよりも高い料金プランへ移行するアップグレート、また、既存のサービスとは別のサービスを追加で契約するクロスセルの2つのパターンがあります。
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③Downgrade MRR
Expansion MRRと同様に既存顧客に起因するMRRですが、アップセルやクロスセルによる増加分ではなく、ダウングレードによる減少分を計上します。複数の料金プランのあるサービスで契約プランよりも低い料金へ移行するダウングレードなどがあります。
④Churn MRR
上述のExpansion MRRとDowngradeと同様に既存顧客に起因するMRRで、解約・退会による減少分を計上します。その月に解約・退会した顧客分が対象になります。Downgrade MRRとともに最低限に抑えることがSaaSビジネスを継続していくうえで重要となります。
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MRRの算出方法
MRRを計算するには上述の4種類のMRRを使って計算する方法と、月額利用料金と契約顧客数から計算する方法と2つあります。
①4種類のMRR
前月のMRRに、それぞれ計算したNew MRR、Expansion MRR、Downgrade MRR、Churn MRRに追加してMRRを計算します。
MRR = 前月のMRR + New MRR + Expansion MRR + Downgrade MRR + Churn MRR
②月額利用料金と契約顧客数
月額利用料金に契約顧客数を掛けて計算する方法です。複数の料金プランがある場合、それぞれの料金プランに契約顧客数を掛けて、それらの合計値を出します。
MRR = Aプラン料金 × Aプラン契約顧客数 + Bプラン料金 × Bプラン契約顧客数 + ・・・
MRRはSaaSビジネスの重要な経営指標
投資家がSaaSビジネスを評価する際に指標とするのがMRRです。SaaSビジネスは毎月決まった売上であるMRRによって、事業の成長性や将来性を図ることができます。また、売上全体に対してMRRの比率が高ければ事業の安定性も高いと言え、中長期的な予測が可能となります。
投資家は4つのすべてのMRRを重要視するわけではなく、SaaSビジネスの事業フェーズによって着目するMRRは異なります。それぞれの事業フェーズで着目すべきMRRは以下の通りです。
①アーリーフェーズ~シリーズA
サブスクリプションサービスやSaaSのリリース直後のアーリーフェーズや、少しずつ認知と顧客が増加しさらに加速させる拡大期のシリーズAでは、New MRRに注視します。New MRRは新規顧客の増加を表します。
また、事業の立ち上がりの時期は解約・退会が起きにくいため、Churn MRRはそこまで注視しません。しかし、ある程度の顧客が獲得できるようになった段階で徐々に、顧客継続性の指標として、Expansion MRR、Downgrade MRRとともに注視されるようになります。
②シリーズB~シリーズC
顧客獲得がある程度安定しサービスの拡充に取り組む段階のシリーズBや、事業として安定し新規事業の開発にかかる段階のシリーズCでは、New MRR・Expansion MRR・Downgrade MRR・Churn MRRすべての指標に注視します。
4つすべてのMRRを評価する便利な指標に「SaaS Quick Ratio」があります。SaaS Quick Ratioは、下記の計算方法の通り、その月に獲得したMRR(New MRRとExpansion MRR)と、同月に失ったMRR(Downgrade MRR・Churn MRR)の比率を表します。
SaaS Quick Ratio = New MRR・Expansion MRR / Downgrade MRR + Churn MRR
この値が大きければ大きいほど事業の成長性が高いと言え、投資家はこの指標を注視して、事業の健全性を図っています。
MRRの改善方法
毎月のMRRの変動を分析することで、New MRR・Expansion MRR・Downgrade MRR・Churn MRRのどれがボトルネックになるのか明確となり、それらに対して改善策を打ちやすくなります。それぞれの改善策については、下記の通りです。
①New MRR
新規顧客の獲得強化のためにマーケティングやセールス活動の改善を行います。具体的にはリードジェネレーションの強化、獲得したリードを選出・育成し契約へとつなげていく商談率・成約率の改善を行っていきます。
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②Expansion MRR
既存顧客からのロイヤリティを高める施策を行い、アップセル・クロスセルへつなげていきます。
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③Downgrade MRR
利用頻度の低い顧客に対してサービス利用定着のサポートを行い、満足度を高めるオンボーディング施策によってダウングレードを防ぎます。
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④Churn MRR
解約・退会の要因を分析し、それに対しての改善を行います。要因分析の結果、他社より料金が高い、サービス自体に問題があるといったことであれば、サービス自体の見直しを検討する必要があります。また、カスタマーサクセスの仕組み構築も解約・退会の改善に有効です。
まとめ
・MRRとはMonthly Recurring Revenueの略で、月次経常収益という意味。具体的には、毎月決まって発生する売上を指す
・MRRは4種類のMRRで構成されており、前月のMRRにNew MRR・Expantion MRR・Downgrade MRR・Churn MRRに追加され、その月のMRRが確定する
・投資家がSaaSビジネスを評価する際に指標とするのがMRRであり、SaaSビジネスの事業フェーズによって着目するMRRは異なる
・毎月のMRRの変動を分析することで、New MRR・Expantion MRR・Downgrade MRR・Churn MRRのどれがボトルネックになるのか明確となり、それらに対して改善策を打ちやすくなる