ソーシャル・マーケティングという言葉をご存じでしょうか?多くのマーケティング手法とは異なり、一見その活動は利益に直結しないように見えるかもしれません。ただし企業が永続的に活動を続けていくためには、ソーシャル・マーケティングが不可欠だともいわれています。
いったいソーシャル・マーケティングとは、どのようなマーケティング手法なのでしょうか?本記事では、その概要と事例をご紹介していきます。
ソーシャル・マーケティングとは?
ソーシャル・マーケティングは、アメリカ合衆国の経営学者フィリップ・コトラーが1971年に提唱したマーケティング手法です。企業が社会的責任を果たすことによりその価値を高め、消費者の信頼を得て売上に寄与させていくという考え方が基本になっています。
1960年代後半からのアメリカでは、強引な販売や消費者の意向を無視したプロモーションが頻繁に行われており、売上を上げるためには手段を選ばないという風潮が主流になっていました。また大量生産、大量消費が経済活動を支えていたため環境問題に対する意識が低く、工場排気による光化学スモッグや汚染物質の垂れ流しが多くの公害を引き起こしていました。コトラーは、このような企業中心の考え方に注意喚起を行い、企業も社会の一員として社会的責任を果たすべきだとソーシャル・マーケティングを提唱したのです。
●CSRとは違うのか?
近年は自社のWebサイトに、CSR活動の報告を行うページを設置する企業が増えています。CSRとはCorporate Social Responsibilityの略で、訳は「企業の社会的責任」となります。そしてCSRの主な活動が、地球環境の保全やサスティナビリティ(持続可能性の維持)、地域社会への貢献などであることを考えると、CSRの活動はソーシャル・マーケティングの考え方を具体化したもの、といっても間違いではないでしょう。
●ソーシャル・マーケティングのメリットとは?
ソーシャル・マーケティングやCSR活動は、その目的が社会全体の利益追求であり、企業にとってのメリットは無いようにも見えます。ただし、現代において自社の社会的責任を軽視する企業は、消費者はもちろん、他企業からも受け入れられることはありません。社会的責任を意識しないこと自体が、既にデメリットなのです。その上でソーシャル・マーケティングのメリットを挙げるとすれば、以下のようになるでしょう。
・投資家への訴求効果
ソーシャル・マーケティングは、その活動が社会における企業の存在価値を上げていきます。投資家がその企業の持続可能性に確信を持てば、安定株主の確保や株価の安定につながります。
・競争力の強化
ソーシャル・マーケティングやCSR活動に積極的であることは、企業価値を高めます。自社の利益ばかり追求するのではなく、社会にもその利益を還元していこうとする姿勢が、消費者やステークホルダー(利害関係者)から評価されるのです。
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ソーシャル・マーケティングの事例
それでは実際のソーシャル・マーケティングには、どのようなものがあるのでしょうか。いくつかの事例を見ていきましょう。
●トヨタ環境チャレンジ2050
トヨタ自動車は、人とクルマと自然が共生する社会を実現するため、2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表。2050年までに「新車の排出するCO2を90%削減」、「車の製造〜使用〜廃棄までの工程(ライフサイクル)全体でCO2排出ゼロ化」、「水環境へのインパクト最小化」など、6つのチャレンジ項目を定めてサスティナビリティ活動を進めています。
●nepia千のトイレプロジェクト
トイレットペーパーやボックスティシューなどで有名な王子ネピアは、2008年から東ティモールにトイレを作る活動をしています。世界では、屋外排泄による汚れた水などで、毎日800人もの子どもが命を落としています。王子ネピアは売上の一部をユニセフの活動に寄付。12年間にわたり東ティモールを対象に1万9千カ所のトイレを作り衛生環境の改善を支援してきました。現在も継続中のこの活動は、5歳未満児の死亡率を低下させるなど、着実に成果を上げています。
●Volvic 1ℓ for 10ℓ
ミネラルウォーターのVolvicを1L買うと、アフリカのマリ共和国に10Lの安全な水が供給されるという社会貢献のプロジェクトです。具体的には手押しポンプの付いた井戸を建設や井戸を管理するための人材育成、水と衛生に関する啓蒙活動などが10年間にわたって行われました。10年の節目となる2016年にこの活動は終了しましたが、とてもわかりやすい仕組みと積極的に広告が行われたため、Volvicの販売増につながったといわれています。
ほかにも、例えばある企業では、部品製造の委託に際してグリーン調達(環境への影響が少ない原材料や部品を調達する取り組み)に協力した企業を優良パートナーと認定し、優先的な発注を行っています。ソーシャル・マーケティングは、一般消費者への企業価値訴求だけでなく、BtoBにおける競争力の強化にも寄与するのです。
まとめ
◆ソーシャル・マーケティングとは、企業が社会的責任を果たし、その価値を上げていくためのマーケティング手法
◆ソーシャル・マーケティングはすぐに利益に直結しないが、企業が存続するためには欠かせない活動
◆ソーシャル・マーケティングは、BtoBにおける競争力の強化にも寄与する