企業が特定の課題やテーマに対し、専門的な視点からアイデアや解決策を発信し、顧客の認知獲得や関係構築を図るマーケティング手法にソートリーダーシップ戦略がある。ソートリーダーシップ獲得の成功事例として、スターバックスのサードプレイスが挙げられる。
今回は、ソートリーダーシップについて、実践プロセスとともに、BtoBマーケティングにおける事例を紹介する。
ソートリーダー、ソートリーダーシップとは?
ソートリーダーとは、社会問題に対するアイデアや解決策の考えを主導することを指し、ソート(thought)は考え・志・主張・理念、リーダー(leader)は先駆者・指導者・先導者をそれぞれ意味する。
とりわけ企業においては、特定の課題やテーマに対して、将来を先取りした解決策を提示し、顧客からの共感と評判を生み出すことを目的としている。これをソートリーダーシップと呼び、戦略的に特定の分野の第一人者としてのポジションを獲得するためのマーケティング活動をソートリーダーシップ戦略と呼ぶ。 具体的な企業成功事例としては以下の3社がある。
・スターバックス
自宅(ファーストプレイス)でも、職場(セカンドプレイス)でもない「サードプレイス」を謳い、回転率の悪い顧客を積極的に受け入れ、既存のカフェと差別化を図った。滞在時間に制限を設けない、全てのお客様に満足してもらう環境づくりを提供していくことを愚直に取り組み、顧客と良好な関係を築いている。
・スウォッチ
これまで価値が置かれていた腕時計の機能をシンプルにし、高いデザイン性を加え、安価な価格で提供した。腕時計をファッションの一部として市場に訴求し、顧客を開拓した。自社の製品を成熟した時計市場からファッション市場に転換し成功を収めている。
・IKEA
家具は一生のモノから、生活シーンの変化と共に何回も買い直すものと定義し、従来の婚礼家具などと比較すると安価な価格で家具を製造・販売した。人々の家具に対する購買行動は、結婚、出産、子供の進学、大学進学や就職に伴う一人暮らしをきっかけとして、約 10 年周期で家具を買い替えるように変化している。
ソートリーダーシップが注目されている理由
近年、SDGsが注目されているように地球環境の持続可能性が重視され、企業は事業を通じて社会課題を解決することが求められるようになった。マーケティングにおいても、「近代マーケティングの父」と呼ばれるコトラーによれば、機能価値の1.0、情緒価値の2.0、価値主導のマーケティング3.0へシフトしており、顧客満足だけではなく社会課題に対しどのように携わるのか注目されているという。
ソートリーダーシップを発揮することによって、ターゲット顧客には問題意識が芽生え、課題を認識するようになる。そして、顧客が議論を行う際に質の高いコンテンツ(考え)を発信することができれば、顧客からの認知が得られ、信頼度は高まり、関係構築へとつながる。さらに、顧客との関係構築が進めば、業界内で第一人者というポジションが確立し、ブランドイメージが形成される。
ソートリーダーシップ自体がPRの役割を果たすとともに、ソートリーダーにしか書けないであろう質の高いコンテンツを発信できればSEO対策としても効果が出て、最終的にCVにつながる。
ソートリーダーシップ・コミュニケーションの実践プロセス
1.セグメンテーション・テーマ選び
まず、ソートリーダーシップを発揮する特定の課題・テーマを選ぶことから始める。テーマ選びの調査は、市場の動向、自社の強み、競合の動向を調べる。まさに、マーケティングでも行われる、3C分析のフレームワークである。まだ顧客や市場の認知や理解が進んでいない、競合が取り上げていない、社会的な課題を解決する自社・ソリューションの強みと結びつけるといったことがテーマ選びのコツである。
競合分析とは?マーケティング分析のフレームワーク「3C分析」を解説
2.質の高いコンテンツの制作
コンテンツの精度・信頼性を高めていくことと、発信されるコンテンツのチャネルを拡大していくこと2点を意識する。まず、自社のソリューションを直接売り込まず、ターゲット顧客の課題に沿って、その解決策となる情報を提供する。その情報が、課題を共有する第三者から紹介されたり、引用されたりしやすくするように設計する。
そして、自社サイトのみならず、SNSや動画プラットフォーム等も積極的に活用し、コンテンツを発信していく。また、コンテンツの形態は、コラムやホワイトペーパーなど形態は限定せず、白書形式や調査結果の公開などプレスリリースを活用し、発信していくこともできる。
こういった提供価値の高い情報は社外秘の情報として扱われやすく、外部に出す場合でも有償のケースが多い。ソートリーダーシップの概念では、出展明記を条件に無料で公開させることで、引用を促進することも重要である。
具体的な例にタイヤメーカーがある。スノータイヤを販売するタイヤメーカーは、雪の中で安全に走行するための運転方法を説明する動画を制作し、自動車学校や自動車愛好家のコミュニティに無料で配布したという。この動画が自動車学校や、自動車愛好家のコミュニティサイトなどで第三者によって紹介されれば、タイヤメーカーは雪道における安全走行の第一人者(ソートリーダー)イメージを高め、転じて、同社の製造・販売するスノータイヤにその品質イメージを持たれる可能性は高い。
BtoBマーケティングにおけるソートリーダーシップ戦略
BtoBマーケティングにおいて、ソートリーダーシップの獲得を強化している企業がある。KDDIでは法人向けソリューションにおいて、『ケータイ屋、回線屋』としての顧客のKDDIに対する認識・パーセプションを変えることを目的に、ソートリーダーシップの獲得をKBO(Key Business Objective)の1つに設定している。
また、パナソニックのBtoB事業の中核を担う分社である、コネクティッドソリューションズが、ソートリーダーシップの獲得のためにインフルエンサー施策を取り入れている。
BtoBマーケティングにおいては、BtoBの購買プロセスを踏まえ、顧客が取り組むべき課題と自社の獲得したいソートリーダーを定義していくことが重要である。これが自社のソートリーダーシップを高め、顧客から認知され、顧客との関係構築につながっていくのである。
まとめ
・ソートリーダーシップとは、企業が特定の課題やテーマに対して、将来を先取りした解決策を提示し、顧客からの共感と評判を生み出すことを指す
・ソートリーダーシップが注目されている理由には、SDGsが注目されているように、企業の事業が社会課題に対しどのように携わるのか求められるようになったことが挙げられる
・ソートリーダーシップ・コミュニケーションの実践プロセスは、①セグメンテーション・テーマ選び、②質の高いコンテンツの制作 の順となる。発信するコンテンツには出展明記を条件に無料で公開させることで、引用を促進することも重要